熊谷組 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

 熊谷組 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する熊谷組は、土木工事および建築工事を主軸とする総合建設企業です。最新の有価証券報告書によると、一部子会社での手持ち工事の減少などにより減収となったものの、建築事業における受注時の利益率向上や不採算工事の影響減少等により、大幅な増益を達成しています。


※本記事は、株式会社熊谷組の有価証券報告書(第89期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 熊谷組ってどんな会社?


土木・建築を中心とする総合建設事業と周辺関連事業を展開する企業です。

(1) 会社概要


1898年に個人経営の土木建築請負業として開業し、1938年に株式会社へ組織を改めました。1945年に建築部門へ進出し、事業を拡大しました。1971年には東京および大阪の証券取引所市場第一部に上場を果たしています。その後、全国に支店を展開し、子会社を設立するなどグループ体制を強化してきました。

従業員数は連結4,507名、単体2,740名です。大株主については、筆頭株主は事業会社の住友林業で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。

氏名 持株比率
住友林業 15.19%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 10.13%
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 8.09%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性2名の計12名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長は上田真氏、代表取締役は岡市光司氏が務めています。社外取締役比率は41.7%です。

氏名 役職 主な経歴
上田 真 取締役社長(代表取締役)執行役員社長 1984年同社入社。建築事業本部長などを経て2024年4月より現職。
岡市 光司 取締役(代表取締役)執行役員副社長技術担当、新事業担当、国際事業担当 1984年同社入社。土木事業本部長などを経て2024年4月より現職。
谷口 弘恭 取締役専務執行役員管理本部長、コンプライアンス担当、危機管理担当 1986年同社入社。管理本部人事総務部長などを経て2024年4月より現職。
小野 哲男 取締役専務執行役員土木事業本部長、安全担当、品質・環境担当 1986年同社入社。名古屋支店長などを経て2024年4月より現職。
伊藤 泰治 取締役専務執行役員建築事業本部長、住友林業協業推進担当 1986年同社入社。中四国支店長などを経て2024年4月より現職。
佐藤 建 取締役 1978年住友林業入社。同社代表取締役などを経て2022年6月より現職。


社外取締役は、岡田茂(元昭和産業取締役会長)、桜木君枝(元福武書店常勤監査役)、奈良正哉(みずほ信託銀行執行役員運用企画部長)、山田章雄(有限責任あずさ監査法人パートナー)、上田美帆(サンライズ法律事務所パートナー)です。

2. 事業内容


同社グループは、「土木事業」「建築事業」「子会社」の報告セグメントで事業を展開しています。

(1) 土木事業


同事業では、治山・治水、鉄道、道路等の土木一式工事の調査、企画、設計、施工、監理、その他総合的エンジニアリングなどを提供しています。官公庁や民間企業を主な顧客としています。

収益は、顧客から受け取る土木工事の請負代金などが主な源泉です。事業の運営は主に熊谷組が中心となって行い、ガイアートなどの子会社も施工協力を通じて事業に関わっています。

(2) 建築事業


同事業では、集合住宅、事務所・庁舎、工場・発電所等の建築一式工事の調査、企画、設計、施工、監理、その他総合的エンジニアリングなどを提供しています。民間企業や官公庁を主な顧客としています。

収益は、顧客から受け取る建築工事の請負代金などが主な源泉です。事業の運営は主に熊谷組が中心となって行い、関連会社の笹島建設なども建設事業を営み、施工協力を通じて事業に関わっています。

(3) 子会社


同事業では、建設事業のほか、建設用資機材の製造販売、建設技術商品の提供、保険事業および事務代行事業などを提供しています。同社グループ内の企業や外部の顧客を対象としています。

収益は、顧客から受け取る製品の販売代金やサービスの提供対価などが主な源泉です。事業の運営は、テクノスが建設用資機材の製造販売を、テクニカルサポートが保険・事務代行事業を、ファテックが建設技術商品の提供を行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は4000億円台で安定して推移しており、増減を繰り返しています。経常利益は一時減少傾向にありましたが、直近の期では受注時利益率の改善などにより大幅に回復し、利益率も5.5%まで上昇しています。当期純利益も直近で大きく伸長しました。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 4252億円 4035億円 4432億円 4986億円 4877億円
経常利益 237億円 122億円 130億円 144億円 270億円
利益率(%) 5.6% 3.0% 2.9% 2.9% 5.5%
当期利益(親会社所有者帰属) 137億円 70億円 53億円 62億円 181億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比でわずかに減少したものの、売上総利益と営業利益は大きく増加しました。特に売上総利益率は前期の7.7%から当期は10.9%へと改善しており、それに伴い営業利益率も5.6%へと上昇し、収益性の向上が確認できます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 4986億円 4877億円
売上総利益 383億円 532億円
売上総利益率(%) 7.7% 10.9%
営業利益 143億円 271億円
営業利益率(%) 2.9% 5.6%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が101億円(構成比39%)、調査研究費が32億円(同12%)を占めています。

(3) セグメント収益


セグメント別の売上高を見ると、土木事業は設計変更の獲得などに伴う出来高の増加により増収となりました。一方、建築事業は前期の大型工事進捗の反動等により減収となり、子会社事業も一部工事の進捗反動等により売上が減少しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
土木事業 1051億円 1160億円
建築事業 2672億円 2555億円
子会社 1263億円 1162億円
連結(合計) 4986億円 4877億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


企業の稼ぐ力を示す営業キャッシュ・フローはプラスとなっており、その資金を元手に投資や借入金の返済を進める「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 82億円 250億円
投資CF -120億円 -65億円
財務CF -165億円 -53億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.9%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は41.8%であり、いずれも市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「建設を核とした事業活動を通して、社会に貢献する企業集団を目指す」ことを経営理念として掲げています。また、グループビジョンとして「高める、つくる、そして、支える。」を掲げ、優れた技術力と豊かな人間力による独自の現場力を高め、機能的な品質だけでなく集う人が満足し続けられる「しあわせ品質」をつくり、時代を超えて社会を支え続けることを目指しています。

(2) 企業文化


同社は、持続可能な社会の形成と自らの成長のため、「ESG取組方針」を定めています。環境、社会、企業統治の視点から重要課題を特定し、事業活動を通じて社会課題解決と事業収益拡大の双方を追求する姿勢を重視しています。また、すべてのステークホルダーとの適切な協働と権利・立場の尊重に努め、健全に事業を運営する企業文化や風土の醸成に取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


同社は、2024年度から2026年度までの中期経営計画において「持続的成長への新たな挑戦」をスローガンに掲げています。これまでの取り組みを継続させて「稼ぐ力」や「選ばれる力」を徹底的に強化するとともに、周辺事業を加速させて両利きの経営を目指しています。具体的な数値目標として以下を掲げています。

* 連結経常利益:300億円(計画期間中)
* ROE:10.0%(2026年度計画値)
* 自己資本比率:45.0%(2026年度計画値)
* 配当性向:40.0%(2026年度計画値)

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、長期的な目標である2035年度の連結経常利益500億円の実現に向け、3つの基本方針のもと成長戦略を推進しています。建設事業の強化を図りつつ、不動産開発や再生可能エネルギーなどの周辺事業への投資を加速させています。

* 国内土木事業:インフラ更新や防災・減災、再生可能エネルギー分野の強化
* 国内建築事業:中大規模木造建築や環境配慮型建築、データセンター分野の拡充
* 周辺事業:不動産開発、洋上・小水力等の再生可能エネルギー事業、技術商品事業への積極投資
* 経営基盤:DX推進による業務効率化とデジタル利活用人材の育成

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、人材を「資本」と捉え、その能力を最大限に引き出すことが中長期的な企業価値向上につながると考えています。中期経営計画では60億円規模の人材投資を計画し、次世代を見据えたスキルアップ支援やキャリアパスの充実、報酬水準の向上に取り組んでいます。さらに、多様な人材が活き活きと働けるよう、ダイバーシティ推進や健康経営、働き方改革を通じた職場環境の整備に注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 44.0歳 18.6年 9,179,351円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.5%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 66.0%
男女賃金差異(正規雇用) 56.2%
男女賃金差異(非正規雇用) 64.8%


また、同社は「人的資本」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新任管理職に占める女性の割合(32.3%)、一級土木施工管理技士保有率(91.3%)、エンゲージメントレーティング(BB)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 建設投資の動向と受注競争


同社の主軸である建設事業は、官公庁の財政状況や民間企業の経済環境によって建設投資の動向が変動します。市場が縮小傾向に向かった場合、競合他社との受注競争が激化し、受注高の減少や工事採算の低下を招くリスクがあります。これに対し、建設市場の質的・量的変化に柔軟に対応できる企業体質の確立に努めています。

(2) 建設資材市況および労務単価の高騰


建設工事請負契約の締結後に、資材価格や労務単価が高騰するリスクがあります。公共工事では契約条項により一定の価格変更が可能ですが、民間工事では発注者との協議となり、コスト増加分を十分に追加請求できない可能性があります。そのため、早期の資材調達や単価上昇を見込んだ見積もりの作成などの対策を講じています。

(3) 建設技能労働者や技術者の不足


建設業界全体での高齢化や若年層の入職率低下により、将来的な労働力不足が懸念されています。技能労働者や施工管理の有資格者が確保できない場合、労務費の高騰や施工能力の縮小により受注機会を逃すリスクがあります。同社は、協力会社と連携した施工体制の強化や、若手技術者の計画的な育成・資格取得支援を進めています。

(4) 自然条件および自然災害の影響


工事施工において、想定外の地質や天候などの自然条件により工法の変更が生じ、コストが増加するリスクがあります。また、地震や豪雨などの自然災害によって現場が被害を受け、工事が中断したり多大な復旧費用が発生したりする恐れがあります。これに対し、事前の綿密な調査や各種保険への加入により、損失の極小化を図っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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