Heartseed 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

Heartseed 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

Heartseedは東京証券取引所グロース市場に上場するバイオベンチャーです。iPS細胞由来の心筋細胞を重症心不全患者の心臓に移植する心筋再生医療の確立を目的としています。直近の業績は、提携先からのマイルストン収入により大幅な増収となり、経常利益・当期純利益ともに黒字転換を達成して成長を続けています。


※本記事は、Heartseed株式会社の有価証券報告書(第10期、自 2024年11月1日 至 2025年12月31日、2026年3月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. Heartseedってどんな会社?


iPS細胞由来の心筋球を心臓に移植する心筋再生医療を開発する企業です。

(1) 会社概要


2015年に慶應義塾大学発のバイオベンチャーとして設立されました。2016年に心筋の純化精製に関する特許等を同大学より移管し、2021年にノボノルディスク エー・エスと独占的技術提携を締結しました。2023年には国内治験の投与を開始し、2024年に東京証券取引所グロース市場へ上場を果たしました。

従業員数は単体で43名です。大株主については、筆頭株主が創業者の福田惠一氏で、第2位はSBI Ventures Two、第3位が社外取締役の古川俊治氏となっています。このように創業者や役員、ベンチャーキャピタルが上位株主として名を連ねる構成となっています。

氏名 持株比率
福田 惠一 13.76%
SBI Ventures Two 9.79%
古川 俊治 4.02%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表取締役社長は福田惠一氏が務めています。社外取締役は2名選任されています。

氏名 役職 主な経歴
福田 惠一 代表取締役社長 慶應義塾大学医学部教授等を経て、2016年に同社取締役、2017年に代表取締役社長に就任。同大学名誉教授も務める。
安井 季久央 取締役COO兼経営企画室長 ベイン・アンド・カンパニーやヤンセンファーマ、アボットジャパン等を経て、2019年に同社取締役に就任。2020年より現職。
金子 健彦 取締役CMO兼研究開発本部長 慶應義塾大学等での勤務後、製薬企業各社やサンバイオを経て、2020年に同社取締役に就任。東北大学特任教授も務める。
高野 六月 取締役CFO 三井物産等を経て、2020年に同社へ入社し取締役CFOに就任。2021年に戦略ファイナンス・IR室長を兼務し、2025年より現職。
平野 達義 取締役CAO 日本トイザらスやUMNファーマ等でCFOや代表取締役社長・会長を歴任し、2021年より現職。
河西 佑太郎 取締役 ゴールドマン・サックス証券やベインキャピタル等を経て、2015年に同社設立時代表取締役に就任。2017年より現職。


社外取締役は、古川俊治(慶應義塾大学教授・参議院議員)、出口恭子(PHCホールディングス代表取締役社長CEO)です。

2. 事業内容


同社グループは、「医薬品事業」の単一セグメントで展開しています。

HS-001(開胸投与プログラム)


他家iPS細胞由来の心筋球を、開胸手術によって心臓内に直接移植する治療プログラムです。重症心不全のうち、虚血性心疾患による収縮不全の患者を主な対象としており、冠動脈バイパス手術との併用により細胞への栄養供給を促進し、低下した心臓のポンプ機能を直接的に改善することを目指しています。

収益源として、これまでは提携先からのマイルストン収入を得ていましたが、提携解消に伴い全世界の権利を同社が保持しています。今後は日本国内で条件及び期限付き承認制度を活用した早期承認を目指しており、承認後は医療機関への製品販売を通じた収益化が想定されます。運営は同社が単独で行っています。

HS-005(カテーテル投与プログラム)


他家iPS細胞由来の心筋球を、患者への負担が少ないカテーテルを用いて心臓の内側から投与する次世代の治療プログラムです。虚血性心疾患に加えて拡張型心筋症を原疾患とする重症心不全も対象としており、専用のマッピングカテーテルと投与カテーテルを用いて標的部位へ正確に細胞を移植します。

こちらも全世界の開発・販売等の権利を同社が保持しています。国内では第Ⅰ/Ⅱ相治験の開始に向けて準備を進めており、循環器内科医が施術可能な低侵襲アプローチとしてグローバル展開も視野に入れています。投与デバイスの開発は日本ライフラインと共同で行っており、全体の運営は同社が担当しています。

次世代開発品およびプラットフォーム技術


患者自身の細胞を活用し免疫拒絶の懸念がない自家iPS細胞由来心筋球の開発や、効率的なiPS細胞作製・純化精製技術といったプラットフォーム技術の研究を行っています。これらの技術は、心筋再生医療以外の分野においても細胞治療の実用化に向けた応用が期待されています。

収益源として、同社が保有する純化精製技術などの独自特許やノウハウを、心臓病以外の治療薬を開発する他企業へライセンス供与することによるライセンス収入を得ています。研究開発やライセンス供与などの事業運営は同社が主体となって進められています。

3. 業績・財務状況


同社の業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


研究開発型企業であるため、これまで先行投資による赤字が継続していましたが、直近の事業年度において提携先からのマイルストン収入により大幅な増収となり、経常利益および当期純利益ともに黒字転換を果たしました。研究開発費の増加を吸収して収益化を実現しており、開発の進捗とともに強固な財務基盤の構築が進んでいます。

項目 2021年10月期 2022年10月期 2023年10月期 2024年10月期 2025年12月期
売上高 16億円 5億円 3億円 9億円 30億円
経常利益 -3億円 -14億円 -15億円 -8億円 3億円
利益率(%) -15.6% -282.6% -422.5% -93.7% 9.5%
当期純利益 -3億円 -14億円 -15億円 -8億円 2億円

(2) 損益計算書


大幅な売上増加により、営業利益の黒字化を達成しています。事業の性質上、売上原価は発生しておらず、売上高がそのまま売上総利益となっています。同時に、臨床試験の進展に伴い販売費及び一般管理費も増加していますが、売上の伸びがこれを上回り、利益体質への転換を示しています。

項目 2024年10月期 2025年12月期
売上高 9億円 30億円
売上総利益 9億円 30億円
売上総利益率(%) 100.0% 100.0%
営業利益 -10億円 3億円
営業利益率(%) -118.9% 9.0%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が20億円(構成比74%)、役員報酬が2億円(同7%)、給料及び手当が1億円(同5%)を占めています。なお、同社では売上原価は計上されていません。

(3) セグメント収益


同社は医薬品事業の単一セグメントであるため、全社の売上高がそのまま計上されています。提携先からのマイルストン収入により、売上高は前期比で大きく増加しています。

区分 売上(2024年10月期) 売上(2025年12月期)
医薬品事業 9億円 30億円
合計 9億円 30億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

同社は、開発品が上市され安定的な収益源が確保されるまでの間、営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスとなる傾向があります。

研究開発期間中は、上市までの多額の費用負担から営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなる傾向がありますが、増資や融資契約、補助金活用等で安定的な資金確保に努めています。投資活動においては、開発品上市に向けた研究開発や臨床試験、許認可取得、体制構築等に多額の費用を要します。財務活動では、必要な資金を確保するため増資や融資契約、補助金等の活用を検討しています。

項目 2024年10月期 2025年12月期
営業CF -13億円 11億円
投資CF -0.7億円 0.7億円
財務CF 21億円 4億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、世界の死因の第一位を占める心臓病に焦点を当て、「再生医療で心臓病治療の扉を開く」ことをミッションとして掲げています。重症心不全の抜本的治療法の開発を進め、弱まった心臓を再生心筋で置き換える心筋補填療法を確立し、世界中の患者の生活の質向上と生命予後の改善に貢献することを目指しています。

(2) 企業文化


同社は「再生医療で世界を変える」というビジョンのもと、「命と向き合い続ける」「常に先駆者であれ」といった5つのコアバリューを組織の基盤に据えています。独創的な技術開発と事業運営を担う人材が最大限に能力を発揮できるよう、従業員の自己研鑽を促すとともに、新規参画メンバーとの融合による組織力の向上を重視しています。

(3) 経営計画・目標


研究段階の企業であり販売承認を取得した製品群を保有していないため、現段階ではリードパイプラインを中心とした早期の上市を目指しています。研究開発および臨床試験の進捗状況と、研究開発資金・費用のバランスを注視しながら事業を推進しており、2026年内の患者投与開始などの具体的なマイルストン達成を目標としています。

(4) 成長戦略と重点施策


リードパイプラインの国内第Ⅰ/Ⅱ相試験を完了させ、日本での条件及び期限付き承認制度を活用して早期実用化と販売収益の獲得を目指します。また、カテーテル投与プログラムの国内治験を開始し、低侵襲な治療法としてグローバル市場への展開も検討します。並行して、自社保有のプラットフォーム技術の拡充を図り、事業基盤と財務基盤の強化を推進します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


持続的な成長と中長期的な企業価値向上のため、優秀な人材の確保と定着を最重要課題と位置付けています。外部講師による研修や学会参加への支援を通じたキャリア教育を推進し、ワークライフバランスと健康・メンタルヘルスに配慮した働きやすい環境を構築することで、離職率を低減し組織力の最大化を図る方針です。

(2) 給与水準・報酬設計


同社従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 45.0歳 4.9年 8,885,548円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、法定有給取得率(100%)、研修受講率(100%)、健康診断・人間ドック等受診率(100%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 技術革新及び競合


再生医療やiPS細胞の分野では世界中で研究競争が激しく、飛躍的な技術革新が短期間で進んでいます。競合他社が新たな技術を開発し、同社の技術を上回った場合や関連特許を先に取得した場合、製品の販売が困難になるリスクがあります。同社は大学等と連携して最先端技術の開発に取り組み、動向の把握に努めています。

(2) 再生医療に関連する法規制


同社は条件及び期限付き承認制度を活用して早期実用化を目指していますが、技術革新等に伴う法規制や制度の継続的な見直しにより、審査期間の長期化や臨床試験の追加が求められる可能性があります。また、薬価制度の変更により想定を下回る薬価が算定された場合、事業計画や収益見通しに影響を及ぼす懸念があります。

(3) 特定のパイプラインへの依存


現在は開胸投与プログラムの臨床試験データが概ね出揃う一方で、その他のプログラムは治験準備や基礎研究の初期段階にあります。新規パイプラインの開発が遅延・失敗した場合、収益がリードパイプラインに大きく依存することになり、同製品の開発や販売状況の変動が経営成績に直接的な影響を与えるリスクがあります。

(4) 製造・サプライチェーンの不確実性


医薬品の開発や製造には高度な技術が求められ、原材料の調達や製造プロセスにおいて不具合が生じた場合、治験薬や製品の供給遅延が発生するおそれがあります。投与に用いるカテーテルなどの代替性が低い部材も多く、協力企業からの安定供給が損なわれた場合、臨床試験の中止や販売停止に直結する可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。