朝日工業社 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

朝日工業社 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場。空気調和・衛生設備の設計施工を行う設備工事事業と、半導体製造装置向け等の精密環境制御機器を扱う機器製造販売事業を展開。直近決算では、機器製造販売事業が好調に推移し、売上高は微増ながら大幅な増益を達成しています。


※本記事は、株式会社朝日工業社 の有価証券報告書(第96期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 朝日工業社ってどんな会社?


空調衛生設備の設計・施工を核とし、精密環境制御機器の製造も手がけるエンジニアリング企業です。

(1) 会社概要


1925年に大阪で合資会社として設立され、紡績会社の温湿度調整工事などを開始しました。1979年に東京・大阪両証券取引所市場第1部へ指定替えとなり、2022年の市場区分見直しに伴い東証プライム市場へ移行しました。1983年には技術研究所を開設し、海外では台湾やマレーシアに現地法人を設立するなど、技術開発とグローバル展開を進めています。

同社グループの従業員数は連結で1,092名、単体で1,037名です。筆頭株主は信託銀行で、第2位は同社の共栄会(取引先持株会)、第3位は銀行となっています。安定した株主構成のもと、創業100周年を迎えた歴史ある企業として事業を継続しています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 9.36%
朝日工業社共栄会 4.65%
株式会社みずほ銀行 4.50%

(2) 経営陣


同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役社長は髙須康有氏が務めています。社外取締役比率は23.1%です。

氏名 役職 主な経歴
髙須 康有 代表取締役社長社長執行役員 1976年同社入社。1986年代表取締役社長に就任。2006年より現職。
亀田 道也 取締役副社長副社長執行役員総務本部長 1983年同社入社。執行役員総務本部財務部長、取締役専務執行役員総務本部長などを経て2021年より現職。
服部 充 取締役常務執行役員技術本部担当 1984年同社入社。技術本部施工管理部長、取締役常務執行役員技術本部長などを経て2025年4月より現職。
岡本 如司 取締役常務執行役員経営統括グループ担当 1982年同社入社。執行役員経営統括グループ統括兼経営企画室長などを経て2025年4月より現職。
中川 和浩 取締役常務執行役員営業本部長 1983年同社入社。名古屋支店営業統括部長、執行役員営業本部副本部長などを経て2024年6月より現職。
日髙 陽一 取締役上席執行役員本店長 1988年同社入社。本店工事統括部長、執行役員本店副本店長などを経て2024年6月より現職。


社外取締役は、田村昭二(元富士通マーケティング代表取締役副社長)、奥宮京子(田辺総合法律事務所パートナー弁護士)、藤山雄治(元皇宮警察本部長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「設備工事事業」および「機器製造販売事業」を展開しています。

(1) 設備工事事業


空気調和衛生設備の技術を核として、オフィスビル、工場、病院などの空調・給排水衛生設備の企画、設計、施工、監理を行っています。顧客は官公庁や民間企業であり、快適な環境空間の創造を通じて社会インフラの整備に貢献しています。

収益は、顧客である施主やゼネコン等から受け取る工事代金によって構成されています。運営は主に同社が行っており、子会社の北海道アサヒ冷熱工事株式会社も施工協力や独自受注工事を行っています。また、台湾やマレーシアの海外子会社に対しても技術援助を行っています。

(2) 機器製造販売事業


空気調和・温湿度調整の技術を応用し、半導体やFPD(フラットパネルディスプレイ)製造装置向けの精密環境制御機器をはじめとする環境機器の製造・販売を行っています。高度な温度・湿度管理が求められる先端産業分野の生産環境を支えています。

収益は、半導体・FPDデバイスメーカーや製造装置メーカー等の顧客への製品販売代金から得ています。運営は同社が担っており、設備工事事業で培った技術とノウハウを活かして、高付加価値な製品開発と製造販売を展開しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は700億円台から900億円台へと順調に拡大しています。特に直近では経常利益が大幅に伸長し、利益率も3%台から8%台へと向上しました。これは、設備工事事業の堅調な推移に加え、機器製造販売事業における高付加価値製品の需要増などが寄与していると考えられます。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 704億円 688億円 802億円 917億円 919億円
経常利益 25億円 26億円 31億円 49億円 76億円
利益率(%) 3.5% 3.8% 3.9% 5.3% 8.2%
当期利益(親会社所有者帰属) 18億円 18億円 25億円 36億円 61億円

(2) 損益計算書


直近2期間を比較すると、売上高はほぼ横ばいですが、売上総利益と営業利益が大きく増加しています。これは、工事採算の改善や、利益率の高い機器製造販売事業の売上拡大によるものと推測されます。売上総利益率は12.6%から16.3%へ、営業利益率は5.0%から7.9%へとそれぞれ改善しており、収益性が高まっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 917億円 919億円
売上総利益 116億円 150億円
売上総利益率(%) 12.6% 16.3%
営業利益 46億円 72億円
営業利益率(%) 5.0% 7.9%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が36億円(構成比44%)、その他が39億円(同48%)を占めています。売上原価においては、外注費が400億円(構成比52%)、材料費が161億円(同21%)を占めています。

(3) セグメント収益


設備工事事業は売上高が減少したものの、施工合理化などにより利益は大幅に増加しました。機器製造販売事業はFPD製造装置向け製品等の需要増により売上が大きく伸長し、損失幅が縮小しました。全体として、主力事業の収益性改善と成長事業の売上拡大が進んでいます。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
設備工事事業 882億円 861億円 51億円 76億円 8.8%
機器製造販売事業 34億円 58億円 -5億円 -4億円 -6.1%
連結(合計) 917億円 919億円 46億円 72億円 7.9%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

投資CFは、固定資産の取得による支出および投資有価証券の売却により、資金が増加しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 20億円 13億円
投資CF -3億円 6億円
財務CF -13億円 -15億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は15.4%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は52.0%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「地球環境と資源を大切にしながら、空気・水・熱の科学に基づく高度な技術によって最適空間を創造し、人類文化の発展に貢献する」ことを企業理念としています。エンジニアリングコンストラクターとして、時代の変化に対応する「環境創造企業」を目指し、社会的責任を果たしながら企業価値の向上に努めています。

(2) 企業文化


2025年4月の創立100周年を機に、新たな企業理念「ASAHI-PHILOSOPHY」を制定しました。パーパスとして「情熱と技術で、世界をもっと最適に」を中核に据え、顧客や社会への約束(Promise)、活動指針(Policy)、行動指針(Principle)を定めています。全役職員がこの価値観を共有し、事業活動を行っています。

(3) 経営計画・目標


第18次中期経営計画の最終年度に向けて、3つの戦略と2つの基盤強化に取り組んでいます。2026年3月期の目標数値として、以下の指標を掲げています。

* 連結受注高:1,000億円
* 連結売上高:1,000億円
* 連結営業利益:75億円
* 連結経常利益:77億円
* 親会社株主に帰属する当期純利益:64億円

(4) 成長戦略と重点施策


長期ビジョン「ASAHI-VISION 2050」の実現に向け、「収益力の強化と生産性の向上」「人的資本経営の実践」「研究開発の強化と新事業への挑戦」を戦略の柱としています。特に、茨城県つくば市に建設中の新技術研究所を活用し、研究開発を強化・推進することで、さらなる企業価値向上と持続的成長を目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


人材を最大の財産と位置づけ、多様な人材が能力を発揮できる環境整備を進めています。女性活躍推進や障がい者雇用の創出、定年再雇用者の処遇改善などダイバーシティを推進するとともに、専門能力を持つ多様な人材の確保のため中途採用も拡充しています。また、新たな企業理念のもと、働きがいのある職場の実現を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 45.3歳 18.4年 10,896,505円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
管理職に占める女性労働者の割合 1.0%
男性労働者の育児休業取得率 57.9%
労働者の男女の賃金の差異(全労働者) 64.5%
労働者の男女の賃金の差異(正規雇用) 72.7%
労働者の男女の賃金の差異(非正規) 81.7%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性社員の新卒採用比率(平均14.3%)、管理職に占める中途採用者の比率(12.9%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 市場環境の変動


建設業界は公共投資や民間設備投資の影響を受けやすく、景気動向による投資計画の縮小リスクがあります。また、受注競争による採算低下や資機材価格の高騰が業績に悪影響を及ぼす可能性があります。機器製造販売事業においても、半導体・FPD業界の需給バランス悪化や特定取引先への依存がリスク要因となります。

(2) 取引先の信用リスク


請負工事は契約金額が大きく、工事代金が引渡時に支払われることが多いため、取引先の信用不安が発生した場合、代金回収ができず経営成績に影響を与える可能性があります。同社グループでは与信管理を徹底し、定期的に信用状況を把握することでリスク低減に努めています。

(3) 不採算工事の発生


施工段階での想定外の追加原価発生などにより不採算工事となるリスクがあります。これは経営成績に直接的な影響を及ぼすため、同社グループでは採算性と施工体制を重視し、適正な原価管理と進捗管理を徹底することで発生防止に努めています。

(4) 情報セキュリティリスク


技術情報や個人情報の漏洩、不正アクセス等が発生した場合、社会的信用の失墜や損害賠償等により経営成績に影響を及ぼす可能性があります。情報セキュリティ統括責任者の選任、規程の整備、教育の実施、第三者によるリスクアセスメントなどを通じて、対策の強化を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。