※本記事は、株式会社アダストリア の有価証券報告書(第75期、自 2024年3月1日 至 2025年2月28日、2025年5月30日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
なお、同社は現在、株式会社アンドエスティHDに商号変更しています。
1. アダストリアってどんな会社?
「グローバルワーク」や「ニコアンド」など多様なブランドを展開するカジュアルファッション専門店チェーンです。
■(1) 会社概要
同社の起源は1953年に設立された株式会社福田屋洋服店に遡ります。その後、メンズカジュアルウェアへの進出を経て、2000年に株式を店頭上場し、2004年には東京証券取引所市場第一部に上場しました。2013年に持株会社体制へ移行し、2015年のグループ再編を経て現在の商号となりました。2017年には米国アパレル企業の持分を取得し、海外展開も進めています。
連結従業員数は6,944名、単体では4,919名です。筆頭株主は株式会社フクゾウで、第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口)、第3位は繊維商社の豊島株式会社です。株式会社フクゾウは同社の発行済株式の36.62%を保有しており、安定的な株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 株式会社フクゾウ | 36.62% |
| 日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) | 7.16% |
| 豊島株式会社 | 4.27% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性3名の計11名で構成され、女性役員比率は27.3%です。代表取締役社長は木村治氏が務めています。社外取締役比率は54.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 福田 三千男 | 代表取締役会長 | 1971年5月同社入社。1993年代表取締役社長、2004年代表取締役会長、2015年代表取締役会長兼CEOなどを歴任。2021年5月より現職。 |
| 木村 治 | 代表取締役社長 | 2011年トリニティアーツ代表取締役社長。2016年同社常務取締役、2018年取締役副社長を経て2022年5月より現職。2025年4月より新アダストリア社代表取締役会長も務める。 |
| 北村 嘉輝 | 専務取締役 | 1999年ファイブフォックス入社。2007年ドロップ入社。トリニティアーツ取締役営業本部長、同社上席執行役員営業統括本部長などを経て2024年5月より現職。 |
| 福田 泰生 | 専務取締役 | 2004年イムズ入社。2005年ポイント入社。Adastria Asia Co.,Ltd.董事長、同社コミュニケーションデザイン本部長、経営企画本部長などを経て2024年5月より現職。 |
| 遠藤 洋一 | 取締役常勤監査等委員 | 1985年同社入社。2010年代表取締役。アダストリアホールディングス代表取締役社長、ユナイテッドアローズ上席執行役員などを経て2024年5月より現職。 |
社外取締役は、水留浩一(FOOD & LIFE COMPANIES取締役特別顧問)、松岡竜大(ライズ・コンサルティング・グループ代表取締役社長COO)、シェイクスピア悦子(グーグル執行役員)、リュウシーチャウ(サニーサイドアップ代表取締役社長)、海老原和彦(元JPモルガン証券)、茂木香子(サウスゲイト法律事務所パートナー)です。
2. 事業内容
同社グループは、「アパレル・雑貨関連事業」および「その他」事業を展開しています。
■アパレル・雑貨関連事業
「グローバルワーク」「ニコアンド」「ローリーズファーム」などのカジュアルファッションブランドやライフスタイル提案型ブランドを国内外で展開しています。国内では実店舗に加え、自社ECサイト「and ST」の運営を行っています。海外では中国、香港、台湾、タイ、フィリピン、米国などで店舗展開を行っています。
収益は、一般消費者への商品販売による売上が中心です。運営は、国内では同社を中心に、株式会社BUZZWIT(EC専業ブランド)、株式会社エレメントルール(大人向けファッション)、株式会社アンドエスティ(ECサイト運営)などが行っています。アジア地域では各国の現地法人が、米国ではVelvet,LLCなどが事業を行っています。
■その他(飲食事業)
「アロハテーブル」などのブランドを擁し、飲食事業を展開しています。魅力あるコンテンツで街を活性化させるという思想のもと、店づくりを通じた街づくりを推進しています。国内外合わせて76店舗を展開しています。
収益は、一般消費者への飲食サービスの提供による売上です。運営は主に株式会社ゼットンが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は順調に拡大傾向にあります。特に直近の第75期では過去最高の売上高を記録しました。一方、利益面では第74期まで増加傾向にありましたが、第75期は経常利益、当期利益ともに減益となりました。利益率は5%台で推移しています。
| 項目 | 2021年2月期 | 2022年2月期 | 2023年2月期 | 2024年2月期 | 2025年2月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 1,839億円 | 2,016億円 | 2,426億円 | 2,756億円 | 2,931億円 |
| 税引前利益 / 経常利益 / 営業利益 | 30億円 | 82億円 | 120億円 | 184億円 | 160億円 |
| 利益率(%) | 1.6% | 4.1% | 5.0% | 6.7% | 5.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -5億円 | 44億円 | 66億円 | 88億円 | 108億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は増加していますが、売上総利益率は低下しています。これに伴い、営業利益および営業利益率も低下しており、収益性の改善が課題となっています。
| 項目 | 2024年2月期 | 2025年2月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,756億円 | 2,931億円 |
| 売上総利益 | 1,524億円 | 1,603億円 |
| 売上総利益率(%) | 55.3% | 54.7% |
| 営業利益 | 180億円 | 155億円 |
| 営業利益率(%) | 6.5% | 5.3% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び賞与が426億円(構成比29%)、地代家賃が404億円(同28%)を占めています。売上原価については、商品仕入高が主な構成要素となっています。
■(3) セグメント収益
主力のアパレル・雑貨関連事業は増収となりましたが、利益面では減益となりました。一方、その他(飲食事業)は増収となりましたが、利益面では損失を計上しています。全体として売上規模は拡大しているものの、利益率の低下が見られます。
| 区分 | 売上(2024年2月期) | 売上(2025年2月期) |
|---|---|---|
| アパレル・雑貨関連事業 | 2,628億円 | 2,786億円 |
| その他事業(報告セグメントに含まれない事業) | 128億円 | 145億円 |
| 報告セグメント及びその他合計 | 2,756億円 | 2,931億円 |
| 連結(合計) | 2,756億円 | 2,931億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、営業活動で得た資金を借入金の返済や配当の支払いに充てつつ、将来の成長に向けた投資も自己資金の範囲内で行っている「健全型」のキャッシュ・フロー状態にあります。
| 項目 | 2024年2月期 | 2025年2月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 222億円 | 214億円 |
| 投資CF | -99億円 | -170億円 |
| 財務CF | -56億円 | -71億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.1%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.9%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「なくてはならぬ人となれ なくてはならぬ企業であれ」を企業理念に掲げています。「Play fashion!」のミッションの下、ファッションを通じて人々の心を豊かにし、幸せにすることを使命としています。持続可能な成長を目指し、顧客一人ひとりの毎日を楽しくする選択肢を提供することで、社会・業界の課題解決への貢献を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「Play fashion!」をミッションとし、ファッションを通じて人生を楽しむことを重視しています。企業理念の「なくてはならぬ人となれ」に基づき、従業員一人ひとりが顧客の生活を豊かにするために行動することを求めています。変化を恐れず、常に新しい価値を創造し続ける姿勢が組織全体に浸透しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は2030年2月期を最終年度とする「中期経営計画2030」を策定しています。2025年9月1日よりアンドエスティホールディングス株式会社へ改称し、ホールディングス体制へ移行する予定です。自社EC「and ST」をプラットフォームへと進化させ、グループ各社がシナジーを創出しながら成長を目指します。
■(4) 成長戦略と重点施策
今後の成長戦略として、プラットフォーム事業、グローバル事業、ブランドリテール事業の3つを柱としています。プラットフォーム事業では自社EC「and ST」のモール化とメディア化を推進し、外部企業の出店加速やBtoB事業を展開します。グローバル事業では東南アジアへの投資を加速し、OMO戦略を展開します。
* 自社EC「and ST」の流通総額1,000億円を目指す
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、「アダストリアで働くすべての人が、新しい価値 Play fashion!を創出する」を基本方針とし、多様な個性の成長支援を行っています。現場起点を重視し、DX人材の採用強化やSNSを活用した「スタッフボード」による個人の活躍推進など、従業員が挑戦できる環境整備に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年2月期 | 33.3歳 | 9.1年 | 4,534,168円 |
※平均年間給与には、給与及び賞与のほか、福利厚生費の一部(住宅手当、帰省手当、配転手当)を含めております。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 管理職に占める女性労働者の割合 | 34.9% |
| 男性労働者の育児休業取得率 | 76.5% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 61.2% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 66.0% |
| 労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) | 106.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、上級管理職比率(19.8%)、ストレスチェック受検率(92.5%)、健康診断受診率(95.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 国内市場の縮小
事業の約9割を国内で展開しているため、少子高齢化や人口減少による国内アパレル市場の縮小が業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、海外市場の開拓や、国内でのライフスタイルブランド開発、自社ECサイトの活用による事業の多様化と顧客基盤の拡大を図り、成長の継続を目指しています。
■(2) 展開国の地理的・政治的リスク
海外での事業展開や生産において、予期せぬ法規制の変更、政治・経済の混乱、災害等が生じた場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。特に商品の大半を生産する中国等の情勢変化は、商品供給に支障をきたす恐れがあります。生産地の分散化や東南アジアへの市場拡大により、リスク低減を図っています。
■(3) 為替変動・原価高騰
商品の大半を海外生産しているため、円安による原価上昇のリスクがあります。また、エネルギー価格の高騰や生産国の人件費上昇も原価増加の要因となります。為替予約の活用や、ASEAN諸国への生産分散、素材共通化によるコスト削減に取り組み、品質を維持しつつ原価低減に努めています。



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