※本記事は、アツギ株式会社の有価証券報告書(第100期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. アツギってどんな会社?
レッグウェアやインナーウェアの製造販売を主力とし、不動産事業も展開する企業です。
■(1) 会社概要
1947年に設立され、靴下やメリヤス肌着等の製造販売を開始しました。1960年に東京店頭売買承認銘柄として株式公開し、その後東京証券取引所市場第一部へ上場しました。1968年にパンティストッキングの製造販売を開始し、現在に至るまで国内外で繊維製品の製造・販売網を拡大しています。
同社グループの従業員数は連結で1,207名、単体で141名です。筆頭株主は事業会社の東レで、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は事業会社のオンワードホールディングスです。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 東レ | 6.40% |
| SG/UCITS V/INV(常任代理人 香港上海銀行) | 4.60% |
| オンワードホールディングス | 3.82% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.0%です。代表取締役社長社長執行役員は日光信二氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 日光信二 | 代表取締役社長社長執行役員 | 帝人フロンティア代表取締役社長などを経て、2022年6月より現職。 |
| 古川雅啓 | 取締役執行役員管理本部長 | 同社入社後、厚木靴下(煙台)有限公司総経理や管理本部経理部長などを経て、2022年10月より現職。 |
| 中村智 | 取締役執行役員レッグ事業本部長 | 厚木ナイロン商事入社後、同社営業本部長や生産本部副本部長などを経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、髙梨利雄(元旭化成せんい代表取締役社長)、小原正敏(元大阪弁護士会会長)、井上真理(神戸大学大学院教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「繊維事業」「不動産事業」および「その他」事業を展開しています。
■繊維事業
同社グループの中核である繊維事業では、レッグウェアおよびインナーウェア等の繊維製品を製造、仕入、販売しています。顧客は衣料専門店や外部のECモールを利用する消費者であり、OEM(相手先ブランド製造)による販売も行っています。
収益は商品の販売代金として消費者や取引先企業から受け取っています。事業の運営は同社のほか、レナウンインクスなどの国内子会社、および中国の煙台阿姿誼靴下有限公司などの海外子会社が連携して行っています。
■不動産事業
不動産事業では、保有する資産の有効活用として、土地の賃貸等による不動産賃貸事業を展開しています。遊休地などの不動産を賃貸することで、安定的な収益基盤の構築を図っています。
収益は賃借人から受け取る賃料収入を主な源泉としています。この事業は主に同社が運営を行っており、資産の有効活用による収益力の強化を推進しています。
■その他
その他事業では、認知症高齢者向け介護施設であるグループホームの運営や、介護用品の仕入と販売、太陽光発電設備を利用した売電事業を展開しています。
収益は、グループホームの利用者からの利用料、介護用品の販売代金、および電力会社からの売電収入から得ています。運営は主にアツギケアと同社が担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の売上高は200億円台前半で推移していますが、原材料費や物流費の高騰、円安の影響により利益面では厳しい状況が続いています。一時的に黒字化した期もあるものの、直近では経常損失および当期純損失を計上しており、収益構造の改善が急務となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 214億円 | 205億円 | 212億円 | 219億円 | 215億円 |
| 経常利益 | -18億円 | -16億円 | -1億円 | -2億円 | -9億円 |
| 利益率(%) | -8.4% | -7.7% | -0.2% | -1.1% | -4.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -17億円 | -4億円 | 4億円 | 3億円 | -11億円 |
■(2) 損益計算書
直近の売上高は微減となっており、調達コストの上昇等により売上総利益も減少しています。営業損益は引き続き赤字であり、人件費やエネルギーコストの上昇が利益を圧迫している状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 219億円 | 215億円 |
| 売上総利益 | 69億円 | 67億円 |
| 売上総利益率(%) | 31.7% | 31.1% |
| 営業利益 | -9億円 | -10億円 |
| 営業利益率(%) | -4.3% | -4.7% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当等が23億円(構成比30%)、支払運賃が14億円(同18%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の繊維事業は、適正価格への見直しにより単価が上昇したものの、販売数量の減少により減収となりました。一方、不動産事業は保有資産の有効活用として開始した土地賃貸収入が寄与し、増収となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 繊維事業 | 206億円 | 202億円 |
| 不動産事業 | 6億円 | 7億円 |
| その他 | 6億円 | 6億円 |
| 連結(合計) | 219億円 | 215億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 4億円 | -4億円 |
| 投資CF | 7億円 | -12億円 |
| 財務CF | 1億円 | -7億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-3.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は80.2%で市場平均を上回っています。本業・投資・財務のキャッシュ・フローがいずれもマイナスとなっており、事業再建に向けた資金繰りの改善が急務となっています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「肌と心がよろこぶ、今と未来へ。」をパーパスに掲げています。また、「肌心地から、感動を生み出す フィールウェアのアツギへ。」をビジョンとし、従来のレッグウェアやインナーウェアというカテゴリーを超えて、すべての人に寄り添い、肌に心地よく心に響く衣服の提供を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、「アツギウェイ(行動指針)」と、それを実践するための「企業行動規範」を策定し、従業員の法令順守と倫理的な行動を徹底しています。クレドの刷新や社内表彰制度を通じてパーパスの浸透と従業員エンゲージメントの向上を図り、新しい価値を創出する企業風土の醸成を推進しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、中期経営計画において連結営業利益10億円の実現を目標に掲げていましたが、コスト上昇などの事業環境の変化を受けて計画を一旦取り下げました。現在は、抜本的な事業展開や財務面への影響を考慮し、新たな経営目標や中期経営計画の慎重な見直しと策定を進めています。
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、収益構造の再構築と企業体質の強化を最優先課題としています。顧客視点に立脚し、ヘルスケア分野やメディカル用途などの高付加価値商品の拡大を図るとともに、海外市場での事業展開を強化します。また、中国自社工場での設備自動化による生産効率の向上と、アセアンでの供給体制強化によりコスト低減を推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人財力」の強化を重要な経営課題と位置づけ、従業員の能力やスキルを最大限に引き出す環境整備を進めています。人事施策を経営戦略と連動させ、キャリアパスを明確にした自律型人材の育成や、女性活躍推進、多様な人材が活躍できるダイバーシティの実現に向けた取り組みを推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.8歳 | 13.8年 | 5,741,095円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 21.7% |
| 男性育児休業取得率 | 75.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 53.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 73.3% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 67.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇の取得率(70.8%)、採用者に占める女性労働者の割合(80.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 為替・原油価格の変動リスク
同社グループは生産拠点を海外にシフトしており、外国通貨建ての取引があるため、為替レートの変動が業績に影響を及ぼす可能性があります。また、主要原材料であるナイロン糸やエネルギー価格は原油価格の変動に依存しており、価格上昇が製造コストを押し上げるリスクがあります。
■(2) 海外事業の展開に伴うリスク
主に生産拠点を中国に移管しているため、中国政府による規制の変更、人材確保の困難さ、通貨の切り上げなどの地政学的・経済的リスクが存在します。これらのリスクが顕在化した場合、現地での事業活動に支障をきたし、生産体制や業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 市況や消費トレンドによる影響
同社の中核である繊維事業は、市況や消費者の購買意欲に大きく影響されます。ファッショントレンドの変化による需要の減少、天候不順による季節商品の販売不振、デフレ進行による低価格品の台頭などが生じた場合、売上が減少し、業績や将来の事業計画に影響を与える可能性があります。



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