※本記事は、いちご株式会社 の有価証券報告書(第25期、自 2024年3月1日 至 2025年2月28日、2025年05月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. いちごってどんな会社?
「心築(しんちく)」を軸に不動産の価値向上を図るサステナブルインフラ企業です。
■(1) 会社概要
2000年3月に前身となるピーアイテクノロジーが設立され、2002年11月に大証ナスダック・ジャパンへ上場しました。2008年に持株会社体制へ移行し、同年10月にスコット キャロン氏が代表執行役会長に就任。2010年にいちごグループホールディングスへ商号変更し、2015年11月には東証一部(現プライム)へ指定替えとなりました。2016年9月、現社名であるいちごへ商号変更しています。
同社グループの連結従業員数は671名(単体109名)です。筆頭株主は会長のスコット キャロン氏が代表を務める運用会社が投資一任契約に基づき運用権限を持ついちごトラスト・ピーティーイー・リミテッドで、52.83%を保有しています。第2位以降にはモルガン・スタンレーMUFG証券などの金融機関が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| いちごトラスト・ピーティーイー・リミテッド | 52.83% |
| モルガン・スタンレーMUFG証券 | 5.10% |
| MACQUARIE BANK LIMITED DBU AC | 4.96% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性16名、女性3名の計19名で構成され、女性役員比率は15.8%です。代表執行役会長経営統括はスコット キャロン氏、代表執行役社長経営統括は長谷川 拓磨氏です。社外取締役比率は55.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| スコット キャロン | 取締役取締役会議長指名委員報酬委員コンプライアンス委員代表執行役会長経営統括 | バンカーズ・トラスト、モルガン・スタンレー等を経て、2006年いちごアセットマネジメント社長。2008年同社入社、代表執行役会長。ジャパンディスプレイ会長CEO等を歴任。 |
| 長谷川 拓磨 | 取締役指名委員長報酬委員長コンプライアンス委員長代表執行役社長経営統括 | フジタを経て2002年同社入社。ファンド事業統括などを経て2015年より代表執行役社長。いちごECOエナジー取締役会長などを兼任。 |
| 山内 章 | 執行役副会長特別補佐 | 丸紅、大和リアル・エステート・アセット・マネジメント社長・会長、大和証券グループ本社常務執行役員等を経て2023年より現職。 |
| 石原 実 | 取締役執行役副社長兼COO会長社長補佐、サステナブルインフラ事業本部管掌 | 間組を経て2007年同社入社。管理部門責任者、宮交シティ社長等を経て2015年より現職。サステナブルインフラ事業本部等を管掌。 |
| 村井 恵理 | 取締役専務執行役コーポレート本部管掌 | フジタを経て2002年同社入社。財務部長、総務人財本部長、いちご大学学長などを経て2024年より現職。コーポレート本部管掌。 |
| 吉松 健行 | 常務執行役ブランドコミュニケーション部担当 | 大日本製薬、クリードを経て2007年同社入社。管理本部長、広報IR部長等を経て現職。ブランドコミュニケーション部担当。 |
| 坂松 孝紀 | 常務執行役財務本部管掌 | 2006年同社入社。財務本部経理部長、財務本部長等を経て現職。財務本部管掌。 |
社外取締役は、藤田 哲也(元アクサ生命保険社長)、川手 典子(公認会計士・税理士)、中井戸 信英(元SCSK会長)、宇田 左近(元東京電力福島原子力発電所事故調査委員会調査統括)、田中 精一(元双日副社長CFO)です。
2. 事業内容
同社グループは、「アセットマネジメント」「心築」「いちごオーナーズ」「ホテル」「クリーンエネルギー」および「その他」事業を展開しています。
■(1) アセットマネジメント
J-REIT、インフラ投資法人、セキュリティ・トークンおよび私募不動産ファンドの運用を行っています。投資主価値の最大化に向け、投資魅力が高い物件の発掘、心築による価値向上、売却による利益を実現します。
収益は、ファンド運用に係るベース運用報酬や取得・譲渡・運用成果に応じた各種手数料です。運営は、主としていちご投資顧問、いちご地所、いちごリアルティマネジメントが行っています。
■(2) 心築
同社の信条「心で築く、心を築く」のもと、現存不動産に新しい価値を創造する事業です。賃料収入を享受しつつ、同社の不動産技術とノウハウを最大限活用することにより、不動産の価値向上を実現します。
収益は、保有不動産からの賃料収入(ストック収益)および価値向上後の売却による売却益(フロー収益)です。運営は、同社およびいちご地所、株式会社セントロなどが行っています。
■(3) いちごオーナーズ
不動産オーナー向けに、企画から品質管理、商品組成、販売まで一貫したサービスを提供する事業です。外部デベロッパーに委託するファブレス事業により、顧客ニーズに合致した商品提供に特化しています。
収益は、不動産の販売による売却益(フロー収益)および保有期間中の賃料収入(ストック収益)です。運営は、いちごオーナーズが行っています。
■(4) ホテル
心築技術とノウハウを礎に、自社ブランドホテルの展開、ホテルオペレーション、DXの提供まで多面から現存ホテルに新しい価値を創造する事業です。保有とホテルオペレーションの一体化により価値向上を図ります。
収益は、ホテル運営による宿泊料収入、保有ホテルの賃料収入、およびホテル売却による売却益です。運営は、ワンファイブホテルズ、いちご地所などが行っています。
■(5) クリーンエネルギー
不動産の有効活用およびエネルギー自給率向上への貢献を目指し、太陽光発電を主軸とする発電事業を行っています。地域に優しく安全性に優れた発電所の開発と運営を手掛けています。
収益は、電力会社等への売電による収入(ストック収益)です。運営は、主にいちごECOエナジーが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は増加傾向にあり、2025年2月期は836億円に達しました。利益面では、経常利益が直近5期間で72億円から138億円へと拡大し、利益率は16%台で推移しています。当期純利益も順調に伸長し、2025年2月期は152億円と過去最高水準を更新しています。
| 項目 | 2021年2月期 | 2022年2月期 | 2023年2月期 | 2024年2月期 | 2025年2月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 614億円 | 569億円 | 681億円 | 827億円 | 836億円 |
| 経常利益 | 72億円 | 75億円 | 108億円 | 104億円 | 138億円 |
| 利益率(%) | 11.7% | 13.1% | 15.9% | 12.6% | 16.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 50億円 | 65億円 | 94億円 | 121億円 | 152億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の業績を比較すると、売上高は微増ながら、売上総利益率は25.2%から30.5%へと大きく改善しました。これに伴い営業利益も大幅に増加し、営業利益率は19.5%へ上昇しています。収益性の向上が顕著です。
| 項目 | 2024年2月期 | 2025年2月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 827億円 | 836億円 |
| 売上総利益 | 209億円 | 255億円 |
| 売上総利益率(%) | 25.2% | 30.5% |
| 営業利益 | 130億円 | 163億円 |
| 営業利益率(%) | 15.7% | 19.5% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が20億円(構成比22.1%)、賞与手当が10億円(同11.1%)を占めています。
■(3) セグメント収益
ホテル事業と心築事業が大幅な増益となり、全体の利益成長を牽引しました。アセットマネジメント事業も増収増益で好調です。一方、いちごオーナーズ事業は減収減益となりましたが、依然として一定の利益を確保しています。クリーンエネルギー事業は安定的に推移しています。
| 区分 | 売上(2024年2月期) | 売上(2025年2月期) | 利益(2024年2月期) | 利益(2025年2月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| アセットマネジメント | 25億円 | 40億円 | 15億円 | 26億円 | 66.2% |
| 心築 | 122億円 | 181億円 | 55億円 | 80億円 | 44.2% |
| いちごオーナーズ | 524億円 | 395億円 | 55億円 | 33億円 | 8.4% |
| ホテル | 98億円 | 159億円 | 68億円 | 92億円 | 57.7% |
| クリーンエネルギー | 59億円 | 61億円 | 19億円 | 17億円 | 28.1% |
| 連結(合計) | 827億円 | 836億円 | 130億円 | 163億円 | 19.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
なお、同社は在庫を多く抱える事業を主力としているため、営業CFのマイナスは棚卸資産(商品・販売用不動産等)の増加(事業拡大)に起因している可能性があり、必ずしも業績悪化を意味するものではありません。
| 項目 | 2024年2月期 | 2025年2月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -86億円 | -284億円 |
| 投資CF | -25億円 | 54億円 |
| 財務CF | 178億円 | 196億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は14.1%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は27.3%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「日本を世界一豊かに。その未来へ心を尽くす一期一会の『いちご』」という経営理念を掲げています。「心で築く、心を築く」を信条とし、既存の不動産に新しい価値を創造する「心築」を通じて、日本における「100年不動産」の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は3つの行動指針を定めています。「プロフェッショナル」として顧客との信頼関係構築と自己研鑽に努め、「ベンチャー・スピリット&ダイバーシティ」を大切に革新的な経営を目指し、「チームワーク」を通じて顧客へ貢献することを重視しています。
■(3) 経営計画・目標
長期VISION「いちご2030」を掲げ、2030年2月期までのKPIとして、資本生産性やキャッシュ創出力、安定収益、株主還元に関する目標を設定しています。
* キャッシュROE:18%以上
* ROE:15%以上
* ストック収益比率:60%以上
* ストック収益固定費カバー率:200%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
サステナブルインフラ企業として、心築事業やクリーンエネルギー事業の深化と、新たなインフラへの参入による収益基盤の強化を図ります。心築とITの融合により、ハードとソフトの両面から顧客価値を向上させ、ストック収益比率を高めることで、安定的かつ高収益な事業構造の構築を目指します。
* DOE(株主資本配当率):4%以上
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
全員がプロフェッショナルとして、ベンチャー・スピリットとチャレンジ精神を持ち、多様なバックグラウンドを持つメンバーが認め合う組織を目指しています。企業内大学「いちご大学」を通じて役職員の学びを支援し、専門性の向上を図るとともに、女性管理職比率の向上や健康経営の推進など、働きがいのある環境整備に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年2月期 | 43.0歳 | 6.6年 | 11,470,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 38.5% |
| 男性育児休業取得率 | 20.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 74.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 95.0% |
| 男女賃金差異(非正規) | 85.4% |
※女性管理職比率は提出会社、その他の指標は主要な連結子会社(ワンファイブホテルズ株式会社)の実績です。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、シーズン休暇取得率(100%)、健康診断受診率(100%)、メンタルヘルスケア研修受講率(93.6%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 不動産市況の動向
経済環境の悪化により賃貸需要が低下した場合、不動産市場の流動性が低下し、保有不動産を想定時期や価格で売却できなくなる可能性があります。また、賃料の低下により収益が悪化するリスクもあります。同社は市場変動への耐性を検証し、長期的かつ安定的な運用が可能な物件への投資を行っています。
■(2) 災害等の影響
運用する不動産や発電設備が所在する地域で地震、台風などの自然災害が発生した場合、資産価値が毀損し、賃料収入や売電収入が減少する可能性があります。同社はPML値の基準設定やハザードマップの確認、防災設備の検証を行い、災害への耐性を持つ資産の取得に努めるとともに、災害時の対応体制を整備しています。
■(3) 感染症拡大によるリスク
感染症の拡大によりホテル宿泊需要の減少やテナントの業況悪化が生じた場合、賃料減免や未収が発生し、保有不動産の収益性低下による評価損などが計上される可能性があります。同社はテナントとの連携強化や、テレワーク体制の構築などにより、事業継続性の確保に努めています。
■(4) 有利子負債への依存および金利の動向
事業資金の一部を金融機関からの借入により調達しているため、金利上昇時に調達コストが増加する可能性があります。同社は借入の固定化やデリバティブ取引(金利スワップ等)の活用により、金利変動リスクの低減を図っています。



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