※本記事は、伊勢化学工業の有価証券報告書(第105期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 伊勢化学工業ってどんな会社?
ヨウ素や天然ガスの製造販売と、金属化合物の製造販売を主力事業として展開する化学メーカーです。
■(1) 会社概要
1927年に三重県で伊勢沃度工場として創業し、海藻ヨウ素などの製造販売を開始しました。1948年に伊勢化学工業を設立し、1960年に旭硝子(現AGC)の資本参加を受けて系列会社となりました。1990年に東京証券取引所市場第二部に上場し、2022年にスタンダード市場へ移行しています。
現在、従業員数は連結で327名、単体で299名体制です。筆頭株主は事業会社であるAGCで株式の52.83%を保有しており、親会社となっています。第2位は事業会社の三菱商事、第3位は萬富となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| AGC | 52.83% |
| 三菱商事 | 7.31% |
| 萬富 | 2.77% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役兼社長執行役員は粕谷俊郎氏です。社外取締役比率は30.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 粕谷俊郎 | 代表取締役兼社長執行役員 | 1985年旭硝子(現AGC)入社。同社執行役員経理・財務部長などを経て、2025年1月に同社常務執行役員社長付。同年3月より現職。 |
| 八巻竜太郎 | 代表取締役兼常務執行役員管理本部長 | 1990年旭硝子(現AGC)入社。同社化学品カンパニー戦略本部長などを経て、2026年2月に伊勢化学工業顧問。同年3月より現職。 |
| 山口泰二 | 取締役 | 1991年旭硝子(現AGC)入社。同社化学品カンパニー企画管理室統括グループリーダーなどを経て、2026年3月より現職。 |
社外取締役は、柴田堅太郎(柴田・鈴木・中田法律事務所パートナー)、救仁郷豊(元東京ガス代表取締役副社長執行役員)、副島大資(元三菱商事本店ChemicalsGroup Vice President)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ヨウ素及び天然ガス事業」および「金属化合物事業」を展開しています。
■(1) ヨウ素及び天然ガス事業
地下かん水を主原料とし、ブローイングアウト法で生産するヨウ素と、ヨウ素化合物の製造販売を行っています。また、地下かん水から採取した天然ガスを採取地に近い千葉県や宮崎県、米国内のガス販売会社等へ販売しています。
収益源は、日本国内をはじめ北米、欧州、アジアの顧客に対するヨウ素製品および天然ガスの販売代金です。事業の運営は主に伊勢化学工業と、米国子会社のウッドワード・アイオダイン・コーポレーションが行っています。
■(2) 金属化合物事業
不純物を取り除き、高品位な金属化合物を生産する技術を強みとし、積層セラミックキャパシタ(MLCC)向けの素材として使用される塩化ニッケルなどの各種金属化合物の製造販売を行っています。
収益源は、顧客に対する塩化ニッケル等各種金属化合物の販売代金です。本事業の運営は、伊勢化学工業が単独で行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は204億円から393億円へと順調に拡大しています。経常利益も27億円から93億円へと大幅な増益を達成しており、利益率も13.2%から23.6%へと大きく向上して収益性の高さがうかがえます。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 204億円 | 256億円 | 264億円 | 333億円 | 393億円 |
| 経常利益 | 27億円 | 37億円 | 51億円 | 74億円 | 93億円 |
| 利益率(%) | 13.2% | 14.3% | 19.4% | 22.3% | 23.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 19億円 | 26億円 | 37億円 | 56億円 | 65億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の拡大に伴い、売上総利益も101億円から124億円へと順調に増加しています。営業利益率も23.0%から24.2%に上昇しており、事業の効率性と高い収益力が維持・強化されていることが確認できます。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 333億円 | 393億円 |
| 売上総利益 | 101億円 | 124億円 |
| 売上総利益率(%) | 30.4% | 31.6% |
| 営業利益 | 77億円 | 95億円 |
| 営業利益率(%) | 23.0% | 24.2% |
販売費及び一般管理費のうち、販売手数料が5億円(構成比17%)、給料及び手当が5億円(同16%)、研究開発費が4億円(同13%)を占めています。
■(3) セグメント収益
ヨウ素及び天然ガス事業は、ヨウ素製品の販売数量増加や国際市況の堅調な推移により増収増益となりました。金属化合物事業は、金属相場の下落を受けて販売価格が前期を下回ったことで減収となりましたが、改善効果等により営業利益を確保しています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益(2025年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ヨウ素及び天然ガス事業 | 281億円 | 347億円 | 77億円 | 95億円 | 27.3% |
| 金属化合物事業 | 52億円 | 46億円 | -0.9億円 | 0.2億円 | 0.4% |
| 連結(合計) | 333億円 | 393億円 | 77億円 | 95億円 | 24.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う「健全型」の優良企業と判定できます。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 35億円 | 75億円 |
| 投資CF | -18億円 | -67億円 |
| 財務CF | -18億円 | -20億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は17.2%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は78.5%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「技術革新と創意・工夫に努め、科学・経済の発展に貢献するとともに、社会的責任を果たし、信頼され、価値ある企業として成長します。」という経営理念を掲げています。また、創立100周年に向けた「ありたい姿」として、「かがくでつなぐ、地球の資源。」というメッセージのもと、持続可能な開発、技術フロンティアへの挑戦、安全と信頼の3つを方針としています。
■(2) 企業文化
行動原則として、法令や社会規範の遵守など社会的責任の遂行を指針として定めています。全社で環境マネジメントシステム「エコアクション21」を導入し、継続的な改善によって環境負荷低減と企業価値向上を推進するなど、サステナビリティを意識した事業運営を重視する文化が醸成されています。
■(3) 経営計画・目標
2026年〜2028年の3年間で100億円超の既存設備投資に加えて、将来に向けた100億円の戦略投資枠を設ける方針です。中期的な財務目標として以下を掲げています。
* EBITDA額:110億円以上
* ROE(自己資本利益率):安定的に10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
ヨウ素及び天然ガス事業では、新規坑井の開発を継続して既存の生産減退を補うとともに、国内外の新規ヨウ素資源開発に積極的に関与し、供給能力の着実な拡大を目指します。金属化合物事業では、MLCC向けの需要拡大に沿って生産体制を確保し、顧客と連携して一層のコストダウンを図る方針です。また、産学連携や外部機関との提携を強化し、新用途・新商品開発のスピードを上げる計画です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「持続可能な開発」「技術フロンティアへの挑戦」「安全と信頼」という「ありたい姿」の実現に向け、人財を重要な経営基盤と位置付けています。人的資本経営の推進を通じて適切な人財の獲得と育成を図り、安全でやりがいを持って働ける環境づくりによる個の力を活かす組織力の向上に取り組む方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 41.2歳 | 15.9年 | 8,219,537円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.7% |
| 男性育児休業取得率 | 25.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 76.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 77.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 132.8% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 景気変動に伴う販売への影響
景気変動による需要環境の変化により、製品の販売数量および販売価格が変動するリスクがあります。同社は市場動向の情報収集や分析を進め、変化に強い製品ポートフォリオの最適化を図ることで対応しています。
■(2) 金融・為替情勢の変化
為替相場や金利の大幅な変動が業績に影響を及ぼすリスクがあります。これに対して同社は、外貨建債権債務残高のバランス管理や、先物為替予約の実施によるヘッジ、退職給付制度の確定拠出化等によってリスク低減に努めています。
■(3) 顧客の需要動向の変化
同社の販売は特定用途の需要に依存する側面が大きく、大幅な技術革新等によって需要が大きく変化するリスクがあります。この対応として、新用途や新商品の開発、新規事業の創出に取り組んでいます。
■(4) 法規制の変更とカーボンニュートラル対応
法規制の改正により事業活動が制限されることや対応コストが増加するリスクがあります。カーボンニュートラルに向けた対応として、事前準備や技術力の向上、省エネルギー化を推進し、環境負荷低減に取り組んでいます。



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