※本記事は、日東紡績株式会社の有価証券報告書(第165期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日東紡績ってどんな会社?
グラスファイバーのパイオニアとして、電子材料から医療分野まで幅広い高付加価値素材を提供しています。
■(1) 会社概要
同社は1898年に郡山絹糸紡績として設立され、1923年に日東紡績として創立しました。1938年には日本で初めてグラスファイバーの工業化に成功しています。1949年に株式を上場して以降、積極的な事業展開を進め、2009年にはメディカル事業を分割するなど、時代の変化に応じた組織再編を推進しています。
現在、同社グループは連結で2,793名、単体で867名の従業員を擁しています。株主構成を見ると、筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)、第2位は日本生命保険相互会社となっており、上位には金融機関が名を連ねており、安定した資本基盤を構築しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 9.11% |
| 日本生命保険相互会社 | 4.41% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.83% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性20名、女性2名の計22名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表執行役社長は林寿信氏が務めています。取締役7名のうち4名が社外取締役であり、過半数を占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 林寿信 | 代表執行役社長 | 2013年入社。コンプライアンス統括部長、経営企画部長等を経て、台湾法人の董事長を歴任。2026年より現職。 |
| 岡久靖 | 代表執行役常務 | 2023年入社。経営企画部や法務部等を担当後、調達統括部等を担当し、2026年より現職。 |
| 辻裕一 | 取締役 | 2013年入社。企画本部経理財務部長等を経て、代表執行役社長や会長を歴任。2026年より現職。 |
| 多田弘行 | 取締役 | 1985年入社。調達統括部長、大阪支店長、繊維事業部門長等を経て代表執行役社長を歴任。2026年より現職。 |
| 松永隆延 | 取締役 | 1990年入社。技術統括部長や子会社代表取締役社長等を経て、2024年より現職。 |
社外取締役は、藤重貞慶(元ライオン代表取締役会長)、内藤亜雅沙(田辺総合法律事務所パートナー弁護士)、中島康晴(元EY新日本有限責任監査法人パートナー)、三井田健(元明電舎代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「電子材料事業」「メディカル事業」「複合材事業」「資材・ケミカル事業」「断熱材事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 電子材料事業
同事業は、情報通信インフラの高度化に対応する電子材料用途のグラスファイバー製品(ヤーンおよびガラスクロス)の開発・製造・販売を行っています。特に低誘電特性や低熱膨張特性を持つスペシャルガラスに強みを持ち、AIサーバーや半導体パッケージ基板向けに製品を提供しています。
収益は、顧客へのグラスファイバー製品の販売代金から得ています。事業の運営は、同社および子会社の日東グラスファイバー工業、台湾のBaotek Industrial Materials Ltd.などが担い、グローバルな開発・生産体制を構築しています。
■(2) メディカル事業
体外診断用医薬品等の開発、製造および販売を展開しています。高齢化や医療の高度化を背景に、特に免疫系の診断薬に強みを持ち、炎症マーカーや骨粗鬆症マーカーなどで国内市場において大きなシェアを確保しています。
収益源は、医療機関や検査機関向けに提供する診断用試薬の販売代金です。同事業の運営は、主に子会社のニットーボーメディカルが行い、米国のNittobo America Inc.が原料となる抗血清の製造を担うことで、グループ内での一貫した品質管理と安定供給を実現しています。
■(3) 複合材事業
プラスチック強化材として使用されるグラスファイバー製品(ロービングやチョップドストランド等)を提供しています。同社独自の技術で開発された長円形断面の「フラット・ファイバー」により、成型品の反りやねじれを抑えるなどの付加価値を提供し、自動車や電子機器分野のニーズに応えています。
収益は、幅広い産業のメーカー等に対する製品の販売代金から得ています。事業の運営は同社が中心となり、子会社の富士ファイバーグラスが生産を担う形で連携して展開しています。
■(4) 資材・ケミカル事業
産業資材用途のグラスファイバー製品、機能性ポリマー等のケミカル製品、および芯地や機能資材などの繊維製品を開発・製造・販売しています。大型建造物用の膜材から自動車用制振材、トイレタリーや製紙向けなど、多岐にわたる分野に製品を展開しています。
収益は、各産業の顧客からの製品販売代金から得ています。運営は同社に加え、子会社の日東紡アドバンテックスや日東グラステックスなどが分担して行い、多様な顧客ニーズに対応しています。
■(5) 断熱材事業
住宅やビルなどの建築物に使用される、断熱・保温・吸音用途のグラスウール製品を開発・製造・販売しています。主原料にリサイクルガラスを使用し、省エネルギーと環境負荷低減に貢献する製品を提供しています。
収益源は、建築資材市場での製品販売代金です。当事業は、主に子会社であるパラマウント硝子工業がグラスウール製品の開発から製造、販売までを一貫して運営しています。
■(6) その他事業
上記の報告セグメントに含まれない事業として、産業機械設備等の設計、製作、販売、施工メンテナンスなどのエンジニアリング事業を展開しています。また、グラスファイバー製品等を取り扱う専門商社としての機能も有しています。
収益は、設備工事の請負代金や工業材料の販売代金などから構成されます。運営は、設備の施工等を請け負う日東紡テクノや、製品の販売を担う日東紡グローバルトレーディングなどの子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5期分の業績推移を見ると、売上高は841億円から1,182億円へと着実に成長を続けています。経常利益も一時的な変動はあるものの、直近では215億円に達し、利益率も18.2%へと大きく改善しています。高付加価値製品の販売拡大が収益性向上に寄与していることが伺えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 841億円 | 875億円 | 933億円 | 1,090億円 | 1,182億円 |
| 経常利益 | 81億円 | 61億円 | 98億円 | 176億円 | 215億円 |
| 利益率(%) | 9.6% | 6.9% | 10.5% | 16.1% | 18.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 40億円 | 72億円 | 49億円 | 99億円 | 373億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益状況を見ると、売上高が1,090億円から1,182億円に増加し、それに伴い営業利益も164億円から208億円へと拡大しています。売上総利益率および営業利益率も向上しており、本業の稼ぐ力が着実に強化されていることが確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,090億円 | 1,182億円 |
| 売上総利益 | 404億円 | 476億円 |
| 売上総利益率(%) | 37.0% | 40.2% |
| 営業利益 | 164億円 | 208億円 |
| 営業利益率(%) | 15.1% | 17.6% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当が53億円(構成比20%)、運賃及び荷造費が43億円(同16%)、研究開発費が34億円(同13%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の状況を見ると、主力である電子材料事業がAIサーバー向けの旺盛な需要を取り込み、売上と利益の双方で全体の成長を大きく牽引しています。一方、複合材事業や断熱材事業は生産設備の修繕等に伴うコスト増の影響もあり、厳しい事業環境が伺えます。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 電子材料事業 | 409億円 | 493億円 | 139億円 | 194億円 | 39.4% |
| メディカル事業 | 136億円 | 139億円 | 24億円 | 24億円 | 17.6% |
| 複合材事業 | 135億円 | 134億円 | -9億円 | -1億円 | -0.9% |
| 資材・ケミカル事業 | 94億円 | 95億円 | 8億円 | 6億円 | 6.2% |
| 断熱材事業 | 153億円 | 151億円 | 7億円 | 2億円 | 1.3% |
| その他事業 | 163億円 | 171億円 | 4億円 | 5億円 | 2.9% |
| 連結(合計) | 1,090億円 | 1,182億円 | 164億円 | 208億円 | 17.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 191億円 | 173億円 |
| 投資CF | -114億円 | 228億円 |
| 財務CF | -33億円 | -72億円 |
本業・投資・財務のキャッシュ・フローがすべてプラスとなっており、営業利益と資金調達を元手に、事業転換や新たな成長に向けた投資を積極的に行っている局面にあると推測されます。
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は27.5%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も61.3%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「健康・快適な生活文化を創造する企業集団として社会的存在価値を高め、豊かな社会の実現に貢献し続けること」を経営理念として掲げています。社会の要請に応え、新しい価値を創造し提供することで、すべてのステークホルダーと共に喜びを分かち合い、企業価値を高めることを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「日東紡宣言」という共通の価値観を定めています。お客様の求めるものを追求し「安心と信頼」を届けること、自立した社員の可能性を尊び、自由闊達にアイデアを出し合いながらチームワークを発揮することを重視しています。社員の成長が会社の成長であると信じ、果敢に行動する文化を育んでいます。
■(3) 経営計画・目標
長期ビジョン「Big VISION 2030」の実現に向け、「中期経営計画(2024-2027年度)」に取り組んでいます。AIサーバー向けの需要急拡大を受け、2027年度の目標を上方修正しました。
・売上高:1,550億円
・営業利益:360億円
・EBITDA:510億円
・ROE:8%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
今後の成長に向けて、スペシャルガラスやメディカル分野における成長投資の着実な刈り取りと積極的な設備投資を継続します。また、従来の3事業部門を5事業本部に改める新組織体制の下、新たな柱づくりを推進するとともに、開発・製造・販売を一体運営し、顧客視点での活動を強化していく方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、個人のアイデンティティに関わらず、すべての従業員が生き生きと活躍できる環境・組織風土の実現を目指しています。フレックス勤務や在宅勤務などの柔軟な働き方を推進するとともに、育児休職の有給化など両立支援制度の拡充にも力を入れ、従業員のQOLとエンゲージメントの向上を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.7歳 | 15.8年 | 7,487,679円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 8.6% |
| 男性育児休業取得率 | 86.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 82.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 85.3% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 62.1% |
※賃金差異について、人事制度における男女の処遇差はありません。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員エンゲージメントスコア(59.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 中期経営計画の未達リスク
事業環境の変化や不確定要素により、策定した中期経営計画の目標や期待される成果が実現できない可能性があります。同社は適切な情報収集と分析に基づき計画を策定していますが、急激な市場変動の影響を受けるリスクがあります。
■(2) エネルギー価格の変動リスク
製造工程でLNGガスや電気を多く使用するため、地政学的要因やエネルギー政策の変更によるエネルギー価格の急激な変動が業績に影響を及ぼす可能性があります。省エネルギー対策や安価なエネルギーへの転換によりリスクの軽減を図っています。
■(3) 為替レートの変動リスク
グローバルに生産・販売を行っているため、為替の急激な変動が輸出競争力の低下や輸入原材料価格の上昇を招き、財務状況に影響を与える可能性があります。為替予約等の手段を用いてリスクの軽減に努めています。
■(4) 原材料調達リスク
世界的なサプライチェーンの混乱や紛争等により、主要原材料の価格変動や調達困難が生じた場合、生産活動に支障をきたす可能性があります。リスク管理の観点から可能な限り複数の取引先から購入を行うなど、安定調達に向けた対策を講じています。



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