エーワン精密 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

エーワン精密 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証スタンダード市場に上場する、小型自動旋盤用コレットチャック等の機械工具メーカーです。主力製品で高シェアを持ちますが、直近決算では設備投資に伴う減損損失の計上等により、売上高は微減、最終損益は赤字となりました。財務基盤は盤石で、自己資本比率は90%超を維持しています。


#記事タイトル:エーワン精密転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

※本記事は、株式会社エーワン精密 の有価証券報告書(第35期、自 2024年7月1日 至 2025年6月30日、2025年9月29日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. エーワン精密ってどんな会社?


小型自動旋盤用コレットチャックや切削工具の製造・再研磨を行う、短納期・高品質が強みのメーカーです。

(1) 会社概要


同社は1970年に自動旋盤用カムの製造を行う有限会社として創業し、1977年に主力のコレットチャックの販売を開始しました。1990年に現法人を設立して営業を譲受し、1999年には切削工具部門へ参入して事業を拡大しました。2004年にジャスダック証券取引所へ上場を果たし、現在は東証スタンダード市場に上場しています。

同社(単体)の従業員数は109名です。筆頭株主は創業時の親会社である致知で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は個人株主となっています。

氏名 持株比率
致知 25.27%
日本カストディ銀行 (信託口) 4.05%
肥田 亘 1.99%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性2名、計8名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表取締役社長は林哲也氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
林   哲 也 代表取締役社長 野村證券を経て同社入社。西日本営業所長、取締役を経て2007年10月より現職。
金  丸  信  行 常務取締役切削工具部門担当 旧エーワン精密(現致知)を経て同社入社。切削工具部門リーダーとして事業を牽引し、2011年10月より現職。
中 澤 正 和 取締役 工場長コレットチャック部門担当 旧エーワン精密(現致知)を経て同社入社。コレットチャック部門工程リーダー、工場長を経て2024年9月より現職。
松 本 亜紀子 取締役管理部門統括 同社入社後、管理グループ部門リーダー、管理部門統括を経て2024年9月より現職。


社外取締役は、Jason Orlando Bellamy(ベラミー代表取締役社長)、小林伸夫(サンコウ総合設備代表取締役)、稲垣奈津子(稲垣公認会計士事務所代表)、竹内昭夫(竹内昭夫法律事務所代表)です。

2. 事業内容


同社グループは、「コレットチャック部門」、「切削工具部門」、「自動旋盤用カム部門」の3つの報告セグメントを展開しています。

コレットチャック部門

主にCNC自動旋盤や専用機で使用されるコレットチャック・ガイドブッシュの製造・販売を行っています。これらは棒状の材料を掴んで回転させたり振れを抑えたりするための工具で、精密部品加工に不可欠な消耗品です。
製品を販売することで、工作機械を使用する顧客企業から代金を受け取ります。運営は主にエーワン精密が行っています。

切削工具部門

マシニングセンター等で使用される市販切削工具の再研磨受託および、顧客仕様の特殊切削工具の設計・製造・販売を行っています。摩耗した工具を新品同様に再生するほか、特殊形状の工具で加工効率化を支援します。
再研磨加工賃や製品販売代金を顧客企業から受け取ります。運営は主にエーワン精密が行っています。

自動旋盤用カム部門

カム式自動旋盤で使用される板状工具「カム」の設計・製造・販売を行っています。カム式自動旋盤は機械仕掛けで制御される設備で、同社は祖業としてメーカー供給責任を果たすべく事業を継続しています。
製品を販売することで、カム式自動旋盤を保有する顧客企業から代金を受け取ります。運営は主にエーワン精密が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は16億円前後で推移しており、直近5期間では減少傾向から横ばいの動きとなっています。利益面では、経常利益率が低下傾向にあり、第35期は固定資産の減損損失を計上した影響で当期純損益が赤字に転落しました。

項目 2021年6月期 2022年6月期 2023年6月期 2024年6月期 2025年6月期
売上高 17億円 19億円 18億円 16億円 16億円
経常利益 3.9億円 4.4億円 2.8億円 1.8億円 1.2億円
利益率(%) 23.4% 23.8% 16.0% 11.2% 7.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 2.7億円 3.1億円 1.9億円 1.2億円 -2.2億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で微減となりましたが、売上原価の増加により売上総利益率は低下しています。販売費及び一般管理費も増加傾向にあり、営業利益率は前期の約10%から約5%へと低下しました。

項目 2024年6月期 2025年6月期
売上高 16億円 16億円
売上総利益 4.7億円 4.2億円
売上総利益率(%) 29.6% 26.2%
営業利益 1.6億円 0.8億円
営業利益率(%) 10.3% 5.3%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が0.7億円(構成比20%)、その他経費が0.6億円(同19%)を占めています。売上原価においては、労務費が6.6億円(構成比56%)、経費が3.9億円(同34%)となっており、製造業としての人件費負担が大きい構造です。

(3) セグメント収益


主力のコレットチャック部門は堅調に推移し利益の大半を稼ぎ出していますが、切削工具部門は国内製造業の稼働率低下等の影響を受け、減益となりました。自動旋盤用カム部門は売上規模が小さく、損失が続いています。

区分 売上(2024年6月期) 売上(2025年6月期) 利益(2024年6月期) 利益(2025年6月期) 利益率
コレットチャック部門 11億円 11.1億円 4.2億円 4.1億円 36.8%
切削工具部門 4.8億円 4.7億円 0.6億円 0.1億円 2.9%
自動旋盤用カム部門 0.1億円 0.1億円 -0.1億円 -0.0億円 -24.5%
連結(合計) 16億円 16億円 1.6億円 0.8億円 5.3%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

エーワン精密は、換金性の高い現預金等の内部留保を活用し、事業資金や設備投資資金を捻出しています。

同社の営業活動による資金は、減損損失や減価償却費の計上等により増加しましたが、税引前当期純損失や法人税等の支払い等により、前期に比べて減少しました。投資活動では、定期預金の純増減額が大きく影響し、資金が増加しました。財務活動では、配当金の支払いが主な要因となり、資金が減少しました。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「高品質の製品をより低コスト、短納期で対応する」ことを基本とし、顧客ニーズを充足することを掲げています。ものづくりに不可欠な工具を安定的に供給することで製造業に貢献し、適正な利潤を上げて株主への還元を続けることを経営の方針としています。

(2) 企業文化


同社は「顧客からの受注を最優先する」という行動指針のもと、全部門が早く正確な納品に全力を注ぐ文化を持っています。「必要なこと、やるべきことはすぐに率先して実行に移し、不必要なことはしない」という効率重視の姿勢や、自分だけでなく周囲を含めた効率性を高める行動が推奨されています。

(3) 経営計画・目標


同社は、ものづくりの世界で必要とされる機械工具を適時提供し、適正な利潤を上げていくことを目指しています。具体的な数値目標としてのKPI等は開示されていませんが、安定した受注確保により他社に比べて高い利益率を達成できる体制の維持・確立を目標としています。

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、多品種少量生産品のニッチ分野に特化し、顧客の要求する品質と短納期対応を徹底することでリピートオーダーを確保する戦略をとっています。今後は、加工難易度の高い複雑な部品に対応するため、高精度設備の導入や人材育成を進め、競争力を強化していく方針です。また、安定した財務基盤を活用した機動的な設備投資も重点施策としています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は完全受注生産方式に対応するため、納期遵守を最優先課題としています。そのために経営理念と行動指針を社員に徹底し、個々の能力に応じたレベルアップを図っています。採用においては、性別や国籍を問わず、必要な資格や能力を有する人材を中途採用中心に確保する方針をとっています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年6月期 41.5歳 12.8年 5,130,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.9%
男性育児休業取得率 -
男女賃金差異(全労働者) -
男女賃金差異(正規雇用) -
男女賃金差異(非正規雇用) -


※同社は公表義務の対象ではないため、有報には本稿の記載がありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、社員に占める女性比率(31.2%)、中堅・若手リーダーの育成(5名)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 事業の特徴と景気変動の影響

同社の主力製品は製造業の切削加工で使用される消耗工具であり、顧客企業の機械稼働率や景気動向の影響を強く受けます。多品種少量生産や短納期対応で差別化を図っていますが、景気が大きく変動した場合、受注量や業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) コレットチャック部門の市場環境

主力製品であるコレットチャックは、国内外での部品加工の高度化に伴い、顧客仕様のオーダー品が増加しています。これに対し、品質と納期で柔軟に対応できない場合、受注確保が困難になる恐れがあります。また、技術革新により旋削加工工程自体が不要となった場合、業績に影響を与える可能性があります。

(3) 切削工具部門の競争と設備投資

再研磨事業では競合増加による価格競争が激化しており、受注への影響が懸念されます。特殊切削工具においては、顧客ニーズへの対応力不足や知名度不足がリスクとなります。また、設備投資に伴う固定資産の減損リスクもあり、実際に第35期では同部門で減損損失を計上しています。

(4) 海外市場への依存と地政学リスク

同社製品の輸出販売高比率は約10%で、アジア地域が中心です。すべて円建て取引ですが、輸出地域の経済情勢や為替変動の影響を受ける可能性があります。また、地政学リスクや貿易規制等により世界的な物流や部品加工のサプライチェーンが滞った場合、同社の受注も間接的に影響を受ける可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。