HPCシステムズ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

HPCシステムズ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証グロース上場のHPCシステムズは、科学技術計算用コンピュータ(HPC)事業と産業用コンピュータ(CTO)事業を展開する企業です。2025年6月期の連結業績は、売上高71億円(前期比1.7%増)、経常利益6.4億円(同51.2%増)と増収増益を達成しました。


※本記事は、HPCシステムズ株式会社 の有価証券報告書(第20期、自 2024年7月1日 至 2025年6月30日、2025年9月29日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. HPCシステムズってどんな会社?


科学技術計算用高性能コンピュータや産業用組込コンピュータの開発・製造・販売を行う、ニッチトップ企業です。

(1) 会社概要


同社は2006年に設立され、HPC事業およびCTO事業を開始しました。2017年には納品したスパコン「kukai」が省エネ性能ランキング「GREEN500」で世界第2位を獲得するなど技術力を示し、2019年に東証マザーズへ上場しました。2020年にはベトナムに現地法人を設立し、海外展開も進めています。

2025年6月30日現在の連結従業員数は123名(単体120名)です。筆頭株主は半導体商社の菱洋エレクトロで、第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行、第3位は建設機械等を扱う商社のナラサキ産業です。主要株主である菱洋エレクトロとは、原材料の仕入等で取引関係があります。

氏名 持株比率
菱洋エレクトロ 7.34%
日本マスタートラスト信託銀行(退職給付信託口・菱洋エレクトロ口) 7.01%
ナラサキ産業 6.72%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性1名の計8名で構成され、女性役員比率は12.5%です。代表取締役は小野鉄平氏が務めています。社外取締役比率は37.5%です。

氏名 役職 主な経歴
小野 鉄平 代表取締役 精傑電子科技股份有限公司等を設立・経営後、2006年同社設立に伴い移籍。生産技術本部長等を経て2015年より現職。
下川 健司 取締役管理部長 タダノ、監査法人トーマツ等を経て2009年同社入社。コーポレート本部ゼネラルマネージャー等を歴任し、2018年より現職。


社外取締役は、古屋和彦(元富士フイルムR&D統括本部知的財産本部長)、小野元孝(元アズワン常務取締役)、森葉子(元ブックオフグループホールディングス取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「HPC事業」および「CTO事業」を展開しています。

(1) HPC事業


科学技術計算用高性能コンピュータの開発・製造・販売を行い、大学や官公庁の研究機関、企業のR&D部門向けに提供しています。システムインテグレーションに加え、計算化学、ディープラーニング、AI解析等の分野で、ソフトウェア開発や受託計算、研究開発支援までをワンストップで提供します。

収益は、高性能コンピュータ等のハードウェア販売、ソフトウェアライセンス販売、クラウドサービスの利用料、および保守サービス料から得ています。運営は主にHPCシステムズが行い、一部海外事業を子会社のIntelligent Integration Company Limitedが担っています。

(2) CTO事業


顧客企業の注文仕様に応じた産業用コンピュータ(組込コンピュータ)の開発・製造・販売を行っています。各種製造装置、工作機械、インフラ監視制御、医療機器、デジタルサイネージ等に搭載され、耐環境性や長期安定供給が求められる産業分野で活用されています。

収益は、顧客企業の要望に合わせて開発・製造した産業用コンピュータの製品販売から得ています。顧客の製品販売期間に合わせた長期継続供給と保守サービスを提供しており、運営はHPCシステムズが行っています。国内工場(千葉県匝瑳市)で製造・品質管理を実施しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近2期間の業績を見ると、売上高は70億円前後で推移しつつ微増傾向にあります。利益面では、経常利益率が6.1%から9.1%へと大きく改善しており、増収効果以上に利益成長が進んでいます。当期利益も順調に拡大し、収益性が高まっていることが読み取れます。

項目 2024年6月期 2025年6月期
売上高 69億円 71億円
経常利益 4.3億円 6.4億円
利益率(%) 6.1% 9.1%
当期利益(親会社所有者帰属) 2.6億円 4.6億円

(2) 損益計算書


2期間の損益構成を比較すると、売上総利益率は27.3%から29.8%へ改善しました。これに伴い営業利益率も6.1%から9.0%へと上昇しており、コストコントロールや高付加価値案件の獲得が進んでいる様子がうかがえます。売上高の伸びに対し、利益の伸び率が高い効率的な経営が行われています。

項目 2024年6月期 2025年6月期
売上高 69億円 71億円
売上総利益 19億円 21億円
売上総利益率(%) 27.3% 29.8%
営業利益 4.3億円 6.4億円
営業利益率(%) 6.1% 9.0%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が5.1億円(構成比35%)、役員報酬が1.5億円(同10%)、賞与引当金繰入額が1.2億円(同8%)を占めています。

(3) セグメント収益


HPC事業は売上高が減少したものの、利益は大幅に増加し、利益率が10%を超えました。一方、CTO事業は売上高が10%以上成長し、利益も倍増しています。HPC事業の収益性改善とCTO事業の規模拡大が、全社の増益に寄与しています。

区分 売上(2024年6月期) 売上(2025年6月期) 利益(2024年6月期) 利益(2025年6月期) 利益率
HPC事業 47億円 46億円 3.5億円 4.6億円 10.1%
CTO事業 22億円 25億円 0.8億円 1.8億円 7.1%
連結(合計) 69億円 71億円 4.3億円 6.4億円 9.0%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のCF状況は、本業で稼いだ資金で借入返済を行いつつ、投資は手元資金の範囲内で実施している「健全型」です。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は16.7%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.5%で市場平均を下回っています。

項目 2024年6月期 2025年6月期
営業CF 41億円 13億円
投資CF -0.1億円 -0.6億円
財務CF -34億円 -10億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「人とコンピューティングの力で世界平和に貢献する」を経営理念として掲げています。また、「研究者には研究する力、開発者には製品を開発する力を提供すること」をミッションとし、人類の難題に挑戦する研究者や開発者に寄り添い、課題解決に取り組むことを役割と位置づけています。

(2) 企業文化


「人の創造力とコンピューティングを融合させ未来をつくる企業になる」というビジョンを持っています。顧客である研究者や開発者に徹底的に寄り添い、知恵、努力、コミュニケーションを通じて共に課題を考え、単なる製品提供にとどまらない、付加価値のある最適化されたソリューションを提供することを重視しています。

(3) 経営計画・目標


事業拡大と企業価値向上を目指し、売上高成長率と営業利益成長率を重要な経営指標と位置付けています。これらを中長期的に成長させていくことを基本的な考え方としています。

(4) 成長戦略と重点施策


「S3 as a Service(Sキューブソリューション)」戦略を展開し、System(ハードウェア・SI)、Science(計算科学ノウハウ)、Science as a Cloud(クラウドサービス)の3要素を掛け合わせたソリューション提供を推進しています。

注力領域として、AI、ディープラーニング、エッジコンピューティング等の最先端技術への対応を強化しています。HPC事業とCTO事業の技術連携を深め、製造現場でのAI活用ニーズなど新たな商機に対応する方針です。また、5Gやコネクテッドカー等の成長分野への参画も進めています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人財グランドデザイン」を策定し、技術開発力やサービス企画力を維持・強化するために優秀な人材の確保と育成を重視しています。従業員の意欲と能力の向上を図るため、目標管理制度による適正な評価、研修の実施、公的資格取得支援等を行い、変革のスピードに対応できる人材を育成する方針です。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年6月期 44.6歳 8.7年 5,780,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 11.5%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 71.7%
男女賃金差異(正規雇用) 71.7%
男女賃金差異(非正規雇用) -%


※男女賃金差異(非正規雇用)については、パート・有期労働者がいないため記載がありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、離職率(7.3%)、eラーニング研修受講率(100%)、ストレスチェック受験率(98%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 景気動向及び産業動向の変動


主要顧客である大学官公庁や企業の業績悪化により、研究開発投資や設備投資需要が縮小した場合、HPC事業およびCTO事業の売上が減少し、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。特に米国の関税政策や金融・経済の混乱が顧客企業の投資計画に影響を与えるリスクがあります。

(2) 特定の人物への依存


代表取締役である小野鉄平氏は事業推進に極めて重要な役割を果たしています。同社グループでは同氏に過度に依存しない組織体制の構築を目指していますが、何らかの理由により同氏が業務執行できない事態となった場合、事業及び業績に影響を与える可能性があります。

(3) 特定仕入先への依存


HPC事業の主要仕入先である米国のSuper Micro Computer,Inc.とは代理店契約を締結していますが、取引関係の継続が困難になった場合、代替先の確保や納期調整、コスト増加等により、業績に影響を与える可能性があります。

(4) 技術革新への対応


コンピューティング関連市場は技術革新が速く、常に新しい技術への対応が求められます。技術革新のスピードに適時に対応できない場合、競争力を失い、業績に悪影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。