※本記事は、ENECHANGE株式会社 の有価証券報告書(第10期、自 2024年1月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ENECHANGEってどんな会社?
「エネルギーの未来をつくる」を掲げ、電力自由化や脱炭素化(GX)を支援するプラットフォームとデータ解析技術を提供するエネルギーテック企業です。
■(1) 会社概要
2013年に英国で前身企業が設立され、2015年に日本法人として設立されました。2016年に電力切替プラットフォームおよび電力会社向けSaaSを開始し、2020年に東証マザーズ(現グロース)へ上場しました。2021年にEV充電サービスを開始しましたが、2025年3月に同事業を中部電力ミライズとの合弁会社へ移管し、持分法適用関連会社化しました。
現在の連結従業員数は186名(単体183名)です。筆頭株主は資本業務提携先のエネルギー商社である伊藤忠エネクス、第2位は同じく業務提携先のメディア運営企業であるポート、第3位は投資ファンドとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 伊藤忠エネクス | 17.32% |
| ポート | 12.10% |
| JICVGIオポチュニティファンド1号投資事業有限責任組合 | 8.89% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性5名、女性2名の計7名で構成され、女性役員比率は28.6%です。代表取締役CEOは丸岡智也氏です。社外取締役比率は28.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 丸岡 智也 | 代表取締役CEO | 日本政策投資銀行、マッキンゼー、ウォルト・ディズニー・ジャパンを経て、2024年より同社CFO等を歴任。2024年9月より現職。 |
| 平田 政善 | 代表取締役会長 | 東芝にて代表執行役専務CFO等を歴任。2024年より同社会長。 |
社外取締役は、安達健祐(元経済産業事務次官)、藤田研一(元シーメンス社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「エネルギープラットフォーム事業」、「エネルギーデータ事業」および「EV充電事業」を展開しています。
■(1) エネルギープラットフォーム事業
家庭および法人ユーザー向けに、最適な電力・ガス会社を選択するための比較・診断・切替申込機能をワンストップで提供しています。主要サービスとして、家庭向けの「エネチェンジ」および法人向けの「エネチェンジBiz」を運営し、電力・ガス切替のデジタルトランスフォーメーションを推進しています。
収益は、提携する電力・ガス会社から受領する成果報酬です。ユーザーが支払う電気・ガス料金に応じた継続的な「ストック型報酬」と、切替時に受領する「一時報酬」があります。運営は主に同社が行っています。
■(2) エネルギーデータ事業
電力・ガス会社向けに、クラウド型のデジタルトランスフォーメーション(DX)サービスを提供しています。デジタルマーケティング支援SaaS「エネチェンジクラウドMarketing」や、デマンドレスポンスサービス「エネチェンジクラウドDR」、再エネ活用支援など、電力自由化や脱炭素化に伴うシステム需要に対応しています。
収益は、電力・ガス会社等の顧客から受領するシステム利用料(ストック型)や、導入・開発時の初期費用(フロー型)から構成されます。運営は主に同社が行っています。
■(3) EV充電事業
電気自動車(EV)の普及に必要な充電インフラの整備を行っています。目的地充電を中心に「EV充電エネチェンジ」のブランドでサービスを展開してきましたが、2025年3月より事業運営体制が変更されました。
2025年3月10日以降、同事業は中部電力ミライズとの合弁会社である「ミライズエネチェンジ株式会社」に移管され、同社が主体となって運営を行っています。同社グループとしては持分法適用関連会社を通じた関与となります。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は着実に拡大傾向にあり、直近の変則決算(15ヶ月)を含め増加基調を維持しています。一方、利益面では経常損失および当期純損失が継続しており、先行投資や減損損失等の計上が影響しています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 30億円 | 37億円 | 44億円 | 67億円 |
| 経常利益 | -0億円 | -12億円 | -24億円 | -21億円 |
| 利益率(%) | -0.1% | -31.0% | -54.9% | -31.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -1億円 | -12億円 | -50億円 | -13億円 |
■(2) 損益計算書
売上総利益率は高い水準を維持していますが、販売費及び一般管理費の負担が大きく、営業損失が続いています。売上規模の拡大に伴い売上総利益は増加していますが、それを上回る販管費等の発生により、損失体質からの脱却が課題となっています。
| 項目 | 2023年12月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 44億円 | 67億円 |
| 売上総利益 | 34億円 | 52億円 |
| 売上総利益率(%) | 76.5% | 78.1% |
| 営業利益 | -21億円 | -36億円 |
| 営業利益率(%) | -48.5% | -54.1% |
販売費及び一般管理費のうち、販売手数料が22億円(構成比25%)、給料及び手当が16億円(同18%)、業務委託費が16億円(同18%)を占めています。売上原価については、内訳の詳細データがありません。
■(3) セグメント収益
エネルギープラットフォーム事業が売上の大半を占め、利益面でも黒字を確保しています。エネルギーデータ事業も増収増益で推移しています。一方、EV充電事業は売上規模に対して巨額の損失を計上していましたが、合弁会社化により連結範囲から外れました。
| 区分 | 売上(2023年12月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2023年12月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| エネルギープラットフォーム事業 | 32億円 | 51億円 | 4億円 | 7億円 | 13.0% |
| エネルギーデータ事業 | 10億円 | 15億円 | 2億円 | 2億円 | 14.7% |
| EV充電事業 | 1億円 | 1億円 | -18億円 | -31億円 | -2154.4% |
| 連結(合計) | 44億円 | 67億円 | -21億円 | -36億円 | -54.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は「積極型」です。本業の営業活動によるキャッシュ・フローはプラスですが、将来の成長に向けた投資活動を積極的に行っており、その資金を株式発行などの財務活動で調達しています。
| 項目 | 2023年12月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -19億円 | 2億円 |
| 投資CF | -14億円 | -34億円 |
| 財務CF | 24億円 | 53億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は当期純損失のため算出できませんが、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は61.2%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「エネルギーの未来をつくる」をミッションとして掲げています。エネルギー分野特化型の「エネルギーテック」企業として、データ活用と相互シナジーを通じた事業展開を行い、脱炭素社会の実現に向けたグリーントランスフォーメーション(GX)を推進することで、カテゴリーリーダーとなることを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、ミッションの実現に向けて3つのバリューを重視しています。「Impact Driven(エネルギーの未来にインパクトを与える)」、「Be A Professional(常に最高のパフォーマンスを出す)」、「Energise The Team(一人で成しえない大きな成果を最高のチームで創る)」です。これらを体現したメンバーを表彰する制度も設けています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、フリーキャッシュ・フローの最大化による企業価値向上を重視しています。具体的な数値目標としては、ストック型収益の基盤となる「継続報酬対象ユーザー数」(エネルギープラットフォーム事業)や「導入顧客数」(エネルギーデータ事業)などを重要な指標として設定しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
エネルギープラットフォーム事業では、パートナーシップ拡大による集客強化とクロスセルによるARPU向上を目指します。エネルギーデータ事業では、電力・ガス会社のDXニーズに対し、マーケティング支援やデータ解析サービスを提供して競争力を強化します。EV充電事業は、合弁会社を通じてインフラ整備を推進し、コア事業とのシナジー創出を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
エンジニア主体によるプロダクト開発を強化するため、高いエンジニア比率を維持し、コア技術の自社開発を基本方針としています。ミッションへの共感を軸とした採用活動に積極的に投資し、性別・年齢・職歴に関わらず多様な人材を確保・登用しています。また、テレワークと出社を組み合わせたハイブリッド勤務など、柔軟な働き方の環境整備にも注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 35.4歳 | 2.2年 | 5,961,005円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 13.0% |
| 男性育児休業取得率 | 57.1% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 66.8% |
| 男女賃金差異(正規) | 77.1% |
| 男女賃金差異(非正規) | 96.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、正社員に占める女性労働者の割合(33%)、フルリモート比率(24%)、女性労働者の育児休業取得率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 電力小売市場の動向
事業環境として、エンドユーザーの切替意欲減退や新電力の競争力低下により契約切替が進まない場合、あるいは電力・ガス事業者へのDXサービス導入が遅れた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、電力制度改革や市場価格の変動など、外部環境の変化もリスク要因となります。
■(2) 特定取引先への依存
エネルギープラットフォーム事業およびエネルギーデータ事業において、収益の多くを取引先の電力・ガス会社に依存しています。資源価格高騰等による取引先の経営悪化や戦略変更により、契約条件の見直しや解消が生じた場合、経営成績に影響を与える可能性があります。
■(3) 内部管理体制の不備
過去にEV充電事業における会計処理の問題が指摘され、再発防止策を講じていますが、これらが継続的に実行されず内部管理体制の強化が不十分な場合、社会的信用の失墜や業績への悪影響が生じる可能性があります。また、コンプライアンス意識の徹底や監査機能の強化も課題として認識されています。



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