artience 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

artience 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場するartienceは、色材やポリマー、パッケージ、印刷等の事業を展開する化学メーカーです。2025年12月期の業績は、売上高が3,500億円で前期比微減となったものの、成長事業の拡販や国内でのコストダウン等により、営業利益は208億円と増益を達成しました。


※本記事は、artience株式会社の有価証券報告書(第188期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. artienceってどんな会社?


色材・機能材からポリマー、パッケージ、印刷関連まで幅広く展開する化学メーカーです。

(1) 会社概要


1896年に個人経営「小林インキ店」として創業し、1907年に東洋インキ製造として組織変更しました。1961年に東京証券取引所市場第二部に上場し、1967年に同市場第一部へ指定されています。2011年に持株会社制へ移行し、2024年に現在のartienceへと商号を変更しました。

従業員数は連結で7,880名、単体で392名です。筆頭株主は事業会社のTOPPANホールディングスで、第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)、第3位は日本カストディ銀行(信託口)となっています。

氏名 持株比率
TOPPANホールディングス 22.03%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 12.58%
日本カストディ銀行(信託口) 6.34%

(2) 経営陣


同社の役員は男性8名、女性3名の計11名で構成され、女性役員比率は27.3%です。代表取締役社長グループCEOは髙島悟氏が務めています。社外取締役比率は63.6%です。

氏名 役職 主な経歴
髙島悟 代表取締役社長グループCEO 1984年同社入社。タイ現地法人社長等を経て、2013年に取締役就任。トーヨーケム代表取締役社長、同社専務等を経て、2020年より現職。2022年よりグループCEOを兼任。
濱田弘之 取締役副社長経営全般、コーポレート部門担当 1981年同社入社。経営管理部長、欧州現地法人会長等を経て、2013年執行役員就任。グループ経営部長、専務等を経て、2025年より現職。
佐藤哲章 取締役品質保証・生産・環境、サステナビリティ、購買、物流担当 1985年同社入社。生産・物流・調達本部企画室長等を経て、2017年に執行役員就任。常務執行役員を経て、2023年より現職。
加野雅之 取締役常勤監査等委員 1984年同社入社。グループ人事部長等を経て、2013年に執行役員就任。グループ総務部長、顧問等を経て、2024年より現職。


社外取締役は、安達知子(恩賜財団母子愛育会総合母子保健センター愛育病院名誉院長)、藤本欣伸(西村あさひ法律事務所パートナー)、立藤幸博(三菱製紙相談役)、小杉乃里子(ブリティッシュ・スクール・イン東京ファイナンスディレクター)、横井裕(千葉工業大学特別教授)、木村恵子(安西法律事務所入所)、松本実(税理士法人寺田会計代表社員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「色材・機能材関連事業」「ポリマー・塗加工関連事業」「パッケージ関連事業」「印刷・情報関連事業」および「その他」の事業を展開しています。

色材・機能材関連事業


有機顔料やプラスチック用着色剤、カラーフィルター用材料、リチウムイオン電池材料等の製造・販売を行っています。国内外の印刷インキ、自動車塗料、エレクトロニクス関連メーカーなどが主な顧客です。

製品の販売代金が主な収益源です。運営は同社のほか、トーヨーカラーや東洋ビジュアルソリューションズなどの国内子会社、および中国や台湾、欧米などの海外子会社が担当しています。

ポリマー・塗加工関連事業


缶用塗料、樹脂、接着剤、粘着剤、塗工材料、メディカル製品などの製造・販売を行っています。パッケージ、自動車、エレクトロニクス、メディカル・ヘルスケア分野のメーカーに製品を提供しています。

製品の販売代金が主な収益源です。運営はトーヨーケムや東洋モートンなどの国内子会社のほか、タイ、中国、韓国などの海外子会社が担当しています。

パッケージ関連事業


グラビアインキ、フレキソインキ、グラビアシリンダー製版などの製造・販売を行っています。食品包装や建装材などのパッケージ関連メーカーに対して製品とソリューションを提供しています。

製品の販売代金が主な収益源です。運営は東洋インキをはじめとする国内子会社のほか、マレーシア、インドネシア、ベトナム、中国、トルコなどの海外子会社が担当しています。

印刷・情報関連事業


オフセットインキ、金属インキ、印刷機械、プリプレスシステムなどの製造・販売を行っています。商業印刷や出版、パッケージなどの印刷市場向けに製品を提供しています。

製品の販売代金が主な収益源です。運営は東洋インキやマツイカガクなどの国内子会社のほか、インド、中国、欧州、米国、ブラジルなどの海外子会社が担当しています。

その他の事業


報告セグメントに含まれない原料販売、役務提供、不動産の賃貸管理、子会社の持株会社としての業務などを行っています。

同社がグループ各社から受け取る経営指導料や業務受託料、不動産の賃貸料などが主な収益源です。運営は同社や東洋ビーネットなどの国内子会社のほか、シンガポールや香港などの海外子会社が担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績推移を見ると、売上高は3,000億円台で推移し、直近では3,500億円規模となっています。経常利益は原材料高騰等の影響を受けつつも回復傾向にあり、利益率は2%〜6%台で推移しています。当期利益も外部環境の変化に対応しながら黒字を確保しています。

項目 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上高 2,880億円 3,159億円 3,221億円 3,511億円 3,500億円
経常利益 154億円 79億円 129億円 210億円 209億円
利益率(%) 5.4% 2.5% 4.0% 6.0% 6.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 53億円 129億円 67億円 75億円 90億円

(2) 損益計算書


売上高は3,500億円規模を維持しており、売上総利益も700億円台で安定して推移しています。営業利益率も6.0%前後と同水準を保っており、堅調な事業基盤を示しています。

項目 2024年12月期 2025年12月期
売上高 3,511億円 3,500億円
売上総利益 746億円 760億円
売上総利益率(%) 21.3% 21.7%
営業利益 204億円 208億円
営業利益率(%) 5.8% 5.9%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が141億円(構成比26%)、荷造運搬費が82億円(同15%)を占めています。

(3) セグメント収益


ポリマー・塗加工関連とパッケージ関連事業が増収を達成し、全体の売上を牽引しています。一方、色材・機能材関連と印刷・情報関連事業は市場環境の停滞などにより減収となっています。

区分 売上(2024年12月期) 売上(2025年12月期)
色材・機能材関連事業 840億円 821億円
ポリマー・塗加工関連事業 883億円 901億円
パッケージ関連事業 904億円 918億円
印刷・情報関連事業 833億円 810億円
その他 51億円 51億円
連結(合計) 3,511億円 3,500億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFで得た資金を元に、投資や借入金の返済を進める健全型のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2024年12月期 2025年12月期
営業CF 270億円 276億円
投資CF -102億円 -112億円
財務CF -150億円 -317億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.9%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.5%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、経営哲学として「人間尊重の経営」を掲げています。また、ステークホルダーへの約束となるブランドプロミス&スローガンとして、「感性に響く価値を創り出し、心豊かな未来に挑む」「Empowering Feeling」を定義しています。技術や発想をつなぎ、社会課題を解決することで、人々の心を充たす美しさや安心を届けることを使命としています。

(2) 企業文化


行動指針として「core(共創/楽しさ・わくわく/主体性)」「art(好奇心/感性・感謝・感動/多様性)」「science(厳しさ/スピード・挑戦)」の3つの視点から、社員の活動の拠り所を定めています。多様性を認め合い、社員が主体的なキャリアを歩める仕組みの構築や、挑戦を応援する風土の醸成を重視しています。

(3) 経営計画・目標


中長期的な経営戦略「artience2027/2030“GROWTH”」を策定し、資本効率とキャッシュフローの最大化を目指しています。

* 2026年12月期の売上高:3,600億円
* 2026年12月期の営業利益:230億円
* 2026年12月期のROE:8.0%以上
* 2029年12月期のROE:10.0%以上

(4) 成長戦略と重点施策


既存事業を成長事業、収益基盤事業、構造改革事業に分類し、それぞれの位置付けに応じた戦略を推進しています。また、モビリティ・バッテリー分野とディスプレイ・先端エレクトロニクス分野の2領域に資源を集中し、新たな収益の柱となる事業群の創出を目指しています。さらに、AI展開やDX推進による生産性向上にも注力しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


社員一人ひとりが同社の成長と世の中への貢献を通じて自身の成長を実感することを目指し、「主体的なキャリアを歩めるしくみの構築」「多様な人材が活躍できる風土の醸成」「安心して働ける職場環境づくり」を人材戦略の柱としています。研修プログラムの提供やキャリア開発制度を通じ、社員の主体的なキャリア形成を支援しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 44.7歳 18.6年 8,123,591円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.2%
男性育児休業取得率 98.4%
男女賃金差異(全労働者) 78.8%
男女賃金差異(正規雇用) 78.8%
男女賃金差異(非正規雇用) 58.8%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 事業セグメント固有のリスク


色材・機能材関連事業において、印刷インキ用顔料の需要縮小や、電気自動車市場の成長鈍化による車載用リチウムイオン電池材料の需要拡大遅延などが業績に影響を及ぼす可能性があります。高収益分野への展開や環境調和型製品の開発によりリスク低減を図っています。

(2) 海外活動に潜在するリスク


同社は世界各国で事業を展開しているため、法律・規制や租税制度の変更、急激なインフレ、テロや社会的混乱などの予期せぬ事象が業績に悪影響を及ぼす可能性があります。事業分野のバランス向上やサプライチェーンマネジメントの構築により、リスクの最小化に努めています。

(3) 原料調達に関するリスク


同社製品の主原料は石油化学製品であるため、原油・ナフサ等の市況変動や地政学的リスクによる仕入価格高騰や供給不足が懸念されます。原料が入手困難となった場合、製品の生産遅延や供給不履行による損害賠償が発生するおそれがあり、最適価格での購入や在庫確保等で対応しています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。