※本記事は、株式会社昭文社ホールディングス の有価証券報告書(第66期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 昭文社ホールディングスってどんな会社?
地図・旅行ガイドブックの出版大手であり、豊富な地図データベースを活用したデジタル事業も展開する企業です。
■(1) 会社概要
1960年に各種地図の出版販売を目的として大阪市で設立されました。1996年に店頭登録、2000年に東証一部へ上場しています。2008年にはデジタルソリューション子会社を完全子会社化するなど事業を拡大し、2020年に持株会社体制へ移行しました。2022年の市場区分見直しに伴い、スタンダード市場へ移行しています。
同社グループの従業員数は連結228名、単体27名です。筆頭株主はコンテンツ配信事業を行うエムティーアイで、第2位はMSE、第3位は代表取締役社長の黒田茂夫氏です。エムティーアイとは資本業務提携関係にあり、その他の関係会社となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| エムティーアイ | 29.65% |
| MSE | 18.86% |
| 黒田 茂夫 | 10.29% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性0名の計6名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は黒田茂夫氏です。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 黒田 茂夫 | 代表取締役社長 | 1992年入社。開発本部長、デジタルコンテンツビジネス本部長等を歴任。2005年より社長を務め、グループ各社の代表も兼任。2020年の持株会社化に伴い現職。 |
| 上原 嗣則 | 取締役 | グルヤク設立後、トラベラーズを経て2017年入社。デジタルメディア事業本部長、社長室長等を歴任。BUYMA TRAVEL(旧MEGURU)社長も務める。 |
| 加藤 弘之 | 取締役 | 2007年入社。執行役員管理本部長、管理統括本部長を経て、2020年より取締役管理本部長として管理部門を統括。 |
| 飯塚 新真 | 取締役(監査等委員) | 1986年入社。デジタルコンテンツ営業本部長、ソリューション営業本部長等を歴任。昭文社クリエイティブ取締役等を経て2018年より現職。 |
社外取締役は、関聡介(弁護士)、桑野雄一郎(弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「メディア事業」「ソリューション事業」「販売代理事業」「不動産事業」を展開しています。
■(1) メディア事業
『まっぷるマガジン』『ことりっぷ』などの旅行ガイドブックや地図、実用書の企画・制作・販売に加え、電子書籍やアプリの販売、広告販売、ブランドライセンス事業を行っています。旅行者や一般消費者を主な顧客としています。
収益は、出版物や電子書籍・アプリの販売代金、広告掲載料、ブランド使用料などから得ています。運営は主に株式会社昭文社が行っています。
■(2) ソリューション事業
同社グループが保有する地図・ガイドデータベースや、それを活用したカーナビゲーションシステム、地域活性化支援ソリューションなどを提供しています。官公庁や自治体、民間企業を主な顧客としています。
収益は、データベースやシステム製品の販売代金、ソリューション提供の対価などから得ています。運営は主に株式会社マップル、株式会社マップル・オン、株式会社昭文社クリエイティブが行っています。
■(3) 販売代理事業
官公庁などがデータ制作などの業務委託を行う際に、同社が契約窓口となり案件を受注する事業です。
収益は、当該取引における手数料収入等から得ています。運営は主に持株会社である同社が行っています。
■(4) 不動産事業
同社グループが保有する土地や建物などの有形固定資産を有効活用し、外部へ賃貸する事業です。
収益は、テナント等からの賃貸料収入から得ています。運営は主に同社グループ各社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は60億円前後で推移しています。2021年3月期から2022年3月期にかけては赤字計上が続きましたが、2023年3月期以降は黒字化し、利益を確保しています。当期は減収減益となりましたが、最終利益は黒字を維持しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 63.1億円 | 46.2億円 | 55.5億円 | 64.1億円 | 62.6億円 |
| 経常利益 | -14.2億円 | -12.9億円 | 2.3億円 | 5.2億円 | 3.0億円 |
| 利益率(%) | -22.4% | -27.9% | 4.2% | 8.1% | 4.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -23.2億円 | -26.6億円 | 1.7億円 | 17.5億円 | 5.0億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は微減となりましたが、売上総利益率は約40%の高い水準を維持しています。営業利益率は前期の6.8%から3.0%へ低下しました。これは売上減少の影響に加え、コスト増加などが要因と考えられます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 64.1億円 | 62.6億円 |
| 売上総利益 | 26.2億円 | 24.1億円 |
| 売上総利益率(%) | 40.8% | 38.6% |
| 営業利益 | 4.4億円 | 1.9億円 |
| 営業利益率(%) | 6.8% | 3.0% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当・賞与が7.3億円(構成比33%)、その他(委託費等含む)が4.8億円(同21%)を占めています。売上原価については、出版事業における製作費や物流費などが主な内訳となります。
■(3) セグメント収益
主力のメディア事業は出版物の売上が堅調でしたが減収減益となりました。ソリューション事業は増収ながら営業損失が続いています。販売代理事業は減収減益、不動産事業は増収ながら改修費用等の計上で営業損失となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| メディア事業 | 46.0億円 | 44.3億円 | 4.5億円 | 2.2億円 | 5.0% |
| ソリューション事業 | 15.9億円 | 16.2億円 | -1.5億円 | -1.2億円 | -7.7% |
| 販売代理事業 | 1.5億円 | 1.1億円 | 1.0億円 | 0.7億円 | 66.6% |
| 不動産事業 | 0.8億円 | 0.9億円 | 0.3億円 | -0.5億円 | -55.3% |
| 調整額 | -億円 | -億円 | 0.2億円 | 0.7億円 | -% |
| 連結(合計) | 64.1億円 | 62.6億円 | 4.4億円 | 1.9億円 | 3.0% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラス、投資CFと財務CFはマイナスとなっており、本業で稼いだ現金を投資や借入返済に充てる「健全型」のキャッシュ・フローと言えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -6.6億円 | 7.0億円 |
| 投資CF | 21.9億円 | -2.8億円 |
| 財務CF | -0.0億円 | -2.2億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.2%でスタンダード市場平均(7.2%)を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は70.7%でスタンダード市場非製造業平均(48.5%)を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「安心な暮らしと楽しい旅をサポートする企業」を経営理念として掲げています。地図や実用情報の提供を通じて人々の安心な暮らしを支え、旅やお出かけ情報の提供によって幸せの記憶づくりを手伝うことを目指しています。
■(2) 企業文化
社会の信頼を得て市場競争力を維持し、持続的な成長を実現するために、環境・社会・経済的な課題への貢献を意識した事業活動を行うことを基本戦略としています。また、性別や国籍等を問わない人材採用・育成を行う方針を一貫しており、女性向けメディアでは女性が企画・統括を行う体制を取り入れるなど、多様性を尊重する風土があります。
■(3) 経営計画・目標
具体的な数値目標は記載されていませんが、情報無料化の波や電子媒体への移行といった厳しい事業環境に対応するため、従来の事業形態からの変革を進めています。グループ全体の戦略マネジメント機能と事業経営を分離するホールディングス体制の下、意思決定の迅速化を図っています。
■(4) 成長戦略と重点施策
従来の出版事業やソリューション事業に加え、WEBやアプリ、電子書籍などの電子媒体による情報提供に注力しています。具体的には、独自の情報源による付加価値の提供、公式SNSを通じたブランド育成、DXによる業務効率化などを推進しています。また、AI技術の活用や、インバウンド需要の取り込みにも取り組んでいく方針です。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
性別、国籍、年齢、職歴を問わず採用・育成を行う方針を掲げています。多様な人材が活躍できるよう、産休・育休、時短勤務、リモートワーク、フレックスタイム制など幅広い選択肢を設けており、資格取得やリスキリング、副業の支援も行っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 48.3歳 | 20.0年 | 6,201,721円 |
※平均年間給与は税込支給給与額であり、基準外賃金及び賞与を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 11.8% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | - |
| 男女賃金差異(正規雇用) | - |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | - |
※女性管理職比率は、公表義務対象である株式会社昭文社の数値です。その他の項目は、同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) データベース及びシステムリスク
地図・ガイドデータベースは事業の根幹であり、自然災害等で消失・使用不能となった場合、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、システム障害が発生した場合、収益機会の喪失や損害賠償請求のリスクがあります。これに対し、バックアップ体制の整備や品質管理体制の強化で対応しています。
■(2) 技術革新とメディア環境の変化
WEBやスマホアプリの普及による情報の無料化や、新たな情報技術の台頭により、従来の製品・サービスで十分な収益が得られなくなるリスクがあります。特に生成AIの影響は今後大きくなると予想され、最新技術の導入や事業内容の見直しを常に行う体制を整えています。
■(3) 出版事業における返品リスク
出版業界の商慣習である返品制度により、書店在庫については返品を受ける可能性があります。想定を超える返品が発生した場合、利益率が低下するリスクがあります。これに対し、適正な在庫管理や、返品リスクのない電子書籍やネット販売等のチャネル活用を進めています。



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