※本記事は、日本精鉱の有価証券報告書(第131期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 日本精鉱ってどんな会社?
樹脂等の難燃剤に使われるアンチモン製品と電子部品向けの金属粉末の製造を主力とする非鉄金属メーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1935年に中瀬鉱業として設立され、1936年に現在の日本精鉱に社名を変更しました。1948年にアンチモン製錬所を竣工し、1949年に株式上場を果たしました。2000年に日本アトマイズ加工を子会社化して金属粉末事業へ本格参入し、近年は高糖度トマトの栽培事業なども展開しています。
従業員数は連結で263名、単体で86名です。筆頭株主は事業会社の福田金属箔粉工業で、第2位は原料の仕入先である川嶋、第3位も事業会社の三光となっています。事業提携関係のある企業が上位株主に名を連ねており、安定した株主構成が特徴です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 福田金属箔粉工業 | 17.96% |
| 川嶋 | 9.87% |
| 三光 | 9.87% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長は植田憲高氏が務めており、取締役6名のうち2名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 植田 憲高 | 代表取締役社長 | 1987年同社入社。営業部長、中瀬製錬所長などを経て、2022年6月より現職。 |
| 若林 武則 | 専務取締役 | 1986年同社入社。中瀬製錬所長、企画管理部長などを歴任し、2023年6月より現職。 |
| 松田 恭二 | 取締役営業部長 | 1986年同社入社。大阪営業所長、営業部長等を経て、2021年6月より現職。 |
| 大西 芳太郎 | 取締役企画管理部長 | 双日を経て2021年同社入社。企画管理部長を務め、2023年6月より現職。 |
社外取締役は、升野勝之(元トクヤマ取締役)、山本佳久栄(福田金属箔粉工業取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「アンチモン事業」「金属粉末事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) アンチモン事業
各種プラスチック材料に添加される難燃剤やポリエステル・アクリル系樹脂の触媒などに使用される三酸化アンチモン、ブレーキ材料向けの三硫化アンチモンなどを製造・販売しています。自動車、家電製品、OA機器など多岐にわたる産業分野の顧客へ製品を提供しています。
製品の販売から収益を得ており、同社が直接販売するケースと代理店を通じて販売するケースがあります。事業の運営は主に同社が行っていますが、中国国内市場での販売や原料調達については連結子会社の日テイ精礦(上海)商貿有限公司が担っています。
■(2) 金属粉末事業
電子部品用の導電ペースト向け銅粉・貴金属粉や、パワーインダクタ用軟磁性材としての鉄系合金粉、精密モーター軸受・自動車部品向けの粉末冶金用金属粉末などを製造・販売しています。電子部品の小型化・高性能化に伴う微細粉末のニーズに応えています。
自動車部品や電子機器部品メーカーなどに対する金属粉末の販売を主な収益源としています。同事業の運営は、主に連結子会社の日本アトマイズ加工が行っています。また、一部の製品については同社を通じた販売も行われています。
■(3) その他
報告セグメントに含まれない事業として、本社ビルの一部を賃貸する不動産賃貸事業や、高糖度トマトの養液ハウス栽培事業(アグリ事業)などを展開しています。
不動産の賃貸収入や農産物の販売収入から収益を得ています。これらの事業の運営は同社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、前半は一時的に売上と利益が落ち込んだものの、直近2期間で急激な成長を遂げています。特に当期はアンチモン地金の国際相場上昇や製品販売価格の改定効果などにより、売上高は409億円、経常利益は60億円となり、大幅な増収増益を記録しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 171億円 | 159億円 | 156億円 | 252億円 | 409億円 |
| 経常利益 | 22億円 | 8億円 | 7億円 | 35億円 | 60億円 |
| 利益率(%) | 13.1% | 5.0% | 4.5% | 14.0% | 14.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 8億円 | 7億円 | 3億円 | 22億円 | 42億円 |
■(2) 損益計算書
収益性の推移を見ると、売上高の急増に伴い売上総利益も拡大しており、売上総利益率は約20%弱で推移しています。販管費の増加を抑えつつ規模を拡大したことで、営業利益率は前期の14.3%から当期は14.9%へと向上し、高い収益性を確保しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 252億円 | 409億円 |
| 売上総利益 | 50億円 | 77億円 |
| 売上総利益率(%) | 19.7% | 18.9% |
| 営業利益 | 36億円 | 61億円 |
| 営業利益率(%) | 14.3% | 14.9% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が3億円(構成比16%)、役員賞与引当金繰入額が1億円(同8%)、運賃・保管料が1億円(同7%)を占めています。売上原価については、大部分が原材料の仕入や製造費用で構成されています。
■(3) セグメント収益
主力事業はいずれも好調に推移しています。アンチモン事業は原料相場の上昇に伴う販売価格の上昇や生産効率の改善により大幅な増収増益となりました。金属粉末事業も、銀相場の高騰を受けた販売価格の上昇などにより着実に業績を伸ばしています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| アンチモン事業 | 158億円 | 294億円 | 31億円 | 54億円 | 18.4% |
| 金属粉末事業 | 93億円 | 115億円 | 5億円 | 7億円 | 6.1% |
| その他 | 0.4億円 | 0.4億円 | - | - | - |
| 連結(合計) | 252億円 | 409億円 | 36億円 | 61億円 | 14.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -9億円 | 76億円 |
| 投資CF | -6億円 | -11億円 |
| 財務CF | 6億円 | -20億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は30.8%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も62.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「環境と安全そして成長を最重要課題と認識し、社会との共存を図り、より豊かで快適な生活環境を創るために必要な物づくりの一翼を担うことに誇りを持って、たゆむことなく挑み続ける」ことを基本理念としています。また、お取引先様の立場に立ったサービスの提供、法令・規則の遵守、環境をたいせつにすること等を経営理念に掲げています。
■(2) 企業文化
同社は、グループ社員が安全で衛生的な労働環境のもと、いきいきと活動し、自らの能力と使命を存分に発揮することができる機会と職場を創る「魅力ある職場を創ります」という価値観を大切にしています。また、優れた品質とサービスを提供することで安定した収益を確保し、常に高い目標に向かって成長を続ける企業文化を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、創立100周年となる2035年時点の「ありたい姿」を想定した長期ビジョンの実現に向け、2025年度からの3カ年中期経営戦略を策定しています。「第2の創生(創立100周年)に向けた基盤づくりのための挑戦と変革」をテーマに掲げ、最終年度である2027年度において以下の数値目標を設定し、企業価値の向上を目指しています。
・連結営業利益(3年間平均):30億円以上
・ROE(3年間平均):10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営戦略のもと、「グループ連携の更なる強化」「既存事業の競争力強化とグローバル展開への挑戦」「最適な事業ポートフォリオの構築と新規事業の創出」「人的資本の充実とESGへの取り組み」を基本方針としています。アンチモン事業では生産プロセスのDX化や高付加価値製品の販売を推進し、金属粉末事業では電子部品向け金属粉末の拡大や新製品開発に注力します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社グループは、基本理念に掲げる物づくりに挑み続けることができる人財の育成と、多様な人財が活躍できる働きやすい環境の構築を人材戦略の基本方針としています。中長期的な企業価値向上のため、グループ合同研修による人財育成や、1on1ミーティングの実施、資格手当制度の導入などを通じて、社員の自律的なキャリア形成と継続的な学習意欲の向上を支援しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.5歳 | 16.8年 | 7,922,245円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.1% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | 78.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 89.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 63.9% |
※男性労働者の育児休業取得率について、有報には記載の省略理由は明記されていません。
また、同社は「サステナビリティ」のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(82.3%)、平均残業時間(8.7時間)、管理職の中途採用者比率(67%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 経済活動の状況
同社の製品は自動車、家電、OA機器など多岐にわたる産業分野で使用されるため、最終需要業界の生産動向に影響を受けます。中東情勢の悪化による原油価格の上昇や景気変動、地政学リスクの高まりなどが生じた場合、国内外の経済状況が悪化し、同社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 原料地金の調達と価格変動
アンチモン事業における主力製品の原料は主に中国などから輸入していますが、資源国の輸出管理や環境政策により供給不足となるリスクがあります。また、原料地金はドル建てで輸入するため為替や相場の変動リスクを伴います。同社は供給元の多様化や在庫の適正化により調達リスクの低減に努めています。
■(3) 競合と市場環境の変化
三酸化アンチモン市場では、海外製品との競合が存在します。中国の輸出管理の影響により輸入品の構成が変化する中、欧州製品などとの競争が激化しています。同社は生産プロセスのDX化や原価低減を進めるとともに、顧客ニーズに合った高付加価値製品の販売に注力し、競争力の維持・向上を図っています。
■(4) 大規模災害等による操業停止
大地震や台風などの自然災害、火災、設備故障により工場が長期間操業停止に陥った場合、顧客への製品納入に支障をきたすリスクがあります。同社は生産拠点の複数体制化や事業継続計画(BCP)の策定・訓練を実施し、風水害や未知の感染症にも対応できる体制づくりを進めています。



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