南海辰村建設 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

南海辰村建設 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所スタンダード市場に上場する、南海電気鉄道グループのゼネコンです。主力の建設事業と不動産事業を展開しています。2025年3月期は、手持工事の進捗や一部工事の採算性改善に加え、売上高が前期比21.4%増となるなど、大幅な増収増益を達成しました。


※本記事は、南海辰村建設株式会社 の有価証券報告書(第82期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 南海辰村建設ってどんな会社?


南海電鉄グループの中核建設会社として、鉄道関連施設からマンション・商業施設まで幅広く手掛ける企業です。

(1) 会社概要


同社は1923年3月に創業し、1944年に土木建築岸和田工業として設立されました。1995年10月に南海建設と辰村組が合併し、現在の商号となりました。2001年には南海電気鉄道の子会社となり、グループの建設部門を担っています。2022年4月の東証市場区分見直しにより、スタンダード市場へ移行しました。

2025年3月31日現在の従業員数は連結502名、単体452名です。筆頭株主は親会社で鉄道事業等を営む南海電気鉄道、第2位は南海グループのレジャー施設等を運営する住之江興業、第3位は同社と資本関係にある建設会社の奥村組です。

氏名 持株比率
南海電気鉄道 57.71%
住之江興業 3.02%
奥村組 2.78%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.0%です。代表取締役取締役社長社長執行役員は浦地紅陽氏が務めています。取締役会における社外取締役の比率は45.5%です。

氏名 役職 主な経歴
高木俊之 代表取締役取締役会長 1983年南海電気鉄道入社。同社専務執行役員等を経て2023年4月同社顧問。同年6月より現職。
浦地紅陽 代表取締役取締役社長社長執行役員〔内部監査室〕担当 1986年南海電気鉄道入社。同社常務執行役員等を経て2021年6月より現職。
奥村透 取締役専務執行役員土木本部長 1985年南海電気鉄道入社。阪堺電気軌道常務取締役等を経て2017年6月同社取締役。2020年6月より専務執行役員。
﨑井威洋 取締役常務執行役員東京建築本部長東京支店長 1980年東海興業入社。2011年同社入社。上席執行役員等を経て2023年6月より現職。
楠岡英人 取締役常務執行役員経営戦略本部長 1993年南海電気鉄道入社。同社経営企画部長、上席執行役員等を経て2024年6月より現職。
畑安弘 取締役 1982年大木建設入社。同社執行役員、常務執行役員、大阪建築本部長を経て2018年6月より現職。


社外取締役は、堀家正則(元大阪工業大学教授)、山下幸雄(弁護士)、土居和良(元日本政策投資銀行参事役)、中川美雪(公認会計士)、阪田茂(元南海電気鉄道取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「建設事業」および「不動産事業」を展開しています。

(1) 建設事業


建築工事、土木工事、電気工事など建設工事全般を請け負っています。親会社である南海電気鉄道からの鉄道関連施設や商業施設等の受注に加え、官公庁や民間企業からも幅広く受注しています。

収益は、顧客からの工事請負代金によって構成されています。運営は、主に南海辰村建設が行い、連結子会社の南海建設興業が建設用仮設資材の調達や施工の一部を、日本ケーモー工事が施工の一部を担当しています。

(2) 不動産事業


不動産の売買および賃貸事業を行っています。保有する賃貸用マンションや事務所ビル等の運営管理も含まれます。

収益は、不動産の販売収入および賃貸料収入からなります。運営は主に南海辰村建設が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2021年3月期から2025年3月期までの5期間を見ると、売上高は一時的な減少があったものの、直近では500億円台に回復・拡大しています。利益面では、経常利益が安定して黒字を維持しており、2025年3月期には大幅な増益を達成しました。当期純利益も波はあるものの黒字基調で推移しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 448億円 372億円 424億円 436億円 529億円
経常利益 17億円 19億円 18億円 16億円 24億円
利益率(%) 3.8% 5.0% 4.3% 3.7% 4.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 7億円 13億円 18億円 11億円 16億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高の増加に伴い売上総利益も拡大しています。売上総利益率は若干低下したものの、営業利益は増益となり、営業利益率も改善傾向にあります。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 436億円 529億円
売上総利益 34億円 48億円
売上総利益率(%) 7.9% 9.0%
営業利益 17億円 24億円
営業利益率(%) 3.9% 4.5%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が10億円(構成比41%)、賞与引当金繰入額が1億円(同5%)を占めています。

(3) セグメント収益


建設事業は、前期繰越工事高の増加や手持工事の進捗により、大幅な増収増益となりました。一方、不動産事業は、前期にあった販売用不動産の売却の反動減等により、大幅な減収減益となっています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
建設事業 421億円 528億円 14億円 24億円 4.5%
不動産事業 16億円 2億円 3億円 0.4億円 20.0%
調整額 -0.1億円 -0.1億円 -0.3億円 -0.5億円 -
連結(合計) 436億円 529億円 17億円 24億円 4.5%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


本業の営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなり、投資も実施しつつ、借入金等の財務活動で資金を調達している「勝負型」の状態です。なお、営業CFのマイナスは主に売上債権及び契約資産の増加によるものです。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 15億円 -61億円
投資CF -5億円 -1億円
財務CF -26億円 39億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.4%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は40.3%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、建設事業を通じて自然環境と調和した豊かな社会づくりに貢献することを基本方針としています。創造と技術の向上に努め、時代の変化に即応して柔軟な発想と進取の行動で新たな事業に挑戦することで、社業の躍進を図ることを目指しています。

(2) 企業文化


同社は「創造と技術の向上」「柔軟な発想」「進取の行動」を重視する企業文化を持っています。また、普遍的な経営理念である社是を基本に、サステナブルな社会の実現を目指す「サステナブル経営」を掲げ、環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みを推進しています。

(3) 経営計画・目標


2025年度を初年度とする「3カ年経営計画(2025~2027)」を策定し、「『変革』と『成長』の3年間」をスローガンとしています。最終年度の2028年3月期には以下の数値目標を掲げています。

* 売上高:565億円
* 営業利益:26億円
* ROE:8.0%以上

(4) 成長戦略と重点施策


「事業規模の拡大と利益創出力の強化」「人財力と組織力の向上」等を基本方針とし、受注ポートフォリオの変革による安定利益の確保や、生産性向上のためのDX推進に取り組みます。また、人財の確保・育成強化のため採用活動や育成体制「NTアカデミー」の再構築を進めます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人財の確保」「人財の育成」「働きがいの追求」「組織風土改革」に注力しています。採用戦術の強化や待遇改善により550名体制の実現を目指すほか、企業内学校「NTアカデミー」の拡充や資格取得支援により育成を強化します。また、人事処遇制度の見直しや働きやすい職場環境の整備を通じて、従業員エンゲージメントの向上を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 45.0歳 18.4年 6,799,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 1.4%
男性育児休業取得率 57.1%
男女賃金差異(全労働者) 66.3%
男女賃金差異(正規雇用) 70.7%
男女賃金差異(非正規) 52.0%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、資格保有率(71.2%)、離職率(4.6%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 市場動向に関するリスク

建設市場が著しく縮小した場合や受注環境が悪化した場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。同社グループでは、工事原価管理体系の見直し等により、受注量の減少にも耐えうる経営基盤の構築を進めています。

(2) 建設資材価格及び労務単価の高騰等

建設資材や労務外注費の価格高騰、調達遅れなどが発生し、これらを請負金額に反映することが困難な場合、工事原価の上昇により利益率が低下し、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 人財の確保に関するリスク

労働人口の減少や建設業界の人手不足が進む中、採用の停滞や離職者の増加により必要な人財を確保できない場合、事業運営に支障をきたし、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(4) 法的規制への対応

建設業法、建築基準法、労働安全衛生法等の法的規制を受けており、これらの法令の改廃や適用基準の変更があった場合、対応コストの増加や業務の制約等により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。