サイネックス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

 サイネックス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証スタンダード上場のサイネックスは、官民協働による行政情報誌の発行や地域DX支援を行う企業です。ロジスティクス事業の拡大などで売上高は過去最高を更新して増収となりましたが、人的資本への投資やM&A関連費用、為替の影響などにより、経常利益は減益となりました。


※本記事は、株式会社サイネックス の有価証券報告書(第60期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. サイネックスってどんな会社?


官民協働事業のパイオニアとして、行政情報誌『わが街事典』の発行や地域創生支援ビジネスを全国展開している企業です。

(1) 会社概要


同社は1953年に三重県松阪市で創業し、電話帳等の出版を開始しました。1966年に法人を設立後、2003年に大阪証券取引所ヘラクレス市場へ上場しました。2006年には現在の主力事業である官民協働型行政情報誌『わが街事典』の発行を開始し、事業基盤を確立しました。2016年には東京証券取引所市場第一部へ指定され、現在はスタンダード市場に上場しています。

同社グループの従業員数は連結で767名、単体で670名です。大株主の構成を見ると、筆頭株主は代表取締役社長が代表を務める教育関連の法人で、第2位は社長本人、第3位は従業員の持株会となっており、経営陣および従業員による持株比率が高いのが特徴です。

氏名 持株比率
富士教育創研 19.26%
村田 吉優 8.66%
サイネックス従業員持株会 8.64%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長は村田吉優氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
村田 吉優 代表取締役社長 1978年同社入社。取締役、常務、副社長を経て1997年より現職。グループ会社のエルネットやサイネックス・ネットワーク等の会長・社長も兼任。
雲林院  英幸 取締役常務執行役員営業統括本部長兼西日本営業本部長 1986年同社入社。関西営業部長、西日本営業本部長などを経て2021年より営業統括本部長。
稲澤  和宜 取締役常務執行役員営業統括本部東日本営業本部長 1987年同社入社。東京営業部長、関東支社長などを経て2020年より東日本営業本部長。
吹ノ戸  忠 取締役常務執行役員企画開発本部長兼新領域開発室長 2003年同社入社。官民協働事業推進部長、地方創生協働事業部長などを経て2020年より企画開発本部長。
久保  博信 取締役執行役員営業統括本部ICT事業推進本部長兼DX推進営業部長 2001年同社入社。地域活性化事業推進部長、ICT事業部長などを経て2021年よりICT事業推進本部長。


社外取締役は、廣田俊夫(ベイビュー・アセット・マネジメント取締役会長)、片岡和行(元池田泉州銀行代表取締役会長)、中川美佐(弁護士)、稲継裕昭(早稲田大学教授)、梅村時博(元東芝産業機器製造)です。

2. 事業内容


同社グループは、「情報メディア事業」、「DXサポート事業」、「ロジスティクス事業」、「ヘルスケア事業」および「投資事業」を展開しています。

(1) 情報メディア事業

地方自治体との官民協働事業として、行政情報誌『わが街事典』や子育てガイド、健康情報誌等を発行しています。また、50音別電話帳『テレパル50』の発行や、デジタルサイネージ『わが街NAVI』の設置、準公式シティプロモーションサイト『わが街ポータル』の運営なども行っています。

『わが街事典』や『テレパル50』は、地域の事業者から広告掲載料を受け取ることで発行費用を賄い、自治体や住民に無償で提供・配布するビジネスモデルです。運営は主にサイネックスが行っています。

(2) DXサポート事業

自治体向けにAIチャットボット等のソリューションを提供するほか、地域特産品販売サイト『わが街とくさんネット』やふるさと納税支援事業などを展開しています。民間企業向けにはポータルサイト運営やWEB広告販売を行っています。

自治体からの委託料や、ECサイトでの商品販売収入、広告掲載料などが収益源です。運営はサイネックスのほか、システム開発を行うベック、デジタルコンテンツ制作のナイン、SES事業を行うリーディなどの子会社が担っています。

(3) ロジスティクス事業

情報誌の配布やチラシ等のポスティング、ダイレクトメール(DM)の発送代行サービスを行っています。

顧客である企業や自治体から、配布や発送業務に対する対価を受け取るモデルです。情報誌配布やポスティングはサイネックス・ネットワークが、DMソリューション事業はエルネットが運営しています。

(4) ヘルスケア事業

歯科医師、歯科技工士、歯科衛生士向けに、歯科医療機械器具や歯科材料の販売を行っています。また、歯科医の新規開業支援なども手掛けています。

医療機関等への商品販売代金が主な収益源です。運営は子会社のマルヤマ歯科商店が行っています。

(5) 投資事業

安定的な収益機会の確保を目的として、不動産賃貸事業を行っています。

保有する不動産の賃料収入が収益源です。運営はサイネックスが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高はロジスティクス事業の拡大などにより5期連続で増加傾向にあり、直近では165億円に達しています。一方、経常利益は2024年3月期まで増加していましたが、2025年3月期は人的資本投資やコスト増により減益となりました。利益率は3〜4%台で推移しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 130億円 142億円 143億円 154億円 165億円
経常利益 3億円 5億円 5億円 6億円 5億円
利益率(%) 2.6% 3.5% 3.8% 3.9% 3.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 2億円 3億円 3億円 4億円 3億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で増加しましたが、売上総利益率は若干低下しました。営業利益は販管費の増加などにより減益となっています。売上の伸びに対して利益率がやや圧迫されている状況です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 154億円 165億円
売上総利益 62億円 63億円
売上総利益率(%) 40.2% 38.0%
営業利益 5億円 5億円
営業利益率(%) 3.3% 2.9%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給与が24億円(構成比42%)、賞与引当金繰入額が1億円(同2%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力の情報メディア事業は売上が微減となりましたが、原価削減により増益を確保しました。ロジスティクス事業は売上・利益ともに大きく伸長しています。一方、DXサポート事業は売上増ながらも、ふるさと納税関連の制度改正の影響等により赤字に転じました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
情報メディア事業 72億円 72億円 13億円 14億円 19.1%
DXサポート事業 20億円 20億円 1億円 0億円 -1.1%
ロジスティクス事業 52億円 62億円 1億円 1億円 1.2%
ヘルスケア事業 9億円 10億円 0億円 0億円 2.6%
投資事業 1億円 1億円 1億円 1億円 54.3%
連結(合計) 154億円 165億円 5億円 5億円 2.9%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


本業で得た現金を、借入金の返済や投資活動(子会社株式取得や定期預金預入等)に充てており、財務の健全性を維持しつつ成長投資を行う健全型のキャッシュ・フローです。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 6億円 3億円
投資CF -1億円 -6億円
財務CF -3億円 -4億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は54.3%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、電話帳や地域情報誌の発行単位であるそれぞれの地域への貢献を経営理念としています。地域社会のコミュニケーションを促進し、信頼関係を築くことで利益を生み出し、公共的な使命を果たすことを目指しています。地域密着型のメディアやソリューションを通じて地方創生に貢献し、企業価値を向上させることがステークホルダーへの最大の貢献であると考えています。

(2) 企業文化


同社は、「官民協働」という発想が浸透していない時期から自治体に提案を行い、行政と民間という異分子同士の結合によるイノベーション創出を重視しています。また、地方創生をトータルプロデュースする「社会貢献型企業」を目指し、コンプライアンスの徹底を経営上の最重要課題と位置付けるとともに、人的資本への投資や生産性向上に取り組む姿勢を持っています。

(3) 経営計画・目標


同社は、事業を継続・発展させる上で、収益の源泉となる連結売上高および連結経常利益を重要視し、これらの増加を目指しています。具体的な数値目標としては、連結売上高と連結経常利益の増加を掲げて経営を行っています。

(4) 成長戦略と重点施策


サステナブルな地域社会を実現するため、官民協働の理念とDXを推進する「地方創生プラットフォーム構想」を掲げています。既存の『わが街事典』に加え、デジタルサイネージ『わが街NAVI』やポータルサイト『わが街ポータル』等のデジタル化を推進し、地方創生支援事業を拡大します。また、アライアンスやM&Aによる事業領域の拡大、AI研修導入などの人的資本投資による生産性向上にも注力します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、「官民協働でイノベーションを創出し持続可能な地域社会を実現する」というパーパス実現のため、人材を資本と捉えています。教育や研修を通じて個人の能力・意欲を向上させ、自律性の高い人材を育成するとともに、DX教育やDX人材の登用を進めています。また、多様な視点や価値観を尊重し、女性やシニア、障害者の積極的な登用を行う方針です。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 41.7歳 12.8年 4,535,704円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。なお、女性管理職比率については、同社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

項目 数値
女性管理職比率 -
男性育児休業取得率 50.0%
男女賃金差異(全労働者) 64.3%
男女賃金差異(正規) 62.8%
男女賃金差異(非正規) 54.2%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、次年度新卒採用予定者の総数(36 人)、正社員に占める女性の割合(42.7 %)、障害者雇用率(2.37 %)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 重要な契約等について

主力事業である電話帳発行において、西日本電信電話株式会社との「番号情報データベース利用契約」により電話番号情報の提供を受けています。万一、情報管理上の問題等で契約が解除された場合、電話帳発行が不可能となり、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、DMソリューション事業では日本郵便との運送業務委託契約が重要であり、契約解除時には事業継続に影響が出る可能性があります。

(2) ICTを活用した新規事業の取り組みについて

同社はDX推進の一環として、『わが街ポータル』やデジタルサイネージ『わが街NAVI』などICTを活用した新規事業を拡大しています。しかし、これらは情報メディア事業に比べて収益性が低く、高い収益性を生み出すまでに時間を要する可能性があります。その結果、グループ全体の利益率低下を招き、財政状態および経営成績に影響を与える可能性があります。

(3) 原材料の市況変動の影響について

情報メディア事業における出版物は、印刷用紙を主な原材料としています。国際情勢の影響などで紙の市況が高騰した場合、コスト削減努力だけでは原材料費の上昇を吸収しきれず、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

(4) 当社を取り巻く事業環境について

インターネット利用の一般化やスマートデバイスの普及に伴い、紙媒体である電話帳や情報誌の利用頻度が減少する傾向にあります。これに対応してWebプロモーションや電子書籍化を進めていますが、紙媒体の売上減少が進んだ場合、経営成績や事業展開に影響が出る可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。