技術承継機構 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

技術承継機構 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

技術承継機構は東京証券取引所グロース市場に上場し、製造業等の譲受と経営支援を行う連続買収企業です。直近の業績では、譲受企業の増加に伴い大幅な増収を達成しました。営業利益は取得関連費用の増加により微減となりましたが、負ののれん発生益等により親会社株主帰属の当期利益は大幅な増益となっています。


※本記事は、株式会社技術承継機構の有価証券報告書(第8期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月30日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 技術承継機構ってどんな会社?


同社は、中小製造業の技術を次世代に繋ぐことを目指し、事業の譲受と経営支援を行う連続買収企業です。

(1) 会社概要


同社は中小製造業の技術承継を目的として2018年7月に設立されました。2019年11月に初の譲受を実行して以降、継続的にM&Aを実行し、2025年2月に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。2025年にもミヤサカ工業やサンテック産業など多数の優良企業を譲受し、グループ規模を急速に拡大しています。

従業員数は連結で1,208名、単体で8名となっています。筆頭株主は創業者で代表取締役社長の新居英一氏であり、第2位株主は藤井陽介氏、第3位株主はインタラクティブ・ブローカーズ証券が常任代理人を務めるINTERACTIVE BROKERS LLCとなっています。

氏名 持株比率
新居英一 65.54%
藤井陽介 5.77%
INTERACTIVE BROKERS LLC 2.49%

(2) 経営陣


同社の役員は男性4名、女性2名の計6名で構成され、女性役員比率は33.0%です。代表取締役社長は新居英一氏が務めています。取締役における社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
新居英一 代表取締役社長 みずほ証券、産業革新機構を経て、2018年7月に同社設立、代表取締役社長に就任し現職。
堀江藍子 取締役兼承継支援部長 みずほ証券、みずほ銀行、みずほ信託銀行を経て、2022年11月より現職。


社外取締役は、志賀俊之(元日産自動車代表取締役最高執行責任者)です。

2. 事業内容


同社グループは、製造業関連事業を展開しています。

同社グループは、製造業と製造業に関連する事業の譲受および譲受企業の経営支援に取り組む連続買収(シリアルアクワイアラー)企業です。中小製造業が持つ優れた技術や技能が後継者不足などで失われることを防ぎ、次世代に繋ぐことをミッションとして、全国の優良な中小製造業をグループに迎え入れています。

収益源は、譲り受けた製造業の各事業から生まれる利益です。個社の自主独立性を尊重しつつ、同社が独自の支援プログラム「NGP」を通じて人材採用やIT化、営業強化などの経営支援を提供し、グループ全体で企業価値の向上とキャッシュフローの創出を図っています。運営は同社およびグループ各社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績推移を見ると、毎期連続してM&Aを実行しグループ企業が増加していることから、売上高は右肩上がりで拡大しています。経常利益も順調に成長してきましたが、直近の2025年12月期は取得関連費用の計上等により微減となりました。なお、当期利益は単体要因等により損失を計上しています。

項目 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上高 0.6億円 68億円 93億円 111億円 150億円
経常利益 - 5億円 9億円 15億円 14億円
利益率(%) 1.6% 8.0% 9.9% 14.0% 9.5%
当期利益(親会社所有者帰属) - 0.2億円 0.4億円 -4億円 -0.1億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で大きく拡大しており、それに伴い売上総利益も増加しています。一方で、新規のM&A実行に係るアドバイザリー手数料などの取得関連費用が増加したため、営業利益は前期比で微減となり、営業利益率も低下する結果となりました。

項目 2024年12月期 2025年12月期
売上高 111億円 150億円
売上総利益 31億円 42億円
売上総利益率(%) 28.4% 28.3%
営業利益 15億円 14億円
営業利益率(%) 13.7% 9.6%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が6億円(構成比20%)、役員報酬が3億円(同9%)、のれん償却費が1億円(同5%)を占めています。

(4) キャッシュ・フローと財務指標

技術承継機構は、円滑な事業活動のための資金調達、適切な流動性の維持及び健全な財務状態の維持を財務方針としています。

営業活動によるキャッシュ・フローは、役員退職慰労引当金の減少額が増加した影響を受け、前連結会計年度より減少しました。投資活動によるキャッシュ・フローは、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出が増加したため、使用した資金が増加しました。財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入れや株式の発行による収入が増加したことにより、大幅に増加しました。

項目 2024年12月期 2025年12月期
営業CF 19億円 1億円
投資CF -2億円 -34億円
財務CF -6億円 66億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「製造業の技術・技能が失われることを防ぎ、次世代に繋ぐ」というミッションを掲げています。日本の中小製造業は優れた技術を持ちながらも、後継者不足や営業不足といった「もったいない」状況にあります。同社はこれらの課題を改善し、複数の中小製造業が一緒になることで、強固な企業グループを構築し、持続性のある社会の実現を目指しています。

(2) 企業文化


同社は「自主独立性の尊重」を重視する文化を持っています。買収ファンド(PEファンド)や一般的な事業会社とは異なり、一定期間経過後の売却や過度な組織統合を前提としていません。各譲受企業の自主独立性を重んじながらも、グループ内でのベストプラクティスの共有や相互の学び合いを推進し、個社の強みを最大限に引き出す方針を採っています。

(3) 経営計画・目標


同社のミッション実現および持続的な成長と企業価値向上を表す経営上重要な指標(KPI)として、「調整後EBITDA」および「調整後当期純利益」を設定しています。M&Aの連続的な実行と、既存譲受企業における事業拡大や効率化を通じたオーガニックな成長の両輪により、グループ全体としての安定したキャッシュフローの積み上げを目指しています。

(4) 成長戦略と重点施策


連続的なM&Aによる非連続的成長と、独自プログラム「NGP」を通じた内的成長を戦略の軸としています。金融機関等との関係深化による案件ソーシングの強化や、製造業に特化した知見を活かした投資判断によりM&Aを推進します。また、IT導入による業務効率化、営業強化、人材採用支援など多角的なバリューアップ施策を実行し、収益性の向上を図ります。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、譲受企業の企業価値向上のために、経営人材から管理系人材、技術者、製造人員に至るまで、様々な職種の人材確保を重要課題と位置づけています。ウェブサイトを通じた積極的な魅力発信や、あらゆる採用経路を活用した応募数の増加に取り組むとともに、教育制度の拡充による従業員の能力底上げを図り、安定的な事業運営を支える体制を構築しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 40.5歳 2.3年 9,000,000円

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.3%
男性育児休業取得率 -
男女賃金差異(全労働者) -
男女賃金差異(正規雇用) -
男女賃金差異(非正規雇用) -


同社および一部の連結子会社は公表義務の対象ではないため、男性育児休業取得率および男女賃金差異の記載はありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 買収ファンド等との競合リスク


同社がターゲットとする優良な中小製造業は、買収ファンドや他事業会社も関心を示すことが多く、競争が激化する可能性があります。同社は長期目線での経営支援や自主独立性の尊重により差別化を図っていますが、想定通りの企業譲受が実行できない場合、成長性や業績に影響を及ぼすリスクがあります。

(2) 新規譲受時の資金調達と金利変動リスク


M&Aの実行にあたり、同社は自己資金に加えて金融機関からの借入を活用しています。金融市場の悪化等により好条件での資金調達が困難になった場合や、金利上昇により支払利息の負担が増加した場合、想定する条件での企業譲受が実施できなくなり、財務状態に影響を与える可能性があります。

(3) 譲受企業の経営・現場人材の確保リスク


譲受後の企業において、経営を担う社長候補や、電気制御の設計者、製造現場の人員確保が困難になるリスクがあります。特に製造業における人材獲得競争は激しいため、安定的な事業運営に必要な人材を適時に確保できなければ、事業計画の遅延や収益性の低下に繋がる恐れがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。