アシロ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アシロ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

同社は東証グロース市場に上場しており、弁護士等の専門家とユーザーをつなぐ「リーガルメディア」等のメディア事業、HR事業、保険事業を展開しています。2025年10月期は、主力メディアの伸長やサービスの高付加価値化により、売上収益・各利益ともに大幅な増収増益を達成しました。


※本記事は、株式会社アシロ の有価証券報告書(第10期、自 2024年11月1日 至 2025年10月31日、2026年1月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. アシロってどんな会社?

弁護士と相談者を結ぶ「リーガルメディア」を中心に、HRや保険など派生領域へ事業を展開する企業です。

(1) 会社概要

2009年に旧アシロが設立され、2012年より「ベンナビ離婚」等のリーガルメディアを開始しました。2016年に現法人が旧法人を吸収合併し商号変更を行っています。2020年にHR事業を開始し、2021年に東証マザーズ(現グロース)へ上場しました。2022年には少額短期保険会社を子会社化し、保険事業へ参入しています。

2025年10月期末時点の従業員数は連結127名、単体115名です。筆頭株主は代表取締役社長の中山博登氏で、第2位は個人株主の松田健太郎氏、第3位は電線・ケーブルの製造販売を行う大東特殊電線です。同社は、創業社長が筆頭株主として経営を牽引するオーナー企業の特徴を持っています。

氏名 持株比率
中山 博登 25.69%
松田 健太郎 3.11%
大東特殊電線 2.64%

(2) 経営陣

同社の役員は男性4名、女性0名の計4名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長兼執行役員は中山博登氏が務めています。取締役4名のうち3名が社外取締役であり、社外取締役比率は75.0%です。

氏名 役職 主な経歴
中山 博登 代表取締役社長兼執行役員 ワークポート、幕末(現イシン)を経て、2009年に旧アシロ代表取締役社長に就任。2016年より同社代表取締役社長。2022年より現職。


社外取締役は、高橋重雄(元本田技研工業)、麻生要一(アルファドライブ代表取締役)、東目拓也(弁護士)です。

2. 事業内容

同社グループは、「メディア事業」「HR事業」および「保険事業」を展開しています。

(1) メディア事業

弁護士へのマーケティング支援を行う「リーガルメディア」と、それ以外の顧客向けの「派生メディア」を運営しています。リーガルメディアは「ベンナビ」シリーズとして分野特化したサイトを展開し、派生メディアでは転職エージェントや探偵事務所等を顧客としています。

リーガルメディアは主に弁護士からの月額定額の掲載料収入を得るストック型の収益モデルであり、派生メディアはユーザーからの問合せ数に応じた成果報酬型のフロー収益が中心です。運営は主に同社が行っています。

(2) HR事業

法律事務所や法務人材を求める企業に対し、弁護士有資格者や公認会計士、管理部門人材等を紹介する人材紹介サービスを提供しています。弁護士専門の「NO-LIMIT」や会計士等の「Hi-Standard」などのサイトを運営しています。

採用企業から、候補者の入社決定時に紹介手数料を受け取る成果報酬型の収益モデルです。運営は同社が行っています。なお、人材派遣事業を行っていた子会社は2025年4月に全株式を譲渡しており、現在は人材紹介サービスに注力しています。

(3) 保険事業

法的トラブル発生時の弁護士費用を補償する少額短期保険を販売しています。現在は法人・個人事業主向けの弁護士費用保険「bonobo(ボノボ)」の販売に注力しており、法務リスクへの備えやリーガルチェック等の支援サービスを提供しています。

保険契約者から受領する保険料が主な収益源です。運営は連結子会社のアシロ少額短期保険が行っています。

3. 業績・財務状況

同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

直近5期間の業績は、売上収益が継続的に拡大しており、高い成長率を示しています。特に2025年10月期は売上収益が前期比で大きく増加し、利益面でも税引前利益および当期利益が過去最高水準に達しました。利益率は一時的な低下からV字回復を果たし、高い収益性を実現しています。

項目 2021年10月期 2022年10月期 2023年10月期 2024年10月期 2025年10月期
売上収益 16億円 22億円 32億円 47億円 66億円
税引前利益 4億円 5億円 0.4億円 4億円 14億円
利益率(%) 22.8% 21.7% 1.4% 8.1% 21.3%
当期利益(親会社所有者帰属) 2億円 3億円 -0.1億円 1億円 10億円

(2) 損益計算書

売上収益の大幅な増加に伴い、売上総利益および営業利益が大きく伸長しています。売上総利益率は若干低下しましたが、営業利益率は大幅に改善し、収益性が向上しています。コストコントロールと増収効果により、利益を生み出す力が強まっています。

項目 2024年10月期 2025年10月期
売上高 47億円 66億円
売上総利益 17億円 26億円
売上総利益率(%) 37.1% 39.5%
営業利益 4億円 14億円
営業利益率(%) 8.4% 21.3%


販売費及び一般管理費のうち、給与及び手当が3億円(構成比27%)、のれん償却額が1億円(同12%)を占めています。売上原価においては、広告媒体費が34億円(構成比84%)と大半を占めており、積極的な広告投資を行っていることが分かります。

(3) セグメント収益

メディア事業が売上収益の大半を占め、利益面でも全体を牽引しています。同事業は掲載枠数の増加と単価上昇により大幅な増収増益となりました。HR事業は事業整理と効率化により黒字転換を果たしました。保険事業は先行投資フェーズにあり、損失を計上しています。

区分 売上(2024年10月期) 売上(2025年10月期) 利益(2024年10月期) 利益(2025年10月期) 利益率
メディア事業 44億円 62億円 11億円 20億円 32.6%
HR事業 2億円 3億円 -1億円 1億円 21.3%
保険事業 1億円 1億円 -1億円 -2億円 -229.8%
調整額 - - -5億円 -5億円 -
連結(合計) 47億円 66億円 4億円 14億円 21.3%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

同社は、法人向け弁護士費用保険「bonobo」の販売強化と認知度向上に注力し、中長期的な収益基盤確立を目指しています。営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等の支払いがあったものの、利益計上等により資金流入となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、子会社売却収入があった一方、貸付けや資産取得による支出がありました。財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金支払い等により資金流出となりました。

項目 2024年10月期 2025年10月期
営業CF 7億円 13億円
投資CF -0.1億円 -0.5億円
財務CF -3億円 -4億円

4. 経営方針・戦略

同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

同社は、世界最深地点で生存が確認された深海魚の名前(ヨミノアシロ)を社名の由来とし、「アシロに関わる人を誰よりも深く幸せにすることで、よりよい社会の実現に貢献する」という企業理念を掲げています。表層的なサービスではなく、日常生活の基盤やインフラと成り得るサービスの創出を目指しています。

(2) 企業文化

社名の由来である「深海魚」のように、深く関わることを重視する文化があります。表層的なサービス提供にとどまらず、関わる人々を「誰よりも深く幸せにする」ことを行動の指針としています。誠実なサービス提供により、顧客の満足度や効果を重視した事業運営を行う姿勢を大切にしています。

(3) 経営計画・目標

同社は、中長期的に実現すべき成長の目安として、2030年10月期の売上収益200億円の達成を掲げています。各事業において主要な経営指標(KPI)を設定し、メディア事業では有料広告掲載枠数や問合せ数、HR事業では新規登録者数、保険事業では保有契約件数などを重視しています。

(4) 成長戦略と重点施策

メディア事業における収益基盤の安定化と競争優位性の強化を最優先課題としています。具体的には、中小規模の法律事務所の開拓強化や商品ラインナップの多様化を進めます。また、事業領域の拡大として、HR事業での紹介対象職種の拡大や、保険事業における法人向け弁護士費用保険の普及拡大に注力します。

5. 働く環境

同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

「人材」を最も重要な資本と捉え、新卒・中途採用の強化やリファーラル採用の推進を行っています。育成面では、研修制度の拡充や社内異動制度によるキャリア形成支援を実施しています。また、ハイブリッド勤務やフレックスタイム制の導入、各種手当の充実など、多様な人材がパフォーマンスを発揮できる環境整備に努めています。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年10月期 30.1歳 2.5年 5,518千円


※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

(3) 人的資本開示

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
管理職に占める女性労働者の割合 30.0%
男性労働者の育児休業取得率 -
労働者の男女の賃金の差異(全労働者) -
労働者の男女の賃金の差異(正規雇用) -
労働者の男女の賃金の差異(非正規) -


※男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異については、公表義務の対象ではないため、有報には記載がありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員構成比(男性65%、女性35%)などです。

6. 事業等のリスク

事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 検索エンジンへの集客依存

主力事業であるリーガルメディアへのユーザー流入は、大手検索サイトでの自然検索経由が主たる経路です。検索エンジンのアルゴリズム変更があった場合、検索結果の表示順位が変動し、ユーザー流入数が減少することで、同社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 特定の取引先への依存

同社グループの売上収益において、特定の広告代理店や法律事務所など上位3社への依存度が46.5%と高くなっています。これら取引先の方針変更や関係悪化、あるいは取引先が何らかの処分を受けた場合等には、売上収益が減少し、経営成績に影響を与える可能性があります。

(3) 弁護士法関連規制への対応

同社グループの事業は弁護士法等の法的規制を受けています。特に非弁護士による法律事務の取扱い禁止(非弁活動)や、弁護士紹介による対価受領の禁止(周旋禁止)などの規制があります。法令解釈の変更や新たな規制導入、あるいは同社のサービスがこれらに抵触すると判断された場合、事業運営に支障をきたす可能性があります。

(4) のれんの減損リスク

過去のM&Aにより多額ののれんを計上しており、資産合計に占める割合が高くなっています。メディア事業等の将来収益性が低下し、投資回収が見込めなくなった場合には減損損失が発生し、経営成績に重要な影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。