※本記事は、いちごの有価証券報告書(第26期、自 2025年3月1日 至 2026年2月28日、2026年5月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. いちごってどんな会社?
同社は、既存の不動産に新たな価値を創造する「心築」を中核事業とするサステナブルインフラ企業です。
■(1) 会社概要
2000年にピーアイテクノロジーとして設立され、2001年にアセット・マネジャーズへ合併・商号変更しました。2002年の上場を経て、2015年に現在の東証プライム市場へ市場変更し、2016年に現社名のいちごへと商号を変更しています。
同社グループの従業員数は連結で729名、単体で116名です。筆頭株主はシンガポールを拠点とするファンドのいちごトラスト・ピーティーイー・リミテッドであり、第2位に証券会社、第3位に資産管理業務を行う信託銀行が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| いちごトラスト・ピーティーイー・リミテッド | 55.99% |
| モルガン・スタンレーMUFG証券 | 4.58% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 4.51% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性17名、女性3名の計20名で構成され、女性役員比率は15.0%です。代表執行役社長は長谷川拓磨氏が務めています。取締役9名中5名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| スコット キャロン | 取締役会議長・代表執行役会長 | モルガン・スタンレー証券等を経て、2006年いちごアセットマネジメント代表取締役社長。2008年より現職。 |
| 長谷川拓磨 | 代表執行役社長 | フジタを経て、2002年同社入社。ファンド事業統括部長等を歴任し、2015年より現職。 |
| 石原実 | 執行役副社長兼COO | 間組を経て、2007年同社入社。総務人事部長、管理部門責任者等を歴任し、2015年より現職。 |
| 村井恵理 | 専務執行役 | フジタを経て、2002年同社入社。財務部長、総務人財本部長等を歴任し、2024年より現職。 |
社外取締役は、藤田哲也氏(元アクサ生命保険社長・監査委員長)、川手典子氏(クレアコンサルティング代表)、中井戸信英氏(元SCSK社長)、宇田左近氏(元ビジネス・ブレークスルー大学副学長)、田中精一氏(元双日副社長CFO)です。
2. 事業内容
同社グループは、「アセットマネジメント」「心築」「ホテル」「いちごオーナーズ」「クリーンエネルギー」事業を展開しています。
■アセットマネジメント
J-REITや私募不動産ファンドの運用等を行う事業です。主に投資法人やファンド等を顧客としています。
投資魅力の高い物件の発掘等を通じてファンド等から運用報酬(フィー収入)を受け取っており、同社やいちご投資顧問などが運営しています。
■心築
現存不動産に新しい価値を創造する事業です。主にオフィスや商業施設のテナント等を入居者としています。
保有期間中の賃料収入(ストック収益)と価値向上後の売却益(フロー収益)を得ており、同社やいちご地所などが運営しています。
■ホテル
自社ブランドホテルの展開やホテルオペレーションを行う事業です。観光・ビジネス用途の宿泊客を対象としています。
独自のレベニューマネジメントシステムによる宿泊料等の収益と物件の売却益を得ており、ワンファイブホテルズなどが運営しています。
■いちごオーナーズ
不動産オーナー向けに企画から品質管理、販売まで一貫して商品を提供する事業です。投資家や不動産オーナーを顧客としています。
外部デベロッパーに委託するファブレス体制のもとで不動産の販売収入等を得ており、いちごオーナーズが運営しています。
■クリーンエネルギー
不動産の有効活用とエネルギー自給率向上を目指す、太陽光発電等を主軸とする事業です。
主に電力会社に対して電力を供給し、長期間にわたる売電収入を得ており、いちごECOエナジーなどが運営しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は概ね右肩上がりの成長を続けており、経常利益も直近で大きく拡大しています。利益率も高い水準で推移しており、堅調な事業拡大と収益力の向上が見られます。
| 項目 | 22年2月期 | 23年2月期 | 24年2月期 | 25年2月期 | 26年2月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 569億円 | 681億円 | 827億円 | 836億円 | 927億円 |
| 経常利益 | 75億円 | 108億円 | 104億円 | 138億円 | 171億円 |
| 利益率(%) | 13.1% | 15.9% | 12.6% | 16.5% | 18.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 65億円 | 94億円 | 121億円 | 152億円 | 166億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の成長に伴い売上総利益も増加し、売上総利益率および営業利益率ともに改善傾向にあります。
| 項目 | 25年2月期 | 26年2月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 836億円 | 927億円 |
| 売上総利益 | 255億円 | 301億円 |
| 売上総利益率(%) | 30.5% | 32.5% |
| 営業利益 | 163億円 | 204億円 |
| 営業利益率(%) | 19.5% | 22.0% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が21億円(構成比22%)、賞与手当が11億円(同11%)、租税公課が10億円(同11%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の心築事業がいちごオーナーズ事業とともに売上高の多くを牽引しており、各事業で安定した収益基盤を形成しています。
| 区分 | 売上(25年2月期) | 売上(26年2月期) |
|---|---|---|
| アセットマネジメント | 40億円 | 40億円 |
| 心築 | 181億円 | 275億円 |
| ホテル | 159億円 | 152億円 |
| いちごオーナーズ | 395億円 | 397億円 |
| クリーンエネルギー | 61億円 | 62億円 |
| 連結(合計) | 836億円 | 927億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
なお、同社は在庫を多く抱える事業を主力としているため、営業CFのマイナスは棚卸資産(商品・販売用不動産等)の増加(事業拡大)に起因している可能性があり、必ずしも業績悪化を意味するものではありません。
| 項目 | 25年2月期 | 26年2月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -284億円 | -219億円 |
| 投資CF | 54億円 | 147億円 |
| 財務CF | 196億円 | 97億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は14.6%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は26.6%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「日本を世界一豊かに。その未来へ心を尽くす一期一会の『いちご』」を経営理念に掲げています。同社はサステナブルインフラ企業として、不動産技術とノウハウを活用し、現存不動産に新しい価値を創造する「心築」による資産価値の向上を図り、サステナブルな社会の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
行動指針として「プロフェッショナル」「ベンチャー・スピリット&ダイバーシティ」「チームワーク」を定めています。創造性と多様性を大切にし、積極的な姿勢で革新的な経営を目指すとともに、お客様との永続的な信頼関係を築き、高品質なサービスを提供することに集中する文化です。
■(3) 経営計画・目標
長期VISION「いちご2030」のもと、持続性と安定性の高い新たな収益基盤の構築を目指し、以下のKPI目標を掲げています。
・キャッシュROE:18%以上
・ROE:15%以上
・ストック収益比率:60%以上(2030年2月期)
・ストック収益固定費カバー率:200%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
サステナブルな社会の実現に向け、事業活動を通じて環境課題の解決に取り組みます。オフィス等の心築事業における価値向上や、クリーンエネルギー事業での電源多様化(バイオマス発電や系統用蓄電池)など、持続性と安定性の高い収益基盤を構築することで事業の深化と新たな成長分野の開拓を推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
性別、年齢、国籍に囚われない多様な人材登用を人財ポリシーとしています。役職員一人ひとりが主体的に学び続ける場として企業内大学「いちご大学」を開校するほか、フレックスタイム制やリモートワーク制度、短時間勤務制度等を導入し、柔軟な働き方を支える環境整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 26年2月期 | 43.6歳 | 7.0年 | 11,651,000円 |
※平均年間給与には、業績連動賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 40.0% |
| 男性育児休業取得率 | 16.4% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 78.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 90.0% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 94.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、シーズン休暇取得率(100%)、健康診断受診率(99.6%)、メンタルヘルスケア研修受講率(93.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 不動産市況の動向
経済環境の悪化による賃貸需要の低下により、保有不動産を想定時期および価格で売却できなくなる可能性や、賃料の低下による収益への悪影響が懸念されます。同社は市場変動への耐性を検証し、長期的かつ安定的な運用が可能な物件を取得してリスクの低減を図っています。
■(2) 災害等の影響
運用する不動産や発電設備が所在する地域で地震等の災害が発生した場合、資産価値が毀損し、賃料や手数料収入が減少する可能性があります。同社は取得時に防災設備の検証等を行うとともに、災害情報ネットワークを構築して迅速な対応体制を整備しています。
■(3) 感染症拡大によるリスク
感染症の拡大に伴い、ホテル宿泊需要の大幅な減少やテナントの業況悪化が発生した場合、不動産の収益性低下による評価損等が生じる可能性があります。これに対し、金融機関との情報連携やテレワーク体制の構築などにより、業務推進体制の確保に取り組んでいます。
■(4) 有利子負債への依存および金利の動向
事業における借入金への依存度が高いため、金利水準の上昇が資金調達コストの増加や不動産価格の下落を招く可能性があります。同社は一定割合について金利スワップ取引等を利用し、金利上昇リスクをヘッジする対策を講じています。



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