荏原実業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

荏原実業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

荏原実業は、東京証券取引所プライム市場に上場し、環境関連機器の製造・販売、水処理施設の設計・施工、風水力冷熱機器の仕入・販売を展開するトータル環境ソリューションカンパニーです。公共水インフラ設備の更新需要や民間設備の堅調な推移を背景に、直近の業績は売上高、各段階利益ともに増加する増収増益の傾向にあります。


※本記事は、荏原実業株式会社の有価証券報告書(第87期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月9日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 荏原実業ってどんな会社?


同社は環境関連機器の製造や水処理施設の設計・施工、風水力機器の販売を手掛ける環境保全のエキスパートです。

(1) 会社概要


1946年に風水力機械などの販売を目的に荏原工業として設立され、1952年に現在の荏原実業へ商号を変更しました。1998年に株式を店頭登録し、2004年に東京証券取引所市場第一部へ上場を果たしています。近年では、2025年に環境関連機器の製造・販売を担う荏原実業テクノロジーズを設立し、事業領域を拡充しています。

現在の従業員数は連結で548名、単体で458名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は事業会社の光通信、第3位は外国法人のNIPPON ACTIVE VALUE FUND PLCとなっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 11.90%
光通信 7.90%
NIPPON ACTIVE VALUE FUND PLC(常任代理人 香港上海銀行東京支店) 7.58%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.2%です。代表取締役社長執行役員兼COO営業統括は石井孝氏が務めています。社外取締役比率は44.4%です。

氏名 役職 主な経歴
鈴木 久司 取締役(代表取締役)会長兼CEO 1961年に同社へ入社し、取締役や専務取締役を経て、2007年に代表取締役社長に就任。2016年に代表取締役会長となり、2020年より現職。
石井 孝 取締役(代表取締役)社長執行役員兼COO営業統括 1996年に同社へ入社。風水力本部長や環境設備本部長などを歴任し、2020年に営業統括へ就任。2024年より現職。
大野 周司 取締役専務執行役員自社製品統括総合企画室長 1996年に同社へ入社。経理部長や管理本部長を経て、2016年に総合企画室長に就任。2020年に取締役常務執行役員となり、2024年より現職。
下條 潤史 取締役執行役員管理本部長法務部長 2002年に同社へ入社。経理部長や管理本部副本部長を経て、2021年に管理本部長に就任。2022年に執行役員法務部長となり、2024年より現職。
小林 均 取締役(常勤監査等委員) 1978年に同社へ入社。法務部長や管理本部長、計測器・医療本部長などを歴任し、2022年に監査室部長となり、同年より現職。


社外取締役は、石橋和男氏(公認会計士石橋和男事務所代表)、清水亜希氏(明哲綜合法律事務所パートナー弁護士)、北川智紀氏(安藤・間顧問)、坂本敦子氏(プライムタイム代表取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、メーカー事業、エンジニアリング事業、商社事業の報告セグメントで事業を展開しています。

(1) メーカー事業


オゾン濃度計、脱臭装置、感染症対策製品、水処理プラント、家庭用蓄電システムなど、自社開発した環境関連製品の製造・販売を行っています。また、民間用排水処理施設や水産関連施設等の設計・施工も手掛けています。

顧客に対する製品の販売や保守、設置工事代金を収益源としています。自社で生産設備を持たないファブレス方式を採用しており、特定の協力会社に生産を委託しています。事業の運営は同社および荏原実業テクノロジーズが行っています。

(2) エンジニアリング事業


主に官公庁を顧客として、浄水場や下水処理場、各種ポンプ場といった上下水道処理施設の設計・施工を手掛けています。また、関連する機械設備や電気設備などの設計、施工、メンテナンスも行っています。

公共インフラなどの施設工事や設備更新に対する工事請負代金を主な収益源としています。荏原製作所などのグループ企業から機器材料を調達して設計や施工を行い、実際の施工は専門工事会社に外注委託する形で同社が運営しています。

(3) 商社事業


民間企業の工場設備などに向けた空調設備、給排水・衛生設備に関わる風水力機器や冷熱機器等の仕入・販売を行っています。また、それら商製品に関連する設備工事にも対応しています。

顧客への機器の販売代金や設備工事代金を主な収益源としています。荏原製作所の販売代理店として製品を仕入れ、顧客に提供する役割を担っており、事業の運営は同社およびエバジツが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


表示期間全体において、売上高は一時期落ち込みを見せたものの、その後は右肩上がりで順調に推移しています。経常利益などの各段階利益についても、同様に一時的な減少を経て現在は増加傾向にあり、収益性の改善が進んでいます。公共分野でのインフラ更新需要や民間設備の堅調な投資が、業績の拡大を牽引していることが窺えます。

項目 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上高 325億円 302億円 363億円 375億円 412億円
経常利益 41億円 29億円 42億円 44億円 63億円
利益率(%) 12.7% 9.7% 11.5% 11.8% 15.3%
当期利益(親会社所有者帰属) 32億円 22億円 29億円 30億円 41億円

(2) 損益計算書


直近2期間の業績を比較すると、売上高は順調に増加しており、営業利益もそれに伴って大きな伸びを示しています。一方で、売上総利益はほぼ横ばいで推移しており、営業利益が売上総利益を上回る構造となっています。

項目 2024年12月期 2025年12月期
売上高 375億円 412億円
売上総利益 21億円 21億円
売上総利益率(%) 5.7% 5.1%
営業利益 43億円 61億円
営業利益率(%) 11.3% 14.9%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料及び手当が20億円(構成比26%)、賞与が15億円(同19%)を占めています。また、売上原価においては機器材料費が109億円(同40%)、外注費が73億円(同27%)を占めています。

(3) セグメント収益


各セグメントの売上高を見ると、水処理関連や環境関連の事業が売上を伸ばしており、全体の成長を牽引しています。一方で、風水力・冷熱機器関連の事業はわずかに減少していますが、依然として高い売上規模を維持しており、全体としては増収を達成しています。

区分 売上(2024年12月期) 売上(2025年12月期)
環境関連事業 71億円 75億円
水処理関連事業 189億円 225億円
風水力・冷熱機器関連事業 115億円 113億円
連結(合計) 375億円 412億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

荏原実業は、営業活動で資金を獲得し、投資活動で事業基盤を強化し、財務活動で資金調達と株主還元を行っています。営業活動によるキャッシュ・フローは、主に事業活動による利益の計上と、売上債権の増加、仕入債務の減少によって資金が増加しました。投資活動によるキャッシュ・フローは、主に有形固定資産の取得による支出がありました。財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払いと長期借入れによる収入がありました。

項目 2024年12月期 2025年12月期
営業CF 20億円 14億円
投資CF -2億円 -2億円
財務CF -16億円 -8億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「豊かな人間環境の創造を目指して社会に貢献する」という経営理念と、「心地よい環境を、未来へつなぐ。」というパーパス(存在意義)を掲げています。環境に対する社会的な関心が高まる以前から、長年にわたり様々な環境問題に目を向け、環境保全のエキスパートとしてノウハウを蓄積し続けています。

(2) 企業文化


同社は、持続可能な世界の実現に向けた取り組みをグループ全体で強化する価値観を重視しています。「サステナビリティ委員会」を設置し、人と社会そして地球全体を持続可能な状態にしていく取り組みを推進するとともに、より良い未来を従業員と共に創ることを目指して事業活動を行っています。

(3) 経営計画・目標


同社は、2030年に「トータル環境ソリューションカンパニー」へ進化することを目指し、長期ビジョンと中期経営計画「EJ2027」を策定しています。持続的な事業成長を実現するため、研究開発投資や設備投資などを行いながら、以下の事業規模の達成を目標として掲げています。

- 売上高:600億円(2030年目標)、450億円(2027年目標)
- 営業利益:80億円(2030年目標)、55億円(2027年目標)
- 営業利益率:13.0%(2030年目標)、12.2%(2027年目標)
- ROE:15.0%以上(2027年および2030年目標)

(4) 成長戦略と重点施策


中期経営計画「EJ2027」において、「既存事業の強化」「新領域の探索」「経営基盤の充実」の3つを基本方針としています。防災・減災、蓄電池、水産を注力領域と位置付け、事業ポートフォリオ分析に基づく市場戦略の策定や、新たな事業領域の創出、サステナビリティ戦略を推進しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、収益の源泉を「人材」と捉え、「人的資本の最大化」が成長を実現する上で最も重要であると考えています。「経営戦略の実現を支える人材ポートフォリオの形成」と「変化を成長に変える組織づくり」を方針として掲げ、多様な人材の採用・配置や、従業員が能力を最大限発揮できる環境整備に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 42.3歳 14.3年 8,110,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 8.3%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 68.4%
男女賃金差異(正規雇用) 69.7%
男女賃金差異(非正規雇用) 37.6%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 官公庁発注案件への高い依存


同社グループは、売上高の多くを官公庁からの受注に依存しています。そのため、公共投資予算の抑制や公共工事におけるコスト縮減策が実施された場合、受注状況や収益が直接的な影響を受ける可能性があります。このリスクに対応するため、民需の積極的な開拓による安定した受注の確保に努めています。

(2) 特定グループとの継続的な取引関係


荏原製作所およびその関係会社との間で、製品の仕入・販売や機器材料の調達など、継続的な取引関係を構築しています。代理店基本契約等が延長されなかった場合や、取引規模が大幅に縮小した場合には、事業戦略や業績に影響が及ぶ可能性があります。

(3) 外部委託によるファブレス製造体制


同社は自社で生産設備を持たないファブレス企業として、環境関連製品の製造を外部に委託しています。経営資源を研究開発に集中できる一方で、十分な委託先が確保できない場合や品質問題が発生した場合、原材料の調達が困難になった場合には、製品の供給に支障をきたすリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。