※本記事は、東洋炭素株式会社 の有価証券報告書(第84期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東洋炭素ってどんな会社?
等方性黒鉛材料を中核とし、半導体やモビリティ等の最先端分野へカーボン製品をグローバルに供給しています。
■(1) 会社概要
1947年に近藤カーボン工業として設立され、1949年に現社名へ変更しました。1974年に等方性黒鉛材料の量産化に成功し、その後米国、欧州、アジアへ現地法人を設立してグローバル展開を加速させました。2006年に東京証券取引所市場第一部へ上場し、現在はプライム市場に上場しています。
従業員数は連結で1,678名、単体で976名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は創業家とみられる近藤朋子氏、第3位も同じく近藤尚孝氏となっています。独立した現地法人を通じて世界各地の顧客ニーズに対応する体制を構築しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 9.58% |
| 近藤朋子 | 7.44% |
| 近藤尚孝 | 5.82% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性2名の計8名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役会長兼社長兼CEOを近藤尚孝氏が務めており、取締役5名のうち3名(60.0%)を社外取締役が占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 近藤尚孝 | 代表取締役会長兼社長兼CEO | 1980年三井物産入社。1985年同社入社後、営業本部長や社長を歴任。自然電力取締役、ビアメカニクス代表取締役社長等を経て、2018年より現職。 |
| 濱田達郎 | 取締役専務執行役員 | 1983年ブリヂストン入社、タイヤ材料開発本部長や中央研究所担当等を歴任。2017年同社入社後、グローバル開発本部長を経て、2024年より現職。 |
社外取締役は、松尾修介氏(元丸紅ドイツ会社社長)、高坂佳郁子氏(弁護士)、内藤牧男氏(大阪大学名誉教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」「米国」「欧州」「アジア」の4つの報告セグメントを展開しています。
■日本
日本セグメントでは、等方性黒鉛材料を用いた特殊黒鉛製品や一般カーボン製品、複合材等の開発、製造、加工、販売を行っています。主にエレクトロニクス、モビリティ、一般産業向けに高付加価値なカーボン素材を提供しています。
収益は国内外の顧客からの製品販売代金から得ています。製品の研究開発および素材の製造拠点を国内に集約し、運営は主に東洋炭素、東炭化工、大和田カーボン工業が行っています。
■米国
米国セグメントでは、北米市場を中心とする現地の顧客に対し、特殊黒鉛製品、一般カーボン製品および複合材その他製品の製造・販売を展開しています。半導体製造用や冶金用などの需要に幅広く対応しています。
収益は現地顧客への製品の直接販売等により獲得しています。素材の仕入は主に日本の親会社から行い、現地での加工・販売体制を敷いており、運営はTOYO TANSO USA, INC.が行っています。
■欧州
欧州セグメントでは、ヨーロッパ各国の顧客ニーズに対応するため、特殊黒鉛製品や機械用・電気用カーボン製品等の製造、加工および販売を行っています。半導体や冶金、先端プロセス装置などの幅広い産業向けに製品を供給しています。
収益は欧州域内の顧客からの販売代金等から得ています。運営はTOYO TANSO EUROPE S.P.A.、TOYO TANSO FRANCE S.A.、GTD GRAPHIT TECHNOLOGIE GMBHが行っています。
■アジア
アジアセグメントでは、中国や台湾を中心とする市場に対し、特殊黒鉛製品や一般カーボン製品等の製造、加工および販売を展開しています。特に電気用カーボンブラシ等の需要や冶金向けなどに注力しています。
収益はアジア域内の顧客への製品販売により得ています。運営は主に上海東洋炭素有限公司や東洋炭素(浙江)有限公司、台湾の精工碳素股份有限公司などの現地法人が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の売上高は右肩上がりで推移していましたが、当期は半導体市場の調整等の影響で減収となりました。利益面でも過去最高の水準から一転し、当期は減益を記録しており、利益率も低下傾向にあります。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 377.3億円 | 437.7億円 | 492.5億円 | 530.9億円 | 461.9億円 |
| 経常利益 | 62.6億円 | 73.7億円 | 101.8億円 | 134.8億円 | 80.9億円 |
| 利益率(%) | 16.6% | 16.8% | 20.7% | 25.4% | 17.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 44.7億円 | 51.8億円 | 75.1億円 | 99.6億円 | 54.6億円 |
■(2) 損益計算書
当期の売上高は前期比で減少しており、それに伴い売上総利益および営業利益も大きく減少しました。売上総利益率および営業利益率ともに前期の水準を下回っており、収益性の低下が見られます。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 530.9億円 | 461.9億円 |
| 売上総利益 | 214.9億円 | 157.5億円 |
| 売上総利益率(%) | 40.5% | 34.1% |
| 営業利益 | 122.4億円 | 67.6億円 |
| 営業利益率(%) | 23.1% | 14.6% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が26.8億円(構成比29.8%)、支払手数料が8.4億円(同9.3%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力である日本およびアジア地域を中心に、半導体市場の調整や関連用途の需要減退が響き、全地域で減収となりました。厳しい事業環境の継続が当期の売上減少に反映されています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) |
|---|---|---|
| 日本 | 295.5億円 | 241.8億円 |
| 米国 | 49.7億円 | 46.2億円 |
| 欧州 | 52.8億円 | 49.1億円 |
| アジア | 133.0億円 | 124.8億円 |
| 連結(合計) | 530.9億円 | 461.9億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業活動で得た資金と借入等の財務活動による調達資金を用いて、将来の成長に向けた積極的な投資を行っている「積極型」の状況です。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は82.7%で市場平均を上回っています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 94.9億円 | 60.7億円 |
| 投資CF | -63.1億円 | -113.1億円 |
| 財務CF | -25.6億円 | 24.0億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「C(カーボン)の可能性を追求し世界に貢献すること」を経営理念に掲げています。最高の品質と最高の技術を誰よりも先に提供し、人々の暮らしをより豊かにすることで、広く社会に貢献できる企業を目指しています。事業を通じて地球環境保全や持続的な社会の発展に寄与することを目標としています。
■(2) 企業文化
同社は、創業来のパイオニア精神である「どこにもないモノをつくる」という理念を大切にしています。社員の自立性と創造性を尊重し、全員が目標を持って働きがいを感じられる公正な評価が行われる職場環境の構築を重視しています。また、法令や社会規範の遵守を基本とし、誠実で公正な企業活動を通じて社会に貢献する姿勢を掲げています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、中長期的な経営戦略として2030年経営Vision『「どこにもないものを、あるに」地球に優しい製品と技術で世界No.1』を策定しています。事業環境の変化に左右されない事業ポートフォリオの構築とガバナンス体制の強化を課題とし、2030年に向けた数値目標を以下の通り設定しています。
* 売上高:740億円
* 営業利益:180億円
* 全社ROE:10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、デジタル社会や循環型社会の進展によるエレクトロニクスやエネルギー、モビリティ分野の新たなニーズを成長機会と捉えています。高付加価値な技術・製品をグローバルに提供するため、高成長事業の拡大や省エネ・省人化を含む生産技術の革新、競争力強化を進めます。同時に、これらの取り組みを支えるグローバル人材の育成を強化し、海外展開のさらなる拡大と企業価値の向上を目指しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、人材を最も大切な資産と位置づけ、人の成長が会社発展の原動力であると考えています。多様性の尊重や適所適材による人材配置、中長期的な人材育成、健康経営の推進、公正な評価および総合的な報酬政策を通じてエンゲージメントの向上を図っています。これにより「人と組織」のパフォーマンスを最大化し、社員一人ひとりが情熱と誇りを持って挑戦できる働きがいのある環境構築を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 40.9歳 | 15.2年 | 7,249,765円 |
※平均年間給与は賞与および基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 9.8% |
| 男性育児休業取得率 | 74.2% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 92.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 92.7% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 69.3% |
また、同社は「成長を支える人材の確保(人的資本)」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、資格・講習等の受講延べ人数(583人)、採用者に対する定着率(97.5%)、ストレスチェック受診率(96.8%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 大規模災害等による事業活動の停止
同社グループは、主要な生産設備が香川県等に集中しており、地震や風水害などの大規模な自然災害を想定して事業継続計画(BCP)を策定しています。しかし、想定を超える災害が発生し操業が停止した場合、生産遅延や供給網の寸断により経営成績や財政状態に重大な影響が及ぶ可能性があります。
■(2) 海外事業展開と地政学的リスク
同社グループは海外売上高比率が高く(当期57.2%)、今後もグローバル展開を進める方針です。そのため、海外市場における為替レートの変動、政治情勢の変化、各国の法規制等がリスクとなります。特に中国等における事業拡大に伴う政治・政策の変動は、経営成績に影響を与える可能性があります。
■(3) 原燃料価格の変動と棚卸資産リスク
同社グループは原燃料価格の上昇に対して複数購買や価格転嫁を行っていますが、予想以上の上昇は経営成績に影響を及ぼします。また、等方性黒鉛材料は見込生産を行っており、急激な需要減少が発生した場合、製品自体に経時変化はないものの、一時的に過剰在庫を抱えるリスクが存在します。
■(4) 市場動向と競合の影響
同社の主要製品はエレクトロニクス分野等に広く利用されており、半導体関連市場の変動に大きく影響を受けます。新用途開拓によるリスク分散や高付加価値製品の開発で対応していますが、市場の低迷や他社との技術・価格競争の激化により、同社の経営成績に影響が及ぶ可能性があります。



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