※本記事は、前澤工業株式会社 の有価証券報告書(第79期、自 2024年6月1日 至 2025年5月31日、令和7年8月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 前澤工業ってどんな会社?
上下水道関連の機械設備やバルブ等の製造・販売・メンテナンスを手掛け、水インフラを支える企業です。
■(1) 会社概要
1937年に前澤慶治が昭和製作所として創業し、1947年に前澤バルブ工業として設立されました。1973年に現社名へ変更し、水処理機械の設計・施工部門を開設。1994年に東証二部、1996年に東証一部へ上場し、2022年にスタンダード市場へ移行しました。水処理とバルブ製造を核に事業を拡大しています。
連結従業員数は1,048名、単体では745名です。筆頭株主は創業家に関連する公益財団法人前澤育英財団で、第2位は創業者を同じくする前澤化成工業、第3位は取引先持株会となっています。上位株主には関連企業や金融機関が名を連ねており、安定的な株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 公益財団法人前澤育英財団 | 7.11% |
| 前澤化成工業 | 6.79% |
| 前澤工業取引先持株会 | 6.76% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.6%です。代表取締役社長は宮川多正氏です。社外取締役比率は25.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 宮川多正 | 取締役社長代表取締役 | 1983年入社。管理本部総務・人事部長、埼玉製造所長、バルブ事業本部副本部長、管理本部長などを歴任。2019年常務、2020年専務を経て、2021年8月より現職。 |
| 神田礼司 | 専務取締役経営企画室、管理本部担当 | 2013年入社。経理部長、経営企画室長、管理本部副本部長などを歴任。2021年常務を経て、2023年8月より現職。前澤エンジニアリングサービス取締役副社長を兼務。 |
| 濱野茂樹 | 常務取締役環境事業本部長兼海外推進室担当 | 1983年入社。環境システム事業部長、建設事業部長、調達部長などを歴任。前澤エンジニアリングサービス常務、当社バルブ事業本部長を経て、2023年12月より現職。 |
| 手塚正三 | 常務取締役バルブ事業本部長 | 1984年入社。埼玉製造所副所長、製造部長、鋳造部長などを歴任。バルブ事業本部埼玉製造所長を経て、2023年12月バルブ事業本部長、2025年4月より現職。 |
| 瀬尾比良久 | 取締役環境事業本部副本部長兼安全品質統括部長 | 1984年入社。環境プロジェクト管理室長、プラント建設事業部長、上水施設部長などを歴任。2023年8月取締役就任。2025年4月より現職。 |
社外取締役は、園山佐和子(弁護士)、細田隆(元関東財務局長)、笠松重保(元三菱UFJMS証券専務)です。
2. 事業内容
同社グループは、「環境事業」「バルブ事業」「メンテナンス事業」の3つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) 環境事業
上下水道用の水処理機械設備、産業用水処理機械設備、および有機性廃棄物資源化設備などに関する事業を行っています。主な顧客は官公庁や地方自治体であり、社会インフラとしての浄水場や下水処理場等の設備整備を担っています。また、民需向けの産業廃水処理やバイオマス関連設備も手掛けています。
製品・設備の製造・販売・据付工事等を通じて、顧客から対価を得る収益モデルです。官公庁等の入札による工事請負契約が中心となります。事業の運営は、主に親会社である前澤工業が担当しています。
■(2) バルブ事業
上下水道用の弁(バルブ)、栓、門扉などに関する事業を行っています。浄水場、配水池、下水処理場、ポンプ場、農業用水路などのインフラ設備において、水の流れを制御・遮断するために不可欠な機器を提供しています。
製品の製造・販売を通じて、顧客から対価を得る物品販売が主な収益源です。製品の引渡し時点で収益を認識します。この事業の運営は、主に前澤工業が行っています。
■(3) メンテナンス事業
上下水道用水処理機械設備や機器の修繕、据付工事、維持管理などに関する事業を行っています。納入後の設備の長寿命化や効率的な運用のための点検・補修サービスを提供し、顧客の施設の安定稼働を支援しています。
設備の点検・修繕・工事等のサービス提供対価として、顧客から料金を受け取ります。この事業は、連結子会社である株式会社前澤エンジニアリングサービスが中心となって運営を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は増加傾向にあり、第75期の318億円から第79期には375億円まで伸長しています。利益面では、経常利益率が10%〜13%台で推移しており、安定した収益性を維持しています。第78期に利益が大きく伸びましたが、第79期は増収ながらも減益となっています。
| 項目 | 2021年5月期 | 2022年5月期 | 2023年5月期 | 2024年5月期 | 2025年5月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 318億円 | 309億円 | 324億円 | 365億円 | 375億円 |
| 経常利益 | 34億円 | 32億円 | 33億円 | 50億円 | 48億円 |
| 利益率(%) | 10.6% | 10.2% | 10.3% | 13.7% | 12.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 23億円 | 20億円 | 26億円 | 32億円 | 28億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で増加しましたが、売上原価および販売費及び一般管理費も増加しており、営業利益、経常利益ともに前期を下回りました。売上総利益率はほぼ横ばいですが、販管費の増加が利益率をやや押し下げる結果となっています。
| 項目 | 2024年5月期 | 2025年5月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 365億円 | 375億円 |
| 売上総利益 | 111億円 | 113億円 |
| 売上総利益率(%) | 30.3% | 30.0% |
| 営業利益 | 49億円 | 47億円 |
| 営業利益率(%) | 13.4% | 12.4% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給与手当が26億円(構成比39%)、運賃梱包費が4億円(同7%)、研究開発費が4億円(同6%)を占めています。
■(3) セグメント収益
環境事業とメンテナンス事業は増収増益となりましたが、バルブ事業は減収減益となりました。特にメンテナンス事業は利益率が高く、全社利益への貢献度が高まっています。バルブ事業は厳しい事業環境の中、利益が大きく減少しました。
| 区分 | 売上(2024年5月期) | 売上(2025年5月期) | 利益(2024年5月期) | 利益(2025年5月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 環境事業 | 126億円 | 137億円 | 4億円 | 6億円 | 4.2% |
| バルブ事業 | 123億円 | 112億円 | 19億円 | 10億円 | 8.7% |
| メンテナンス事業 | 116億円 | 126億円 | 24億円 | 30億円 | 23.6% |
| 調整額 | -16億円 | -18億円 | 1億円 | 1億円 | - |
| 連結(合計) | 365億円 | 375億円 | 49億円 | 47億円 | 12.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2024年5月期 | 2025年5月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 8億円 | 55億円 |
| 投資CF | -8億円 | -46億円 |
| 財務CF | -9億円 | -11億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.6%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は70.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「水とともに躍進し 人間らしさを求め 社会に貢献できる魅力ある企業」の実現をめざし、事業を展開しています。創業以来の実績をもとに、水に関わる分野の社会資本整備に加え、再エネ・省エネによる社会貢献に取り組み、人と環境に優しい技術・製品を提供しています。
■(2) 企業文化
同社グループは、「人と技術力で未来を拓く」をスローガンに掲げています。社会・市場環境の変化を見据え、新たな価値の創出と持続的成長を図る姿勢を重視しています。また、脱炭素や資源循環型社会の実現、防災・減災への対応など、社会的課題の解決に積極的に取り組む姿勢を持っています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは、令和6年度から令和8年度までの中期3ヵ年経営計画を策定しています。重点施策として「成長戦略の推進」「既存事業の収益力強化」「企業価値向上に向けた経営基盤の強化」に取り組んでいます。
■(4) 成長戦略と重点施策
成長戦略として、再エネ・省エネ、官民連携、海外水インフラ分野を推進しています。具体的には、脱炭素社会に向けたバイオマス・省エネ技術の開発、官民連携への体制強化、海外市場での事業機会創出を図ります。また、既存事業(バルブ・環境・メンテナンス)においては、技術開発・提案力の強化やDXの推進により収益力を強化します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人的資本への投資を持続的成長の原動力と捉え、人材の育成と確保を重要課題としています。令和7年4月に「HRM推進部」を新設し、採用戦略の立案や教育プログラムの構築、働き方改革を推進しています。また、DX人材の育成、女性の採用・活躍推進、健康経営、奨学金返還支援制度の導入など、多様な人材が活躍できる環境整備に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年5月期 | 45.7歳 | 17.2年 | 6,410,649円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 8.8% |
| 男性育児休業取得率 | 70.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 82.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 76.6% |
| 男女賃金差異(非正規) | 90.0% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新入社員女性採用比率(22.2%)、有給休暇取得率(71.8%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場環境の変動
同社グループの事業は公共事業の割合が高いため、国や地方公共団体の政策転換、財政悪化による予算削減やコスト縮減、予算執行状況の変化によって、業績が影響を受ける可能性があります。
■(2) 資機材価格の急激な変動
原材料や機材の価格が急激に高騰し、その上昇分を販売価格に適切に転嫁することが困難な場合、同社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 退職給付費用及び債務
年金資産の時価変動や運用利回り、割引率などの前提条件に変更があった場合、退職給付費用や債務が増減し、業績に影響を与える可能性があります。特に数理計算上の差異は発生年度に一括費用処理するため、毎年の業績に影響します。
■(4) 業績の下期偏重による季節的な変動
同社グループの売上高は、下半期に完成または進捗する工事の割合が大きいため、上半期と下半期で著しい偏りがあります。これにより、四半期ごとの業績が大きく変動する可能性があります。



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