※本記事は、ズームの有価証券報告書(第43期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ズームってどんな会社?
音楽用電子機器の開発と販売を行い、世界中のクリエイターへツールを提供する企業です。
■(1) 会社概要
1983年に電子楽器の開発・製造・販売を目的に設立されました。1990年に初の自社製品マルチエフェクターを発売し、2017年に株式を上場しました。近年は欧米の販売代理店を次々と連結子会社化し、2021年にはフックアップを完全子会社化してディストリビューション事業の基盤を日米欧に構築しています。
現在の従業員数は連結で187名、単体で93名です。筆頭株主は創業者であり取締役ファウンダーを務める飯島雅宏氏で、第2位は音響機器等の販売を手掛けるサウンドハウス、第3位は公益財団法人ズームグループ学術振興財団となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 飯島 雅宏 | 8.25% |
| サウンドハウス | 8.21% |
| 公益財団法人ズームグループ学術振興財団 | 8.09% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性0名の計7名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役CEOは工藤俊介氏が務めています。社外取締役比率は42.9%(7名中3名)です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 工藤 俊介 | 代表取締役CEO | 2002年4月入社。エンジニアリングディヴィジョンシニアマネジャーやCRDO等を経て、2023年3月より代表取締役CEOに就任。フックアップ取締役や指名報酬委員会委員も兼任。 |
| 河野 達哉 | 取締役CTO | 1988年3月入社。エンジニアリングディヴィジョンジェネラルマネジャー、CDO、CPDOなどを歴任。2021年4月にエンジニアリングディヴィジョンCTOとなり、2023年3月より現職。 |
| 山田 達三 | 取締役CFO | 監査法人トーマツやブレインパッド、ミスミ等を経て、2012年6月入社。アドミニストレーションディヴィジョンヴァイスプレジデントを務め、2013年3月より現職。海外子会社役員も兼任。 |
| 飯島 雅宏 | 取締役ファウンダー | 1983年9月の設立に参加。技術部や管理部の要職を経て、2008年5月に代表取締役CEOに就任。2023年3月に代表取締役Group CEOとなり、2025年3月より現職。 |
社外取締役は、横山和樹(アクセル会計事務所代表)、伊藤勝彦(ESTパートナーズ法律事務所パートナー)、中野陽介(中野公認会計士・税理士事務所代表)です。
2. 事業内容
同社グループは、「音楽用電子機器事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 自社ブランド製品の開発・販売
ハンディオーディオレコーダーやデジタルミキサー、マルチエフェクターなどの自社ブランドの音楽用電子機器を開発しています。世界中のクリエイターに向けて、高音質な録音機器や映像と同期するフィールドレコーダーなどのユニークなツールを提供しています。
収益源は機器の販売代金です。同社が開発と販売を担い、生産はすべて外部のEMS企業へ委託するファブレス体制を採用しています。製品は国内外の連結子会社や販売代理店を通じて最終顧客へ販売されます。
■(2) 取扱いブランド(ディストリビューション事業)
欧州や日本国内の連結子会社において、自社ブランド以外の他社製オーディオ機器や楽器などを輸入・販売するディストリビューション事業を展開しています。幅広いニーズに応える製品ラインナップを確保しています。
収益源は取扱いブランド製品の販売代金です。国内事業はフックアップ、南欧事業はMogar Music S.r.l.、中欧・英国事業はSound-Service Musikanlagen-Vertriebsgesellschaft mbHとその子会社が運営しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績推移を見ると、2024年12月期まではディストリビューション事業を担う海外販売子会社の連結化効果などもあり、売上高は拡大傾向にありました。しかし、直近の2025年12月期は主力の米国市場における関税の影響や需要減退により減収となり、のれん減損等の影響から最終赤字に転落しています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 134億円 | 132億円 | 179億円 | 181億円 | 174億円 |
| 経常利益 | 12億円 | 7億円 | 6億円 | 6億円 | -2億円 |
| 利益率(%) | 9.1% | 5.4% | 3.6% | 3.1% | -1.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 8億円 | 5億円 | 4億円 | 1億円 | -17億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で減少しており、米国向けの追加関税による原価上昇や棚卸資産評価損の増加が響き、売上総利益率も低下しています。販売費及び一般管理費は微増したため、営業利益は赤字に転じています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 181億円 | 174億円 |
| 売上総利益 | 69億円 | 65億円 |
| 売上総利益率(%) | 38.3% | 37.1% |
| 営業利益 | 5億円 | -0.6億円 |
| 営業利益率(%) | 2.9% | -0.3% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当及び賞与が18億円(構成比28%)、支払手数料が10億円(同16%)、研究開発費が10億円(同15%)を占めています。売上原価の多くは外部のEMS企業への製品製造委託費や仕入代金が占めています。
■(3) セグメント収益
同社は音楽用電子機器事業の単一セグメントですが、製品カテゴリー別に見ると、ハンディオーディオレコーダーは市場構造の変化により苦戦し、マルチエフェクターも競争激化で売上が減少しました。一方、他社ブランドを扱うディストリビューション事業は比較的堅調に推移しています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) |
|---|---|---|
| 音楽用電子機器事業 | 181億円 | 174億円 |
| 連結(合計) | 181億円 | 174億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFと財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 6億円 | 6億円 |
| 投資CF | -2億円 | -7億円 |
| 財務CF | 0.2億円 | -1億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-27.0%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は30.1%であり、いずれも市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「世界中の人々を表現者にする」企業となることを目指しています。自分の想いを表現し、自分らしく生き、人々と交流することが人生をより豊かにすると考え、そうした人々を表現者(クリエイター)と位置づけています。創作活動を加速させる魅力的なオーディオ機器を提供し、ブランド価値の向上に努めています。
■(2) 企業文化
「クリエイターに品格を伴った価値を提供するという、利他的な動機を基にした行動」を規範としています。また、「機能、性能、価格、外観、操作性等に何らかの世界初を取り入れる」「自分でも使いたいと思える商品にする」など独自の「商品開発5カ条」をバリューとして定め、研究開発活動の土台としています。
■(3) 経営計画・目標
中長期的な経営ビジョンとして「“進化”と“挑戦”により、より多くの自己表現を支える」を掲げています。第4次中期経営計画(2024-2026)において、最終年度の2026年度に以下の数値目標を設定し、資本効率を重視する経営方針を維持しています。
* 連結売上高 175億円
* 連結営業利益 6.5億円
* ROE 10%以上
* ROIC 10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
既存の枠にとらわれず、クリエイター全般をターゲットに据え、製品カテゴリーを拡大することで成長を目指しています。また、開発標準化やAI活用による生産性向上で収益力を強化するとともに、ディストリビューション事業を第二の収益の柱として育成します。さらに、米国関税や市場構造の変化に対応すべく、成長戦略と収益構造の再構築を急務としています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
従業員が最大限の能力を発揮できるよう、年1回の自己申告書を通じて意見をくみ上げ、活力ある職場環境の醸成に努めています。2025年には技術を極めるプロフェッショナル職とプロジェクトを率いるマネジメント職を選択できる複線型人事制度を導入し、若手・中堅を中心としたプロジェクト体制により開発力強化とモチベーション向上を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 39.7歳 | 9.8年 | 7,770,188円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、育児休業からの職場復帰率(100.0%)、有給休暇の取得率(99.6%)、離職率(6.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 為替変動による収益への影響
同社の海外売上高比率は約82%に達し、主に米国ドル建てで取引されています。生産委託先からの仕入れもドル建てであるため、急激な円高や円安の進行は、円換算後の売上高や売上原価に直接的な影響を与え、業績を大きく変動させる可能性があります。
■(2) 米国市場における追加関税リスク
製品の生産を中国や東南アジアのEMS企業に委託しているため、米国の通商政策に強く影響を受けます。実際に追加関税が賦課されたことで売上原価が増加しており、今後の政策次第で米国市場でのコスト競争力が低下する懸念があります。
■(3) 新製品開発と市場の構造変化
スマートフォンの録音性能向上などにより、汎用的な録音機器の需要が代替デバイスへ移行しています。同社は継続的な新製品開発を強みとしていますが、市場ニーズとの乖離や開発遅延が発生した場合、期待した収益が得られず業績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(4) 海外販売代理店への依存
同社の海外での販売活動は、原則として各国の販売代理店に依存しています。主要な販売代理店との契約終了や関係悪化が生じた場合、小売業者や顧客の喪失、競合他社へのノウハウ流出につながり、同社の営業力やブランド信用を低下させる可能性があります。



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