アツギ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アツギ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証スタンダード市場に上場し、ストッキングやタイツなどのレッグウェアおよびインナーウェアの製造販売を主力としています。当期の業績は、売上高219億円で前期比増収となりましたが、原材料価格の高騰や円安進行によるコスト増、事業構造改善費用の計上などにより、営業赤字が拡大し、最終赤字に転落しました。


※本記事は、アツギ株式会社 の有価証券報告書(第99期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. アツギってどんな会社?


ストッキング・タイツの国内大手メーカーです。中国に生産拠点を持ち、レッグウェアやインナーウェアを展開しています。

(1) 会社概要


1947年に厚木編織として設立され、日本で初めてシームレスストッキングの製造販売を開始しました。1962年に東京証券取引所市場第一部に上場し、現在はスタンダード市場に移行しています。主力ブランド「アスティーグ」などを展開するほか、2020年にはレナウンインクスを子会社化し、インナーウェア事業を強化しています。近年は中国生産拠点の再編やD2C事業の拡大を進めています。

連結従業員数は1,273名、単体では137名です。大株主構成を見ると、筆頭株主は香港上海銀行の常任代理人であるBNP PARIBAS SINGAPORE、第2位は原材料の調達先でもある事業会社の東レ、第3位は証券会社のDMM.com証券となっています。

氏名 持株比率
BNP PARIBAS SINGAPORE/2S/JASDEC/UOB KAYHIAN PRIVATE LIMITED 6.82%
東レ 6.40%
DMM.com証券 4.12%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性2名、計9名で構成され、女性役員比率は22.0%です。代表取締役社長社長執行役員は日光信二氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
日光 信二 代表取締役社長社長執行役員 1979年帝人商事入社。帝人フロンティア社長、帝人グループ常務執行役員などを歴任。2022年4月より同社顧問を経て、同年6月より現職。
古川 雅啓 取締役執行役員管理本部長経営企画部長 2001年同社入社。厚木靴下(煙台)総経理、管理本部経理部長、経営企画室長などを経て、2022年6月より取締役。2022年10月より現職。
中村 智 取締役執行役員レッグ事業本部長 1987年厚木ナイロン商事入社。営業本部長、生産本部副本部長、繊維事業本部事業統括などを歴任。2024年6月より現職。


社外取締役は、髙梨利雄(元旭化成社長)、小原正敏(弁護士)、井上真理(神戸大学大学院教授)です。

2. 事業内容


同社グループは、「繊維事業」、「不動産事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 繊維事業


パンティストッキング、タイツ、靴下などのレッグウェアおよびインナーウェアの製造・仕入・販売を行っています。また、物流業務の請負も行っています。主要顧客は量販店や衣料品専門店などであり、一般消費者向けの製品を提供しています。

収益は、製品の販売代金として顧客から受け取ります。運営は、製造・販売を同社、アツギ東北、レナウンインクス、中国の現地法人が行い、物流業務は神奈川スタッフ、アツギ佐世保が担っています。

(2) 不動産事業


同社グループが保有する不動産の有効活用を目的として、不動産の販売および賃貸を行っています。神奈川県海老名市の本社周辺などにおいて事業を展開しています。

収益は、不動産の賃貸料や販売代金として受け取ります。運営は主に同社が行っています。

(3) その他


介護用品の仕入・販売、グループホームの運営、および太陽光発電による売電事業を行っています。

収益は、介護用品の販売代金、介護サービス利用料、売電収入などから得ています。運営は、介護関連事業をアツギケアが、売電事業を同社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は200億円台前半で推移しており、当期は219億円と増加傾向にあります。一方で利益面では苦戦が続いており、経常損益は5期連続で赤字となっています。当期は営業損益、経常損益ともに赤字幅が拡大し、当期純損益も赤字に転落しました。利益率はマイナス圏での推移が続いています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 162億円 214億円 205億円 212億円 219億円
経常利益 -20億円 -18億円 -16億円 -0.5億円 -2.3億円
利益率(%) -12.3% -8.4% -7.7% -0.2% -1.1%
当期利益(親会社所有者帰属) -42.2億円 -16.5億円 -3.9億円 4.0億円 -3.8億円

(2) 損益計算書


売上高は微増しましたが、売上原価の増加により売上総利益率はほぼ横ばいから微増に留まりました。販売費及び一般管理費が増加したことで営業損失が拡大しています。当期は投資有価証券売却益を計上した一方、事業構造改善費用などの特別損失も大きく、最終損益は赤字となりました。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 212億円 219億円
売上総利益 68億円 69億円
売上総利益率(%) 32.3% 31.7%
営業利益 -4.3億円 -9.3億円
営業利益率(%) -2.0% -4.3%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当等が22億円(構成比28%)、支払運賃が13億円(同17%)を占めています。

(3) セグメント収益


繊維事業は売上高が増加したものの、原材料価格やエネルギーコストの上昇、円安の影響等により損失が拡大しました。不動産事業は保有資産の活用により増収増益となり、安定的な収益源となっています。その他事業は売上が減少しましたが、利益は増加しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
繊維事業 200億円 206億円 -8.2億円 -13.8億円 -6.7%
不動産事業 5.8億円 6.4億円 4.2億円 4.9億円 76.0%
その他 6.2億円 6.2億円 0.6億円 0.8億円 13.1%
調整額 - - -0.9億円 -1.2億円 -
連結(合計) 212億円 219億円 -4.3億円 -9.3億円 -4.3%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF -13.4億円 4.2億円
投資CF 4.6億円 7.2億円
財務CF -4.7億円 0.5億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-1.2%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は77.5%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社はパーパスとして「肌と心がよろこぶ、今と未来へ。」を、ビジョンとして「肌心地から、感動を生み出す フィールウェアのアツギへ。」を掲げています。従来のレッグウェア・インナーウェアの枠を超え、顧客視点に立った価値創出を目指しています。

(2) 企業文化


同社は「アツギウェイ(行動指針)」と「企業行動規範」を策定し、法令順守と倫理行動を徹底しています。また、企業風土改革による強い組織力の実現を課題の一つとして掲げ、チャレンジ精神と自律的な行動を引き出すための人事制度改革や、パーパスの浸透活動に取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


中期経営計画『ATSUGI VISION 2024』では黒字転換を目指していましたが、コスト上昇等の影響により目標未達となりました。新中期経営計画は策定中ですが、当面の目標とする財務指標として以下を掲げています。

* 2025年度 連結売上高:230億円
* 2025年度 連結営業利益:1億円
* 2025年度 親会社株主に帰属する当期純利益:1億円

(4) 成長戦略と重点施策


収益構造の再構築と、顧客視点に立脚した高付加価値商品の拡大を重点施策としています。具体的には、D2C(Direct to Consumer)事業の拡大、中国新工場の稼働による生産効率の改善、コスト構造改革を推進します。また、人的資本経営を推進し、企業体質の強化を図ることで、早期の業績回復を目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「人財力」の強化を掲げ、教育研修体系やキャリアパスの再定義を行っています。自律型人材の育成を目指し、業績志向を高める人事制度への刷新や、定年延長制度の導入などを進めています。また、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進や、柔軟な働き方の実現に向けた環境整備にも注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 44.0歳 13.1年 5,739,515円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 23.8%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 53.0%
男女賃金差異(正規) 72.6%
男女賃金差異(非正規) 65.5%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性の平均勤続年数(9.7年)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 為替変動と原材料価格のリスク


生産拠点を海外にシフトしており、取引や投資活動において為替変動の影響を受けます。また、主力商品の原材料であるナイロン糸などは原油価格の影響を受けるため、原油価格の乱高下や円安進行による調達コストの上昇が、業績に悪影響を与える可能性があります。

(2) 海外事業展開のリスク


生産拠点を主に中国へ移管しているため、中国における法規制の変更、人材確保の困難さ、カントリーリスクなどが存在します。これらが顕在化した場合、生産活動に支障が生じ、事業計画に影響を与える可能性があります。

(3) 市況変化と競争激化


中核である繊維事業は、ファッショントレンドの変化、天候不順による季節商品の需要変動、デフレによる低価格志向、海外からの安価な製品の流入などの影響を受けやすい特性があります。これらの市況変化により、売上減少や競争激化が生じるリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。