※本記事は、株式会社スクロールの有価証券報告書(第85期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年5月28日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. スクロールってどんな会社?
スクロールは通信販売代行等のソリューション事業と、アパレル・雑貨などの通販事業を展開する企業です。
■(1) 会社概要
1943年に静岡布帛工業として設立され、衣料品や雑貨の通信販売を展開してきました。1996年にはインターネット通販を開始し、2009年にスクロールへ商号変更しました。近年は積極的なM&Aにより、AXESやキャッチボールなどの株式を取得してeコマースやソリューション領域の事業を拡大しています。
従業員数は連結で967名、単体で307名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位にはアパレル商材等で長年の取引関係や資本提携関係がある事業会社の丸紅が名を連ねており、第3位も信託銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.85% |
| 丸紅 | 8.40% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 2.93% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長グループオフィサーCEO兼COOは鶴見知久氏が務めています。社外取締役は6名で構成されています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 鶴見知久 | 代表取締役社長グループオフィサーCEO兼COO 兼務 ダイレクト事業本部長 | 1989年同社入社。ダイレクト事業本部通販インナー統括部長等を経て、2015年取締役社長執行役員に就任。2020年代表取締役社長執行役員を経て、2022年より現職。 |
| 佐藤浩明 | 取締役グループオフィサーCRO兼務 eコマース事業PRS | 1995年同社入社。キノスラ代表取締役社長等を経て、2015年同社取締役に就任。2020年取締役副社長執行役員を経て、2026年より現職。 |
| 山崎正之 | 取締役グループオフィサーCMAO兼務ソリューション事業PRS兼務 M&A戦略室長 | 1988年大和証券入社。フロレゾン代表取締役等を経て、2013年同社執行役員に就任。2017年取締役執行役員を経て、2026年より現職。 |
| 杉本泰宣 | 取締役グループオフィサーCAO兼務グループ管轄事業PRS兼務 経営統括部長 | 1988年同社入社。2012年執行役員ソリューション事業担当に就任。2016年経営統括部長等を経て、2019年取締役執行役員グループ管轄事業PRSに就任し、2022年より現職。 |
社外取締役は、村瀨司(ファンズオン代表取締役社長)、宮部貴之(元L&Sコーポレーション代表取締役社長)、宮城政憲(HRTF代表)、一杉逸朗(元静岡銀行専務執行役員)、小野亜希子(小野公認会計士事務所代表)、馬場知瀨子(元東急百貨店店長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ソリューション事業」「通販事業」「eコマース事業」「グループ管轄事業」を展開しています。
■(1) ソリューション事業
通信販売事業者及びeコマース事業者向けに、物流代行サービス、決済代行サービス、マーケティングサポート、BPOサービスなどの通信販売代行事業を展開しています。顧客のニーズに合わせた付加価値の高いビジネスを提案しています。
収益源はクライアント企業からの各種代行手数料等です。運営はスクロール360、キャッチボール、もしも、ビーボーン、ZonExpert、成都音和娜網絡服務有限公司などの子会社が行っています。
■(2) 通販事業
主に生活協同組合などの顧客に対し、アパレル、インナー、雑貨などの商品を通信販売しています。記録的な猛暑や暖冬といった天候の変化にも対応し、商品企画から販売まで手掛けています。
収益源は、生活協同組合等の提携先や顧客への商品販売代金です。運営は同社を中心に、スクロールインターナショナル、詩克楽商貿(上海)有限公司、SCROLL VIETNAM等の子会社が連携して行っています。
■(3) eコマース事業
個人顧客向けに、ブランド服飾雑貨、アウトドア用品、化粧品、雑貨、防災用品などのeコマース事業を展開し、幅広い商材をインターネット経由で販売しています。
収益源は、一般消費者からの商品販売代金です。運営はAXES、ナチュラム、ミヨシ、キナリなどの子会社が行っています。なお、旅行企画販売事業等からは撤退を決議しています。
■(4) グループ管轄事業
自社グループの保有する物流施設等の不動産賃貸事業や、グループ内及びソリューション事業に関わる物流オペレーション業務全般を展開しています。
収益源は、自社グループ及び外部顧客からの不動産賃料や物流オペレーションの手数料です。運営は同社および同社子会社のスクロールロジスティクスが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の連結業績を見ると、売上高は800億円前後で安定して推移していましたが、直近2期間はソリューション事業の成長などにより増収傾向となり、当期は885億円まで拡大しています。一方、利益面では物価高や不採算事業の撤退、のれんの減損損失計上などにより減少傾向にあり、当期は減益となっています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 814億円 | 810億円 | 798億円 | 840億円 | 885億円 |
| 経常利益 | 71億円 | 62億円 | 55億円 | 64億円 | 62億円 |
| 利益率(%) | 8.7% | 7.6% | 6.9% | 7.6% | 7.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 53億円 | 37億円 | 37億円 | 36億円 | 22億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で増収となり、売上総利益率も41.2%から41.4%へとわずかに改善しています。しかし、販売費及び一般管理費が増加した影響などにより、営業利益率は7.2%から6.5%へと低下し、営業増益には至っていません。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 840億円 | 885億円 |
| 売上総利益 | 346億円 | 367億円 |
| 売上総利益率(%) | 41.2% | 41.4% |
| 営業利益 | 61億円 | 57億円 |
| 営業利益率(%) | 7.2% | 6.5% |
販売費及び一般管理費のうち、広告宣伝費が112億円(構成比36%)、給与及び手当が37億円(同12%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の業績を見ると、ソリューション事業は物流代行等における新規顧客の獲得が奏功して大幅な増収増益を達成し、全体の成長を牽引しています。一方、通販事業は物価高による消費者の生活防衛意識の高まりや天候不順の影響を受け、減収減益となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ソリューション事業 | 299億円 | 364億円 | 9億円 | 16億円 | 4.3% |
| 通販事業 | 390億円 | 367億円 | 52億円 | 42億円 | 11.4% |
| eコマース事業 | 151億円 | 152億円 | 2億円 | 4億円 | 2.5% |
| グループ管轄事業 | 0億円 | 3億円 | 2億円 | 0億円 | 7.6% |
| 連結(合計) | 840億円 | 885億円 | 64億円 | 62億円 | 7.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は営業利益と資産売却で借入返済を進める改善型のキャッシュ・フローです。当期は投資活動によるキャッシュ・フローがプラスとなっていますが、これは主に定期預金の減少によるものであり、営業活動で得た資金とともに借入金の返済や配当金の支払いに充てられている健全な状態を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 61億円 | 69億円 |
| 投資CF | -33億円 | 11億円 |
| 財務CF | -46億円 | -30億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は7.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は63.9%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
スクロールグループは、「社会から信頼される企業であること。」「清く、正しく、美しく、事業を行うこと。」を社是として掲げています。事業の発展と社員の幸福を一致させるべく活動し、顧客、取引先、株主がともに満足を得られる経営を通じて社会に貢献することを基本理念としています。また、将来にわたって目指すべき姿を「すべての『欲しい』を解決する Direct Solution Company」と再定義し、持続的な企業価値の向上を追求しています。
■(2) 企業文化
同社は、社員一人ひとりが自らの業務と経営戦略との接点を見出し、自発的な行動につなげる「自律と挑戦」を重視する組織文化を醸成しています。関連法令や社内規程を遵守するための企業理念「スクロールフィロソフィ」を指針とし、多様性を認め合い個々人の能力を最大限に発揮できる「タスク・ダイバーシティ経営」を推進しています。また、タウンホールミーティングを通じた双方向の対話など、開かれたコミュニケーションによる組織の一体感醸成に努めています。
■(3) 経営計画・目標
創業90周年となる2029年度までに達成すべき目標として中長期ビジョンを掲げ、持続的な成長を実現する企業体への転換を推進しています。中長期的な株主価値の最大化に向け、ROE重視の経営を推進しています。
* ROE15%以上(2029年度目標)
* 連結配当性向60%または連結純資産配当率(DOE)8.5%のいずれか高い方を基準とした累進配当の実施
■(4) 成長戦略と重点施策
ダイレクトマーケティング市場に限定しない事業領域の拡大と、物流や決済、BPOなどのLPB領域への経営資源の集中による「独自性を追求した収益力の強化」を図っています。また、「機動性のあるResponsibility経営の推進」として、環境配慮やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進、タスク・ダイバーシティ経営に取り組んでいます。不採算事業の整理や事業構造改革をもとに資本効率性を高め、成長領域への資源集中を加速させています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
社員の自己研鑽を後押しし、自律型人材への転換と人材開発へ重点を置いています。「PAY FOR ONE+TEAM PERFORMANCE」の人事ポリシーのもと、年齢や勤続年数によらず役割に応じた処遇を行い、目標達成への挑戦プロセスを評価する仕組みを導入しています。新卒向けキャリアチェンジ制度による専門性の早期開発や、ライフステージに応じた柔軟な働き方を選択できる制度を整備し、個人のキャリア形成と組織力向上を連動させる環境を構築しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.9歳 | 11.8年 | 5,965,718円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 34.3% |
| 男性育児休業取得率 | 40.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 71.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 74.1% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | -% |
※「-」は、男性非正規雇用労働者がいないため比較できないことを示します。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、グループ全体の女性管理職比率(30.8%)、グループ全体の男性育児休業取得率(76.9%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 国内市場環境の変化と消費者の購買行動
少子高齢化や物価上昇などによる消費者の購買行動の変化は、同社が取り扱うアパレル、雑貨、化粧品等の需要に影響を与える可能性があります。同社は事業ポートフォリオを継続的に見直し、ソリューション市場での事業拡大や通販事業の高度化経営などにより、高収益を生み出す事業基盤の構築とリスクの最小化に努めています。
■(2) 物流機能とインフラの継続性に関するリスク
事業運営において商品の保管・出荷等の物流業務が非常に重要な機能を担っています。大規模な自然災害やシステムトラブルにより物流業務の実施が困難になった場合、業績に影響が及ぶ可能性があります。同社は関東・東海・関西での物流拠点の多拠点化や、事業継続計画(BCP)の実践的な訓練を通じて、業務の早期復旧と省力化を図っています。
■(3) 人材の確保と育成に関するリスク
新たなビジネスモデルの構築や物流・システムインフラの強化には、専門技術を有する人材や物流倉庫での質の高い人材の長期的な確保が不可欠です。人口減少などにより人材確保が困難になった場合、サービス品質や業務効率に影響する可能性があります。同社は多様な人材の採用・育成や働きやすい環境づくり、業務の機械化による省人化等を進めています。



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