※本記事は、カネコ種苗株式会社 の有価証券報告書(第78期、自 2024年6月1日 至 2025年5月31日、2025年8月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. カネコ種苗ってどんな会社?
種苗の生産・販売を中心に、農薬や農業資材、温室設計なども手掛ける農業関連の総合企業です。
■(1) 会社概要
1947年に群馬県前橋市で設立され、卸販売部門が独立して発足しました。1981年に店頭登録を行い、2004年にジャスダックへ上場、2016年には東証一部指定銘柄となりました。近年では、2010年に株式会社ベルデ九州の株式を取得(後に合併)、2014年には前田農薬株式会社を完全子会社化(後に合併)するなど、M&Aや事業譲受を通じて業容を拡大しています。
従業員数は連結695名、単体630名です。大株主構成は、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は群馬県の造園・土木関連企業、第3位は同社の取引金融機関である地方銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 7.85% |
| あかぎ興業 | 5.28% |
| 群馬銀行 | 4.36% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長は金子昌彦氏です。社外取締役比率は25.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 金子 昌彦 | 代表取締役社長企画推進室担当 | 群馬県庁入庁を経て1987年に入社。取締役種苗部長、専務取締役などを歴任し、2012年より現職。 |
| 長谷 浩克 | 専務取締役管理部門・コンプライアンス・IT推進担当 | 群馬銀行入行を経て1993年に入社。財務部長、常務取締役などを経て2019年より現職。 |
| 伊藤 一貴 | 専務取締役農材事業・施設材事業担当 | 1985年入社。宇都宮支店長、取締役施設部長、常務取締役などを経て2024年より現職。 |
| 宮下 毅 | 常務取締役種苗事業・花き事業担当 | 1990年入社。静岡支店長、取締役総務部長などを経て2024年より現職。 |
| 榛澤 英昭 | 取締役くにさだ育種農場長、波志江研究所担当 | 1985年入社。くにさだ育種農場部長代理などを経て2013年より取締役くにさだ育種農場長に就任。 |
社外取締役は、丸山和貴(元群馬弁護士会会長)、山口恵美子(埼玉県働く女性応援メンター)、竹下裕理(フリーアナウンサー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「種苗事業」「花き事業」「農材事業」「施設材事業」の4つの報告セグメントで事業を展開しています。
■種苗事業
野菜種子、牧草種子、ウイルスフリー苗や種イモ等の生産・仕入・販売を行うほか、造園・法面工事の請負施工も手掛けています。耐病虫性や良食味等の特性を備えた自社開発品種を中心に、国内および海外へ販売しています。
収益は主に種子や苗の販売代金、および工事請負代金から得ています。運営は主に同社が行い、委託生産や海外販売の一部を連結子会社のフィリピーナス・カネコ・シーズ・コーポレーションなどが担っています。
■花き事業
花苗、家庭菜園向け野菜種苗、球根、園芸資材などを、ホームセンターや園芸専門店を通じて家庭園芸愛好家向けに販売しています。また、ユーストマやカーネーション等の自社開発品種を営利栽培農家向けに販売しています。
収益は主にこれらの製品の販売代金から得ています。運営は同社が行っています。
■農材事業
農産物の安定生産に不可欠な農薬を中心に、被覆肥料等の販売を行っています。被覆肥料「ベストマッチ」は、住友化学と共同開発した製品で、効果が長期持続する特徴があります。
収益は農薬や肥料等の販売代金から得ています。運営は同社が行っています。
■施設材事業
農業資材の仕入販売のほか、独自の養液栽培プラントや温室の設計・施工を行っています。長年培った栽培技術を活かし、各作物に適したプラントや植物工場を提案し、関連消耗資材も販売しています。
収益は農業資材の販売代金、およびプラント・温室等の設計・施工代金から得ています。運営は同社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は600億円台前半で安定的に推移してきましたが、直近の2025年5月期には645億円まで伸長しました。経常利益は15億円から19億円の範囲で推移しており、直近では増益基調にあります。当期純利益も12億円前後を維持しており、安定した収益基盤を有しています。
| 項目 | 2021年5月期 | 2022年5月期 | 2023年5月期 | 2024年5月期 | 2025年5月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 608億円 | 607億円 | 622億円 | 616億円 | 645億円 |
| 経常利益 | 18億円 | 19億円 | 19億円 | 16億円 | 17億円 |
| 利益率(%) | 2.9% | 3.1% | 3.1% | 2.5% | 2.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 15億円 | 13億円 | 14億円 | 12億円 | 12億円 |
■(2) 損益計算書
売上高が増加する中で、売上総利益は横ばいを維持しています。売上総利益率は15.4%から14.8%へとわずかに低下しましたが、営業利益は微増しており、利益率は2.3%前後で安定しています。コストコントロールを行いつつ、売上拡大を図っている状況が見て取れます。
| 項目 | 2024年5月期 | 2025年5月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 616億円 | 645億円 |
| 売上総利益 | 95億円 | 95億円 |
| 売上総利益率(%) | 15.4% | 14.8% |
| 営業利益 | 15億円 | 15億円 |
| 営業利益率(%) | 2.4% | 2.3% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給与及び手当が21億円(構成比27%)、研究開発費が9億円(同12%)を占めています。売上原価においては、商品仕入高が大きな割合を占めている構造です。
■(3) セグメント収益
種苗事業はタマネギ種子等の輸出好調により増収となりましたが、飼料作物種子のコスト増により減益となりました。花き事業は家庭園芸用品の需要低迷で減収減益です。農材事業は農薬販売の伸長により増収、利益は横ばいでした。施設材事業は温室更新需要の回復等により大幅な増収増益を達成しました。
| 区分 | 売上(2024年5月期) | 売上(2025年5月期) | 利益(2024年5月期) | 利益(2025年5月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 種苗事業 | 91億円 | 95億円 | 7億円 | 5億円 | 5.8% |
| 花き事業 | 90億円 | 84億円 | 1億円 | 0億円 | -0.0% |
| 農材事業 | 302億円 | 320億円 | 15億円 | 15億円 | 4.6% |
| 施設材事業 | 133億円 | 147億円 | 2億円 | 4億円 | 2.6% |
| 連結(合計) | 616億円 | 645億円 | 15億円 | 15億円 | 2.3% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
カネコ種苗は、種苗事業、農材事業、施設材事業の販売増により増収となりました。
営業活動によるキャッシュ・フローは、売上債権や棚卸資産の増加、仕入債務の減少、税金等の支払いがあったものの、利益や減価償却費により資金を獲得しました。投資活動によるキャッシュ・フローは、有価証券の売却益はあったものの、有形固定資産や無形固定資産の取得による支出が大きくなりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払い及び自己株式の取得により資金を使用しました。
| 項目 | 2024年5月期 | 2025年5月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 22億円 | 2億円 |
| 投資CF | -5億円 | -12億円 |
| 財務CF | -6億円 | -6億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「大同に生きる経営」を信条とし、社会に必要とされ貢献する会社、従業員が人生を託せる生きがいのある職場、成果によって存在意義を高める会社を目指しています。企業の社会的責任を全うし、社会に貢献できる会社のみが安定して成長できるという信念のもと事業を推進しています。
■(2) 企業文化
「ハイテクと国際化」を経営の基本方針として掲げています。これを実現するため、新商品・新技術の研究開発に注力するとともに、種子の生産・販売の両面で積極的な全国展開および海外展開に取り組む姿勢を重視しています。また、安定・信頼・成長をキーワードに、厚い蓄積と適正な配分、合理的投資を行う文化を持っています。
■(3) 経営計画・目標
2026年5月期よりスタートする新中期経営計画のもと、研究開発の推進とグローバル展開の充実、イノベーションによる新価値創造に取り組んでいます。具体的な数値目標としてのKPI等は有価証券報告書本文中には明記されていませんが、持続可能な社会・農業の実現に向けた取り組みを強化しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
国内では生産性向上や省力化ニーズに対応するため、ドローン等のスマート農業の実装化や環境配慮型資材の供給を推進しています。海外では、気候変動や食料需要増に対応し、熱帯圏向けの品種開発や各地域のニーズに合った品種の普及に努めています。また、種子生産のリスク分散のため、異なる地域・気候を利用した採種体制の確立を進めています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「ハイテクと国際化」を実現するため、高度な能力を発揮し、多様な環境で業務を遂行できる人材の確保・育成を重視しています。階層別研修や専門分野別研修、自己啓発支援などを通じて体系的に人材育成を進めるとともに、成果や貢献を適切に評価する人事制度を導入し、従業員が安心して働き成長し続けられる企業を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年5月期 | 41.7歳 | 13.2年 | 5,956,612円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.2% |
| 男性育児休業取得率 | 78.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 60.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 79.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 85.0% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 育種開発リスク
種子等の開発には10年超の期間を要する場合があり、期間短縮は容易ではありません。優秀な人材や遺伝資源の確保に努めていますが、期待する成果が得られない場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 人材の確保・育成に関するリスク
「ハイテクと国際化」を推進するためには、高度な研究開発能力や多様な文化で業務遂行できる人材が不可欠です。これらの人材が十分に確保・育成できない場合、長期的な事業展開や業績に影響が出る可能性があります。
■(3) 国内農業に関する影響
国内農業は人口減少や高齢化により厳しい状況にあります。同社は新商品開発等で業容拡大に努めていますが、事業の多くが国内農業関連であるため、国内農業の構造的な縮小や低迷の影響を受ける可能性があります。
■(4) 法的規制や制度改革等によるリスク
種苗法、植物防疫法、農薬取締法など多岐にわたる法的規制を受けています。法令遵守に努めていますが、法令違反や規制の変更等により事業活動が制限された場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。



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