ELEMENTS 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

ELEMENTS 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証グロース上場。生体認証技術を活用した個人認証ソリューション「LIQUID eKYC」等を展開するIoP Cloud事業を行う。第12期は、売上高39億円と前期比53.0%の増収を達成したものの、先行投資や減損損失の計上等により、経常損失3億円、当期純損失7億円となり赤字幅が拡大した。


※本記事は、株式会社ELEMENTS の有価証券報告書(第12期、自 2024年12月1日 至 2025年11月30日、2026年2月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. ELEMENTSってどんな会社?


生体認証・画像解析技術を軸に、オンライン本人確認サービス「LIQUID eKYC」などを提供し、安全で便利なデジタル社会の基盤構築を目指すテック企業です。

(1) 会社概要


2013年12月に株式会社Liquidとして設立され、2019年7月に主力のオンライン本人確認サービス「LIQUID eKYC」の提供を開始しました。2020年の組織再編を経て現商号へ変更し、2022年12月に東証グロース市場へ上場しました。直近では2025年3月に株式会社ポラリファイを子会社化しています。

同グループは連結従業員数103名、単体93名の体制で事業を展開しています。筆頭株主は創業者の久田康弘氏で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は株式会社BOCとなっています。

氏名 持株比率
久田 康弘 24.34%
日本カストディ銀行(信託口) 7.49%
BOC 4.55%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性0名の計6名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役会長は久田康弘氏、代表取締役社長は長谷川敬起氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
久 田 康 弘 代表取締役会長 2008年大和証券SMBC入社。2014年7月同社代表取締役就任。2019年IDEAL代表取締役、2024年4月同社代表取締役会長就任。2025年ELEMENTS CLOUD四国代表取締役就任。
長 谷 川 敬 起 代表取締役社長 2002年PwCコンサルティング入社。ドリコム執行役員を経て2016年同社入社。2020年Liquid代表取締役。2024年4月同社代表取締役社長就任。
大 岩 良 行 取締役 2013年ファストビッド入社。2014年8月同社取締役就任。2020年Liquid取締役就任。


社外取締役は、沖田貴史(Fintech協会代表理事会長)、石川正俊(東京理科大学学長)、井上伸一(元キヤノン販売常務執行役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「IoP Cloud事業」の単一セグメントにおいて、「個人認証」「個人最適化」「個人情報管理」の3つのソリューションを展開しています。

(1) 個人認証ソリューション


生体情報を用いた認証サービスを提供しており、主力はオンライン本人確認サービス「LIQUID eKYC」や「ポラリファイ eKYC」です。金融機関の口座開設時などに、スマホで本人確認書類と顔写真を撮影して本人確認を行います。また、当人認証サービス「LIQUID Auth」も提供しています。

収益は、サービスを導入する事業者がユーザーに提供するデジタルサービスの利用件数に応じた従量課金等で対価を受け取ります。運営は主に株式会社Liquidおよび株式会社ポラリファイが行っています。

(2) 個人最適化ソリューション


個人のデータを取得・解析し、モノやサービスを個人に最適化するサービスを提供しています。衣食住に関連する事業者を対象としており、ECサイトでの販売増加やデジタル化が進む中で、画像認識技術などを活用したサービス展開を行っています。

収益は、サービス提供に対する対価を受け取ります。運営は同社グループが行っています。

(3) 個人情報管理ソリューション


個人認証や個人最適化で培ったノウハウを活用し、セキュアな個人情報管理を実現するソリューションです。「ELEMENTS CLOUD」の提供を開始しており、自社データセンター事業への進出も図っています。

収益は、サービスの提供対価を受け取ります。運営は同社グループ(株式会社ELEMENTS CLOUD四国等を含む)が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は一貫して拡大傾向にあり、特に直近では大幅な増収を達成しています。利益面では、先行投資が続いているため経常損失および当期純損失の計上が続いていますが、事業規模の拡大に伴い、今後の収益改善が期待されるフェーズにあります。

項目 2021年11月期 2022年11月期 2023年11月期 2024年11月期 2025年11月期
売上高 14億円 17億円 19億円 25億円 39億円
経常利益 -7.0億円 -6.0億円 -3.6億円 -0.3億円 -3.0億円
利益率(%) -51.0% -36.4% -18.3% -1.1% -7.7%
当期利益(親会社所有者帰属) -6億円 -6億円 -3億円 -1億円 -7億円

(2) 損益計算書


売上高は大幅に増加していますが、それに伴い売上原価および販売費及び一般管理費も増加しています。特に直近では、売上総利益率は向上しているものの、事業拡大に伴うコスト増や減損損失等の計上により、営業損失および当期純損失が計上されています。

項目 2024年11月期 2025年11月期
売上高 25億円 39億円
売上総利益 22億円 30億円
売上総利益率(%) 85.8% 77.5%
営業利益 0.6億円 -2.2億円
営業利益率(%) 2.3% -5.5%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が6.3億円(構成比19.4%)、外注費が6.2億円(同19.2%)、支払手数料が3.7億円(同11.6%)を占めています。

(3) セグメント収益


同社はIoP Cloud事業の単一セグメントであるため、セグメント別の詳細な情報は記載していませんが、主力である個人認証ソリューションの好調が継続し、連結全体の売上高は前期比53.0%増と大幅に伸長しました。

区分 売上(2024年11月期) 売上(2025年11月期)
IoP Cloud事業 25億円 39億円
連結(合計) 25億円 39億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

同社は、財務活動によるキャッシュ・フローの増加を主な要因として、期末の資金を大幅に増加させました。営業活動によるキャッシュ・フローは、損失計上や減損損失などが影響し減少しましたが、投資活動では、固定資産や無形固定資産の取得、子会社株式の取得などにより、資金が流出しました。一方、財務活動では、短期借入金や長期借入れ、株式発行などにより、資金が大きく流入しました。

項目 2024年11月期 2025年11月期
営業CF 2.2億円 -5.0億円
投資CF -8.4億円 -19.0億円
財務CF 6.2億円 29.3億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「BEYOND SCIENCE FICTION」をグループミッションに掲げています。ヒトがネットワークに直接繋がる世界観を「IoP(Internet of Persons)」と定義し、IoTセンサー、ビッグデータ、AIを組み合わせた「AIクラウド基盤(IoP Cloud)」により、社会課題の解決を目指しています。

(2) 企業文化


有価証券報告書には、特定の企業文化やバリューに関する詳細な記述は見当たりませんが、グループミッションに基づき、金融犯罪や個人情報漏洩といった社会課題の解決に取り組み、新しい世界観の実現に向けて挑戦を続ける姿勢がうかがえます。

(3) 経営計画・目標


同社グループは、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標として、連結売上総利益およびEBITDA(営業利益+減価償却費+株式報酬費用+のれん償却額)を重視しています。これらを事業の成長性、収益性、健全性を示す重要な指標と位置付けています。

(4) 成長戦略と重点施策


今後の成長戦略として、「個人認証ソリューションの拡充」「個人最適化ソリューションの成長」「個人情報管理ソリューションの立ち上げ」「アライアンス及びM&Aの活用」の4点を掲げています。特に主力サービスの市場拡大や利用シーンの多角化、海外展開、新規事業の立ち上げ、戦略的なM&A等を通じて、非連続的な成長を目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


グループミッションに共感した優秀な人材の確保を重要課題としています。「ダイバーシティ&インクルージョンの推進」による柔軟な働き方の整備、「チャレンジの促進」としてタレントマネジメントや個人のキャリアプランを尊重した配置、そして「成果に報いる報酬制度」として業績連動型ストック・オプション等を活用し、従業員の成長と意欲向上を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年11月期 38.7歳 3.9年 8,232,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 0.0%
男性育児休業取得率 42.9%
男女賃金差異(全労働者) 65.2%
男女賃金差異(正規雇用) -%
男女賃金差異(非正規雇用) -%


※男女賃金差異の正規・非正規の内訳については、有価証券報告書に具体的な数値の記載がありませんでした。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 競合について


画像解析・機械学習領域には多くの企業が参入しており、競争が激化する可能性があります。優れた競合の出現や技術革新により競争力が低下した場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。同社は差別化可能な分野への集中等により競争力の維持・強化を図る方針です。

(2) 技術革新について


AIクラウド基盤の根幹となる技術は進展が著しく、想定外の新技術普及等による環境変化への対応が遅れるリスクがあります。また、対応のための開発費増や、研究成果が事業化できない可能性もあります。同社は最新技術の開発と優秀な人材確保に取り組んでいます。

(3) 特定サービスへの依存


売上高の多くを「LIQUID eKYC」等の特定サービスに依存しています。競合によるシェア低下や、関連法規制(犯収法等)の変更によりサービス利用が制約された場合、業績に影響が出る可能性があります。同社は認証精度の向上や新規事業開発により依存度の低下を目指しています。

(4) 新規サービスの黒字化について


新規事業や機能開発には先行投資が必要ですが、商用化や成長が想定通り進まない場合、黒字化までに長期間を要する可能性があります。また、撤退等の事態が生じるリスクもあります。同社は事業リスクの分散を図りつつ、慎重に事業展開を進める方針です。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。