※本記事は、丸善CHIホールディングス株式会社 の有価証券報告書(第15期、自 2024年2月1日 至 2025年1月31日、2025年4月28日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 丸善CHIホールディングスってどんな会社?
教育・学術分野に強みを持つ丸善と図書館流通センターが統合して誕生した、知の生成と流通を担う持株会社です。
■(1) 会社概要
同社は2010年、丸善と図書館流通センターの経営統合により設立されました。2011年にはジュンク堂書店と雄松堂書店を完全子会社化し、商号を現在の丸善CHIホールディングスに変更しています。その後、2015年に丸善書店とジュンク堂書店を合併して丸善ジュンク堂書店とし、2016年には丸善と雄松堂書店を合併して丸善雄松堂とするなど、グループ内の再編を進めながら事業基盤を強化してきました。
現在の連結従業員数は1,533名、単体では33名です。筆頭株主は同社の親会社である大手印刷会社で、発行済株式の過半数を保有しています。第2位は資産管理会社とみられる法人株主、第3位は大手出版社が名を連ねており、出版・印刷業界との資本関係が深いのが特徴です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 大日本印刷 | 55.19% |
| フォルトウナ | 4.73% |
| 講談社 | 3.91% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役社長は五味英隆氏が務めています。社外取締役比率は44.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 橋本博文 | 代表取締役会長 | 1981年大日本印刷入社。同社常務取締役などを経て、2024年より同社代表取締役会長に就任。図書館流通センターや丸善ジュンク堂書店の役員も兼任する。 |
| 五味英隆 | 代表取締役社長 | 1986年大日本印刷入社。hontoビジネス本部長などを経て、2019年同社常務取締役。2023年より現職。丸善リサーチサービス社長も兼任。 |
| 矢野正也 | 取締役 | 1987年丸善(現・丸善雄松堂)入社。同社図書館アウトソーシング事業部長などを経て、2019年より同社代表取締役社長および現職。 |
| 谷一文子 | 取締役 | 1991年図書館流通センター入社。同社社長、会長を経て、2022年より現職および図書館流通センター代表取締役社長。 |
| 西川仁 | 取締役 | 1989年丸善(現・丸善雄松堂)入社。店舗事業部を経て、2024年より現職および丸善ジュンク堂書店代表取締役社長。 |
社外取締役は、吉田真一(元大日本印刷監査室長)、大胡誠(弁護士)、舟橋宏和(フロンティア・マネジメントMD)、杉田禎浩(弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「文教市場販売事業」「店舗・ネット販売事業」「図書館サポート事業」「出版事業」および「その他」事業を展開しています。
■文教市場販売事業
大学や研究機関、公共図書館などに対し、学術情報を中心とした書籍の販売や、図書館・教育施設の建築・内装設備の設計施工を行っています。また、図書館用書籍の加工や書誌データの作成・販売も手掛けています。
収益は、教育・研究機関や図書館などの顧客からの書籍販売代金や工事代金、データ提供料などから得ています。運営は主に丸善雄松堂や図書館流通センターが行っています。
■店舗・ネット販売事業
主要都市において「丸善」「ジュンク堂書店」などの店舗を展開し、書籍や文具等の販売を行うほか、ネットを通じた情報提供サービスも手掛けています。
収益は、一般消費者や法人顧客からの商品販売代金などから得ています。運営は主に丸善ジュンク堂書店や淳久堂書店が行っています。
■図書館サポート事業
公共図書館や大学図書館などを対象に、運営業務の受託や指定管理者制度による図書館運営を行っています。
収益は、自治体や大学などの施設設置者からの業務委託料や指定管理料から得ています。運営は主に丸善雄松堂や図書館流通センターが行っています。
■出版事業
学術専門書や児童図書、図書館向け図書の出版を行っています。また、出版に係る企画や編集、製作等の請負も行います。
収益は、取次会社や書店を経由した書籍の販売代金などから得ています。運営は主に丸善出版や岩崎書店が行っています。
■その他事業
書店や文具店などの店舗設備の設計施工、書籍の入出荷業務、通信機器の修理、保育士派遣や保育園運営、クラウド型リサーチツールの提供などを行っています。
収益は、顧客からの工事代金、業務委託料、サービス利用料などから得ています。運営は丸善雄松堂、図書流通、明日香、丸善リサーチサービスなどが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は1,600億円台から1,700億円台の間で推移しており、比較的安定しています。第13期に利益面での落ち込みが見られましたが、その後回復し、当期は売上高1,656億円、経常利益35億円となりました。当期利益については、当期に大きく伸長し39億円を計上しています。
| 項目 | 2021年1月期 | 2022年1月期 | 2023年1月期 | 2024年1月期 | 2025年1月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,716億円 | 1,744億円 | 1,628億円 | 1,629億円 | 1,656億円 |
| 経常利益 | 37億円 | 39億円 | 31億円 | 37億円 | 35億円 |
| 利益率(%) | 2.2% | 2.2% | 1.9% | 2.3% | 2.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 11億円 | 0.2億円 | 0億円 | 0.0億円 | 39億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を比較します。売上高は微増しており、売上総利益もそれに伴い増加しています。一方で営業利益率は微減傾向にあります。全体として安定した収益構造を維持していますが、利益率の改善が課題と言えます。
| 項目 | 2024年1月期 | 2025年1月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,629億円 | 1,656億円 |
| 売上総利益 | 402億円 | 408億円 |
| 売上総利益率(%) | 24.7% | 24.6% |
| 営業利益 | 36億円 | 34億円 |
| 営業利益率(%) | 2.2% | 2.1% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が122億円(構成比33%)、賃借料が75億円(同20%)を占めています。人件費と店舗等の賃借料が主要なコスト要因となっています。
■(3) セグメント収益
当期は文教市場販売事業と図書館サポート事業が増収を記録しました。店舗・ネット販売事業は微減収ながら増益を確保しています。その他事業は売上・利益ともに伸長しました。出版事業は減収減益となり、営業損失を計上しています。全体としては主力事業が堅調に推移し、その他事業の成長が業績に寄与しました。
| 区分 | 売上(2024年1月期) | 売上(2025年1月期) | 利益(2024年1月期) | 利益(2025年1月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 文教市場販売事業 | 466億円 | 469億円 | 32億円 | 33億円 | 6.9% |
| 店舗・ネット販売事業 | 664億円 | 662億円 | 4億円 | 4億円 | 0.6% |
| 図書館サポート事業 | 357億円 | 377億円 | 31億円 | 29億円 | 7.8% |
| 出版事業 | 41億円 | 39億円 | 1億円 | -1億円 | -2.8% |
| その他 | 125億円 | 132億円 | 1億円 | 4億円 | 2.7% |
| 調整額 | -24億円 | -23億円 | -33億円 | -34億円 | - |
| 連結(合計) | 1,629億円 | 1,656億円 | 36億円 | 34億円 | 2.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2024年1月期 | 2025年1月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 57億円 | 30億円 |
| 投資CF | -11億円 | 17億円 |
| 財務CF | -25億円 | -24億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.0%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は38.4%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「知は社会の礎である」という価値観のもと、「知の生成と流通に革新をもたらす企業集団となる」というグループビジョンを掲げています。教育・学術機関や図書館、出版業界等と連携し、最良な知の生成・流通と知的な環境づくりにおいて革新的な仕組みを提供することを目指しています。
■(2) 企業文化
「知は社会の礎である」という価値観を共有し、時代に即した最良の知のグローバルな循環が日本の社会の礎であると考えています。知を求めるすべての人々と、知を提供する出版流通の接点を拡大し、業界の活性化をリードし社会に貢献することを重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2024年度を初年度とする5カ年の中期経営計画において、「知の生成と流通に持続的に貢献するための成長力と資本効率の向上」を目指しています。2029年1月期には以下の数値目標を掲げています。
* 売上高:2,000億円
* 営業利益:85億円
* 親会社株主に帰属する当期純利益:50億円
* ROE:7.5%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「グループ資産の活用促進」「成長領域の創出」「収益構造の転換」を基本方針としています。文教市場では電子書籍・教材等のデジタル化対応、店舗事業では複合業態化やネットストアによる顧客接点拡大を進めます。また、図書館サポート事業における人材確保や運営効率化、出版事業でのIP利活用拡大などに取り組みます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人的資本の活性化を成長の根幹と位置づけ、誰もが活躍し成長し続ける環境づくりを推進しています。グループ横断型のプロジェクトや研修の充実、新規事業開発への取り組みを通じて、多様な資質や価値観を持つ人材を育成する方針です。また、サステナビリティの推進において「6つのマテリアリティ」を選定し、地域社会への貢献を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年1月期 | 53.6歳 | 6.8年 | 6,341,645円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 25.0% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | 97.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 94.7% |
| 男女賃金差異(非正規) | - |
なお、同社単体においては、育児休業の対象となる子を配偶者が出産した男性従業員がなく、そのため男性育児休業取得率は計算対象外となっています。また、女性の有期労働者がいないため、非正規雇用の男女賃金差異も計算対象外です。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、グループ全体での女性管理職比率(14.9%)、グループ全体での男性育児休業取得率(64.3%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 官公庁及び大学等の予算動向
官公庁が運営する公共図書館・学校図書館や大学等の教育・学術市場への依存度が高いため、政府や地方自治体の予算、文部科学省の政策等により予算が削減された場合、受注競争の激化などにより業績に影響を与える可能性があります。
■(2) 法的規制等の変更
出版物の再販売価格維持制度や委託販売制度などの法的規制や商慣習に基づいた事業を行っています。これらの制度が廃止または変更された場合や、返品率が変動した場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 情報セキュリティ及び個人情報保護
事業活動においてコンピュータネットワークや情報システムを活用しており、多くの個人情報を保有しています。システム障害やサイバー攻撃、個人情報の漏洩などが発生した場合、信用の失墜や損害賠償などにより、事業活動に影響を及ぼす可能性があります。



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