【20年3月期】コムシスHD、経営統合効果で増収増益 新型コロナの影響は限定的

【20年3月期】コムシスHD、経営統合効果で増収増益 新型コロナの影響は限定的

電気通信工事会社を傘下に擁するコムシスホールディングス。19年3月期に行った同業3社との経営統合効果もあり、2020年3月期は2桁増収増益となりました。次世代通信規格5Gの基地局工事を手掛け、業績向上が期待されています。財務諸表などを基に会社の現状と課題を整理します。


損益計算書(PL):売上利益ともに2桁成長

コムシスホールディングスの2020年3月期決算は、売上高が前期比16.4%増の5609億円、営業利益が同10.5%増の390億円と増収増益になりました。

売上総利益は前期比12.8%増の736億円と増えていますが、売上原価が同17.0%増の4873億円と大きく増え、粗利率が同0.4pt減の13.1%とわずかに悪化しています。

販売費及び一般管理費も前期比15.6%増の347億円と大きく増え、営業利益率は同0.4pt減の6.9%に下がっています。経営統合による管理コストが増えたほか、収益性の高い事業が売上に占める割合が減った影響によるものです。

このほか、2019年3月期に発生した国内同業3社子会社化に伴う負ののれん発生益52億円の特別利益計上の反動で、親会社株主に帰属する当期純利益は前期比7.2%減の260億円となっています。

2021年3月期の業績予想は減収減益です。売上高が5600億円(前期比0.2%減)、売上総利益が730億円(同0.8%減)、営業利益が380億円(同2.4%減)、経常利益が385億円(同3.9%減)、親会社株主に帰属する当期純利益が255億円(同1.9%減)となっています。

決算説明資料では、NTT固定系事業の減収を他事業の増収でカバーするとしています。なお、業績予想は新型コロナウイルスによる影響が限定的であると仮定したものであり、想定した状況が大きく変化し、業績予想の修正が必要となった場合には速やかに開示するとしています。

セグメント分析:売上の4割超が「NTTの電気通信設備工事」

コムシスグループは、日本の通信インフラ設備を構築する通信建設業界最大手の企業グループです。各事業やエリアの統括事業会社を中心とした8つのグループを報告セグメントとしています。

  • 日本コムシスグループ(売上高2811億円/営業利益205億円):主にNTTグループを中心とした電気通信設備工事事業
  • サンワコムシスエンジニアリンググループ(同579億円/同57億円):主にNCC(NTT以外のキャリア)を中心とした電気通信設備工事事業
  • TOSYSグループ(同289億円/同15億円):信越エリアにおける電気通信設備工事事業
  • つうけんグループ(同508億円/同35億円):主に北海道エリアにおける電気通信設備工事事業
  • NDSグループ(同835億円/同41億円):主に東海・北陸エリアにおける電気通信設備工事事業
  • SYSKENグループ(同318億円/同13億円):主に九州エリアにおける電気通信設備工事事業
  • 北陸電話工事グループ(同136億円/同3.5億円):主に北陸エリアにおける電気通信設備工事事業
  • コムシス情報システムグループ(同115億円/同13億円):情報処理関連事業

なお、NDSとSYSKEN、北陸電話工事は、営業エリアを広げることを目的に2018年10月1日付で子会社化し、2019年3月期第3四半期から連結対象としており、20年3月期の増収増益につながっています。

出典:2020年3月期決算説明会

事業は以下の4つに大別されます。

  • NTT設備事業:NTTグループ向けの電気通信設備工事。
    • 都市土木、管路、ユーザー宅の光ネットワーク敷設などのアクセス工事
    • 伝送系を取り扱うネットワーク工事
    • 主にNTTドコモ社の工事を担うモバイル工事
  • NCC設備事業:NTTグループを除く電気通信事業者向けの電気通信設備工事。設計、施工、調整、試験、保守を一貫して請け負う。主要顧客はKDDIグループ、ソフトバンクグループ。
  • ITソリューション事業:IT分野におけるトータルソリューションサービス。
    • ネットワークインテグレーション事業:LAN・WANの構築工事
    • システムインテグレーション事業:サーバ構築やシステムの組み込み
    • ソフト開発事業
  • 社会システム関連事業:都市インフラにおける電気及び土木等の工事。土木工事、上下水道工事、太陽光建設工事、高速道路や空港内の電気通信工事にも関わる

事業区分別の売上高構成比は、NTT設備事業が44.7%と最も大きく、NCC設備事業の7.8%と合わせると過半数を占めます。次いで社会システム関連事業等が30.0%、ITソリューション事業が17.5%です。

すべての事業で前期比で成長していますが、増加率はITソリューション事業が前期比30.8%増と最も大きく、次いで社会システム関連事業等が前期比23.2%増、NTT設備事業が前期比10.4%増、NCC設備事業が1.6%増となっています。

キャリア事業以外の売上高比率が増加傾向にあり、ITソリューション事業では公共系の大型案件が、社会システム関連事業では大型データセンターやガス設備工事の完成等が売上高の増加に寄与しました。NCC設備事業ではKDDIの案件が減っており、ソフトバンクと楽天でカバーしようとしているようです。

出典:2020年3月期決算説明会

 

キャッシュフロー計算書(CF):営業CFが大幅に増加

2020年3月期の営業CFは前期比318.3%増の375億円でした。前期は売上債権やその他資産の増加額が大きかったため90億円に留まっていましたが、この反動により大幅に改善しています。

これに伴い、売上を通じて現金を稼ぐ力を測る営業CFマージンは前期比4.8pt増の6.7%となっています。これは建設業の平均4.5%を上回っています。

投資CFはマイナス99億円で、マイナス額は前期比14.1%減少しています。有形固定資産取得による支出103億円が主な内容です。この結果、フリーCFは276億円となり、前期のマイナス26億円から大幅プラスに転じました。

財務CFはマイナス198億円で、マイナス額は前期比28.8%増加しました。主に、配当金の支払額が増加したためです。

貸借対照表(BS):有利子負債残高が減少、財務安全性に問題なし

2020年3月期の資産合計は前期比2.3%増の4500億円。流動資産は同4.1%増の2571億円、固定資産は前期と同水準の1930億円でした。流動資産の増加は、主に受取手形・完成工事未収入金、現金預金の増加によるものです。

流動負債は前期比1.7%増の1180億円で、主に支払手形・工事未払金、未成工事受入金の増加によるもの。固定負債は同4.6%減の213億円で、主に長期借入金の減少によるものです。有利子負債残高は同38.6%減の81億円に減らしています。

純資産合計は前期比3.1%増の3107億円に増えています。

短期の支払能力を測る流動比率は前期比5.1pt増の217.8%。流動比率は一般に120%以上であれば安全とされているため、問題ありません。

長期の支払能力を測る固定比率は前期比1.9pt減の62.6%。固定比率は低い方がよく、100%を切っていればすべての固定資産を自己資本でまかなっているということなので、財務状況は比較的健全で長期的な安定が見込めるといえます。

長期的視点での財務安全性を測る株主資本比率は前期比0.5pt増の68.5%。株主資本比率は業種によっても異なりますが、一般に50%以上で優良企業とされており問題ありません。

投資分析:ROE・ROAは業界平均をやや下回る

2020年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益は前期比7.2%減の260億円でした。

これに伴い、ROE(自己資本利益率)は前期比2.0pt減の8.6%、ROA(総資産利益率)は同1.5pt減の5.8%に悪化。建設業平均(ROE8.8%/ROA6.5%)をやや下回っています。

減益により、EPS(1株当たり利益)は前期比11.8%減の202.97円。純資産の増加によりBPS(1株当たり純資産)は同4.6%増の2424.83円となりました。

コムシスHDは、1株当たりの年間配当を前期比15円増の75円としており、配当性向は前期比10.9pt増の37.0%になりました。2021年3月期の年間配当も前期比5円増の80円と予想しており、実現すれば8期連続の増配となります。

まとめ:「脱・電気通信工事会社」に向けて新分野を強化

コムシスホールディングスの株価は年初より3000円台で推移していましたが、新型コロナウイルス感染拡大による世界的な株価下落を受け、3月23日には2131円まで大きく下値を下げました。

その後株価は上昇を続け、5月13日の決算発表後は3000円台に回復しています。連結営業利益が計画を超過したことや自社株買いが材料視されたと見られています。

コムシスグループは新型コロナウイルスの防止策に努めながら、通信・社会インフラ構築を担う企業として事業活動を継続し社会の要請に応えていく方針としており、2021年3月期は不透明な事業環境ではあるものの前期並みの業績を予想しています。

NTT東西からの受注は減少傾向にありますが、5Gサービス拡大に向けた整備や楽天モバイル基地局工事、ITソリューション事業や社会システム事業での大型手持工事等でカバーし、売上高は前期並みとする計画です。

中期経営計画では、最終年度の24年3月期に売上高6000億円以上、営業利益500億円以上を目指すとしています。キャリア事業については5G関連工事の増加が見込まれるものの、既存業務の減少が見込まれるため売上高維持を確保する方針です。

一方、ITソリューション事業と社会システム関連事業を「成長事業」と位置付け、売上高構成比率を50%以上とすることを目指しています。いわば「脱・電気通信工事会社」に向けて新分野を強化していくということでしょう。あわせて経営統合を行った各社の重複業務統合等の構造改革を行い、デジタルトランスフォーメーションを推進することで、コスト削減と生産性向上を行うとしています。

 

この記事の執筆者

金融機関で法人融資に従事した後、ベンチャー企業で財務経理を経験。わかりやすく読みやすい記事になることを心がけます。