モビルス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

モビルス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証グロース上場のモビルスは、コンタクトセンター向けのSaaSソリューションを主力とする企業です。チャットサポートシステム「MOBI AGENT」などを展開し、企業の顧客対応DXを支援しています。2025年8月期の連結売上高は19億円、営業利益は0.9億円で、連結初年度ながら黒字での着地となりました。


※本記事は、モビルス株式会社 の有価証券報告書(第14期、自 2024年9月1日 至 2025年8月31日、2025年11月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. モビルスってどんな会社?


SaaS型のチャットサポートシステムを軸に、コンタクトセンターのデジタル化と効率化を支援するテクノロジー企業です。

(1) 会社概要


2011年に設立された同社は、2016年に主力製品となるチャットサポートシステム「MOBI AGENT」のサービスを開始しました。その後、ボイスボット等のラインナップを拡充し、2021年に東証マザーズ(現グロース)へ上場しました。2024年にはテクマトリックスと資本業務提携を行い、2025年にはトランス・コスモスとの合弁で子会社vottiaを設立するなど、事業基盤の強化を進めています。

2025年8月31日時点で、従業員数は連結109名、単体107名です。筆頭株主は資本業務提携先のテクマトリックスで28.45%を保有しています。第2位は創業時に関与した阮明徳氏、第3位は投資ファンド、第4位にはOEM供給先でもあるトランス・コスモスが名を連ねており、事業パートナーとの結びつきが強い資本構成となっています。

氏名 持株比率
テクマトリックス 28.45%
阮 明徳 6.65%
グローバル・イノベーション・ファンドⅢ 6.06%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は石井智宏氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
石井 智宏 代表取締役社長 ソニーを経て、さわかみ投信執行役員、クオンタムリープのエグゼクティブパートナーを歴任。2014年より現職。子会社vottiaの代表も兼務。
加藤 建嗣 取締役CFO 大和証券SMBC(現大和証券)、帝エンタープライズジャパン(現ゼンフーズジャパン)取締役副社長を経て、2018年に入社。同年CFO就任。


社外取締役は、鈴木猛司(テクマトリックス取締役常務執行役員)、吉崎浩一郎(グロース・イニシアティブ代表取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「SaaSソリューション事業」の単一セグメントですが、提供サービスの内容により「SaaSサービス」と「プロフェッショナルサービス」に区分して事業を展開しています。

(1) SaaSサービス


コンタクトセンター向けに、チャットサポートシステム「MOBI AGENT」、チャットボット「MOBI BOT」、ボイスボット「MOBI VOICE」などのSaaSプロダクトを提供しています。また、オペレータ支援AI「MooA」や、子会社vottiaによるAIエージェントサービスも展開しており、企業の顧客対応の自動化・効率化を支援しています。

主な収益源は、これらのソフトウェア利用に対する月額利用料(サブスクリプション収入)および従量課金です。運営は主に親会社のモビルスが行っており、AIエージェント構築基盤の一部は子会社のvottiaが提供しています。

(2) プロフェッショナルサービス


SaaSプロダクトの導入効果を最大化するためのコンサルティングやシステム構築支援を行っています。具体的には、初期導入サポート、他システムとの連携開発、AI教師データの作成、KPI分析、生成AIのプロンプトチューニングなどを提供し、顧客企業の課題解決に伴走します。

収益は、コンサルティングフィーや開発委託料、トレーニング費用など、役務提供に対する対価として受け取ります。運営はモビルスが主体となり、コンタクトセンター運営のノウハウを持つ専門チームがサービスを提供しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2025年8月期より連結決算へ移行しました。SaaSサービスの案件大型化や生成AI関連製品の導入が進んだことで売上高は19億円となりました。利益面では、採算性向上に向けたコスト削減施策等が奏功し、営業利益率は4.9%の黒字を確保しています。

項目 2025年8月期
売上収益(または売上高) 19億円
経常利益 0.8億円
利益率(%) 4.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 0.9億円

(2) 損益計算書


売上高に対し、売上総利益率は60%台後半と高い水準を維持しています。SaaSビジネス特有の収益構造が見て取れます。販管費のコントロールも進んでおり、営業黒字を達成しています。

項目 2025年8月期
売上高 19億円
売上総利益 13億円
売上総利益率(%) 67.6%
営業利益 0.9億円
営業利益率(%) 4.9%


販売費及び一般管理費のうち、給料が4.5億円(構成比39%)、賞与引当金繰入が0.8億円(同7%)を占めています。

(3) セグメント収益


同社はSaaSソリューション事業の単一セグメントですが、サービス区分別の売上高は以下の通りです。SaaSサービス、プロフェッショナルサービス共に前期(単体実績との比較)から2割以上の増収となっており、特にストック収益であるSaaSサービスの成長が事業基盤の拡大に寄与しています。

区分 売上(2025年8月期)
SaaSサービス 14億円
プロフェッショナルサービス 5億円
連結(合計) 19億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはプラスの「積極型」です。本業で得た現金と調達した資金を、ソフトウェア開発などの将来成長に向けた投資に充てている状態です。

項目 2025年8月期
営業CF 2.7億円
投資CF -6.2億円
財務CF 0.3億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.6%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は61.6%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「CX-Branding Tech.」として「すべてのビジネスに、一歩先行くCXを。」というミッションを掲げています。電話中心の従来型サポートの課題を解決し、テクノロジーによって顧客対応の効率化と高度化を実現することで、現場で働く人々のストレス軽減と、より良いコミュニケーションプラットフォームの構築を目指しています。

(2) 企業文化


同社は、経営理念の実現に向けた行動指針として「Mobilus Value」を定めています。採用基準にもこのバリューを取り入れ、企業文化にマッチした人材の獲得を重視しています。また、変化の激しい業界において、常に新しい技術や発想を取り入れ、顧客の課題に寄り添いながら成功まで伴走する「カスタマーサクセス」の姿勢を大切にしています。

(3) 経営計画・目標


売上高の継続的な増加を実現するため、SaaSサービスから生み出されるサブスクリプション型のリカーリングレベニュー(経常収益)を重視しています。具体的には、以下の指標を重要な経営指標として設定し、中長期的な成長を目指しています。

* 契約ドメイン数
* 顧客当たりのリカーリングレベニュー
* 解約率

(4) 成長戦略と重点施策


安定収益の確保と持続的成長のため、既存事業での顧客単価向上と顧客数拡大を図ります。特に金融機関や大企業向けに、生成AIを活用した自動化ソリューションを提案し、大型案件の獲得を目指します。また、生成AI技術を用いたオペレータ支援機能「MooA」やAIエージェントの提供により、高まる自動化需要を取り込みます。

さらに、コンタクトセンターに蓄積された膨大な対話データをAIで分析し、顧客の声(VOC)を可視化するカスタマーエクスペリエンス領域への新規事業拡大も検討しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


SaaS製品を自社開発しているため、特に技術力のあるエンジニアの採用と育成を最重要課題としています。即戦力となる中途採用に加え、将来の幹部候補となる新卒採用を強化しています。入社後は、オンボーディング研修やメンター制度、定期的な1on1ミーティングを通じて定着と成長を支援するとともに、管理職研修やキャリアアップ支援制度により、組織全体の能力向上を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年8月期 39.3歳 2.9年 7,723,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員に占める女性の割合(29.0%)、従業員に占める外国籍者の割合(15.0%)、男性の育児休業取得率(100.0%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 情報管理体制について


同社サービスでは、顧客企業のメッセージデータや個人情報を取り扱っています。プライバシーマークやISMS認証の取得、セキュリティ機能の提供など対策を講じていますが、万が一情報漏洩が発生した場合、損害賠償請求や社会的信用の失墜により、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

(2) システムのトラブルについて


事業は通信ネットワークやサーバー等に依存しており、災害、外部からの不正アクセス、通信障害、人的ミス等によりシステムトラブルが発生するリスクがあります。サービスの長期停止等は、顧客からの信頼低下や解約に直結し、経営成績に悪影響を与える可能性があります。

(3) 人材の確保及び育成について


事業成長には優秀な人材、特にエンジニアの確保が不可欠です。しかし、少子高齢化やDX需要の高まりによる人材獲得競争の激化により、計画通りに採用・育成が進まない場合や、既存社員の流出が生じた場合、事業展開や技術競争力の維持に支障をきたす可能性があります。

(4) 技術革新による影響について


コンタクトセンター市場は技術革新が速く、顧客ニーズも変化し続けています。生成AIをはじめとする新技術への対応が遅れたり、競合他社が革新的なサービスを開発したりした場合、競争力が低下し、業績に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。