※本記事は、DIC株式会社の有価証券報告書(第128期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. DICってどんな会社?
同社グループは印刷インキや有機顔料などの分野で強みを持つ化学メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1908年に川村インキ製造所として創業し、1937年に大日本インキ製造として設立されました。1950年に東京証券取引所へ上場を果たしています。1986年の米国サンケミカルのグラフィックアーツ部門買収など海外展開を推進し、2008年に現在のDICへ商号変更しました。
同社グループの従業員数は連結で2万884名、単体で3880名です。大株主の構成は、筆頭株主が法人の昌栄で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は海外ファンドとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 昌栄 | 13.37% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.35% |
| OASIS JAPAN STRATEGIC FUND LTD. | 6.10% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性3名の計13名で構成され、女性役員比率は23.1%です。代表取締役社長執行役員グループCEOは池田尚志氏が務めています。社外取締役比率は30.8%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 池田尚志 | 代表取締役社長執行役員グループCEO | 1990年同社入社。ファンクショナルプロダクツ事業企画部長等を経て、2026年より現職。 |
| 古田修司 | 代表取締役副社長執行役員社長補佐 | 1987年同社入社。財務経理部門長、最高財務責任者等を経て、2025年より現職。 |
| 浅井健 | 取締役専務執行役員グループCFO財務経理部門長最高財務責任者 | 1988年同社入社。Sun Chemical Corporation Director等を経て、2026年より現職。 |
| 猪野薫 | 取締役 | 1981年同社入社。代表取締役社長執行役員等を経て、2026年より現職。 |
| 中藤正哉 | 取締役 | 1984年富士銀行入行。2013年同社入社。経営企画部長等を経て、2026年より現職。 |
社外取締役は、藤田正美(元富士通マーケティング代表取締役社長)、齊藤史郎(元東芝執行役専務)、Donna Costa(元Mitsubishi Chemical Holdings Americaプレジデント)、ランドバーグ史枝(Googleディレクター)です。
2. 事業内容
同社グループは、「パッケージング&グラフィック」、「カラー&ディスプレイ」、「ファンクショナルプロダクツ」および「その他」事業を展開しています。
■パッケージング&グラフィック
食品包装などに用いられるパッケージ用インキや、出版用インキ、ジェットインキ、ポリスチレンなどの製造・販売を行っています。生活に身近な包装材料や印刷分野の顧客に向けて多様な製品を提供しています。
収益は、国内外の顧客に対する製品の販売代金から得ています。事業の運営は同社のほか、子会社のDICグラフィックスや米国のSun Chemical Corp.などがグローバルに担っています。
■カラー&ディスプレイ
塗料やプラスチックに用いられる各種顔料や、ディスプレイ用のカラーフィルタ用顔料、化粧品用顔料、さらにヘルスケア食品などの製造・販売を行っています。
顧客への製品販売を通じて収益を得ており、同社をはじめ、海外子会社のColors & Effects USA LLCやEarthrise Nutritionals LLCなどが世界各地域で事業を展開しています。
■ファンクショナルプロダクツ
モビリティ関連やエレクトロニクス関連の顧客に向け、各種合成樹脂、PPSコンパウンド、エポキシ樹脂、工業用テープなどの機能性材料を製造・販売しています。
これら高付加価値製品の販売が主な収益源です。同社のほか、DIC EPやDICマテリアルといった国内子会社、および中国やアジア等の海外子会社が事業を運営しています。
■その他
報告セグメントに含まれないその他の事業活動を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は1兆円前後で推移していますが、経常利益や当期利益は原材料価格の変動や外部環境の影響を受けて増減を繰り返しています。当期は高付加価値製品の販売増や価格対応により増益を確保しました。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 8554億円 | 10542億円 | 10387億円 | 10711億円 | 10522億円 |
| 経常利益 | 438億円 | 399億円 | 9億円 | 379億円 | 443億円 |
| 利益率(%) | 5.1% | 3.8% | 0.9% | 3.5% | 4.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 298億円 | 103億円 | -33億円 | 362億円 | 197億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は微減となりましたが、売上総利益と営業利益はいずれも増加しています。これは高付加価値製品の堅調な出荷や継続的な価格対応、および構造改革によるコスト削減効果が寄与したためです。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 10711億円 | 10522億円 |
| 売上総利益 | 2222億円 | 2280億円 |
| 売上総利益率(%) | 20.7% | 21.7% |
| 営業利益 | 445億円 | 522億円 |
| 営業利益率(%) | 4.2% | 5.0% |
同社の販売費及び一般管理費のうち、従業員給料及び手当が72億円、研究開発費が59億円、運賃及び荷造費が57億円となっています。
■(3) セグメント収益
主力の「パッケージング&グラフィック」や「ファンクショナルプロダクツ」など各セグメントで減収となりました。需要の落ち込みなどの影響があったものの、価格転嫁や構造改革を進めています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) |
|---|---|---|
| パッケージング&グラフィック | 5601億円 | 5497億円 |
| カラー&ディスプレイ | 2181億円 | 2152億円 |
| ファンクショナルプロダクツ | 2923億円 | 2868億円 |
| その他 | 6億円 | 5億円 |
| 連結(合計) | 10711億円 | 10522億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」のキャッシュ・フロー状況となっています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 462億円 | 730億円 |
| 投資CF | -171億円 | -206億円 |
| 財務CF | -626億円 | -454億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.4%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は37.0%であり、いずれも市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは「The DIC Way」を経営の基本的な考え方としています。経営理念として「絶えざるイノベーションにより豊かな価値を創造し、顧客と社会の持続可能な発展に貢献する」ことを掲げ、経営ビジョンには「彩りと快適を提供し、人と地球の未来をより良いものに」という目指すべき姿を定めています。
■(2) 企業文化
行動指針として「進取、誠実、勤勉、協働、共生」というコアバリュー(価値観)を規定しています。100年を超える歴史とグローバルな事業展開によって培われてきた「進取の精神」と「多様性の結集」を独自の強みとし、グループ一丸となって持続的な企業価値の向上を目指す文化を重んじています。
■(3) 経営計画・目標
長期経営計画「DIC Vision 2030」のPhase2計画を策定し、持続的成長と稼ぐ力を備えた事業ポートフォリオの構築を目指しています。
* 売上高:1兆2400億円以上
* 営業利益:800億円以上
* ROIC:6.0%以上
* ROE:10.0%
* D/Eレシオ:0.8倍以下
■(4) 成長戦略と重点施策
インキ・パッケージ材料、顔料、ポリマなどの構造改革や製品ポートフォリオ転換を通じた中核事業の収益力強化を図っています。また、AI融合社会を支える半導体、バッテリー、フィジカルAI分野への素材およびソリューション提供や、CO2排出量削減、サーキュラーエコノミー対応などのサステナビリティ戦略を重点的に推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人的資本経営」を基本戦略として掲げ、多様な人材の能力を最大限に発揮できる環境整備を進めています。次世代リーダーの育成、異業種出身や高度専門人材の獲得、リスキリングの推進などに注力しています。また、社内公募やキャリア支援などを通じ、社員一人ひとりの自律的なキャリア形成を後押ししています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 44.3歳 | 18.3年 | 7,990,933円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 8.6% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 70.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 76.7% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 63.1% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、エンゲージメントスコア(3.26)、ストレスチェックにおける高ストレス者判定率(11.3%)、メンタル不調休業率(0.8%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 需要の急激な変化や低迷に伴うリスク
世界的な経済低迷や個人消費の落ち込みにより、需要が急減するリスクがあります。同社グループでは、地域ごとや需要業界ごとに事業環境の変化を定期的にモニタリングし、地域ポートフォリオの見直しを行うことでリスクの分散と低減に努めています。
■(2) 金利・為替の急激な変動に起因するリスク
金融市場の混乱による急激な円高の進行や金利の上昇が、業績や財務状況に影響を与える可能性があります。為替予約の活用や借入の長期化・分散化、運転資本の適正化などにより、金融収支の改善とリスク軽減を図っています。
■(3) 気候変動に伴う環境変化への対応に関するリスク
炭素税などの諸政策によるコスト増加や、循環型社会に向けた急激な需要変化に対応できない場合、収益が低下するリスクがあります。環境投資や省エネ施策によるCO2排出削減の推進、サーキュラーエコノミーを見据えた製品開発にグループ全体で取り組んでいます。
■(4) 買収戦略失敗のリスク
事業ポートフォリオ変革を目的とした企業買収や資本提携において、想定通りの効果やシナジーが得られないリスクがあります。事前のデューデリジェンスの徹底や、買収後の統合活動の推進により、投資リスクの低減と収支構造の改善に取り組んでいます。



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