CINC 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

CINC 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所グロース市場に上場する同社は、ビッグデータ解析を核としたマーケティングソリューションおよびDXコンサルティング、M&A仲介事業を展開しています。第12期より連結決算へ移行しましたが、主力事業の受注鈍化や新規事業への投資等が響き、売上高18億円、最終損益は赤字となっています。


※本記事は、株式会社CINC の有価証券報告書(第12期、自 2024年11月1日 至 2025年10月31日、2026年1月28日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. CINCってどんな会社?


ビッグデータとAI技術を活用し、企業のマーケティング課題解決やDX推進を支援するテック企業です。

(1) 会社概要


2014年に東京都新宿区で設立され、2016年に主力ツール「Keywordmap」をリリースしました。2021年に東京証券取引所マザーズ(現グロース)へ上場し、2023年にはM&A仲介事業を開始しています。2024年には同事業を担う完全子会社CINC Capitalを設立し、連結決算体制へ移行するなど、組織再編を進めています。

従業員数は連結114名、単体105名です。筆頭株主は創業社長の石松友典氏で、第2位は同氏の資産管理会社であるCZ、第3位は資産管理・コンサルティングを行うTech Fablicとなっています。創業者とその関連会社が過半数の株式を保有するオーナー経営体制です。

氏名 持株比率
石松 友典 31.92%
CZ 28.22%
Tech Fablic 4.88%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は石松友典氏が務めています。社外取締役比率は14.3%です。

氏名 役職 主な経歴
石松 友典 代表取締役社長兼経営管理本部長 ソシエテジェネラル証券、JPモルガン証券などを経て2014年に同社設立、代表取締役社長に就任。2024年よりCINC Capital代表取締役を兼務し現職。
山地 竜太 常務取締役兼マーケティングDX事業本部長 テンポスバスターズを経て2015年に同社入社。アナリティクス事業本部長などを歴任し、2025年より常務取締役に就任し現職。
雨越 仁 取締役 JPモルガン証券、三井物産などを経て2018年に同社入社。経営管理本部長として管理部門を統括し、2024年よりCINC Capital取締役を兼務し現職。


社外取締役は、武井章敏(元アクセンチュア、株式会社Interaction Pro代表取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「ソリューション事業」、「アナリティクス事業」および「M&A仲介事業」を展開しています。

(1) ソリューション事業


自社で保有するビッグデータとAI技術を活用したマーケティング調査・分析・運用ツール「Keywordmap」の開発・提供を行っています。市場調査から競合分析、コンテンツ作成支援まで、Webマーケティングに必要な機能を網羅し、企業のデータドリブンな意思決定を支援しています。

収益は、主に「Keywordmap」の利用者から受け取る月額定額制のサブスクリプション利用料から成り立っています。運営は主にCINCが行っており、AI技術を用いた新機能の開発やカスタマーサクセスの強化に取り組んでいます。

(2) アナリティクス事業


マーケティングビッグデータの解析を基盤としたDXコンサルティングを提供しています。専門のアナリストが多量かつ多様なデータを分析し、市場動向や競合戦略を把握した上で、クライアントのデジタルマーケティング戦略立案から施策実行、効果測定までを統合的にサポートしています。

収益は、コンサルティングサービスの提供に対する報酬(初期調査費用+月額定額制)や、広告運用代行の手数料などから得ています。運営はCINCが行っており、社外のプロ人材を活用した「エキスパートソーシングサービス」も提供しています。

(3) M&A仲介事業


マーケティングテクノロジーを活用し、主に中堅・中小企業を対象としたM&A仲介サービスを提供しています。事業承継や事業再編のニーズに対し、独自開発したマッチングシステム「CAMM DB」と専門アドバイザーの知見を組み合わせ、候補企業の選定から成約までを支援します。

収益は、M&A成立時に譲渡企業および買収企業から受け取る仲介手数料(成功報酬等)から構成されています。運営は、2024年11月に新設分割により設立された子会社のCINC Capitalが担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2025年10月期より連結決算へ移行したため、単一年度の表示となります。当期は主力事業での営業人員不足による新規獲得鈍化や、M&A仲介事業への先行投資がかさみ、営業損失および当期純損失を計上しています。

項目 2025年10月期
売上高 18億円
経常利益 -1億円
利益率(%) -5.9%
当期利益(親会社所有者帰属) -2億円

(2) 損益計算書


当連結会計年度における売上総利益率は60%台を確保していますが、販売費及び一般管理費の負担が大きく、営業段階から赤字となっています。人件費や広告宣伝費への投資が収益を圧迫している構造が見て取れます。

項目 2025年10月期
売上高 18億円
売上総利益 12億円
売上総利益率(%) 63.5%
営業利益 -1億円
営業利益率(%) -6.2%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当が4億円(構成比29%)、広告宣伝費が2億円(同13%)を占めています。売上原価においては、外注費が22%、サーバー費が13%を占めています。

(3) セグメント収益


当期より連結決算およびセグメント区分の変更が行われているため、当期数値のみを表示します。アナリティクス事業が売上の過半を占める一方、ソリューション事業が高い利益率を確保しています。新規参入のM&A仲介事業は立ち上げフェーズのため損失を計上しています。

区分 売上(2025年10月期) 利益(2025年10月期) 利益率
ソリューション事業 8億円 2億円 19.6%
アナリティクス事業 11億円 -0.5億円 -4.3%
M&A仲介事業 - -2億円 -
調整額 -0.3億円 - -
連結(合計) 18億円 -1億円 -6.2%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

CINCは、自己資本比率76.48%と強固な財務基盤を構築しています。
営業活動では、税金等調整前当期純損失等により資金が使用されました。投資活動では、無形固定資産の取得や敷金・保証金の差入により資金が使用されました。財務活動では、自己株式の取得や長期借入金の返済により資金が使用されました。

項目 2025年10月期
営業CF -1億円
投資CF -0.4億円
財務CF -3億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「確信をもつ、核心をつく、革新をおこす」という3つの「カクシン」を経営理念として掲げています。この理念のもと、あらゆるデータを分析・活用し、革新的なソリューションを提供することで、「マーケティングソリューションで日本を代表する企業へ」というビジョンの実現を目指しています。

(2) 企業文化


同社は、分析、コンサルティング、ソリューションに求められる信念を集約した経営理念を重視しています。デジタルマーケティング領域において、ビッグデータとテクノロジーを駆使する高い技術力を強みとしており、常に変化する市場環境に対応しながら、顧客の課題解決とビジネスの成果創出にコミットする姿勢が根付いています。

(3) 経営計画・目標


同社は中長期的には株主資本利益率(ROE)を目標指標とする方針ですが、現時点では事業規模の拡大を優先し、売上高および営業利益を経営上の重要指標としています。

* 2026年10月期:連結売上高16.8億円
* 2026年10月期:連結営業利益0.07億円

(4) 成長戦略と重点施策


同社は生成AI時代の到来を成長機会と捉え、技術開発とサービス提供体制の強化を進めています。ソリューション事業では「Keywordmap」の機能開発やカスタマーサクセスの強化による契約拡大を図り、アナリティクス事業ではAI検索最適化(GEO/LLMO)コンサルティングなどの新サービスを展開します。

* AI検索最適化(GEO/LLMO)への対応強化と新機能実装
* M&A仲介事業におけるマーケティング知見の活用と効率的な案件獲得
* 外部プロ人材を活用したエキスパートソーシングサービスの強化

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


AI技術の進歩や市場変化に対応するため、課題解決力と新規事業創出に挑戦できる人材の確保・育成を経営課題としています。給与水準の引き上げや社内コミュニケーション強化による定着率向上を図るとともに、AI検索最適化ノウハウの組織浸透や業務プロセスでのAI活用を推進し、生産性と付加価値の向上を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年10月期 35.3歳 3.3年 5,911,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 13.6%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 71.8%
男女賃金差異(正規雇用) 85.4%
男女賃金差異(非正規雇用) 172.3%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経営環境の変化


同社は企業のマーケティング活動を支援するソリューションを提供していますが、経済情勢や景気動向の変化、顧客企業の業績悪化等によりコスト削減が進められた場合、同社グループの売上が減少し、業績に悪影響を与える可能性があります。

(2) 競合リスク


デジタルマーケティング市場には多くの新興企業やプロダクトが参入しています。新たな集客プラットフォームの出現や、同社の開発遅延、既存手法の陳腐化が生じた場合、経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。同社は常に最新情報を取得しサービスに組み込むことで対応を図っています。

(3) 技術革新によるリスク


ビッグデータやAI技術の分野は変化が激しく、新技術の開発が相次いでいます。「ChatGPT」等の生成AIの台頭により市場環境が劇的に変化する中、予期せぬ技術進歩や代替サービスの登場により同社サービスの優位性が維持困難となった場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(4) プラットフォームへの対応


主要な検索プラットフォーム(Google等)の仕様変更は、サービス品質に直結します。AI技術を活用した検索結果表示(AI Overviews等)への移行や、対話型生成AIの普及による検索行動の変化に対し、対応が遅れたり想定外の変更が生じたりした場合、顧客満足度の低下を招き業績に影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。