ザインエレクトロニクス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

ザインエレクトロニクス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

ザインエレクトロニクスは東京証券取引所スタンダード市場に上場するファブレス半導体メーカーです。画像データ伝送等のLSI事業と通信モジュール等のAIOT事業を展開しています。直近の業績は売上高46.4億円と前年並みを維持しましたが、戦略的な研究開発投資を積極的に行った結果、営業赤字となりました。


※本記事は、ザインエレクトロニクス株式会社の有価証券報告書(第34期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. ザインエレクトロニクスってどんな会社?


同社は、独自のアナログ・論理設計技術を駆使したLSIの開発と、AI・IoTソリューションを提供する研究開発型ファブレスメーカーです。

(1) 会社概要


1991年に前身となるザイン・マイクロシステム研究所が設立され、1992年に同社が設立されました。1998年には自社工場を持たないファブレス企業のビジネスモデルを構築しました。2001年に株式を店頭登録し、2018年には現在のAIOT事業の中核となるキャセイ・トライテックを連結子会社化しています。

現在の従業員数は連結で134名、単体で86名です。筆頭株主のヒルストンおよび第2位株主のTIEホールディングは、同社代表取締役会長である飯塚哲哉氏が代表を務める法人であり、上位2社で約40%の株式を保有しています。

氏名 持株比率
ヒルストン 20.20%
TIEホールディング 19.26%
西川典孝 1.51%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性0名の計9名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は南洋一郎氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
飯塚哲哉 代表取締役会長 1975年東芝入社。1991年ザイン・マイクロシステム研究所設立、代表取締役。1992年同社設立、代表取締役社長。日本半導体ベンチャー協会会長等を経て、2013年より現職。
南洋一郎 代表取締役社長 1983年日本電気入社。同社モバイルターミナル事業部長、エルナー代表取締役社長等を経て、2019年同社執行役員。2021年より現職。
高田康裕 取締役 1989年通商産業省(現、経済産業省)入省。2002年同社入社、取締役。2017年代表取締役社長を経て、2018年より現職。
山本武男 取締役総務部長 1992年兼松入社。2002年同社入社。2012年総務部長を経て、2017年より現職。
中原隆志 取締役 1991年松下電送入社。1993年キャセイ・トライテック(現、ザイン・モバイルテック)設立、代表取締役。2019年より現職。
安田稔広 取締役 1992年LSIロジックジャパンセミコンダクター入社。2010年同社入社。生産部長、営業部長、執行役員を経て、2023年より現職。


社外取締役は、伊藤明氏(元富士通アドバンストテクノロジ社長)、山口修司氏(岡部・山口法律事務所代表パートナー)、松岡章夫氏(松岡大江税理士法人代表社員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「LSI事業」および「AIOT事業」を展開しています。

LSI事業


独自のアナログ・論理設計技術をもとに、特定用途向け標準品として各種用途向けミックスドシグナルLSIを開発・販売しています。主に画像データを高速に伝送するLSIや画像処理用LSIなどを、事務機器、アミューズメント、車載機器、産業用カメラ等のメーカーへ提供しています。

収益は、自社ブランドLSI製品の販売代金に加え、開発したデータ伝送LSI等のコア部分を回路設計資産としてライセンス提供し、ロイヤリティー収入を得ています。事業の運営は同社および海外の子会社が行っています。

AIOT事業


AI・IoT機器やモバイル通信機器のハードウェア・ソフトウェアの開発・製造・販売を行っています。通信モジュール製品のほか、通信ゲートウェイやモバイルルーター等のネットワーク製品、AI技術を活用した遠隔監視等のソリューションを提供しています。

収益源は、通信モジュール製品やIoT機器などの販売代金、およびAI・IoTソリューションの開発・販売による収入です。事業の運営は主に子会社のザイン・モバイルテックやザイン・ハイパーデータなどが担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の売上高は40億円台から50億円台で推移していますが、利益面は変動が大きくなっています。特に直近の事業年度は、将来に向けた戦略的な研究開発費を積極的に投下した影響等により、各段階損益において赤字を計上する結果となりました。

項目 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上高 44.4億円 54.6億円 50.2億円 46.1億円 46.4億円
経常利益 7.0億円 9.1億円 0.7億円 2.6億円 -4.0億円
利益率(%) 15.7% 16.6% 1.4% 5.7% -8.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 7.9億円 8.3億円 -1.3億円 1.2億円 -3.8億円

(2) 損益計算書


直近2年間の損益構成を見ると、売上高は微増となったものの、売上総利益率は低下しています。さらに、販売費及び一般管理費が増加したことにより、営業利益率は悪化し、赤字に転落しました。

項目 2024年12月期 2025年12月期
売上高 46.1億円 46.4億円
売上総利益 25.3億円 22.9億円
売上総利益率(%) 54.9% 49.3%
営業利益 0.3億円 -3.4億円
営業利益率(%) 0.6% -7.4%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が13.2億円(構成比50%)、給与手当が5.0億円(同19%)を占めています。

(3) セグメント収益


LSI事業は、国内のOA機器向けで回復が見られたものの、中国市場向けなどの低迷により減収減益となり、営業赤字が拡大しました。一方、AIOT事業はスマートメーター向け通信モジュールなどの出荷が順調に推移して増収となったものの、研究開発等の負担増により営業赤字に転じました。

区分 売上(2024年12月期) 売上(2025年12月期) 利益(2024年12月期) 利益(2025年12月期) 利益率
LSI事業 28.9億円 28.3億円 -1.3億円 -3.2億円 -11.5%
AIOT事業 17.3億円 18.1億円 1.6億円 -0.2億円 -1.0%
連結(合計) 46.1億円 46.4億円 0.3億円 -3.4億円 -7.4%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のキャッシュ・フローは事業検討型のパターンを示しています。本業が低迷し、事業の見直しが迫られる状況にあります。

項目 2024年12月期 2025年12月期
営業CF -0.7億円 -7.1億円
投資CF 0.2億円 1.9億円
財務CF -1.6億円 -3.4億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は当期純損失のため算定されていませんが、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は90.4%で市場平均を大きく上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「人資豊燃」を創業理念として掲げています。これは「優れた人財が集い、資本・資源を有効に活用し、育ち、力の限り活躍し、豊かな自己実現と社会貢献ができる場を提供する」という意味を持ちます。独自のアナログ設計技術をもとに高付加価値な半導体技術を核としたソリューションを追求しています。

(2) 企業文化


同社は競争力の源泉を研究開発活動に置き、新しい付加価値を通じた社会貢献を目指す研究開発型ファブレスメーカーとしての文化を持っています。アライアンスを重視しながら事業展開を図る姿勢を大切にしており、新たなソリューション展開を通じて、顧客と世界市場に対して革新的な価値を提供することを重んじています。

(3) 経営計画・目標


2025年度から2027年度までの中期経営戦略「Innovate100」を策定し、経済社会の生産性向上への貢献に取り組んでいます。株主価値重視の観点から一人当たり利益の向上を目指すとともに、具体的な数値目標として以下の達成を掲げています。

* 2027年度に売上高100億円超

(4) 成長戦略と重点施策


中期経営戦略「Innovate100」の達成に向け、AI社会実装の加速に貢献するため、独自のソリューションを世界市場に提供することを目指しています。同社グループ内のLSI、AIOT、サーバーの3ビジネス間でのシナジー強化を図るとともに、他社とのコラボレーションやアライアンス案件を積極的に探索し、機動的に新事業の開拓を進める方針です。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


多様性ある人材登用の重要性を認識し、能力に対応したチーム構成実現と登用戦略の実行を最重要課題としています。女性管理職候補の採用に努めるほか、多様な職種経験に優れた中途採用者の管理職への積極的な登用を図っています。また、各種研修やOJT等の能力開発の機会提供や自己研鑽支援など、社員の成長を促す環境整備に注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 45.4歳 13.0年 7,551,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 13.0%
男性育児休業取得率 50.0%
労働者の男女の賃金の差異(全労働者) 77.2%
労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) 75.8%
労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) -


※パート・有期労働者については、女性労働者の対象者がいないため記載がありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、非技術系部門マネージャに占める女性管理職比率(約3割)、中途採用者の管理職への登用目標(5割以上)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 世界経済の動向と関税政策の影響


同社グループの製品は世界各地で最終製品として販売されます。米中摩擦等をはじめとする地政学的リスクや米国の関税政策、感染症拡大等に伴う世界的な経済環境の激変や景気変動が、製品需要に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 製品市場における激しい価格競争


半導体製品やIoT製品の市場は競争が激しく、技術革新や顧客ニーズの変化が早い特徴があります。新製品開発や競争力のある価格提示で対抗していますが、激化する低価格競争や新規参入業者の増加に十分対応できない場合、収益性に悪影響が生じるリスクがあります。

(3) 特定顧客への高い販売依存


同社グループの製品販売においては、マクニカなどの特定の大手商社や顧客企業への売上高が全体の半数近くを占めるなど、一部顧客への販売割合が高い状況にあります。何らかの理由でこれらの主要顧客を通じた製品提供が困難になった場合、業績に直接的な影響を及ぼす可能性があります。

(4) 特定の製造委託先への依存リスク


同社はファブレスメーカーであり、半導体製品の製造を国内外の特定ファウンドリーに、通信モジュールの仕入れを特定メーカーに大きく依存しています。輸出規制や供給キャパシティの逼迫等により、適切な納期やコストで安定的な製品供給が受けられない場合、事業活動に支障を来すリスクがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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