昭文社ホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

昭文社ホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所スタンダード市場に上場する昭文社ホールディングスは、旅行ガイド等のメディア事業と地図データを活用するソリューション事業を展開しています。旅行需要の回復により市販出版物が好調に推移し、直近の業績は増収増益を達成しました。事業構造改革の成果もあり、4期連続で最終黒字を計上しています。


※本記事は、昭文社ホールディングスの有価証券報告書(第67期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 昭文社ホールディングスってどんな会社?


旅行ガイドブックの出版と、地図・ガイドデータベースを活用したデジタルソリューション事業を展開する企業です。

(1) 会社概要


1960年5月に地図の出版販売を目的に昭文社を設立。1996年9月に店頭登録、2000年3月に東京証券取引所第一部へ上場しました。その後、電子書籍やアプリ、インバウンド向け事業などへ領域を拡大しています。2020年4月に持株会社体制へ移行し、現在の昭文社ホールディングスに商号を変更しました。

従業員数は連結234名、単体26名です。筆頭株主はコンテンツ配信事業を展開するエムティーアイで、第2位はMSE、第3位は創業家出身で現代表取締役社長の黒田茂夫氏となっています。

氏名 持株比率
エムティーアイ 29.90%
MSE 19.02%
黒田茂夫 10.43%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性0名の計6名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は黒田茂夫氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
黒田茂夫 代表取締役社長 1992年に入社し、GIS営業本部長や開発本部長などを歴任。2005年に代表取締役社長に就任し現在に至る。
加藤弘之 取締役 2007年に入社し、執行役員管理本部長などを経て、2020年に取締役管理本部長に就任し現在に至る。
上原嗣則 取締役 2017年に入社後、執行役員デジタルメディア事業本部長等を経て、2021年より現職。
飯塚新真 取締役(監査等委員) 1986年に入社し、デジタルコンテンツ営業本部長やソリューション営業本部長等を経て、2018年より現職。


社外取締役は、関聡介(弁護士・銀座プライム法律事務所開設)、桑野雄一郎(弁護士・鶴巻町法律事務所開設)です。

2. 事業内容


同社グループは、「メディア事業」「ソリューション事業」「販売代理事業」「不動産事業」を展開しています。

メディア事業


市販出版物や電子書籍・アプリの企画制作販売、雑誌広告・Web広告の販売、ブランドや商標権の権利許諾等を行っています。一般消費者や、広告主となる宿泊施設・観光・レジャー施設などが主な顧客です。

消費者からの出版物・電子書籍の販売代金や、企業からの広告出稿料、ブランドライセンス収入等を収益源としています。事業の運営は主に昭文社が行っています。

ソリューション事業


同社グループのコアコンピタンスである地図・ガイドデータベースの販売や、これを活用したシステム製品、ソリューションを提供しています。警察・消防等の官公庁や民間企業が主な顧客です。また、SNSコンサルティング等も行っています。

官公庁や民間企業からのデータ提供料、システム利用料、SNS運用代行料等を得ています。事業の運営は主にマップル、マップル・オン、昭文社クリエイティブ、BEASTARが行っています。

販売代理事業


官公庁等がデータ制作等の業務委託を行う際に、同社が契約窓口となる事業です。

業務委託取引の仲介における手数料を収益源としています。事業の運営は同社(昭文社ホールディングス)が行っています。

不動産事業


同社グループが保有する土地・建物等の有形固定資産の有効活用を目的とした事業です。外部取引先に向けて不動産の貸与等を行っています。

外部の賃借人からの不動産賃貸料等を得ています。事業の運営は同社(昭文社ホールディングス)が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績推移を見ると、コロナ禍の影響を受けた時期から回復傾向にあります。売上高は一時減少したものの、直近では67億円まで増加しました。経常利益と当期純利益についても、コスト改革や事業構造の再編が奏功し、安定して利益を計上しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 46億円 56億円 64億円 63億円 67億円
経常利益 -13億円 2億円 5億円 3億円 7億円
利益率(%) -27.9% 4.2% 8.1% 4.8% 10.0%
当期利益(親会社所有者帰属) -27億円 2億円 17億円 5億円 11億円

(2) 損益計算書


売上高は前年同期から増加し、67億円となりました。また、売上総利益も24億円から27億円へ増加しており、売上総利益率も改善しています。これに伴い、営業利益も2億円から5億円へと大幅に増加し、収益性の向上が確認できます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 63億円 67億円
売上総利益 24億円 27億円
売上総利益率(%) 38.6% 39.7%
営業利益 2億円 5億円
営業利益率(%) 3.0% 7.1%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当・賞与が7億円(構成比34%)、その他が5億円(同21%)、役員報酬が2億円(同8%)を占めています。

(3) セグメント収益


メディア事業は旅行・観光需要の回復やヒット商品の貢献により増収増益となりました。ソリューション事業は官公庁や民間企業向けが堅調に推移し増収でしたが、営業損失を計上しています。不動産事業は貸与エリアの拡張により増収増益を達成しました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
メディア事業 44億円 47億円 2億円 3億円 5.8%
ソリューション事業 16億円 18億円 -1億円 -0.3億円 -1.8%
販売代理事業 1億円 1.0億円 0.7億円 0.7億円 68.5%
不動産事業 0.9億円 1億円 -0.5億円 0.6億円 45.2%
連結(合計) 63億円 67億円 2億円 5億円 7.1%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のキャッシュ・フローは、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」となっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 7億円 6億円
投資CF -3億円 -2億円
財務CF -2億円 -4億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.9%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は75.6%であり、いずれも市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「安心な暮らしと楽しい旅をサポートする企業」を経営理念に掲げています。地図や実用情報・サービスの提供を通じて人々の安心な暮らしを支える環境づくりに貢献し、旅やお出かけの特選情報・サービスの提供により、人々の幸せの記憶づくりのお手伝いを行うことを使命としています。

(2) 企業文化


同社グループは、協力会社・提携企業との共生を図りながら、情報収集・提供のノウハウ・技術を獲得、蓄積していくことを経営方針としています。また、持続可能な社会の実現こそが将来世代の人々にも安心な暮らしと楽しい旅をもたらすことができるという考えに基づき、サステナビリティに貢献しうる事業活動を推進する文化があります。

(3) 経営計画・目標


同社グループは、「経営アクションプラン2025」を掲げ、既存事業の深化や新規事業の創出に取り組んでいます。各事業の透明化と意思決定の迅速化を図るため、グループ全体の戦略マネジメント機能と事業経営を分離するホールディングス体制の下で、各部門における具体的目標とスケジュールを明確化し効率的な活動を推進しています。

(4) 成長戦略と重点施策


今後は、従来の市販出版物やソリューション事業と並行して、WEBやスマホアプリ、電子書籍などの電子媒体による情報提供にさらに注力します。最新のAI応用技術等を活用し、ユーザー個々のきめ細かなニーズに対応した付加価値の高い情報やサービスを提供します。また、業務全般にDXを採り入れ、さらなる合理化・効率化への変革を進めていきます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社グループは、人材を持続的な企業価値向上の源泉と位置づけ、「経営アクションプラン2025」において掲げる既存事業の深化や新規事業創出、DX・AI活用などの推進に向け、管理職候補・リーダー層の育成や資格取得支援等を進めています。また、性別や国籍、年齢、職歴を問わず採用・育成を行う方針を堅持し、多様な人材が活躍できる環境整備に努めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 49.3歳 20.9年 6,700,388円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 12.5%
男性育児休業取得率 -
男女賃金差異(全労働者) -
男女賃金差異(正規雇用) -
男女賃金差異(非正規雇用) -


※同社および一部の連結子会社は公表義務の対象ではないため、男性育児休業取得率および男女賃金差異に関する有報への記載がありません。なお、女性管理職比率は昭文社の数値を記載しています。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) データベース価値の毀損リスク


同社グループの事業の根幹である地図・ガイドデータベースが、大規模な自然災害等により消失したり使用不可能になったりした場合、または技術革新により急速に陳腐化し、投入した資源に見合う収益を計上できない場合、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

(2) 特定の取引先への依存に関するリスク


同社グループの売上高の約53.4%を市販出版物に依存しており、かつ、2大取次を通じた取引が市販出版物売上全体の約81.5%を占めています。出版流通構造の変革や配送コストの上昇など、取次各社の経営環境の変化が業績に影響を与える可能性があります。

(3) 情報無料化など事業環境の変化リスク


WEBやスマホアプリの普及による情報無料化の波や、ユーザー発信型メディアの台頭により、単なる情報としての価値が低下しています。また、技術革新により新たな情報媒体が台頭し消費者ニーズが急激に変化した場合、従来の製品・サービスで十分な収益を計上できなくなるリスクがあります。

(4) 国土地理院の動向に関するリスク


同社グループの地図データは、国土地理院が発行する地形図等の情報を基に構築・更新されています。国土地理院が今後その使用を認めなくなったり、制約が設けられたり、無償提供等が行われた場合には、同社グループの事業と業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。