朝日工業社 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

朝日工業社 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する朝日工業社は、空気調和衛生設備工事の設計・監督・施工を行う設備工事事業と、半導体やFPD製造装置向け精密環境制御機器の製造販売を行う機器製造販売事業を展開しています。業績トレンドは堅調で、旺盛な建設需要や設備投資の回復を背景に、直近の業績は増収増益を達成しています。


※本記事は、株式会社朝日工業社の有価証券報告書(第97期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 朝日工業社ってどんな会社?


朝日工業社は、空気調和衛生設備工事と精密環境制御機器の製造販売を柱に展開するエンジニアリング企業です。

(1) 会社概要


同社は1925年に紡績会社の温湿度調整等の施工を目的として設立されました。1971年に東京証券取引所市場第2部に上場、1979年に同第1部に指定替えとなりました。1984年以降は機器事業の工場を開設して環境機器の製造販売を本格化させ、2022年に東京証券取引所プライム市場へ移行しました。

従業員数は連結で1,148名、単体で1,080名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位はみずほ銀行、第3位は朝日工業社共栄会となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 9.40%
みずほ銀行 4.48%
朝日工業社共栄会 4.46%

(2) 経営陣


同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役社長は髙須康有氏が務めており、取締役における社外取締役の比率は約33.3%となっています。

氏名 役職 主な経歴
髙須康有 代表取締役社長社長執行役員 1976年4月同社入社。1982年12月取締役、1986年2月常務取締役を経て、1986年9月に代表取締役社長に就任。2006年6月より現職。
亀田道也 取締役副社長副社長執行役員総務本部長 1983年11月同社入社。総務本部財務部長、執行役員を経て、2020年6月取締役専務執行役員総務本部長に就任。2021年6月より現職。
中川和浩 取締役常務執行役員営業本部長 1983年4月同社入社。名古屋支店営業部長、同支店副支店長などを経て、2023年4月執行役員営業本部長に就任。2024年6月より現職。
日髙陽一 取締役常務執行役員本店長 1988年4月同社入社。本店工事統括部長、技術本部技術担当などを経て、2024年4月執行役員本店長に就任。2025年6月より現職。
木村隆志 取締役上席執行役員技術本部長 1989年4月同社入社。技術本部施工管理部長、同本部副本部長などを経て、2025年4月執行役員技術本部長に就任。同年6月より現職。
伊藤義徳 取締役執行役員経営統括グループ統括兼社長室長兼経営企画室長 1988年4月同社入社。九州支店技術部長、同支店業務部長などを経て、2023年4月経営統括グループ社長室長に就任。2025年6月より現職。


社外取締役は、田村昭二(元富士通マーケティング代表取締役副社長)、奥宮京子(田辺総合法律事務所パートナー弁護士)、藤山雄治(元皇宮警察本部長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「設備工事事業」および「機器製造販売事業」を展開しています。

設備工事事業


空気調和衛生設備の技術を核として、一般空調から産業空調に至るまで、各種建築や環境設備に対応した設計・監督・施工を提供しています。公共施設や商業施設、工場など幅広い領域の顧客を対象としています。

発注者である官公庁や民間企業から、請負工事契約に基づく工事代金を収益として受け取ります。運営は主に同社が行い、子会社の北海道アサヒ冷熱工事が同社への施工協力および独自工事の施工を担うほか、台湾やマレーシアの現地法人も事業を展開しています。

機器製造販売事業


空気調和・温湿度調整の技術を活かし、半導体やFPD(フラットパネルディスプレイ)製造装置向けの精密環境制御機器を主とした環境機器の開発および製造販売を提供しています。主な顧客は半導体やディスプレイの製造装置メーカーです。

顧客に対する製品の販売を通じて、機器の販売代金を収益として受け取るモデルです。製品の長寿命化や高効率化の需要に対応し、機器の製造から販売・保守までを同社が主体となって運営しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5年間の業績推移を見ると、売上高は安定して成長を続けており、特に直近の決算期では過去最高の水準に達しています。利益面でも着実な改善が見られ、経常利益率も右肩上がりで推移しており、高収益体質への転換が顕著に表れています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 688億円 802億円 917億円 919億円 1048億円
経常利益 26億円 31億円 49億円 76億円 120億円
利益率(%) 3.8% 3.9% 5.3% 8.2% 11.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 18億円 25億円 36億円 61億円 92億円

(2) 損益計算書


売上高の成長に伴い、売上総利益や営業利益も大幅に増加しています。工事採算の改善効果などにより、売上総利益率および営業利益率ともに前年を大きく上回る結果となり、事業の収益性が一段と高まっていることがうかがえます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 919億円 1048億円
売上総利益 150億円 208億円
売上総利益率(%) 16.3% 19.8%
営業利益 72億円 117億円
営業利益率(%) 7.9% 11.1%


販売費及び一般管理費(98億円)のうち、その他の費用が49億円(構成比50%)、従業員給料手当が42億円(同43%)を占めています。また、売上原価(834億円)の内訳としては、完成工事原価が784億円(同94%)と大部分を占めています。

(3) セグメント収益


主力の設備工事事業は、官公庁および民間工事ともに堅調な建設需要を背景に豊富な手持工事が順調に進捗し、増収となりました。一方、機器製造販売事業はFPD製造装置向け製品の需要増があったものの、一部製品の減少により微減収となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
設備工事事業 861億円 991億円
機器製造販売事業 58億円 57億円
連結(合計) 919億円 1048億円


当期のキャッシュ・フローは、営業活動によるキャッシュ・フローがプラス、投資活動によるキャッシュ・フローがマイナス、財務活動によるキャッシュ・フローがプラスとなっており、営業で生み出した利益と借入等の資金調達を組み合わせて、積極的な投資活動を行っている積極型の状態です。

企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は19.9%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も50.5%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


企業理念「ASAHI-PHILOSOPHY」を制定し、「Purpose(パーパス:企業の存在意義)」として『情熱と技術で、世界をもっと最適に』を掲げています。創業以来、技術を研鑽し、誠実にお客様と社会の期待に応えることを重視し、期待や使命に対する熱い想いと課題を解決する技術力で、最適空間の創造を通じた人類文化の発展への貢献を目指しています。

(2) 企業文化


「Promise(お客様・社会への約束)」「Policy(会社の活動指針)」「Principle(社員の行動指針)」からなる企業理念を中核に据えています。人間尊重の経営や働きがいのある職場づくりを重視し、自己研鑽とチャレンジ精神あふれる行動を通じて、現状に満足せず活躍する領域を広げて挑戦し続ける文化を大切にしています。

(3) 経営計画・目標


長期ビジョン「ASAHI-VISION 2050」の実現に向け、2026年4月から3ヶ年を期間とする「第19次中期経営計画」をスタートさせました。飛躍への基盤を構築するため、最終年度である2027年3月期の目標数値を定めて経営を推進しています。

* 受注高:1,150億円
* 売上高:1,125億円
* 営業利益:122億円
* 経常利益:124億円
* 親会社株主に帰属する当期純利益:92億円

(4) 成長戦略と重点施策


第19次中期経営計画では、「“ワクワク”する事業であるためのアクション」として、技術・研究開発や新規事業開発への積極的投資、海外事業の展開を推進します。「社員が“ワクワク”して活躍できるためのアクション」として人材確保と育成に注力し、「“ワクワク”する会社であり続けるためのアクション」としてブランド力と企業としての信頼の確保を重点施策に掲げています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


建設業界において人こそが最大の財産であり競争力の源泉であるとの認識のもと、付加価値を生み出す人材の確保と育成を推進しています。社員の成長と充実したビジネスライフの実現を支援するため、ワークライフバランスの推進や中長期的な視点を持った教育体制の整備を行い、多様な人材が能力を十分に発揮できる職場環境の構築を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 44.6歳 17.8年 12,159,126円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 1.5%
男性育児休業取得率 50.0%
男女賃金差異(全労働者) 66.5%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 72.8%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 67.0%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、過去5年間の新卒採用における女性比率平均(16.5%)、外国籍社員の国内登用の割合(0.5%)、中途採用者の管理的地位にある労働者に占める比率(13.7%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 建設需要や資機材価格による市場環境リスク


建設業界は公共投資や民間の設備投資の動向に大きく影響を受ける傾向があり、国内外の景気変動によって設備投資計画が縮小する可能性があります。また、資機材の価格高騰や物流コストの上昇、人手不足に伴う労務費の増大が施工原価を押し上げるリスクがあります。これに対し、早期の発注確定による協力会社の確保や調達先の多角化、発注者との協議・交渉を通じて収益性の確保に努めています。

(2) 半導体・FPD向け市場の変動リスク


機器製造販売事業の主要製品である精密環境制御機器は、半導体やFPD製造装置分野での急速な技術革新に伴い成長する反面、需給バランスの悪化等により市況が低迷する周期的な好不況の波が存在します。予想を上回る下降局面に入った場合や、特定の主要取引先の業績や外注政策に変動があった場合には、同社の経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 専門人材の確保・育成に関するリスク


同社グループの持続的な成長には、高い専門性を持つ技術者や施工管理者の確保・育成が不可欠です。しかし、少子高齢化に伴う労働人口の減少により、必要な人材の確保が計画通りに進まない場合、施工体制の維持が困難となり、受注機会の損失を招くおそれがあります。このリスクを低減するため、人的資本経営を重視し、採用強化や教育体制整備を通じて魅力ある職場環境の構築を進めています。

(4) 不採算工事の発生とプロジェクト進捗リスク


設備工事の施工段階において、現場条件の急激な変化や設計変更が生じた場合、工程の遅延や原価の想定以上の増大を招く可能性があります。これらにより不採算工事が発生した場合には、経営成績に直接的な影響を及ぼすリスクがあります。同社グループでは、受注前のリスク審査を徹底するとともに、施工段階における進捗管理および原価管理の体制を強化し、早期の課題発見に努めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。