※本記事は、株式会社グリッド の有価証券報告書(第16期、自 2024年7月1日 至 2025年6月30日、2025年9月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. グリッドってどんな会社?
社会インフラ領域に特化し、AI技術を用いた「計画最適化」システムの開発・提供を行う企業です。
■(1) 会社概要
同社は2009年に再生エネルギー事業会社として設立されました。2015年にAI開発事業を開始し、2016年にはAIフレームワーク「ReNom」を開発しました。その後、2020年にエネルギーソリューション事業から撤退してAI開発へ事業を集中させ、2023年に東京証券取引所グロース市場へ上場を果たしました。
2025年6月30日現在、従業員数は単体で109名です。筆頭株主は同社代表取締役社長である曽我部完氏の資産管理会社であるWeで、発行済株式の54.90%を保有しています。第2位は資産管理業務を行う日本カストディ銀行(信託口)、第3位は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| We | 54.90% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 12.43% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 5.55% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役社長は曽我部完氏が務めています。社外取締役比率は22.2%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 曽我部 完 | 代表取締役社長 | 1997年日比谷花壇入社。清長代表取締役を経て2009年10月グリッド設立、代表取締役社長に就任。2019年よりAIビジネス推進コンソーシアム代表理事を兼任。 |
| 照井 一由 | 取締役執行役員 | 1999年伊藤忠テクノソリューションズ入社。同社AIビジネス推進部長等を経て2020年グリッド入社。2021年取締役就任。2024年7月より現職。 |
| 中村 秀樹 | 取締役執行役員 | 1996年日立建設設計入社。ARICA代表取締役等を経て2009年グリッド設立に参画し取締役就任。一時代表取締役を務めた後、2024年7月より現職。 |
| 曽我部 東馬 | 取締役 | 2007年マックスプランク微構造物理研究所博士研究員。2009年グリッド設立時取締役。東京大学特任准教授等を経て、2024年電気通信大学教授。2020年9月より現職。 |
社外取締役は、田中謙司(東京大学大学院工学系研究科教授)、竹内純子(国際環境経済研究所理事・主席研究員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「AI開発事業」を展開しています。
■(1) 電力・エネルギー分野
電力会社やエネルギー関連企業に対し、AI技術を用いた発電所の需給計画最適化プログラムを提供しています。電力需要の予測に基づき、各発電所の発電機の稼働計画(起電・停電)を最適化することで、過剰な発電を抑制し、燃料使用量の削減や業務効率化を支援しています。
収益は、AIエンジンの開発、システムの実装、およびその後の運用・サポートに対する対価として顧客から受領しています。これらのサービスはグリッドが主体となって運営・提供しており、電力会社等の大手企業が主な顧客となっています。
■(2) 物流・サプライチェーン分野
海運、化学、鉄鋼などの生産者に対し、輸送計画やサプライチェーン全体の最適化サービスを提供しています。配船計画やトラック輸送計画において、気象条件や納期などの制約を考慮した最適な計画をAIで立案し、輸送コストの削減や属人化の解消を実現しています。
顧客企業の課題に応じたAIエンジンの開発費、システム導入費、および継続的な運用・サポート費が主な収益源です。運営はグリッドが行っており、大手企業を中心にサービスを展開することで、長期的なビジネス関係を構築しています。
■(3) 都市交通・スマートシティ分野
都市における人の動き、消費活動、エネルギー使用状況などをデジタル空間に再現し、最適化を行うシミュレータ開発などを手掛けています。また、高速道路の渋滞予測システムや、蓄電池を活用した新しいエネルギーマネジメントシステムの開発も行っています。
プロジェクトごとの開発対価やシステム提供による対価が収益となります。グリッドがサービスの開発・運営を担っており、スマートシティプロジェクトや交通インフラに関わる企業・自治体等へのソリューション提供を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年6月期から2025年6月期までの業績を見ると、売上高は7.1億円から20.6億円へと大きく拡大しています。経常利益も第13期に黒字転換して以降、順調に利益額を伸ばしており、成長基調にあります。当期純利益については、第15期まで増加傾向でしたが、第16期は税負担等の影響により減少しました。
| 項目 | 2021年6月期 | 2022年6月期 | 2023年6月期 | 2024年6月期 | 2025年6月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 7.1億円 | 9.1億円 | 13.5億円 | 16.5億円 | 20.6億円 |
| 経常利益 | -2.0億円 | 0.7億円 | 2.0億円 | 3.4億円 | 4.3億円 |
| 利益率(%) | -28.1% | 7.4% | 15.1% | 20.8% | 20.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -2.1億円 | 0.9億円 | 2.3億円 | 4.0億円 | 3.0億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で増加し、売上総利益率も改善傾向にあります。営業利益についても増益となっており、本業の収益性は高まっています。一方で、当期純利益は減少しており、これは繰越欠損金の解消に伴う法人税等の負担増加が主な要因です。
| 項目 | 2024年6月期 | 2025年6月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 16.5億円 | 20.6億円 |
| 売上総利益 | 12.5億円 | 15.2億円 |
| 売上総利益率(%) | 75.7% | 73.4% |
| 営業利益 | 3.7億円 | 4.3億円 |
| 営業利益率(%) | 22.1% | 20.8% |
販売費及び一般管理費のうち、技術販管費が3.3億円(構成比30%)、給与手当が2.1億円(同19%)を占めています。売上原価においては、労務費が7.6億円で売上原価合計の70%を占めており、エンジニアの人件費がコストの主要部分となっています。
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
* パターン:**健全型**
営業CFがプラスで本業から現金を稼ぎ出し、投資CFと財務CFはマイナスとなっており、借入金の返済や自己資金による投資を行っている健全な状態です。
| 項目 | 2024年6月期 | 2025年6月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 2.9億円 | 4.1億円 |
| 投資CF | -0.4億円 | -0.5億円 |
| 財務CF | 19.8億円 | -0.6億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.9%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は89.2%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「INFRASTRUCTURE+LIFE+INNOVATION」(インフラ ライフ イノベーション)を企業理念とし、社会インフラにイノベーションを起こし、インフラ全体の最適化を目指して社会に貢献することをミッションとしています。テクノロジーでインフラを進化させ、その先も続く持続可能な社会をつくることを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「インフラと社会を、その先へ」をミッションとし、AI技術の実用化に主眼を置いています。属人性を排し、AI技術を用いて短時間で最適な計画を提供することを重視しており、現場オペレーションに造詣が深い技術者が自らの業務知識とAI技術を掛け合わせることで、実用的かつ効果的なソリューションを提供する文化があります。
■(3) 経営計画・目標
同社は、持続的な成長と企業価値向上のため、売上及び営業利益の拡大を重視しています。具体的な数値目標としては、売上高成長率及び営業利益率を経営の基本的な指標として定めています。フリー・キャッシュ・フローの拡大も重視し、成長ステージに合わせた適切な水準を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
社会インフラ領域(電力・エネルギー、物流・サプライチェーン、都市交通・スマートシティ)における「計画最適化」に注力しています。顧客のコア業務である計画業務の最適化を通じて、アップセル・クロスセルを行い、中長期的な関係を構築することでストック型売上の拡大を図ります。また、「ReNom APPS」によるクラウドサービス化や、量子アルゴリズム等の研究開発も推進し、事業成長を加速させる方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、優秀な人材の積極採用と、エンジニアが能力を十分に発揮できる環境づくりを重視しています。特に、重電や社会インフラ業界出身で現場知識を持つ技術者を採用し、データサイエンス教育を施すことで、実務に強いAI技術者を育成しています。また、多様性に富んだ人材の採用や、フレックス制度・リモートワークなどの柔軟な働き方の整備も進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年6月期 | 38.1歳 | 3.1年 | 8,452,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
* 同社は「管理職に占める女性労働者の割合」及び「労働者の男女の賃金の差異」については、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の規定による公表項目として選択していないため、有報には本項の記載がありません。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | - |
| 男性育児休業取得率 | 71.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | - |
| 男女賃金差異(正規) | - |
| 男女賃金差異(非正規) | - |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、フレックス制度の利用率(100%)、リモートワークの利用率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 景気動向及び業界動向の変化について
AI技術を用いた計画最適化市場は拡大が予想されますが、景気や新技術の発展による影響を受ける可能性があります。経済情勢や技術革新への対応が遅れた場合、事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。同社は研究開発の推進や大学研究者との連携により対策を講じています。
■(2) 競合について
社会インフラ分野に特化したノウハウや実績により優位性を確保していますが、成長市場であるため国内外の事業者が参入してくる可能性があります。十分な差別化が図られない場合や競争が激化した場合には、事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) プロジェクト収支の悪化について
プロジェクトごとに収支管理を行っていますが、見積り時に想定しなかった事実の発覚や不測の事態により工数が増加した場合、プロジェクト収支が悪化し、業績に影響が生じる可能性があります。顧客との業務範囲・要件の明確化や工数見積り精度の向上に努めています。
■(4) 特定人物への依存について
代表取締役社長である曽我部完氏は創業者であり、経営方針や事業戦略において重要な役割を担っています。組織的な体制整備を進めていますが、同氏の業務遂行が困難になった場合、事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。