※本記事は、富士紡ホールディングス株式会社の有価証券報告書(第206期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 富士紡ホールディングスってどんな会社?
超精密加工用研磨材や化学工業品の中間体受託製造、インナーウエアの製造販売など多彩な事業を展開する企業です。
■(1) 会社概要
1896年に富士紡績として設立され、繊維事業を中心に発展しました。2005年には主要な事業グループを会社分割して持株会社制へ移行し、社名を富士紡ホールディングスへ変更しています。2013年には東洋紡より医薬・農薬中間体などの受託製造事業を承継し、事業基盤をさらに拡大しました。
従業員数は連結で1,324名、単体で100名です。大株主については、筆頭株主が資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託口となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.35% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 10.47% |
| MLI FOR SEGREGATED PB CLIENT(常任代理人 BOFA証券) | 4.92% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.0%です。代表取締役社長は井上雅偉氏が務めています。社外取締役比率は30.8%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 井上 雅偉 | 取締役社長(代表取締役) | 1987年入社。フジボウテキスタイルや柳井化学工業の代表取締役社長等を経て2020年取締役に就任。2022年より現職。 |
| 平野 治 | 取締役(代表取締役)秘書室長 | 1984年入社。総務部長、人事部担当部長等を経て2018年秘書室長。2022年取締役に就任し、2023年より現職。 |
| 佐々木 辰也 | 取締役(代表取締役) | 1988年三菱銀行入行。三菱UFJリサーチ&コンサルティング常務執行役員等を経て2022年入社。2025年より現職。 |
| 望月 吉見 | 取締役 | 1989年入社。フジボウ愛媛壬生川工場長等を経て、2019年同社代表取締役社長に就任。2021年より現職。 |
| 戸坂 浩二 | 取締役 | 1990年三菱銀行入行。三菱UFJ銀行の支店長を経て2019年入社。2021年柳井化学工業代表取締役社長、2025年より現職。 |
社外取締役は、ルース・マリー・ジャーマン氏(ジャーマン・インターナショナル代表取締役社長)、小林久志氏(元コスモ石油代表取締役社長)、佐藤梨江子氏(テプコシステムズ常任監査役)、壷田貴弘氏(元アネスト岩田代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「研磨材事業」「化学工業品事業」「生活衣料事業」および「その他」事業を展開しています。
■研磨材事業
半導体デバイス用途(CMP)、シリコンウエハー用途、ハードディスク用途、液晶ガラス用途など、様々なITデバイスの製造工程で用いられる超精密加工用研磨材の製造・販売を行っています。
同製品の販売によって収益を得ています。運営は主にフジボウ愛媛と台湾富士紡精密材料股份有限公司が担っており、フジケミも販売に関わっています。
■化学工業品事業
長年培った有機合成のノウハウを活かし、大手化学メーカー等からの医薬原料、農薬、電材、機能性化学品など有機合成品の中間体の受託製造を行っています。
多種多様な反応に対応できる国内有数の生産設備を用い、顧客からの受託製造によって収益を得ています。事業の運営は主に柳井化学工業が行っています。
■生活衣料事業
インナーウエアを中心とする繊維製品や、原糸、染色加工などの高機能繊維素材の製造、加工、販売を行っています。「B.V.D.」などのブランドを中心に展開しています。
衣料品や繊維素材の販売により収益を得ています。事業の運営はフジボウテキスタイルやフジボウアパレル、タイフジボウテキスタイルなどが担っています。
■その他
デジタルカメラや医療機器、自動車用部品の射出成形を行う化成品事業、プラスチック用射出成形金型の設計・制作を行う金型事業などで構成されています。
化成品や金型の販売などにより収益を得ています。運営はフジケミ、東京金型、IPMなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績は、一時的な市場環境の変動による落ち込みが見られたものの、回復傾向にあります。特に直近では先端半導体向け研磨材や電子材料向けの化学工業品が好調に推移し、売上高、経常利益ともに大きく伸長して高い利益水準を記録しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 359億円 | 377億円 | 361億円 | 429億円 | 459億円 |
| 経常利益 | 60億円 | 50億円 | 33億円 | 67億円 | 84億円 |
| 利益率(%) | 16.8% | 13.4% | 9.1% | 15.6% | 18.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 45億円 | 34億円 | 21億円 | 45億円 | 56億円 |
■(2) 損益計算書
収益性の改善が進んでおり、売上総利益率は前期から上昇して36.9%となりました。これに伴い営業利益率も17.7%に向上しており、高付加価値製品の販売増や生産効率の改善が利益水準の押し上げに寄与しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 429億円 | 459億円 |
| 売上総利益 | 149億円 | 169億円 |
| 売上総利益率(%) | 34.7% | 36.9% |
| 営業利益 | 65億円 | 81億円 |
| 営業利益率(%) | 15.1% | 17.7% |
販売費及び一般管理費のうち、技術研究費が17億円(構成比20%)、給料及び賃金が16億円(同19%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の研磨材事業は先端半導体向けやパネル需要が好調で増収を牽引しました。化学工業品事業も電子材料市場の拡大により増収となっています。一方で生活衣料事業は消費者の買い控え等により減収となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 研磨材事業 | 193億円 | 226億円 |
| 化学工業品事業 | 135億円 | 141億円 |
| 生活衣料事業 | 70億円 | 63億円 |
| その他 | 32億円 | 29億円 |
| 連結(合計) | 429億円 | 459億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動で得た資金を投資や借入金の返済に充てる「健全型」のキャッシュ・フローとなっています。本業での安定した現金創出力を背景に、成長投資と株主還元などの財務活動をバランス良く実行しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 87億円 | 101億円 |
| 投資CF | -65億円 | -61億円 |
| 財務CF | -24億円 | -26億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は11.3%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も72.0%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、一世紀を超える歴史の中で培った技術と経験を生かし、つねに時代が求める新しい技術・製品を提供することで先端産業を支え、人・社会・地球環境にとってより豊かで持続可能な未来の創造に貢献し続けることを企業理念としています。
■(2) 企業文化
多様性を受容し、個々の能力を最大限発揮できる環境づくりを掲げています。社員一人ひとりに公平な機会と公正な評価を与え、切磋琢磨して共に向上し合える環境を創造するとともに、「個を尊ぶ、和を育む」という企業風土を通じて、競争力とチームワークが育つ職場づくりを重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2026年度から2030年度を計画期間とする中期経営計画「進化26-30」を策定しています。2030年度の連結業績目標として、以下のような数値目標を掲げています。
* 売上高:650億円
* 営業利益:130億円
* 営業利益率:29.3%
* ROE:12%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
堅調な成長が期待できる半導体市場を背景に、飛躍的な成長ステージへの到達を目指しています。事業基盤の進化として、研磨材や化学工業品を中心とした事業体制への更なる転換を図り、機能基盤の強化にも注力します。計画期間の5年間で480億円の設備投資を実施し、新規事業開発や新たな分野への事業拡大に積極的に取り組みます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
グローバルニッチトップメーカーの実現に向けて、「課題解決型人財」「グローバル人財」「次世代リーダー」の育成を掲げています。多様性を受容し個々の能力を最大限発揮できる環境づくりを進め、フレックスタイム制度や在宅勤務、育児・介護の両立支援など、柔軟な働き方とワークライフバランスの向上を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.9歳 | 13.7年 | 7,320,030円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 17.4% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 75.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 77.0% |
| 男女賃金差異(非正規雇用労働者) | 56.0% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員一人当たり教育研修費用(44千円)、従業員エンゲージメント(70.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 重要な契約に伴うリスク
生活衣料事業における主力ブランド「B.V.D.」について、ライセンサーと商標の使用権や国内外における製造権・販売権の契約を締結しています。予期しない事態によって契約の非更新となった場合、同社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 知的財産に関するリスク
開発した新製品について特許等による保護を図っていますが、独自の技術やノウハウの全てを完全に保護することは難しく、第三者が類似商品を製造することを効果的に防止できない可能性があります。その場合、競争力の低下を招くおそれがあります。
■(3) 人財確保に関するリスク
少子高齢化による人財獲得競争が激化する中、事業運営に必要な人財確保が困難となり人財育成を推進できない場合、事業活動の遂行に支障が生じ、持続的な成長の阻害要因となる可能性があります。そのため多様な働き方に対応できる環境整備を進めています。



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