※本記事は、丸善CHIホールディングスの有価証券報告書(第16期、自 2025年2月1日 至 2026年1月31日、2026年4月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 丸善CHIホールディングスってどんな会社?
書籍等の販売にとどまらず、教育・学術機関や図書館の運営支援まで幅広く知の流通を支える企業です。
■(1) 会社概要
2010年2月に丸善と図書館流通センターの共同持株会社「CHIグループ」として設立され、上場しました。2011年2月にジュンク堂書店および雄松堂書店を子会社化し、同年5月に現在の社名に変更しています。2015年に書店事業を統合して丸善ジュンク堂書店とし、2016年に教育・学術事業を丸善雄松堂へと再編しました。
従業員数は連結1,574名、単体38名です。筆頭株主は事業会社の親会社である大日本印刷で、第2位はフォルトウナ、第3位は講談社となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 大日本印刷 | 54.92% |
| フォルトウナ | 4.53% |
| 講談社 | 3.91% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役会長は橋本博文氏、代表取締役社長は五味英隆氏が務めています。社外取締役比率は44.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 橋本博文 | 代表取締役会長 | 1981年大日本印刷入社。同社常務執行役員、常務取締役などを経て、2024年4月より丸善出版、丸善雄松堂の取締役と並行し、同社代表取締役会長に就任。現職。 |
| 五味英隆 | 代表取締役社長 | 1986年大日本印刷入社。hontoビジネス本部長や出版イノベーション事業部副事業部長などを歴任。2023年4月より同社代表取締役社長に就任。現職。 |
| 矢野正也 | 取締役 | 1987年丸善入社。図書館アウトソーシング事業部長などを経て、2019年4月より丸善雄松堂代表取締役社長および同社取締役に就任。現職。 |
| 谷一文子 | 取締役 | 1991年図書館流通センター入社。同社代表取締役社長、会長などを歴任し、2022年4月より同社取締役および図書館流通センター代表取締役社長に就任。現職。 |
| 西川仁 | 取締役 | 1989年丸善入社。丸善ジュンク堂書店の営業推進室長や各店長などを経て、2024年4月より同社取締役および丸善ジュンク堂書店代表取締役社長に就任。現職。 |
社外取締役は、吉田真一(大日本印刷元監査室長)、大胡誠(柳田国際法律事務所弁護士)、舟橋宏和(フロンティア・マネジメントマネージング・ディレクター)、杉田禎浩(虎ノ門総合法律事務所弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「文教市場販売事業」「店舗・ネット販売事業」「図書館サポート事業」「出版事業」および「その他事業」を展開しています。
■文教市場販売事業
大学、官庁付置研究機関、公共図書館等に対し、学術情報を中心とした書籍や電子ジャーナルなどの販売、書誌データの作成・提供、図書館や教室等の建築・内装設備の設計施工などを行っています。
顧客である大学や研究機関、図書館から商品代金や施設工事代金等を受け取るモデルです。運営は主に丸善雄松堂、図書館流通センター、TRC-ADEACが担っています。
■店舗・ネット販売事業
全国主要都市に展開する店舗において、和書や洋書をはじめ文具・雑貨等の販売を行っているほか、通信ネットワークを利用した情報提供やネット販売サービスを展開しています。
来店客やネットを通じた消費者からの商品購入代金が主な収益源です。運営は主に丸善ジュンク堂書店、淳久堂書店が行っています。
■図書館サポート事業
公共図書館や大学図書館、学校図書館を中心に、カウンター業務や目録作成、蔵書点検等の運営業務を受託するほか、指定管理者制度による公共図書館の運営を行っています。
地方自治体や大学等の設置者から業務委託料や指定管理料を受け取る収益モデルです。運営は主に丸善雄松堂、図書館流通センターが行っています。
■出版事業
学術専門書を中心とした出版業をはじめ、児童図書や図書館向け図書の出版、出版に係る企画・編集・製作等の請負、関連DVDの発売などを手がけています。
書店等の取次を通じた書籍やDVDなどの販売代金が収益の柱となります。運営は主に丸善出版、サイオ出版、岩崎書店、丸善プラネットが行っています。
■その他事業
書店等の店舗設備の設計施工、書籍の入出荷業務、パソコン等通信機器の修理やネットワーク設定、保育士派遣や託児所運営、クラウド型リサーチツールの企画運営などを行っています。
各サービスの利用者や企業からのサービス利用料や請負代金が収益源です。運営は主に図書流通、グローバルソリューションサービス、明日香、丸善リサーチサービスが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は一時的な増減を見せつつも直近で大きく伸長し、1,850億円規模に到達しました。利益面についても、経常利益率が1〜2%台で推移するなか、直近では利益水準の改善が進んでいます。
| 項目 | 2022年1月期 | 2023年1月期 | 2024年1月期 | 2025年1月期 | 2026年1月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1744億円 | 1628億円 | 1629億円 | 1658億円 | 1851億円 |
| 経常利益 | 39億円 | 31億円 | 37億円 | 35億円 | 55億円 |
| 利益率(%) | 2.2% | 1.9% | 2.3% | 2.1% | 3.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 0.2億円 | 0.0億円 | 0.0億円 | 0.4億円 | 6億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の大幅な成長に伴い、売上総利益も拡大しています。利益率も改善傾向にあり、営業利益は前期から大きく増加して収益性の向上が確認できます。
| 項目 | 2025年1月期 | 2026年1月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1658億円 | 1851億円 |
| 売上総利益 | 409億円 | 482億円 |
| 売上総利益率(%) | 24.7% | 26.0% |
| 営業利益 | 35億円 | 56億円 |
| 営業利益率(%) | 2.1% | 3.0% |
■(3) セグメント収益
店舗・ネット販売事業が万博関連ストアの好調により大きく売上を伸ばし、全体の成長を牽引しています。また、文教市場販売事業や図書館サポート事業も堅調に推移し、増収に貢献しました。
| 区分 | 売上(2025年1月期) | 売上(2026年1月期) |
|---|---|---|
| 文教市場販売事業 | 468億円 | 492億円 |
| 店舗・ネット販売事業 | 661億円 | 818億円 |
| 図書館サポート事業 | 377億円 | 393億円 |
| 出版事業 | 36億円 | 37億円 |
| その他 | 115億円 | 111億円 |
| 連結(合計) | 1658億円 | 1851億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
丸善CHIホールディングスは、営業活動により安定的に資金を生み出しています。投資活動では、将来の成長に向けた設備投資や無形資産の取得を進めており、財務活動では、借入による資金調達と返済をバランス良く行っています。これらの活動の結果、期末の現金及び現金同等物は増加しました。
| 項目 | 2025年1月期 | 2026年1月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 30億円 | 48億円 |
| 投資CF | 17億円 | -21億円 |
| 財務CF | -24億円 | -5億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「知は社会の礎である」という価値観のもと、「知の生成と流通に革新をもたらす企業集団となる」というグループビジョンを掲げています。知が人に与える力を信じ、教育・学術機関や図書館、出版業界と連携し、最良な知の生成・流通と知的な環境づくりにおいて革新的な仕組みを創出することで、日本の社会に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
「丸善CHIグループ行動指針」を遵守し、正直で透明な組織運営を行うことを基本とするコーポレート・ガバナンスの強化を最重要課題としています。多様な資質・価値観を有する人材の育成に取り組み、ダイバーシティ&インクルージョンの実現の一環として、男女が力を合わせ平等な環境のもとで個性を発揮できる職場環境・風土の醸成を進めています。
■(3) 経営計画・目標
収益の構造改革に注力し、資本コストと株価を意識した経営指標の改善を図る方針です。早期にPBR(株価純資産倍率)1倍以上を目指すとともに、以下の具体的な数値目標を掲げています。
* 売上高:1,850億円(2029年1月期)
* 営業利益:55億円(2029年1月期)
* 親会社株主に帰属する当期純利益:34億円(2029年1月期)
* ROE(自己資本利益率):5.8%以上(2029年1月期)
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画に基づき、「グループ資産の活用促進」「成長領域の創出」「収益構造の転換」を基本方針としています。文教市場では書籍とデジタルを組み合わせた学習機会の提供を進め、店舗・ネット販売では来店動機と収益力を高める複合業態化を推進します。図書館サポート事業ではAI等を導入した省人化・高度化を図り、出版事業ではデジタル・IPを起点とした事業構造への転換に注力します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
次世代を担う人材の継続的な輩出を目指し、新規事業開発に携わる人材やグローバルな視野と多様性を重視した人材の育成に取り組んでいます。グループ横断型のプロジェクト推進や実務を通じて学ぶ場を創出するほか、階層別研修やスキル研修など個々の能力向上に資する研修体制の拡充に注力し、一人ひとりが能力を発揮して成長できる環境整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年1月期 | 51.6歳 | 6.8年 | 6,019,935円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 33.3% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | 94.7% |
| 男女賃金差異(正規) | 92.9% |
| 男女賃金差異(非正規) | - |
※男性労働者の育児休業取得率については、育児休業の対象となる子を配偶者が出産した男性従業員がいなかったため計算対象外となっています。また、非正規労働者の男女賃金差異については、女性の有期労働者がいなかったため計算対象外となっています。
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、グループ全体の管理職に占める女性労働者の割合(16.4%)、グループ全体の男性労働者の育児休業取得率(76.9%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 官公庁及び大学等の予算動向・消費動向
主に官公庁が運営する公共図書館や大学への書籍販売・図書館運営を受託しており、それらの予算動向に業績が左右されるリスクがあります。予算削減による受注競争の激化や、気候・景気等による消費動向の変化が収益に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 為替の変動リスク
輸入書籍や外国雑誌を取り扱っており、為替変動に連動した販売価格の設定や為替予約によってリスク軽減を図っています。しかし、完全に為替リスクを排除することは難しく、短期間に急激な為替変動が発生した場合には収益に悪影響を及ぼす懸念があります。
■(3) 出版物流通の法的規制・制度変更
出版物は再販売価格維持制度によって定価販売が認められていますが、同制度が廃止された場合や電子書籍の動向によっては業績に影響する可能性があります。また、書籍業界特有の委託販売制度による返品率の変動も収益を左右するリスク要因となります。



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