熊谷組 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

 熊谷組 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する準大手ゼネコンです。トンネル工事をはじめとする土木事業と、超高層ビルや住宅などの建築事業を主力としています。第88期は、豊富な手持ち工事の進捗により売上高が増加し、土木事業の利益率改善も寄与して増収増益を達成しました。


#記事タイトル:熊谷組転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

※本記事は、株式会社熊谷組 の有価証券報告書(第88期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 熊谷組ってどんな会社?


トンネル工事や超高層ビル建設に強みを持つ準大手ゼネコンです。インフラ整備から都市開発まで幅広く手がけています。

(1) 会社概要


1898年に福井県で創業し、1938年に株式会社として設立されました。1971年に東京・大阪証券取引所市場第一部に上場を果たし、国内外で数多くの大型プロジェクトに参画してきました。2022年の東京証券取引所の市場区分見直しに伴い、プライム市場へ移行しました。

同グループは連結従業員4,536名、単体2,709名を擁する体制です。筆頭株主は住宅・木材建材事業大手であり資本業務提携を結んでいる住友林業で、21.66%を保有しています。第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)となっています。

氏名 持株比率
住友林業 21.66%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 12.83%
日本カストディ銀行(信託口) 8.10%

(2) 経営陣


同社の役員は男性12名、女性2名の計14名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は上田真氏が務めています。社外取締役比率は28.6%です。

氏名 役職 主な経歴
上田 真 取締役社長(代表取締役)執行役員社長 1984年入社。首都圏支店長、建築事業本部長などを経て、2024年4月より現職。
岡市 光司 取締役(代表取締役)執行役員副社長 1984年入社。関西支店長、土木事業本部長などを経て、2024年4月より現職。技術、安全、品質・環境などを担当。
谷口 弘恭 取締役専務執行役員 1986年入社。管理本部人事総務部長などを経て、2023年4月より管理本部長。コンプライアンス、危機管理を担当。
小野 哲男 取締役専務執行役員 1986年入社。名古屋支店長などを経て、2024年4月より土木事業本部長。
伊藤 泰治 取締役専務執行役員 1986年入社。中四国支店長などを経て、2024年4月より建築事業本部長。
佐藤 建 取締役 1978年住友林業入社。同社代表取締役、執行役員副社長などを歴任し、2022年6月より現職。


社外取締役は、岡田茂(元昭和産業代表取締役会長)、桜木君枝(元ベネッセHD常勤監査役)、吉田栄(元DIC執行役員)、奈良正哉(弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「土木事業」「建築事業」「子会社」事業および「その他」事業を展開しています。

(1) 土木事業


治山・治水、鉄道、道路、橋梁、トンネルなどの社会インフラに関する土木一式工事の調査、企画、設計、施工、監理および総合的エンジニアリングを行っています。官公庁からの公共工事や民間企業からの発注に対応しています。

収益は、発注者である官公庁や民間事業者からの工事請負代金が主な源泉です。この事業の運営は主に熊谷組本体が担当しており、関連会社である笹島建設なども施工協力を行っています。

(2) 建築事業


集合住宅、事務所、庁舎、工場、発電所、教育施設などの建築一式工事において、調査、企画、設計、施工、監理および総合的エンジニアリングを提供しています。個人から法人まで幅広い顧客層を持ちます。

収益は、施主からの工事請負代金が中心です。土木事業と同様に、主に熊谷組本体が運営を担っており、大型建築プロジェクトや都市開発などを推進しています。

(3) 子会社事業


建設事業に加え、建設用資機材の製造販売、建設技術商品の提供などを行っています。主な顧客は建設会社や官公庁、民間事業者です。

収益は、建設工事代金や製品・商品の販売代金です。運営は連結子会社のガイアート(道路舗装・土木等)、テクノス(建設用資機材製造販売等)、ファテック(建設技術商品提供)などが担当しています。

(4) その他事業


上記の報告セグメントに含まれない事業として、保険事業や事務代行事業などを展開しています。

収益は、保険代理店手数料や事務代行手数料などです。運営は連結子会社のテクニカルサポートなどが担当しており、グループ内の事務業務の一部も受託しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は一時的な減少を経て回復基調にあり、直近では5,000億円に迫る規模まで拡大しています。利益面では、原材料価格の高騰などの影響を受けつつも、直近では増益に転じています。当期利益も回復傾向を示しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 4,502億円 4,252億円 4,035億円 4,432億円 4,986億円
経常利益 284億円 237億円 122億円 130億円 144億円
利益率(%) 6.3% 5.6% 3.0% 2.9% 2.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 150億円 137億円 70億円 53億円 62億円

(2) 損益計算書


売上高が増加する中で、売上原価も増加しており、売上総利益率はやや低下傾向にあります。一方で、売上総利益の額自体は増加しており、営業利益の増加に寄与しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 4,432億円 4,986億円
売上総利益 361億円 383億円
売上総利益率(%) 8.1% 7.7%
営業利益 126億円 143億円
営業利益率(%) 2.9% 2.9%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が95億円(構成比40%)、調査研究費が30億円(同12%)を占めています。

(3) セグメント収益


土木事業は好調な受注と利益率改善により増収増益となりました。建築事業は手持ち工事の進捗で大幅な増収となりましたが、資材価格高騰の影響で減益となりました。子会社事業は堅調に推移し増収増益です。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
土木事業 1,001億円 1,051億円 45億円 69億円 6.6%
建築事業 2,278億円 2,672億円 21億円 8億円 0.3%
子会社 1,153億円 1,263億円 60億円 65億円 5.1%
連結(合計) 4,432億円 4,986億円 126億円 143億円 2.9%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.2%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は39.3%で市場平均を上回っています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 170億円 82億円
投資CF -108億円 -120億円
財務CF 223億円 -165億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「高める、つくる、そして、支える。」というビジョンを掲げています。独自の現場力を高め、独自の価値である「しあわせ品質」をつくり、時代を超えて顧客と社会を支え続けることを目指しています。また、2030年以降を見据え、限りある資源が循環し、ひと・社会・自然が豊かであり続ける社会の実現に貢献するという長期構想を持っています。

(2) 企業文化


同社は「独自の現場力」と「しあわせ品質」を重視しています。独自の現場力とは、優れた技術力を豊かな人間力で活かす力と定義されています。しあわせ品質とは、建造物の外形的・機能的な品質に加え、そこに集う人や使う人が満足し続けられる品質を指します。また、ESGの視点から社会課題の解決と事業収益の拡大の両方を追求する姿勢を持っています。

(3) 経営計画・目標


2024年度を初年度とする「中期経営計画(2024~2026年度)」を策定しています。「持続的成長への新たな挑戦」をスローガンに掲げ、2030年度の連結経常利益500億円を2035年度の目標として再設定しました。

* 連結経常利益:300億円(計画期間中)

(4) 成長戦略と重点施策


「建設事業の強化」「周辺事業の加速」「経営基盤の充実」を基本方針としています。建設事業では、インフラ更新や防災・減災、環境配慮型建築などに注力します。周辺事業では、再エネ事業や不動産開発、技術商品販売などを加速させます。経営基盤では、DX推進や人的資本経営に取り組みます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


人材を「資本」と捉え、60億円規模の人財投資を計画しています。持続可能な人員体制構築のための採用活動、次世代を見据えたスキルアップ支援、モチベーション向上のための報酬水準向上、安心して働ける職場環境整備に注力しています。また、ダイバーシティを推進し、多様な人材が活躍できる環境づくりを進めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 44.0歳 18.7年 8,493,850円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.6%
男性育児休業取得率 85.7%
男女賃金差異(全労働者) 63.2%
男女賃金差異(正規雇用) 56.6%
男女賃金差異(非正規雇用) 55.4%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒採用者数(115人)、一級土木施工管理技士保有率(92.8%)、一級建築士保有率(55.2%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 建設投資の動向


主な顧客である官公庁や民間企業の建設投資動向に業績が左右されます。建設投資が縮小に向かった場合、受注競争の激化により受注高の減少や工事採算の低下を招く可能性があります。これに対し、同社は長期構想や中期経営計画に基づき、市場変化に柔軟に対応できる企業体質の確立を目指しています。

(2) 建設資材市況及び労務単価の変動


契約締結後に建設資材価格や労務単価が高騰した場合、工事コストが増加するリスクがあります。公共工事では一定の変更請求が可能ですが、民間工事では追加代金を十分に確保できない可能性があります。同社は、単価上昇を見込んだ見積もりや早期の資材調達などの対策を講じています。

(3) 建設技能労働者の不足


建設業界全体の課題である技能労働者の高齢化と減少が進む中、人材確保が困難になれば労務費の高騰や施工能力の縮小につながる恐れがあります。同社は協力会社組織と連携し、労務単価の引き上げや完全週休二日制への移行など、処遇改善や労働環境の整備に取り組んでいます。

(4) 人財の確保


建設技術者の減少が続く中、必要な資格や経験を持つ技術者を確保できなければ、受注機会の損失につながる可能性があります。同社は中途採用の拡大やジョブ・リターン制度の整備に加え、資格取得支援や社内研修の充実により、技術者の育成と確保に努めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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