クレハ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

クレハ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

クレハは東京証券取引所プライム市場に上場し、機能製品、化学製品、樹脂製品の製造・販売を主力とする化学メーカーです。業績トレンドは、包装材事業の一部撤退やフッ化ビニリデン樹脂事業等における多額の減損損失計上の影響により、直近の通期決算では減収となり、最終赤字へと転落する結果となりました。


※本記事は、株式会社クレハの有価証券報告書(第113期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はIFRSです。

1. クレハってどんな会社?


機能製品や樹脂製品などの製造・販売を手掛ける化学メーカーです。

(1) 会社概要


1944年に呉羽化学工業として設立され、1949年に東京証券取引所に株式を上場しました。1960年に家庭用ラップ「クレラップ」の販売を開始し、1970年にはフッ化ビニリデン樹脂の製造を開始しています。2005年に現在のクレハへと商号を変更しました。

従業員数は連結で3,941名、単体で1,631名です。筆頭株主は明治安田生命保険相互会社で、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。

氏名 持株比率
明治安田生命保険相互会社 9.52%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 9.27%
東京海上日動火災保険 4.32%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.2%です。代表取締役社長兼CEOは名武克泰氏が務めています。社外取締役は3名選任されています。

氏名 役職 主な経歴
名武克泰 代表取締役社長兼CEO 1985年同社入社。高機能材事業部長やクレハ環境代表取締役社長、取締役副社長などを経て、2026年4月より現職。
小林豊 代表取締役会長 1974年同社入社。化学品事業部長、PGA事業部長、代表取締役副社長、代表取締役社長などを経て、2026年4月より現職。
西畑直光 取締役専務執行役員 1987年同社入社。クレファイン代表取締役社長、PGA事業部長、取締役常務執行役員などを経て、2026年4月より現職。


社外取締役は、飯田修(元三菱マテリアル代表執行役副社長)、岡藤由美子(元カルビー執行役員)、西尾啓治(元雪印メグミルク代表取締役社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、機能製品事業、化学製品事業、樹脂製品事業、建設関連事業、その他関連事業の5つの報告セグメントを展開しています。

機能製品事業


機能樹脂、炭素製品の製造および販売を行っています。リチウムイオン二次電池用バインダー向けのフッ化ビニリデン樹脂や、シェールオイル・ガス掘削用途のPGA樹脂加工品などを顧客へ提供しています。

収益源は製品の販売代金です。運営は主にクレハが行うほか、米国や中国などの海外子会社を通じてグローバルに製品を販売・供給しています。

化学製品事業


農薬、医薬品、無機薬品、有機薬品の製造および販売を行っています。農業・園芸用殺菌剤や慢性腎不全用剤などの医薬品、か性ソーダ等の工業薬品を提供しています。

収益源は各製品の販売代金です。事業の運営は主にクレハが行い、クレハトレーディング等の子会社を通じても製品の販売や原料の調達を実施しています。

樹脂製品事業


食品包装材や家庭用品の製造および販売を行っています。代表的な製品として家庭用ラップ「NEWクレラップ」やフッ化ビニリデン釣糸などを一般消費者や企業へ提供しています。

収益源は製品の販売代金です。運営は主にクレハが行うほか、クレハ合繊が合成繊維の製造・販売を、ベトナムや中国の海外子会社が食品包装材の製造や販売を担っています。

建設関連事業


同社グループの各事業に関連する土木工事や建築工事の施工請負業務、および工事監理業務を顧客へ提供しています。

収益源は工事の施工請負等に伴う対価です。本事業の運営は主に子会社であるクレハ建設が担い、クレハからも業務の一部を発注しています。

その他関連事業


各事業に関連する物流、環境対策およびその他のサービス等の事業活動を展開しています。産業廃棄物の処理や運送、倉庫業務などを提供しています。

収益源は各サービスの提供に伴う対価です。運営はクレハ運輸が運送・倉庫業務を、クレハ環境が産業廃棄物処理を担うなど、複数の子会社がそれぞれの専門領域を担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上収益は一時的に増加したものの、直近では伸び悩む傾向にあります。利益面では過去数年間は黒字を維持していましたが、当期は電気自動車市場の停滞に伴うリチウムイオン二次電池用バインダーの需要回復遅れなどにより多額の減損損失を計上し、大幅な赤字へと転落しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 1,683億円 1,913億円 1,780億円 1,620億円 1,617億円
税引前利益 204億円 230億円 139億円 102億円 -183億円
利益率(%) 12.1% 12.0% 7.8% 6.3% -11.3%
当期利益(親会社所有者帰属) 142億円 169億円 97億円 78億円 -107億円

(2) 損益計算書


売上収益は前期とほぼ同水準で推移し、売上総利益は原材料価格の下落等の影響により増加しました。しかし、多額の減損損失を計上したことが大きく影響し、営業利益は前期の黒字から一転して大幅な営業赤字となっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 1,620億円 1,617億円
売上総利益 220億円 249億円
売上総利益率(%) 13.6% 15.4%
営業利益 94億円 -186億円
営業利益率(%) 5.8% -11.5%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が67億円(構成比21%)、給料・賞与が33億円(同10%)、運賃およびタンク車費が30億円(同9%)を占めています。

(3) セグメント収益


機能製品事業はPGA樹脂加工品やPPS樹脂の販売増加により増収増益となり、化学製品事業も増益を確保しました。一方、樹脂製品事業は業務用食品包装材分野の撤退により減収減益となりました。全社調整額において多額の減損損失を計上したため、連結全体では営業赤字となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
機能製品事業 585億円 619億円 -20億円 21億円 3.4%
化学製品事業 309億円 297億円 6億円 14億円 4.5%
樹脂製品事業 409億円 370億円 71億円 69億円 18.7%
建設関連事業 224億円 229億円 14億円 15億円 6.7%
その他関連事業 253億円 249億円 29億円 26億円 10.4%
調整額 -160億円 -148億円 -6億円 -331億円 -
連結(合計) 1,620億円 1,617億円 94億円 -186億円 -11.5%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型のキャッシュ・フロー状況にあります。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 295億円 280億円
投資CF -394億円 -137億円
財務CF 84億円 -80億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-5.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は48.8%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「人と自然を大切にします。常に変革を行い成長し続けます。価値ある商品・技術を創出して、持続可能な社会の発展に貢献します。」という企業理念を掲げています。また、「独自技術でスペシャリティを追求し、未来を拓く社会貢献企業」をビジョンとして定め、継続的な経済価値の向上と社会課題解決への貢献の両立を推進しています。

(2) 企業文化


同社は「どこにもなければ、創ればいい“ナケレバ、ツクレバ”」という開発精神を企業文化の根底に置いています。独自技術と他社差別化技術を主軸としてスペシャリティを追求し、従業員一人ひとりが「知恵・情熱・共創の心」を持ち、主体的・自律的に新たな役割や課題に挑戦する活気ある組織や職場づくりを重視しています。

(3) 経営計画・目標


同社は2035年度までの長期経営計画「Technology to Value(技術の進化を更なる価値へ)」を掲げ、特定事業への過度な依存を回避した収益性に優れた事業ポートフォリオの構築を目指しています。中期経営計画(2026~2028年度)を種まき・基礎固めの期間と位置づけ、以下の数値目標の早期達成を計画しています。

* ROE 8%

(4) 成長戦略と重点施策


主力である機能製品事業および樹脂製品事業の競争力強化に加え、化学製品事業におけるライフサイエンス領域の育成・強化を推進しています。機能製品ではフッ化ビニリデン樹脂やPGA樹脂の新グレード開発による収益力回復を図り、樹脂製品では家庭用品のブランド力を強化します。また、生産革新やDX技術基盤の整備を通じた経営基盤の強化にも注力しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は「人的資本の強化が中長期の企業価値を決める」との考えのもと、高度専門人材やマネジメント人材の獲得・育成・定着を重要課題と位置付けています。従業員一人ひとりの自律的な成長を促すための各種研修プログラムやキャリア開発支援を実施し、多様な人材が年齢や性別を問わず人物本位で活躍できる環境の整備とエンゲージメントの向上を推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 43.6歳 19.8年 7,418,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 8.3%
男性育児休業取得率 88.5%
男女賃金差異(全労働者) 78.7%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 81.1%
男女賃金差異(非正規雇用労働者) 60.5%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、年次有給休暇取得率(86.9%)、教育満足度(47.3%)、プレゼンティーズム(21.7%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 事業環境(地政学、市場環境)


国内外の顧客動向や市場環境の変化、各国の経済政策の転換、地政学リスクの顕在化により、原燃料の安定調達に支障が生じるリスクがあります。また、競合他社の生産能力増強等による製品価格の下落や需給バランスの悪化が業績に影響を及ぼす可能性があります。同社は複数購買化などでリスク分散を図っています。

(2) 経営戦略(ポートフォリオ、経営資源配分)


機能製品事業など競争の激しい領域において、代替素材の登場や競合他社の動向により十分な差別化が図れない場合、競争力が低下するリスクがあります。また、事業環境の悪化で設備投資に見合う収益が得られず、減損損失が発生する可能性もあります。同社は事業採算性の定期的な監視と資源の再配分に努めています。

(3) 研究開発力・技術競争力


技術開発型の高付加価値企業として成長を続ける上で、開発テーマの進捗管理や技術の方向性判断が機能しない場合、新製品の開発遅延や商品開発力の低下を招くリスクがあります。また、基盤技術やノウハウの継承、専門人材の育成が適切に行われないと、中長期的な技術優位性の確保が困難になる可能性があります。

(4) 環境関連規制


気候変動問題や循環型経済への関心が高まる中、有機フッ素化合物(PFAS)等の化学物質に対する欧州などでの新たな規制導入が事業に影響を与えるリスクがあります。規制の対象や内容によっては、同社の製品販売や業績が影響を受ける可能性があるため、同社は業界団体等を通じた働きかけや環境負荷低減に取り組んでいます。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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