※本記事は、株式会社井筒屋の有価証券報告書(第131期、自 2025年3月1日 至 2026年2月28日、2026年5月27日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 井筒屋ってどんな会社?
同社は北部九州や山口県を中心とした百貨店業と、関連する友の会事業等を展開する地域密着型の小売企業です。
■(1) 会社概要
1935年に井筒屋百貨店として設立され、翌年に現在の本店を開店しました。1951年に現在の社名へ変更し、1961年に福岡証券取引所、1972年に東京証券取引所へ上場しています。その後、黒崎店や山口店など複数店舗を展開・再編し、現在まで地域唯一の百貨店として事業基盤を築いてきました。
現在の従業員数は連結で651名、単体で548名です。筆頭株主は個人の青柳和洋氏で、第2位は総合企業グループの西日本鉄道、第3位は従業員で構成される井筒屋共栄持株会となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 青柳和洋 | 13.50% |
| 西日本鉄道 | 9.30% |
| 井筒屋共栄持株会 | 8.80% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長執行役員営業本部長を松本圭氏が務めています。社外取締役比率は20.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 松本圭 | 代表取締役社長執行役員営業本部長 | 1991年同社入社。食品部統括担当課長、本店食品グループ長、本店長、管理本部長などを歴任し、2025年5月より現職。 |
| 影山英雄 | 取締役会長執行役員 | 1975年同社入社。本店紳士服部部長、社長室ゼネラルマネージャーなどを歴任。2010年より代表取締役社長を務め、2025年5月より現職。 |
| 吉田功 | 取締役常務執行役員営業副本部長井筒屋商事代表取締役社長 | 2003年同社入社。管理本部経営企画グループ長、黒崎店長、本店長などを歴任し、2023年3月より現職。 |
| 大森俊介 | 取締役執行役員管理本部長兼内部統制室長 | 1988年同社入社。人材開発部ゼネラルマネージャー、人事部長、経営企画部長などを歴任し、2025年5月より現職。 |
社外取締役は、窪田弥生(清和法律事務所所長弁護士)、吉田透(西日本鉄道執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「百貨店業」および「友の会事業」、「その他」事業を展開しています。
■(1) 百貨店業
衣料品、身回品、雑貨、家庭用品、食料品などの販売をはじめ、店舗内での食堂や喫茶の経営等を行っています。主に北部九州や山口県地域の顧客に対して、地域に根ざした品揃えとサービスを提供し、豊かなライフスタイルの実現をサポートしています。
店舗での商品販売による売上が主な収益源です。運営は親会社である同社が本店を展開するほか、子会社の山口井筒屋が山口店を運営しています。また、レストラン井筒屋が飲食部門を、井筒屋商事が慶弔ギフトや卸売を担うなど、グループ各社が連携して事業を推進しています。
■(2) 友の会事業
百貨店を利用する顧客向けに、一定期間の積立を行うことでボーナス分を上乗せしたお買物カードなどを提供する、前払式の商品販売の取次業務を行っています。百貨店の販売促進や固定客の獲得・維持に大きく貢献する役割を担っています。
主に百貨店各社から受け取る取次手数料を収益として認識しています。契約に定める料率等に基づき、お買物カードの使用状況などに応じて手数料収入を得るモデルです。事業の運営は、子会社である井筒屋友の会が行っています。
■(3) その他
主要な報告セグメントに含まれない事業として、情報処理サービス業などの周辺事業を展開しています。
グループ内外へのシステム開発や運用、情報処理サービス等の提供対価が主な収益源です。事業の運営は、持分法適用関連会社であるニシコンが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5期間の業績を見ると、売上高は2022年2月期をピークに減少傾向にあります。近年は物価上昇や節約志向の高まりにより、減収が続いています。経常利益も売上の減少に伴い縮小傾向にあり、利益率も2%台から4%台の間を推移するなど、厳しい事業環境が反映されています。
| 項目 | 2022年2月期 | 2023年2月期 | 2024年2月期 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 531億円 | 226億円 | 225億円 | 222億円 | 213億円 |
| 経常利益 | 10億円 | 11億円 | 9億円 | 7億円 | 5億円 |
| 利益率(%) | 2.0% | 4.8% | 4.2% | 3.3% | 2.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 10億円 | 10億円 | 9億円 | 11億円 | 4億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は約9億円の減少となりましたが、売上総利益率は約50%で安定的に推移しています。一方で、販売費及び一般管理費の高止まりなどにより、営業利益は約4億円の減益となり、営業利益率も低下しています。
| 項目 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 222億円 | 213億円 |
| 売上総利益 | 112億円 | 107億円 |
| 売上総利益率(%) | 50.4% | 50.4% |
| 営業利益 | 10億円 | 6億円 |
| 営業利益率(%) | 4.7% | 2.9% |
販売費及び一般管理費のうち、役員報酬及び給料手当が27億円(構成比約27%)、減価償却費が14億円(同約14%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の売上高を見ると、主力である百貨店業が全体の約99%を占めています。当期は富裕層を中心とした高額品が底堅く推移したものの、物価上昇に伴う消費者の節約志向や来店客数の伸び悩みにより、百貨店業は減収となりました。一方、友の会事業は前年と同水準の売上を維持しています。
| 区分 | 売上(2025年2月期) | 売上(2026年2月期) |
|---|---|---|
| 百貨店業 | 221億円 | 212億円 |
| 友の会事業 | 0.4億円 | 0.4億円 |
| 連結(合計) | 222億円 | 213億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 14億円 | 18億円 |
| 投資CF | -4億円 | -3億円 |
| 財務CF | -16億円 | -17億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.1%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も28.2%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「お客様・お取引先・株主各位ならびに従業員に対し、適正な利益配分を行い、『秩序のうえに立つ創造的繁栄』を図る」ことを経営理念と定めています。また、グループビジョンとして「地域小売業のリーディングカンパニーとして発展していく」ことを掲げており、地域密着型の百貨店としての使命を明確にしています。
■(2) 企業文化
経営理念の実践に向け、「奉仕こそ繁栄の基」という奉仕の精神を日常の実践的心構えとしています。さらに、創業100周年を迎える2035年に向けて、「地域唯一の百貨店として、地域経済・社会の発展に貢献する」という目指す姿を設定し、長年培ってきた「店舗、顧客基盤、井筒屋ブランド、人的資本」を大切にする文化があります。
■(3) 経営計画・目標
「井筒屋グループ中期3ヵ年経営計画(2025年度〜2027年度)」において、当社の資産価値向上と安定的な収益確保の体制構築を目指しています。売上高営業利益率ならびに売上高経常利益率を重要な経営指標とし、最終年度である2027年度に向けて以下の連結業績目標を掲げています。
* 売上高:227億円
* 営業利益:11億円(営業利益率5.0%)
* 経常利益:9億円(経常利益率3.9%)
■(4) 成長戦略と重点施策
「百貨店らしさの追求」を戦略の軸とし、好調なカテゴリーの強化や幅広い世代に向けた売場構築により店舗価値の向上を図ります。また、「デジタルを基軸とした営業施策の強化」として、専用アプリの会員拡大やネットショッピングの強化を進めます。さらに、収益基盤多様化のため地域と連携した新規事業の展開にも注力します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「百貨店らしさの追求」を成し遂げるための最も重要な要素は「人」であると捉え、「人財力」の強化を推進しています。「人財活性化」「人財育成」「働きやすい環境整備」の3つを方針に掲げ、女性や若手、シニア層の活躍推進、接客・デジタル人材の育成、年次有給休暇の取得促進などの人的資本投資を行っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年2月期 | 51.4歳 | 19.2年 | 3,848,550円 |
※平均年間給与は賞与および基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 26.3% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | 68.7% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 71.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 61.2% |
※男性育児休業取得率については、育児休業等取得の対象となる男性従業員がいないため「-」としています。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、障がい者雇用比率(2.8%)、監督職(係長)に占める30代以下の割合(8.6%)、1人当たり年間総労働時間(1,968時間)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 営業基盤および商圏動向に関するリスク
同社グループは北部九州や山口地域を主な営業基盤としており、業績は同地域の気候や景気、消費動向、他社との競合や地域再開発の影響を大きく受けます。これに対し、旗艦店である本店や山口店において魅力的な売場改装を行い、百貨店の強みである商品力・販売力・サービス力を高めることで店舗価値の向上を図っています。
■(2) 商品取引に関するリスク
食品部門における消費者の不安の高まりや、商品取引における契約不適合等が発生した場合、損害賠償や信用の失墜により業績に影響が及ぶ可能性があります。対策として、定期的な「食品検品デー」の実施やHACCPに基づく自主衛生管理マニュアルの策定など、徹底した衛生・品質管理体制を構築しています。
■(3) 各種システム・顧客情報に関するリスク
自然災害やサイバー攻撃等によりシステム障害が発生した場合、店舗営業や決済業務に支障をきたすリスクがあります。また、顧客情報の外部流出は社会的信用の失墜を招きます。同社はシステムに冗長性を持たせてセキュリティ対策を強化するとともに、顧客情報の厳格な施錠保管や入室制限を行い、リスクの低減に努めています。



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