※本記事は、株式会社稲葉製作所 の有価証券報告書(第78期、自 2024年8月1日 至 2025年7月31日、2025年10月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 稲葉製作所ってどんな会社?
「イナバ物置」で高い知名度を誇る鋼製物置と、オフィス家具の製造・販売を柱とするメーカーです。
■(1) 会社概要
1940年に創業し、1950年に設立されました。1961年に鋼製事務用机の製造を開始し、1975年には主力となる鋼製物置の製造をスタートさせました。その後、1988年に事務用椅子の製造を開始するなど製品ラインナップを拡充し、2002年には東京証券取引所市場第一部へ上場を果たしました。
従業員数は連結で1,073名、単体で854名です。大株主構成を見ると、筆頭株主は社長の親族の資産管理会社であり、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。創業家およびその関連会社が一定の影響力を持つ安定的な株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| イナバホールディングス | 27.69% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 6.02% |
| 稲葉 明 | 3.53% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性0名(役員のうち女性の比率0.0%)で構成されています。代表取締役社長兼営業本部長は稲葉裕次郎氏です。社外取締役の比率は22.2%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 稲葉 裕次郎 | 代表取締役社長兼営業本部長 | 2000年同社入社。生産革新推進室長、製造部長、技術部長等を歴任し、2021年10月より現職。 |
| 佐伯 則和 | 専務取締役製造本部長兼犬山工場長 | 1979年同社入社。犬山工場長、製造本部長等を歴任し、2023年10月より現職。 |
| 杉山 治 | 専務取締役管理本部長兼総務部長 | 1981年三菱銀行入行。2011年同社入社。総務部長、法務室長等を歴任し、2024年5月より現職。 |
| 田中 茂樹 | 常務取締役製造部長兼柏工場長 | 1989年同社入社。犬山工場生産管理課長、犬山工場長等を歴任し、2024年10月より現職。 |
| 堀川 朋樹 | 常務取締役営業部長 | 1991年同社入社。福岡営業所長、東京営業所長等を歴任し、2024年10月より現職。 |
| 武田 浩 | 常務取締役経理部長 | 1984年協和銀行入行。2015年同社入社。経理部長等を歴任し、2024年10月より現職。 |
| 齋藤 健太郎 | 取締役技術部長 | 2012年同社入社。技術部第二開発課長、技術部長等を歴任し、2024年10月より現職。 |
社外取締役は、三村勝也(三村勝也公認会計士税理士事務所所長)、野崎清二郎(元りそな銀行執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「鋼製物置」および「オフィス家具」の2つの報告セグメントを展開しています。
■(1) 鋼製物置事業
「イナバ物置」として知られる小型収納庫、中・大型物置、ガレージ、倉庫、自転車置場などの製造・販売を行っています。また、これらの製品を利用したレンタル収納事業も展開しており、高い耐久性と品質を強みに国内トップシェアを誇ります。
収益は、代理店や販売店を通じた製品販売による売上や、レンタル収納スペースの利用料などから得ています。製造は同社が担い、販売は同社のほか、連結子会社の共進、イナバクリエイトなどが担当しています。
■(2) オフィス家具事業
オフィスデスク、事務用椅子、壁面収納庫、可動式間仕切り(ローパーティション)などの製造・販売を行っています。ユーザーの使いやすさを追求した製品開発に加え、OEM製品の製造・販売も手がけています。
収益は、代理店や販売店を通じた製品販売およびOEM先への直接販売による売上から得ています。製造は同社が行い、販売は同社のほか、連結子会社のイナバインターナショナルなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は400億円前後で推移していましたが、直近期では微減となりました。経常利益は30億円前後で推移していましたが、直近期では原材料価格の高騰などの影響を受け、22億円へと減少しています。利益率も低下傾向にあり、コスト増加への対応が課題となっています。
| 項目 | 2021年7月期 | 2022年7月期 | 2023年7月期 | 2024年7月期 | 2025年7月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 378億円 | 392億円 | 418億円 | 424億円 | 419億円 |
| 経常利益 | 31億円 | 23億円 | 31億円 | 34億円 | 22億円 |
| 利益率(%) | 8.1% | 5.8% | 7.4% | 8.0% | 5.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 22億円 | 13億円 | 18億円 | 22億円 | 12億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比微減となりましたが、売上総利益および営業利益は大きく減少しました。これは仕入単価の上昇やエネルギーコスト、労務費の増加に加え、生産高低下に伴う原価率の上昇が影響しています。営業利益率は前期の7.2%から4.5%へと低下し、収益性が圧迫されている状況が見て取れます。
| 項目 | 2024年7月期 | 2025年7月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 424億円 | 419億円 |
| 売上総利益 | 112億円 | 100億円 |
| 売上総利益率(%) | 26.4% | 24.0% |
| 営業利益 | 31億円 | 19億円 |
| 営業利益率(%) | 7.2% | 4.5% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給与手当が27億円(構成比33%)、荷造運送費が18億円(同22%)を占めています。売上原価においては、材料費などが主要な構成要素となっています。
■(3) セグメント収益
鋼製物置事業は、物価上昇による個人消費の低迷を受け、売上高は横ばい、利益は大幅な減益となりました。オフィス家具事業は、オフィス環境の見直し需要があったものの、価格競争の激化により減収減益となりました。全社費用等の調整額が大きく、連結利益を押し下げる要因となっています。
| 区分 | 売上(2024年7月期) | 売上(2025年7月期) | 利益(2024年7月期) | 利益(2025年7月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 鋼製物置 | 292億円 | 292億円 | 38億円 | 25億円 | 8.4% |
| オフィス家具 | 132億円 | 127億円 | 4億円 | 3億円 | 2.5% |
| 調整額 | -0億円 | - | -11億円 | -9億円 | - |
| 連結(合計) | 424億円 | 419億円 | 31億円 | 19億円 | 4.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
稲葉製作所は、手元資金の維持・管理を重視しています。
同社の営業活動によるキャッシュ・フローは、事業活動から生み出される資金が安定的に確保されていることを示しています。投資活動によるキャッシュ・フローは、将来の成長に向けた設備投資や資産運用への支出が継続的に行われている状況を表しています。財務活動によるキャッシュ・フローは、株主への配当や自己株式の取得といった資金調達・返済活動の結果を示しています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「独自性のある高品質な製品をお客さまにお届けする」という事業精神のもと、技術部門は「独自性」、製造部門は「品質とコスト」、営業部門は「信頼」を追求し、「信頼に応えるモノづくりを通じて社会に貢献する」ことを経営理念としています。
■(2) 経営文化
「イナバらしさ」を追求する企業文化があります。営業部門が「信頼」をつくり、技術部門が「独自性(オリジナリティ)」をつくり、製造部門が「品質」をつくるという3本の柱で顧客ニーズに応える体制を築いています。また、「できることは自社で」「ないものは開発を試みる」というモノづくりのスピリットを重視し、内製比率を高めることに注力しています。
■(3) 経営計画・目標
中長期的な経営指標として売上高経常利益率を重視するとともに、設備投資を継続的に行うことから減価償却前営業利益も重要な指標としています。翌連結会計年度の経営目標として以下の数値を掲げています。
* 売上高:429億円
* 営業利益:25億円
* 経常利益:28億円
* 売上高経常利益率:6.5%
* 減価償却前営業利益:42億円
■(4) 成長戦略と重点施策
持続的成長のために設備投資と生産革新を推進しています。具体的には、オフィス家具の生産を主要市場に近い柏工場へ移管することや、富岡工場の生産設備増強を進めています。また、鋼製物置事業では高シェア・高収益の維持、オフィス家具事業では徹底したコスト管理と品質向上による収益性改善に取り組む方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人材」を企業価値の源泉と位置づけ、自主性、創造力、チャレンジ精神のある人材の育成を目指しています。専門スキルの習得支援として資格取得報奨制度などを導入し、多様性を尊重しつつ、安全で健康的な職場環境の整備やワークライフバランスの実現に向けた支援を行っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均(598万円)をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年7月期 | 41.8歳 | 19.7年 | 6,353,748円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 0.0% |
| 男性育児休業取得率 | 47.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 84.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 86.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 61.0% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、社員採用に占める女性比率(13.5%)、フルタイム社員一人当たりの時間外労働時間削減(+31.5%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 原材料や部品の供給による影響
鋼材、塗料、部品などの原材料を外部から調達しており、市況の変化による価格高騰や品不足、供給元の事故等により調達に支障が生じる可能性があります。これにより製造原価の上昇や生産停止を招いた場合、同社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 環境問題に関するリスク
環境規制の改正・強化への対応が求められる中、その対応が不十分な場合は製品の売上減少やレピュテーション低下を招く恐れがあります。また、気候変動に伴う規制強化への対応遅れによる販売機会の喪失や、異常気象による工場の操業停止、サプライチェーン分断のリスクもあります。
■(3) 情報セキュリティリスク
サイバー攻撃やシステム障害により、業務の中断や機密情報の漏洩が発生した場合、事業活動への支障や社会的信用の失墜を招き、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。基幹システムの更新やセキュリティ対策を講じていますが、完全にリスクを排除できる保証はありません。



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