奥村組 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

奥村組 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場上場。「堅実経営」と「誠実施工」を掲げ、土木・建築事業を主軸に展開するゼネコン。不動産等の投資開発事業も手掛ける。当連結会計年度は、建築事業の好調により売上高は前期比増収となったものの、大型工事の採算悪化や特別損失の計上により大幅な減益となりました。


※本記事は、株式会社奥村組 の有価証券報告書(第88期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 奥村組ってどんな会社?

土木・建築を中心とした建設事業に加え、不動産や再生可能エネルギーなどの投資開発事業を展開する総合建設会社です。

(1) 会社概要

1907年に創業し、1938年に株式会社化しました。1963年には東京証券取引所市場第一部に上場しています。独自の免震技術やトンネル施工技術に強みを持ち、土木・建築の両分野で実績を積み重ねてきました。近年は再生可能エネルギー事業への参入など、事業領域の拡大を進めています。

連結従業員数は2,505名、単体従業員数は2,419名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)、第2位は奥村組従業員持株会、第3位は資産管理サービスを行う日本カストディ銀行(信託口)となっており、機関投資家や従業員が主要株主となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 15.47%
奥村組従業員持株会 5.55%
日本カストディ銀行(信託口) 4.22%

(2) 経営陣

同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長は奥村太加典氏が務めています。社外取締役比率は38.5%です。

氏名 役職 主な経歴
奥村 太加典 代表取締役社長 1986年同社入社。関西支社次長、東京支社営業部長、常務取締役営業担当などを歴任し、2001年12月より現職。
金重 昌宏 代表取締役専務執行役員営業本部長 1988年同社入社。東日本支社東京支店長、常務執行役員東日本支社長などを経て、2024年4月より現職。
松島 弘幸 代表取締役常務執行役員管理本部長 1990年同社入社。東日本支社副支社長管理担当、西日本支社副支社長管理担当などを経て、2024年6月より現職。
土屋 完 取締役常務執行役員建築本部技術担当 1981年同社入社。安全品質環境本部長、建築本部長などを経て、2025年4月より現職。
小西 邦武 取締役常務執行役員西日本支社長 1989年同社入社。執行役員、西日本支社副支社長建築事業担当などを経て、2024年4月より現職。
樫木 正成 取締役常務執行役員東日本支社長 1989年同社入社。東日本支社土木工務部長、同支社東北支店長などを経て、2024年4月より現職。
中谷 泰之 取締役常務執行役員土木本部長 1990年同社入社。西日本支社土木工務部長、同支社関西支店土木営業統括部長などを経て、2024年4月より現職。
佐々木 晃 取締役(常勤監査等委員) 1990年同社入社。管理本部副本部長兼人事部長、内部統制担当などを経て、2024年6月より現職。


社外取締役は、上田理恵子(マザーネット社長)、小寺哲夫(弁護士・元検事正)、西原健二(公認会計士)、前田栄治(ちばぎん総合研究所社長)、廣瀨恭子(広瀬製作所社長)です。

2. 事業内容

同社グループは、「土木事業」「建築事業」「投資開発事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) 土木事業

トンネル、ダム、橋梁、鉄道、上下水道などの社会インフラ整備に関わる土木工事全般を請け負っています。官公庁からの公共工事や民間企業からのインフラ関連工事が主な対象です。独自のシールドトンネル技術やコンクリート技術などに強みを持っています。

収益は、発注者である官公庁や民間事業者からの工事請負代金等により構成されています。運営は主に同社および関連会社であるオーゼットユーが行っています。

(2) 建築事業

オフィスビル、マンション、商業施設、工場、病院、学校などの建築工事全般を請け負っています。免震・制震技術を活用した安全性の高い建物や、環境配慮型建築(ZEB等)の提案・施工を行っています。

収益は、発注者である民間事業者や官公庁からの工事請負代金等により構成されています。運営は主に同社および関連会社であるオーゼットユーが行っています。

(3) 投資開発事業

不動産の販売および賃貸事業を展開するほか、再生可能エネルギーによる発電・売電事業を行っています。不動産事業ではオフィスビルや賃貸マンション等の保有・賃貸を行い、再生可能エネルギー事業ではバイオマス発電などを手掛けています。

収益は、不動産の購入者やテナントからの販売代金・賃貸料、および電力会社等への売電収入により構成されています。運営は同社、子会社である太平不動産、石狩バイオエナジーおよび平田バイオエナジーが行っています。

(4) その他

建設事業に関連するコンサルティング業務や、建設資機材等の製造・販売、PFI事業(公共施設の建設・維持管理・運営)などを行っています。

収益は、建設資機材の販売代金やPFI事業におけるサービス対価等により構成されています。運営は同社、子会社である奥村機械製作、加須農業集落排水PFI他などが担っています。

3. 業績・財務状況

同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

直近5期間の業績を見ると、売上高は増加傾向にあり、事業規模は拡大しています。一方で利益面では、第88期において経常利益が減少し、当期利益も大きく落ち込んでいます。これは特定の工事での損失計上や子会社の特別損失などが影響したものです。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 2,207億円 2,425億円 2,494億円 2,881億円 2,982億円
経常利益 148億円 140億円 129億円 149億円 89億円
利益率(%) 6.7% 5.8% 5.2% 5.2% 3.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 103億円 125億円 113億円 125億円 27億円

(2) 損益計算書

直近2期間を比較すると、売上高は増加しましたが、売上総利益率は低下しています。これは工事原価や投資開発事業等の原価負担が増加したことによります。また、営業利益および営業利益率も前期と比較して低下しており、収益性の改善が課題となっています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 2,881億円 2,982億円
売上総利益 352億円 317億円
売上総利益率(%) 12.2% 10.6%
営業利益 137億円 97億円
営業利益率(%) 4.8% 3.3%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が76億円(構成比34%)、賞与引当金繰入額が10億円(同5%)を占めています。売上原価では、完成工事原価が2,534億円(売上原価合計の95%)を占めています。

(3) セグメント収益

主力の一つである建築事業は、大型の高採算工事が竣工したことや原価低減が寄与し、利益が前期比で6倍以上に急拡大し、全社で最も利益を稼ぐセグメントに成長しました。

一方で、もう一つの主力である土木事業は、特定の国内大型工事において多額の損失を計上したことが重く響き、利益が半減しています。

さらに、投資開発事業においては、連結子会社である石狩バイオエナジーの爆発事故に伴う商業運転停止や、原因究明の調査費用・維持管理費用などが発生したため、前期の黒字から一転して大幅な赤字を計上しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
土木事業 1,032億円 990億円 96億円 47億円 4.8%
建築事業 1,652億円 1,856億円 9億円 66億円 3.6%
投資開発事業 142億円 79億円 26億円 -21億円 -26.7%
その他 76億円 70億円 6億円 5億円 6.5%
調整額 -21億円 -13億円 0億円 0億円 -
連結(合計) 2,881億円 2,982億円 137億円 97億円 3.3%

出典:有価証券報告書・決算説明資料

(4) キャッシュ・フローと財務指標

本業の営業キャッシュ・フローがマイナスとなる中、金融機関からの借入等(財務CFは約120億円のプラス)を積極的に行い、事業資金を確保している「先行投資フェーズ」にあります。

これは単純な業績不振ではなく、新中期経営計画に基づく戦略的な動きです。今後3年間で保有資産の売却(150億円規模)や外部調達を進め、それを原資に不動産事業や新規事業へ約570億円の積極的な成長投資・基盤投資を行う「多角化への転換期」として読む必要があります。

建設事業に依存しない新しい収益の柱を作るための事業領域拡大に関心がある方や、変革期における組織基盤づくり(人的資本への投資など)に携わりたい方に向いているフェーズです。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF △171億円 △118億円
投資CF 15億円 △15億円
財務CF △43億円 121億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は1.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は45.1%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略

同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

「堅実経営」と「誠実施工」を信条に、社会から必要とされ続ける企業として、社業の発展を通じ広く社会に貢献することを経営理念に掲げています。時代の変化に柔軟に対応し、経営基盤を強化することで、株主の期待に応え、ステークホルダーに信頼・満足・安心を提供することを目指しています。

(2) 企業文化

社会の持続的な発展に貢献するため、社会ニーズの変化を見据えた事業・サービスを展開し、確かな技術と誠実な事業運営を行うことを重視しています。社会の信頼に応え、安心を提供し、関係する全ての人とともに豊かさを分かち合い、成長し続ける企業グループでありたいという思いを共有しています。

(3) 経営計画・目標

将来のありたい姿を示す「2030年に向けたビジョン」の実現を見据え、2025年度から2027年度までの中期経営計画を策定しています。

(4) 成長戦略と重点施策

中長期的な業績拡大に向け、「持続的な成長に向けた経営基盤の強化」を図る方針です。建設事業の収益力・技術力の向上による「企業価値の向上」に取り組みつつ、建設事業に依存しない安定的な収益基盤構築のため「事業領域の拡大」を推進します。また、多様な人材が活躍できる環境整備や人材育成による「人的資源の活用」を目指します。

5. 働く環境

同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

持続的成長のため、「人的資源の活用」を基本方針とし、経営理念を体現できる人材の育成に注力しています。階層別・職種別研修の実施や資格取得支援を行い、ベテランの技術伝承も推進しています。また、働きがいのある環境確保やダイバーシティ推進を通じて、社員一人ひとりのウェルビーイング実現を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 43.0歳 15.5年 9,739,461円


※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでいます。

(3) 人的資本開示

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
管理職に占める女性労働者の割合 4.2%
男性労働者の育児休業取得率 105.1%
労働者の男女の賃金の差異(全労働者) 58.4%
労働者の男女の賃金の差異(正規雇用) 64.7%
労働者の男女の賃金の差異(非正規) 62.4%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒3年以内の離職率(13.5%)、新卒採用者に占める女性比率(17.2%)などです。

6. 事業等のリスク

事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 建設投資の動向

事業ポートフォリオにおいて建設事業の割合が大きいため、公共投資の縮減や民間設備投資の縮小などにより受注環境が悪化し、競争が激化した場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 資材価格及び労務費の変動

原材料価格の高騰や建設技能労働者の不足等により資材価格や労務費が上昇し、そのコスト増加分を請負代金に十分に反映できない場合には、採算が悪化し業績に影響を与える可能性があります。

(3) 契約不適合責任

品質管理には努めていますが、設計や施工において重大な欠陥が発生した場合には、企業評価の悪化や契約不適合責任に基づく損害賠償金の支払い等が生じ、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(4) 労働災害等

安全衛生管理を徹底していますが、万一重大事故や労働災害が発生した場合には、社会的信用の失墜や関係官庁からの行政処分等により、事業活動に支障をきたし業績に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。