揚羽 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

揚羽 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証グロースおよび名証ネクスト市場に上場し、企業の採用や組織課題を解決するブランディング支援事業を展開しています。第25期は既存案件の納期対応に注力した一方、新規獲得が伸び悩み、売上高は15億円で前期比微減となりました。利益面では人材投資等の費用増により営業損失となり、赤字に転落しています。


※本記事は、株式会社揚羽 の有価証券報告書(第25期、自 2024年10月1日 至 2025年9月30日、2025年12月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 揚羽ってどんな会社?


大手企業を中心に、採用やコーポレートブランディングの戦略策定から制作までを一気通貫で支援する企業です。

(1) 会社概要


2001年に映像制作プロダクションとして創業し、ブランディング事業を開始しました。その後、リクルーティング支援やコーポレート支援へと領域を拡大し、2023年に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。2025年には名古屋証券取引所ネクスト市場へも上場を果たしています。

同社(単体)の従業員数は141名です。筆頭株主は創業者で代表取締役社長の湊剛宏氏で、第2位は同氏の資産管理会社であるポルトです。経営権の多くを創業者が保有するオーナー企業としての側面を持ちつつ、SBI証券などの金融機関も株主に名を連ねています。

氏名 持株比率
湊 剛宏 35.58%
ポルト 20.93%
SBI証券 2.22%

(2) 経営陣


同社の役員は男性5名、女性1名の計6名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長は湊剛宏氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
湊 剛宏 代表取締役社長 1992年リクルート(現リクルートホールディングス)入社。1999年オフィスボウ入社を経て、2001年に同社を設立し代表取締役社長に就任。以来、現職として経営を牽引。
忽滑谷 勉 取締役制作部、ブランドコンサルティング部、管理部管掌 1991年リクルート(現リクルートホールディングス)、1994年クイックを経て2011年に同社入社。制作部長などを歴任し、2017年より現職。


社外取締役は、水谷健彦(JAM代表取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「ブランディング事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) コーポレート支援領域


企業のブランド力を高めるための支援活動を行います。具体的には、ステークホルダーからの支持獲得を目指すコーポレートブランディング、理念浸透を図るインナーブランディング、SDGs等のサステナビリティブランディングを提供します。調査・分析から戦略策定、映像やWebサイト等のクリエイティブ制作までを一貫して行います。

収益は、顧客企業からのコンサルティングフィーや制作物の納品対価として受領します。主な顧客は従業員数100名以上の大手企業群です。運営は主に同社が行っています。

(2) リクルーティング支援領域


採用活動におけるブランディングを支援します。独自の調査ツール「ビズミル サーベイ」を用いて採用コンセプトを策定し、採用ターゲットに向けた映像、Webサイト、パンフレット等のツールを制作します。企業の魅力を的確に伝え、優秀な人材の採用につなげるためのコミュニケーション戦略を提案します。

収益は、顧客企業の採用部門から、調査・分析費用、クリエイティブ制作費、プロモーション費用などの名目で受領します。こちらも運営は主に同社が担っており、コーポレート支援領域と連携したクロスセルも推進しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は15億円前後で推移していましたが、直近では微減傾向にあります。利益面では、第23期までは高い利益率を維持していましたが、第24期に利益率が低下し、第25期には経常損失および当期純損失を計上して赤字に転落しました。

項目 2021年9月期 2022年9月期 2023年9月期 2024年9月期 2025年9月期
売上高 11.7億円 14.0億円 17.4億円 15.6億円 15.5億円
経常利益 0.5億円 1.1億円 1.1億円 0.4億円 -0.8億円
利益率(%) 4.3% 7.9% 6.5% 2.7% -4.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 0.3億円 0.8億円 0.7億円 0.3億円 -0.6億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で微減となり、売上総利益も減少しました。一方で販売費及び一般管理費が増加したため、営業損益は赤字となりました。売上原価率は一定の水準を維持していますが、販管費の負担が重くなり、収益性が低下している状況です。

項目 2024年9月期 2025年9月期
売上高 15.6億円 15.5億円
売上総利益 8.2億円 8.1億円
売上総利益率(%) 52.3% 52.2%
営業利益 0.0億円 -0.7億円
営業利益率(%) 0.1% -4.8%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当が4.4億円(構成比50%)、支払手数料が1.1億円(同12%)を占めています。売上原価については、外注費が3.5億円(構成比47%)、労務費が3.4億円(同46%)となっており、内製と外注を組み合わせた制作体制がうかがえます。

(3) セグメント収益


両領域ともに売上高は前期比で微減となりました。コーポレート支援領域が売上の約3分の2を占める主力事業ですが、既存案件への対応集中や新規獲得の伸び悩みにより、わずかながら減収となっています。

区分 売上(2024年9月期) 売上(2025年9月期)
コーポレート支援領域 10.2億円 10.2億円
リクルーティング支援領域 5.3億円 5.3億円
連結(合計) 15.6億円 15.5億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は営業活動で現金を獲得しつつ、借入等により手元資金を厚くする「積極型」のキャッシュ・フロー状態です。ただし、投資キャッシュ・フローのマイナス幅は小さく、大規模な設備投資よりも人材採用等の費用支出が先行している状況です。

項目 2024年9月期 2025年9月期
営業CF -3.5億円 2.3億円
投資CF 0.8億円 -0.2億円
財務CF -2.3億円 0.8億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)はマイナス(赤字のため)で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は68.8%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「一社でも多くの企業のブランディングに伴走し、日本のビジネスシーンを熱く楽しくする!」というミッションを掲げています。企業独自の強みを見出し、戦略策定からクリエイティブ制作までを一気通貫で支援する「伴走者」として、顧客のブランディング課題を解決することを目指しています。

(2) 企業文化


同社は、独自のブランディング手法として「バタフライモデル」を提唱しています。これは、インナーブランディング(社内向け)とアウターブランディング(社外向け)に一貫性を持たせる考え方です。社員がブランドを体現し、それを社外へ発信することで評価を獲得し、さらに社員の誇りを醸成するという循環を重視しています。

(3) 経営計画・目標


同社は、KGI(重要目標達成指標)として売上高と営業利益を重視しています。売上高は業界内でのプレゼンス向上、営業利益は絶対額の増大と業務効率化による利益率向上を目指しています。2025年9月期は、重点顧客への営業強化と新規受注強化をKSF(重要成功要因)と位置づけ、受注額や新規受注社数などをKPIとして管理していましたが、一部目標未達となりました。

(4) 成長戦略と重点施策


「コーポレートブランディング支援の企業」としての地位確立、大手企業への集中、アライアンス強化の3点を戦略としています。特に、成長が見込まれるコーポレートコミュニケーション領域やプロダクト&サービス・マーケティング領域を強化し、即戦力人材による組織再編やクリエイティブの品質向上、内製化の推進により、収益力の向上を図る方針です。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


人材を最も重要な経営資源と位置づけ、優秀な社員の定着と育成に注力しています。新卒・中途採用を積極的に行うとともに、体系的な教育・研修の強化や業務の標準化・型化を進めています。また、AIやRPAの活用を含めたシステム導入により生産性を向上させ、クリエイティブ品質と収益性の両立を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年9月期 36.7歳 3.8年 5,628,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」等の規定による公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

また、同社は「従業員の状況」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、労働者に占める女性労働者の割合(正規雇用労働者)(41.6%)、労働者に占める女性労働者の割合(パート・有期労働者)(87.5%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 広告市場・景気変動の影響


同社は広告市場に属しており、企業の採用予算や広告宣伝予算に依存する収益構造となっています。景気の悪化や企業の広報・採用活動の方針変更により予算が縮小された場合、同社の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 業績の季節変動


顧客企業の予算消化の都合上、納期が第2四半期(1月~3月)に集中する傾向があります。そのため、業績が特定の四半期に偏重しやすく、顧客都合による検収遅延などが発生した場合、期間損益が変動するリスクがあります。

(3) 人材の確保・育成


サービスの内製化を進める同社にとって、人材は最重要の経営資源です。人材市場の競争激化により優秀な人材の確保が困難になった場合や、人材流出が進んだ場合、制作体制やサービス品質に支障をきたし、業績に影響を与える可能性があります。

(4) 技術革新への対応


AI技術を含むIT技術の進化は急速であり、これらへの対応が遅れた場合、業務効率や競争力が低下する恐れがあります。生成AIなどの新技術を適切に取り入れられなかった場合、競合他社に対する優位性を失う可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。