※本記事は、日本コークス工業株式会社 の有価証券報告書(第22期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本コークス工業ってどんな会社?
コークスの製造・販売を主力事業とし、石炭等の燃料販売や化工機製造、港湾物流なども展開する企業です。
■(1) 会社概要
同社は1889年に三井組が三池炭鉱の払下げを受けたことに始まり、1911年に三井鉱山として設立されました。その後、2008年に新日本製鐵(現・日本製鉄)および住友商事の持分法適用関連会社となり、2009年に現在の日本コークス工業へ商号を変更しました。2022年の市場区分見直しを経て、現在は東証プライム市場に上場しています。
同社グループ(連結)の従業員数は993名、同社(単体)では488名です。大株主の構成は、筆頭株主は同社と業務提携関係にある大手製鉄会社で、第2位は同じく業務提携関係にある総合商社です。第3位は資産管理業務を行う信託銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本製鉄 | 22.55% |
| 住友商事 | 19.43% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 6.68% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性0名の計9名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は松岡弘明氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 松岡 弘明 | 代表取締役社長 | 新日本製鐵入社。執行役員棒線事業部長、常務執行役員大阪支社長などを経て、2021年日本コークス工業顧問・取締役副社長に就任。2022年4月より現職。 |
| 森 俊一郎 | 常務取締役 | 三井鉱山入社。日本コークス工業経営企画部担当部長、執行役員コークス部長などを歴任。2023年6月より現職。 |
| 井伊 誠一郎 | 常務取締役 | 三井鉱山入社。日本コークス工業燃料販売部長、執行役員燃料・資源リサイクル事業部長などを歴任。2025年6月より現職。 |
社外取締役は、德永直之(住友商事炭素ユニット長)、宮内直孝(元日本製鋼所代表取締役社長)、森尻善雄(室町ビルサービス代表取締役会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「コークス事業」「燃料・資源リサイクル事業」「総合エンジニアリング事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) コークス事業
北九州事業所で生産するコークスおよび副産物を、国内外の鉄鋼会社等に直接販売しています。コークスは製鉄等の原料として不可欠な素材です。
収益は、鉄鋼会社等の顧客から受け取る製品の販売代金等から得ています。運営は主に同社が行っているほか、連結子会社の日本コークス工業東北などの販売会社へも販売を行っています。
■(2) 燃料・資源リサイクル事業
海外から輸入した一般炭および石油コークスをセメント会社や製紙会社等に販売しています。また、産業廃棄物処理およびリサイクル事業、コールセンター事業も展開しています。
収益は、需要家からの燃料販売代金や、廃棄物処理に伴う処理料等から得ています。運営は同社のほか、三美鉱業などの連結子会社が行っています。
■(3) 総合エンジニアリング事業
栃木工場で製造する粉粒体装置・機器等を販売しています。また、機械・電気工事の一部施工、産業機械等の製造および修理も行っています。
収益は、機器の販売代金や工事代金等から得ています。運営は同社のほか、連結子会社の有明機電工業およびサンテックが行っています。
■(4) その他事業
大牟田地区を中心に港湾荷役および貨物輸送を行っています。また、社有地の開発・賃貸事業および仲介・分譲事業も行っています。
収益は、港湾荷役料や貨物輸送運賃、不動産の賃貸料や分譲収入等から得ています。運営は同社のほか、連結子会社の三池港物流などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年3月期から2024年3月期までは、売上高の変動はあるものの黒字を維持していましたが、2025年3月期に業績が急激に悪化しました。売上高は1000億円を割り込み、経常損益、当期純損益ともに大幅な赤字に転落しています。これはコークス事業における生産トラブルや市況悪化が主な要因です。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 879億円 | 1,247億円 | 1,741億円 | 1,352億円 | 990億円 |
| 経常利益 | 65億円 | 115億円 | -8億円 | 36億円 | -103億円 |
| 利益率(%) | 7.3% | 9.2% | -0.4% | 2.7% | -10.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 38億円 | 70億円 | -15億円 | 15億円 | -145億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を比較します。売上高の大幅な減少に加え、売上原価率の上昇により売上総損益が赤字に転落しました。さらに販売費及び一般管理費の負担も重なり、営業損益も大幅な赤字となっています。収益構造が大きく悪化したことがわかります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,352億円 | 990億円 |
| 売上総利益 | 106億円 | -21億円 |
| 売上総利益率(%) | 7.8% | -2.1% |
| 営業利益 | 44億円 | -86億円 |
| 営業利益率(%) | 3.2% | -8.6% |
販売費及び一般管理費のうち、積揚地諸掛が16億円(構成比25%)、給料及び賃金が9億円(同15%)を占めています。売上原価は1,012億円で、売上高を上回る状態となっており、収益性を圧迫しています。
■(3) セグメント収益
コークス事業は販売数量減少と単価下落、製造コスト増により大幅な赤字となりました。燃料・資源リサイクル事業も需要家の燃料転換の影響で減収減益です。一方、総合エンジニアリング事業は増収増益となり、その他事業も堅調でしたが、主力事業の落ち込みを補うには至りませんでした。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| コークス事業 | 838億円 | 587億円 | 1億円 | -124億円 | -21.1% |
| 燃料・資源リサイクル事業 | 388億円 | 272億円 | 37億円 | 28億円 | 10.2% |
| 総合エンジニアリング事業 | 88億円 | 93億円 | 16億円 | 21億円 | 22.3% |
| その他 | 37億円 | 38億円 | 6億円 | 6億円 | 15.6% |
| 調整額 | -31億円 | -29億円 | -16億円 | -16億円 | - |
| 連結(合計) | 1,352億円 | 990億円 | 44億円 | -86億円 | -8.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 108億円 | -32億円 |
| 投資CF | -99億円 | -167億円 |
| 財務CF | -4億円 | 188億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-28.4%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は31.8%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
人類の活動に不可欠な資源や素材と高付加価値技術を社会に供給し続けることにより、存在価値のある企業として、よりよい社会環境の構築に貢献するとともに、人類社会の永続的発展に寄与することを目指しています。また、独自の企画・提案力によるソリューションビジネスの展開を掲げています。
■(2) 企業文化
社会的に信頼される新しい企業文化の創造を目指し、環境保全への配慮、地域社会との共生、企業倫理の徹底など、社会の一員としての責任を果たすことを重視しています。また、企業活動を通じた社員の自己実現と生活の安定・充実を図ることを理念として掲げています。
■(3) 経営計画・目標
健全な財務体質を維持しつつ、企業価値を高めるための各種施策や安定的な配当を実施するため、中期的には以下の経営指標を目標として掲げています。
* 連結経常利益:50億円以上
■(4) 成長戦略と重点施策
主力であるコークス事業の競争力強化を図りつつ、非コークス事業の基盤を強化して多面的な利益構造の確立を目指しています。ESG経営にも取り組み、2050年カーボンニュートラルに向けて具体的な施策を推進しています。
* コークス事業:老朽炉の更新や修繕による安定操業維持、水素・アンモニア供給体制の構築等による新収益源開拓。
* 非コークス事業:バイオマス燃料などカーボンニュートラル対応商品の拡大、粉体処理技術のソリューションビジネス化。
* ESG経営:安全・環境・防災体制の確立、CO2削減・回収技術の開発。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
あらゆる人権と多様性を尊重するとともに、社員が安全で働きやすい環境を確保し、意欲を持って自己実現を図れる職場作りに努める方針です。また、ダイバーシティを意識した人財育成を掲げ、女性や中途採用者、外国人等の管理職比率向上を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 40.8歳 | 15.7年 | 5,943,641円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | -% |
| 男性育児休業取得率 | 36.4% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 72.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 71.4% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 85.5% |
※女性管理職比率については、同社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒総合職採用の女性比率(40%)、女性、中途採用、外国人等の管理職比率(19.4%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 需給および市況の変動
エネルギー関連素材である石炭・コークスの仕入・製造・販売を行っており、国内外の経済状況や需給状況の変動により、価格および数量が大きく変動する可能性があります。これにより、同社グループの経営成績、財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 海外情勢の変動
石炭、石油コークス、バイオマス燃料等を海外から輸入しているため、輸入先における自然災害、政治・経済環境の変化、規制変更、人権問題等により、仕入価格の高騰や供給遅延・停止が発生した場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) コークス炉の更新・事故等
北九州事業所のコークス炉は稼働から長期間経過しており、老朽化対策や修繕コストが増加する可能性があります。2024年12月に発生した火災事故のように、設備トラブルや災害により生産量が大きく変動し、業績に重大な影響を与える可能性があります。



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