Will Smart 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

Will Smart 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

Will Smartは東京証券取引所グロース市場に上場し、モビリティ業界を中心とした課題解決のためのソフトウェア開発やハードウェア提供、DX支援を主要事業として展開しています。直近の業績トレンドは、ストック売上が堅調に増加して増収となったものの、先行投資等の影響により営業損失が拡大し、増収減益となっています。


※本記事は、株式会社Will Smartの有価証券報告書(第14期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. Will Smartってどんな会社?


モビリティ業界の課題解決に向けたDX支援やIoTシステム開発を主力とするテクノロジー企業です。

(1) 会社概要


同社は2012年12月、ゼンリンデータコムの社内ベンチャーとして設立されました。その後、2021年3月にゼンリンデータコムからの株式異動によりゼンリンの子会社となりました。2022年7月にはソフトウェア開発事業を営むファニテックを完全子会社化(同年8月に吸収合併)し、開発体制を強化しました。そして、2024年4月に東京証券取引所グロース市場へ株式を上場しています。

現在の従業員数は単体で50名体制となっています。筆頭株主は事業会社のゼンリンで、第2位も事業会社のENEOS、第3位は証券金融業務を行う日本証券金融です。

氏名 持株比率
ゼンリン 43.83%
ENEOS 5.64%
日本証券金融 4.87%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性0名の計7名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長CEOは石井康弘氏です。社外取締役比率は25.0%です。

氏名 役職 主な経歴
石井 康弘 代表取締役社長CEO 楽天(現 楽天グループ)等を経て、2011年ゼンリンデータコム入社。2016年4月より現職。
布目 章次 取締役副社長COO さくら銀行(現 三井住友銀行)、楽天(現 楽天グループ)を経て、2022年10月同社入社。2023年6月より現職。
青木 正太 取締役 フットワークエクスプレス(現 JPロジスティクス)代表取締役社長等を経て、2022年6月より現職。


社外取締役は、安達俊彦(元全日空商事常務取締役リテールカンパニー長)です。

2. 事業内容


同社は、「モビリティ事業」を展開しています。

(1) 総合情報配信サービス


屋外・店頭・公共空間・交通機関などの場所において、デジタルサイネージを使って施設の館内情報や交通機関の運行情報などを発信するサービスを提供しています。複数のシステムから抽出されるフォーマットの異なる情報を統合し、単一の画面で統一した情報として配信できる点が特徴です。

利用企業からのシステム導入費用や利用料などを収益源としています。事業の運営は同社が行っており、地方自治体や公共施設、交通機関などに向けた展開に取り組んでいます。

(2) クラウド化支援サービス


顧客企業が利用するフロントエンドシステム(販売や予約システムなど)を中心に、自社保有のオンプレミスシステムをクラウド化することによるリニューアルや、新規事業の販売系基幹システムの開発などを行っています。

顧客企業からのシステム受託開発費用などを主な収益源としています。事業の運営は同社が行っています。

(3) モビリティシステムサービス


ガソリン車とEVの双方に対応する車載デバイスとIoTゲートウェイパッケージの提供や、カーシェア、レンタカー、EV充電器の予約システム等を提供しています。各機能は独立しており、API連携により既存システムとの同期や一部機能のみの提供も可能です。

顧客企業からのシステム導入費用や月額の利用料などを主な収益源としています。事業の運営は同社が行っています。

(4) AI・データサイエンスサービス


地方行政や自治体、地方公共交通などの顧客を中心に、事業領域に特化した実証実験や、地方公共交通再編のために複数の交通利用データを分析・可視化することができるシステムの提供を行っています。

自治体や交通事業者からのシステム開発・提供費用などを主な収益源としています。事業の運営は同社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の単体業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は8億円から11億円の間で推移していますが、先行投資や事業環境の変化により利益面では変動が大きく、直近では経常損失が続いています。特に当期は、中期ビジョンに向けた中長期的な成長基盤の構築による開発費等の増加などが影響し、赤字幅が拡大する結果となりました。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2024年12月期 2025年12月期
売上高 11.0億円 8.1億円 10.9億円 5.1億円 8.1億円
経常利益 -0.2億円 -1.8億円 0.4億円 -2.2億円 -2.6億円
利益率(%) -1.8% -22.1% 3.3% -43.5% -32.3%
当期利益 -0.3億円 -2.9億円 0.3億円 -2.2億円 -4.2億円

(2) 損益計算書


直近2期間の収益構造を見ると、売上総利益率は約30%前後で推移しています。一方で、事業基盤の強化に向けた投資が継続しているため、販売費及び一般管理費が売上総利益を大きく上回り、営業損失となっています。

項目 2024年12月期 2025年12月期
売上高 5.1億円 8.1億円
売上総利益 1.6億円 2.3億円
売上総利益率(%) 30.7% 28.7%
営業利益 -2.3億円 -2.8億円
営業利益率(%) -44.5% -35.2%


販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が1.8億円(構成比35%)、支払手数料が0.8億円(同16%)を占めています。また、売上原価では、当期製品製造原価が5.4億円(構成比94%)、当期商品仕入高が0.4億円(同7%)を占めています。

(3) セグメント収益


同社はモビリティ事業の単一セグメントです。ストック売上が堅調に増加したことに加え、前期が9ヶ月間の変則決算であった反動もあり、当期の売上高は増加しました。

区分 売上(2024年12月期) 売上(2025年12月期)
モビリティ事業 5.1億円 8.1億円
合計 5.1億円 8.1億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

Will Smartのキャッシュ・フローの状況についてご説明します。

同社の営業活動によるキャッシュ・フローは、減損損失や売上債権の減少があったものの、税引前当期純損失の計上などにより減少しました。投資活動によるキャッシュ・フローは、主に自社利用ソフトウエアの取得による支出により減少しています。財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金の純増加などにより増加しました。

項目 2024年12月期 2025年12月期
営業CF -1.8億円 -1.2億円
投資CF -0.1億円 -0.6億円
財務CF 1.6億円 1.8億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「『Will=未来形・意思』×『Smart=高性能・賢明な・最新流行の』」を経営理念に掲げ、成長を実現する強い意志をもち、テクノロジーの可能性を追求して社会の発展に貢献する未来志向のチームでありつづけることをビジョンとしています。自らのアイデアとテクノロジーを活用し、社会課題を解決することをミッションとしています。

(2) 企業文化


創業当時から世の中の動静や社会課題などに注目し、それらの背景から発生する企業の課題を解決するためのソリューション提供に取り組んできました。他のITベンダーの下請けではなく、モビリティ業界の顧客企業と直に対話を行うことにこだわり、顧客との共創型の課題解決手法を重視しています。

(3) 経営計画・目標


同社は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な経営指標として、ハードウェアの提供やソフトウェア開発案件の受注により計上される「ショット売上」と、毎月の保守・運用・システム利用料から得られる「ストック売上」の増加を目標としています。また、収益性を測る指標として売上高営業利益率を重視し、高い成長と安定した経営を目指しています。

(4) 成長戦略と重点施策


中期ビジョン2030の実現に向け、「事業基盤の強化」「事業領域の拡大」「プラットフォームの機能拡大」の3つを経営戦略として掲げています。既存顧客との直接取引を通じた実績拡大や業界知見の蓄積に加え、国や地方自治体との連携を通じた地域交通のMaaS実現など、新たなビジネス形態へ事業領域を拡大していく方針です。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


事業の安定的・継続的成長のためには、企業文化や理念に合致し、高い専門性を有する優秀な人材の確保が不可欠であると位置づけています。優秀な人材の確保と能力の底上げを目指し、インセンティブプランの拡充や長期的なキャリアパスを見据えた研修制度の充実、教育体制の整備を進めていく方針を掲げています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 41.8歳 3.1年 7,415,621円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は公表義務の対象ではないため、有報には本稿の記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経済動向と顧客の投資予算削減リスク


同社の提供するBtoBサービスは顧客の投資予算に左右されるため、景気低迷期に顧客業績が悪化し投資予算が削減された場合、受注案件数が減少する可能性があります。特にハードウェア提供やソフトウェア開発のショット売上が想定を下回った場合、経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

(2) 個人情報の漏洩リスク


提供するサービスの中には顧客がサービスを通じて個人情報を取得するものがあり、システムを管理する同社社員も個人情報を扱う場面があります。万が一、システムで保有する個人情報の漏洩が生じた場合には、ビジネスの根幹への信頼性が揺らぎ、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

(3) システムトラブルの発生リスク


同社の事業は提供サービスの基盤をインターネット通信網に依存しています。サイバー攻撃や自然災害など、何らかの障害により大規模なシステムトラブルが顕在化し、復旧遅延が生じた場合は、顧客へのサービス提供が妨げられ、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

(4) 特定業界への特化リスク


同社は主にモビリティ業界に所属する顧客向けに事業を行っており、当該業界へ特化することを強みとしています。しかし、感染症拡大等による人流抑制の風潮が蔓延し、公共交通系などで投資抑制圧力がかかった場合、業績に対して影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。