記事タイトル:「ウイングアーク1st転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態」
※本記事は、ウイングアーク1st株式会社の有価証券報告書(第10期、自 2025年3月1日 至 2026年2月28日、2026年5月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. ウイングアーク1stってどんな会社?
企業の基幹業務を支える帳票・文書管理とデータエンパワーメントソリューションを提供するIT企業です。
■(1) 会社概要
同社は、2004年に他社のソフトウェア事業を譲り受けてウイングアークテクノロジーズとしてソフトウェアの製造・販売を開始したのが現在の事業のルーツです。その後、MBOや組織再編などを経て2016年に現在の法人が実質的な事業を承継しました。2021年に東京証券取引所へ株式を上場しています。
同社グループは連結で1,126名、単体で836名の従業員を擁しています。筆頭株主は伊藤忠商事グループで資本業務提携先のIW.DXパートナーズで、第2位も資本業務提携先である事業会社の東芝デジタルソリューションズ、第3位は資産管理業務を行う信託銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| IW.DXパートナーズ | 21.98% |
| 東芝デジタルソリューションズ | 13.24% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 7.04% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役社長執行役員CEOは田中潤氏が務めています。社外取締役比率は36.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 田中潤 | 代表取締役社長執行役員CEO | 1999年エリスネット入社。2004年同社入社。フォー・クルー社長などを経て2018年代表取締役社長に就任。2021年より現職。エバーフォース等の取締役も兼務。 |
| 内野弘幸 | 取締役会長 | 1979年多摩ユーザック入社。1992年翼システムに入社し情報企画事業部長を務める。2004年同社代表取締役社長に就任。各種関連会社の役員を歴任し2018年より現職。 |
| 島澤甲 | 取締役執行役員事業統括担当CTO | 2004年インクステクニカルサービス入社。2009年フォー・クルー(現同社)入社。同社BI技術本部長を経て2016年執行役員CTOに就任。2021年より現職。 |
| 藤本泰輔 | 取締役執行役員CFO | 1994年東興建設入社。複数企業を経て2007年同社入社。2010年経理財務部長に就任し、2016年に執行役員CFO兼管理本部長。2021年より現職。 |
社外取締役は、山澤光太郎(元日本取引所グループ専務執行役)、矢島孝應(元ヤンマー取締役)、岡田俊輔(東芝上席常務執行役員)、飯泉香(元トレンドマイクロ執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「データエンパワーメント事業」の単一セグメントですが、提供サービスにより「帳票・文書管理」と「データエンパワーメント」の2つのソリューションを展開しています。
■(1) 帳票・文書管理ソリューション(BDS)
企業の基幹業務に必須となる請求書や納品書などの業務帳票から公的機関の各種証明書まで、社会の様々な場所で帳票の作成や出力、管理を行うソフトウェアおよびサービスを提供しています。国内で最も多く利用されている帳票基盤「SVF」や、電子文書の保管・流通を一元管理する「invoiceAgent」が主力です。
収益は、ソフトウェアの販売や導入支援のほか、保守サポート、クラウドサービスの利用料、サブスクリプションによる継続的な料金などから得ています。主にシステムインテグレーターなどのパートナー企業を通じてエンドユーザーに販売されており、運営は同社や文雅科信息技術(大連)などの子会社が行っています。
■(2) データエンパワーメントソリューション(DE)
企業内外の様々なデータを収集、蓄積し、分析・可視化することで、生産性の向上や新たなビジネス価値を生み出す情報分析基盤ソフトウェアやクラウドサービスを提供しています。超高速でビッグデータを処理する「Dr.Sum」や、データをチャートや地図上でリアルタイムに可視化する「MotionBoard」が主力です。
ソフトウェアライセンスの販売に加え、継続利用を前提とした保守サービスやクラウド利用料、サブスクリプションが主な収益源です。また、大規模案件の要件定義から導入までを支援するプロフェッショナルサービスによるコンサルティング料も得ています。運営は同社やエバーフォース、トラエボなどの子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績を見ると、企業のデジタルトランスフォーメーション投資の拡大やクラウドサービスの普及を背景に、売上収益は毎期順調に拡大を続けています。利益面においても、積極的な投資を行いつつもリカーリングビジネス(継続課金)の伸長が寄与し、高い利益水準を維持しながら連続して増益を達成しています。
| 項目 | 2022年2月期 | 2023年2月期 | 2024年2月期 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 198億円 | 223億円 | 258億円 | 287億円 | 309億円 |
| 税引前利益 | 59億円 | 59億円 | 73億円 | 83億円 | 91億円 |
| 利益率(%) | 29.8% | 26.2% | 28.4% | 28.8% | 29.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 44億円 | 44億円 | 54億円 | 59億円 | 65億円 |
■(2) 損益計算書
主力であるソフトウェア事業の特性上、売上総利益率は非常に高い水準で推移しています。継続課金を前提とするリカーリングビジネスの拡大により売上総利益が増加し、成長投資による人件費や委託費の増加を吸収して営業利益率も改善しています。
| 項目 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|
| 売上収益 | 287億円 | 309億円 |
| 売上総利益 | 227億円 | 235億円 |
| 売上総利益率(%) | 79.1% | 76.1% |
| 営業利益 | 82億円 | 90億円 |
| 営業利益率(%) | 28.6% | 29.1% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が36億円(構成比21%)、給料及び賞与が25億円(同15%)、のれん償却額が17億円(同10%)を占めています。
■(3) セグメント収益
同社グループは「データエンパワーメント事業」の単一セグメントで事業を展開しています。クラウドビジネスの好調や、サブスクリプションモデルへの移行が進んだことにより、継続契約を前提としたリカーリングレベニューが順調に積み上がり、増収増益に貢献しています。
| 区分 | 売上(2025年2月期) | 売上(2026年2月期) | 利益(2025年2月期) | 利益(2026年2月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 連結(合計) | 287億円 | 309億円 | 82億円 | 90億円 | 29.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、本業で安定して稼いだ資金を元に成長投資と借入金の返済等をバランスよく行う「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年2月期 | 2026年2月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 82億円 | 72億円 |
| 投資CF | -17億円 | -29億円 |
| 財務CF | -48億円 | -58億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は14.6%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は51.8%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「Empower Data, Innovate the Business, Shape the Future. 情報に価値を、企業に変革を、社会に未来を。」というビジョンを掲げています。社会に存在する様々なデータを活用することで多くの企業にイノベーションをもたらし、その結果としてより良い社会を実現することを目指して経営を行っています。
■(2) 企業文化
ビジョンの実現にあたり、同社は強みの源泉を「お客様との信頼」であると捉え、「Build the Trust(相手の期待を超える結果を出し、信頼される。)」というコアバリューを掲げています。イノベーションマインドとチームワークを醸成するため、全社的な目標公開や対話を重ね、個人と組織が共に成長する文化を育んでいます。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2022年に発表した5カ年の中期経営方針において、「企業のDXを推し進めるデータプラットフォームの実現」を柱に据え、クラウドビジネスでの大きな成長を計画しています。2027年2月期に向けて以下の数値目標を掲げています。
* クラウド成長率 年平均40%
* リカーリング比率 75%
* クラウド比率 40%
* EBITDA 120億円
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営方針に基づき、企業間取引の変革を実現する「企業間DX」と、生産性向上や新規ビジネス創出に資する「企業内DX」に取り組みます。迅速な導入が可能なクラウドサービスの強化や、継続課金によるリカーリングビジネスの維持向上を推進するほか、総務省が主導する自治体情報システムの標準化に向けた公共・自治体領域への進出に注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、社員一人ひとりを最大の資産と捉え、クラウドやデジタルトランスフォーメーションに精通した人材の獲得と育成を中長期的な成長に不可欠な要素と位置付けています。主体性を重視した研修制度による自律的な成長支援や、フルリモートワーク、居住地選択の自由化など多様な社員のパフォーマンスを最大化する働き方の整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年2月期 | 41.0歳 | 6.2年 | 7,613,818円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 16.4% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 78.7% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 79.7% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 67.7% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性比率(26.3%)、離職率(5.2%)、有休取得率(71.4%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 情報通信業における技術革新等への対応
生成AIやIoTなどの新技術への対応が遅れた場合や、主力製品である帳票開発ソフトウェアの必要性がペーパーレス化等で減少し需要が低下した場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 競合の存在による競争環境の激化
同社の主力である帳票・文書管理やビジネスインテリジェンスのソフトウェアは、類似製品と競合状態にあります。市場動向を的確に捉えられず優位性が低下した場合、シェア縮小や価格競争に巻き込まれるリスクがあります。
■(3) クラウドサービスの安定稼働とインフラ障害
同社はクラウドサービスの開発・運営を行っていますが、通信インフラの障害や提携先クラウド基盤のシステムダウン、サイバー攻撃等によりサービスが正常に稼働しない状態となった場合、信用低下やコスト増加につながる可能性があります。
■(4) 優秀な専門人材の確保と育成
事業の運営は経験豊富なエンジニアや営業などの専門人材に依存しています。人材市場の需給逼迫により必要な人材をタイムリーに確保できない場合、事業や成長戦略の推進に制約を受けるリスクがあります。



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