※本記事は、ENECHANGE株式会社の有価証券報告書(第11期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ENECHANGEってどんな会社?
消費者向けの電力・ガス切替支援サイトの運営と、エネルギー事業者向けのシステム開発を主力としています。
■(1) 会社概要
2013年に英国で設立され、2014年に家庭向け電力・ガス特化型メディアを開始しました。2015年にENECHANGEが設立されて事業を本格化し、2016年に電力自由化に対応した電力切替プラットフォームや法人向けサービスを展開しました。2020年には東京証券取引所マザーズへ上場を果たしています。
従業員数は連結で191名、単体で191名です。筆頭株主は事業会社の伊藤忠エネクスで、第2位は投資ファンドのJICVGIオポチュニティファンド1号投資事業有限責任組合、第3位は金融機関のSBI証券です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 伊藤忠エネクス | 17.20% |
| JICVGIオポチュニティファンド1号投資事業有限責任組合 | 8.83% |
| SBI証券 | 8.73% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性5名、女性2名の計7名で構成され、女性役員比率は28.6%です。代表取締役CEOは丸岡智也氏が務めています。社外取締役の比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 丸岡智也 | 代表取締役CEO | 日本政策投資銀行、McKinsey & Company等を経て、2024年に執行役員CFOに就任。同年9月より現職。 |
| 平田政善 | 代表取締役会長 | 東芝で代表執行役専務CFO等を歴任後、2023年にCFO室アドバイザーに就任。2024年7月より現職。 |
社外取締役は、安達健祐(元経済産業事務次官)、藤田研一(元シーメンス代表取締役会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、エネルギー流通プラットフォーム事業における各種ソリューションを展開しています。
■(1) 電力切替支援
需要家向けに電力・ガス会社の最適な選択を支援しています。家庭向けには「エネチェンジ Home 電気・ガス比較」、法人向けには電気代の一括見積もりが可能な「エネチェンジ Biz 電力最適診断」を展開し、複雑化する料金プランの比較検討と切替手続きをオンライン上でワンストップで提供しています。
収益源は、プラットフォームを通じて提携する電力・ガス会社への切替を実施した際に生じる、毎月の電気・ガス代に応じたストック型の切替報酬や、切替時の一時報酬、広告収入です。事業の運営は主にENECHANGEが行っており、パートナー企業との連携強化による集客チャネルの拡大を推進しています。
■(2) SaaS・システム開発
エネルギー事業者やEV充電サービス事業者向けに、クラウド型のデジタルソリューションを提供しています。電力会社向けには「エネチェンジ Utility」として顧客ポータルや料金シミュレーション等を展開し、EV関連では充電スポットのデータ提供やドライバー向けアプリなどを手掛けています。
収益源は、サービス導入企業から毎月継続的に受け取るSaaS型のライセンス報酬やエンドユーザー数に連動する従量報酬のほか、初期導入時の開発料やコンサルティング料です。事業の運営は主にENECHANGEが行い、蓄積されたデータを活用してサービスの品質や機能を継続的に強化しています。
■(3) その他
上記の主要ソリューションに含まれない新規領域や、関連会社を通じた事業を展開しています。具体的には、海外のエネルギーベンチャー企業等への投資や海外特化型脱炭素テックファンドの運営事務に関する業務などを手掛けており、中長期的な事業領域の拡大や業界内でのシナジー創出を模索しています。
収益は主に関連会社からの業務受託や運用に関する報酬などから得ています。事業の運営はENECHANGEのほか、関連会社であるJapan Energy Capital合同会社などを通じて行われており、幅広いパートナーシップを活用してエネルギー業界全体の変革と脱炭素化の推進に貢献しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
表示期間の業績は、売上高が持続的に拡大する一方で先行投資等により赤字が継続していましたが、直近ではストック型収益の成長や費用コントロールが奏功し、最終黒字への転換を果たしています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 30億円 | 37億円 | 44億円 | 67億円 | 67億円 |
| 経常利益 | - | -12億円 | -24億円 | -21億円 | -1億円 |
| 利益率(%) | -0.1% | -31.0% | -54.9% | -31.0% | -2.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -1億円 | -13億円 | -50億円 | -13億円 | 1億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期間の15ヶ月決算と同水準を維持しつつ、売上総利益率が大きく改善しました。販売費及び一般管理費を大幅に圧縮した結果、営業損益は大幅な赤字から黒字へと劇的な回復を遂げています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 67億円 | 67億円 |
| 売上総利益 | 52億円 | 59億円 |
| 売上総利益率(%) | 78.1% | 88.2% |
| 営業利益 | -36億円 | 6億円 |
| 営業利益率(%) | -54.1% | 8.9% |
販売費及び一般管理費のうち、販売手数料が19億円(構成比35%)、給料及び手当が8億円(同16%)、業務委託費が6億円(同11%)を占めています。売上原価は8億円であり、主にSaaS・システム開発事業の開発人件費となっています。
■(3) セグメント収益
電力切替支援は継続ユーザー数の維持等により堅調に推移し、SaaS・システム開発も既存顧客へのサービス提供や機能拡充により安定した売上を確保しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 電力切替支援 | 51億円 | 51億円 |
| SaaS・システム開発 | 11億円 | 11億円 |
| その他 | 5億円 | 4億円 |
| 連結(合計) | 67億円 | 67億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業利益と資産売却等によって借入返済を進める「改善型」の傾向を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 2億円 | 7億円 |
| 投資CF | -34億円 | 1億円 |
| 財務CF | 53億円 | -5億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.8%で市場平均をわずかに下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は61.9%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「エネルギーの未来をつくる」をミッションとして掲げています。エネルギー分野特化型の「エネルギーテック」企業グループとして、エネルギーに関するデータの活用促進を通じ、相互シナジーを活かした事業展開を行い、脱炭素化社会の実現に向け、GXを推進するカテゴリーリーダーとなることを目指しています。
■(2) 企業文化
組織文化の基盤として「心理的安全性」を位置付け、前向きな失敗を許容し、互いを承認し合いながら共通の目標へと向かう透明性の高いチームの形成を目指しています。また、独自の「ENECHANGEリーダーシップモデル」に基づく6つのコンピテンシーを軸とし、社員一人ひとりが自律的な学習文化と全人格的な成長を追求する風土を重んじています。
■(3) 経営計画・目標
フリーキャッシュ・フローの最大化による企業価値の向上を重視しています。これを拡大することで将来的な成長投資やM&A等の迅速な経営判断を可能にし、企業全体の成長を目指しています。また、ストック型収益の指標として、家庭継続ユーザー数および法人継続拠点数、ソフトウェア提供先の導入社数を重要指標としてモニタリングし、持続的な基盤拡大を図っています。
■(4) 成長戦略と重点施策
既存事業である「電力切替支援」では、オフラインでの集客力強化や付帯サービスの拡販によるARPU(1ユーザー当たりの平均収益)の向上を目指します。「SaaS・システム開発」では、AIネイティブなソリューションデザインを推進し、現在開発中の小売電気事業者向け基幹システムの提供により、ストック型収益基盤の更なる強化を計画しています。さらに、M&A等の規律ある成長投資も検討し、事業規模の飛躍を狙います。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「Mission-Driven Talent」を基本方針とし、ミッションに共鳴する優秀な人材の獲得と長期定着を図っています。リモートワークを組み合わせた柔軟な働き方を推進するとともに、技術人材への継続的な学習投資を最優先課題と位置付けています。職種別・階層別研修や資格取得支援を通じて専門性を高め、公正な評価と報酬還元により成長を後押ししています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 37.0歳 | 2.7年 | 6,046,771円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 14.7% |
| 男性労働者の育児休業取得率 | 75.0% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 66.0% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 59.5% |
| 労働者の男女の賃金の差異(非正規雇用労働者) | 59.6% |
また、同社は「人的資本・多様性に対する取り組み」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性正社員比率(37.7%)、産休育休復帰率(100%)、フルリモート比率(22.8%)、自発的離職率(15.7%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) IT関連リスク(情報漏洩・システム障害等)
事業運営上、ユーザーの個人情報や取引先情報を多く取り扱っており、サイバー攻撃やシステム障害が発生した場合、損害賠償請求や社会的信用の失墜を招く可能性があります。対策として、セキュリティ対策の実装やプライバシーマークの取得、可用性の高いシステム設計を講じています。
■(2) 取引先への依存に関するリスク
提携する特定の電力・ガス会社の経営悪化や集客戦略の変更、大口需要家との契約終了が生じた場合、販売力の低下や契約解消につながるおそれがあります。多様なサービス展開や販売チャネルの拡充、パートナー企業との戦略的アライアンスを通じて、特定の企業動向に左右されにくい事業基盤の確立を目指しています。
■(3) 事業環境の変化に関するリスク
景気動向や市場環境の変化によるエンドユーザーの契約切替意欲の減退や、検索エンジンのアルゴリズム変更、競合他社の参入などにより、プラットフォームの利用数減少や収益性低下のリスクがあります。これに対し、最新の検索ロジックに適合したサイト最適化や、独自データを活用した高付加価値な機能提供により優位性を維持しています。



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