※本記事は、日本曹達株式会社の有価証券報告書(第156期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本曹達ってどんな会社?
同社は、独自の技術力を活かした化学品や農薬等の製造・販売を行う、技術指向型の化学メーカーグループです。
■(1) 会社概要
1920年にカセイソーダ等の製造を目的に設立され、二本木工場で操業を開始しました。1949年に東京証券取引所に上場し、長年にわたり化学品事業を展開しています。2004年には大日本インキ化学工業よりアグリケミカル事業を、2018年にはゾエティス・ジャパンよりプラントヘルス事業を譲り受け、農業化学品分野を強化してきました。2022年には東京証券取引所のプライム市場へ移行しています。
2025年3月31日現在、グループ全体の従業員数は2,432名(単体1,346名)です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位も同様に資産管理を行う株式会社日本カストディ銀行です。第3位には取引先持株会が入っており、特定の事業会社による支配色は薄く、機関投資家や関係者による保有が中心となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.94% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 8.00% |
| 日本曹達取引先持株会 | 3.70% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長は阿賀英司氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 阿賀 英司 | 取締役社長(代表取締役) | 1985年入社。化学品事業部化成品グループリーダー、執行役員化学品事業部長、取締役執行役員営業統括などを経て、2021年4月より社長。 |
| 笹部 理 | 取締役専務執行役員 | 1986年入社。情報システム部長、経理部長、経営企画室長などを経て、2025年4月より現職。 |
| 渡辺 敦夫 | 取締役常務執行役員 | 1985年入社。千葉工場長、生産技術本部長などを経て、2025年4月より現職。 |
| 清水 修 | 取締役常務執行役員 | 1986年日本興業銀行入行、2015年入社。経理部長、執行役員総務部担当などを経て、2025年4月より現職。 |
| 瀬下 敦寛 | 取締役上席執行役員 | 1989年入社。二本木工場生産技術研究所長、生産技術本部副本部長、高岡工場長、生産本部長を経て、2025年6月より現職。 |
| 堀 信之 | 取締役監査等委員(常勤) | 1987年入社。化学品事業部部長、Alkaline SAS出向、執行役員特命事項担当などを経て、2022年6月より現職。 |
社外取締役は、渡瀬有子(元KPMG FASマネージングディレクター)、明賀孝仁(元合同製鐵代表取締役社長)、坂井辰史(元みずほフィナンシャルグループ執行役社長)、脇陽子(弁護士)、吉田波也人(公認会計士事務所代表)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ケミカルマテリアル」「アグリビジネス」「トレーディング&ロジスティクス」「エンジニアリング」「エコソリューション」の5つの報告セグメントで事業を展開しています。
■ケミカルマテリアル
工業薬品、化成品、機能材料、医薬品添加剤などの製造・販売を行っています。主な製品にはカセイソーダ、特殊イソシアネート、樹脂添加剤「NISSO-PB」、医薬品添加剤「NISSO HPC」などがあり、産業用からヘルスケア分野まで幅広く提供しています。
収益は、国内外の顧客への製品販売により得ています。運営は主に日本曹達が行い、一部製品の製造をニッソーファインなどが担当しています。また、海外向け販売の一部はNISSO AMERICA INC.やNISSO CHEMICAL EUROPE GmbHなどが担っています。
■アグリビジネス
殺菌剤、殺虫剤・殺ダニ剤、除草剤などの農薬製品の製造・販売を行っています。代表的な製品には殺菌剤「トップジンM」、殺虫剤「モスピラン」などがあり、世界の食料生産に貢献しています。
収益は、農薬等の製品販売により得ています。日本曹達が中心となって製造・販売を行い、国内販売の一部をニッソーグリーン、製造の一部を新富士化成薬や日曹南海アグロなどが担当しています。海外では現地法人が販売を担うほか、ブラジルの関連会社等を通じて展開しています。
■トレーディング&ロジスティクス
化学品や機能製品、合成樹脂、産業機器などの商社機能と、運輸・倉庫業務を提供しています。グループ内外の製品を取り扱うほか、原料の調達や物流も担っています。
収益は、商品の販売代金や倉庫・運輸業務の委託料などです。商社事業は日曹商事が、物流事業は三和倉庫がそれぞれ運営しています。
■エンジニアリング
化学プラントの建設や土木工事などを請け負っています。グループ内の製造設備の建設・メンテナンスだけでなく、グループ外からの受注も行っています。
収益は、建設工事やメンテナンス業務の対価として得ています。運営は日曹エンジニアリングおよび日曹建設が行っています。
■エコソリューション
産業廃棄物の処理やリサイクル事業を行っています。グループ工場からの廃棄物処理に加え、外部からの処理受託も展開しています。
収益は、産業廃棄物の処理委託料などから得ています。運営は日曹金属化学が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は1,500億円前後で推移しており、底堅い動きを見せています。利益面では、2023年3月期に高い利益率を記録しましたが、その後は減益傾向にあります。当期は売上高が前期並みとなりましたが、経常利益および当期利益は減少しました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,394億円 | 1,525億円 | 1,728億円 | 1,544億円 | 1,552億円 |
| 経常利益 | 127億円 | 165億円 | 265億円 | 233億円 | 195億円 |
| 利益率(%) | 9.1% | 10.8% | 15.3% | 15.1% | 12.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 74億円 | 127億円 | 167億円 | 166億円 | 150億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高はほぼ横ばいですが、売上総利益は増加し、売上総利益率は改善しています。一方、営業利益は増加したものの、経常利益や当期純利益などの段階利益は減少しました。営業外収益の減少などが影響しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,544億円 | 1,552億円 |
| 売上総利益 | 427億円 | 449億円 |
| 売上総利益率(%) | 27.7% | 29.0% |
| 営業利益 | 139億円 | 161億円 |
| 営業利益率(%) | 9.0% | 10.4% |
販売費及び一般管理費のうち、給与諸手当が74億円(構成比26%)、研究開発費が66億円(同23%)を占めています。
■(3) セグメント収益
ケミカルマテリアル事業は増収増益となり、特に利益面で大きく伸長しました。一方、アグリビジネス事業は増収ながら減益となりました。エンジニアリング事業は減収増益、エコソリューション事業は増収減益となるなど、セグメントによってまちまちの動きとなっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ケミカルマテリアル | 361億円 | 364億円 | 31億円 | 61億円 | 16.7% |
| アグリビジネス | 530億円 | 536億円 | 67億円 | 51億円 | 9.5% |
| トレーディング&ロジスティクス | 409億円 | 428億円 | 21億円 | 24億円 | 5.6% |
| エンジニアリング | 163億円 | 131億円 | 17億円 | 24億円 | 18.0% |
| エコソリューション | 81億円 | 92億円 | 2億円 | 1億円 | 1.1% |
| 調整額 | -305億円 | -330億円 | 1億円 | -0億円 | -% |
| 連結(合計) | 1,544億円 | 1,552億円 | 139億円 | 161億円 | 10.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業で稼いだ資金で借入返済や投資を賄っており、財務体質は健全です(健全型)。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 57億円 | 226億円 |
| 投資CF | -96億円 | -176億円 |
| 財務CF | 67億円 | -54億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.0%でプライム市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は64.8%でプライム市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、法令遵守と透明な経営を基本とし、「化学」を通じて優れた製品を提供することで社会の発展に貢献することを経営理念としています。また、ステークホルダーからの信頼に応え、環境に配慮した事業活動を行うことを重視しています。この理念のもと、独自の技術を活用した高付加価値製品の開発を進め、グローバルに事業を展開する技術指向型の企業グループを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「かがくで、かがやく。Brilliance through Chemistry」をビジョンに掲げ、化学の力で新たな価値を創造し、サステナブルな社会の実現に貢献することを目指しています。研究開発においては「知の融合」「技の融合」「グローバル」をキーワードとし、独自の技術力を重視する文化があります。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは、長期経営ビジョンおよび中期経営計画(2024年3月期~2026年3月期)において、「高効率な事業構造への変革」を基本戦略としています。2030年3月期には以下の数値目標を掲げています。
* ROS10%以上
* ROA7%以上
* ROE10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「高効率な事業構造への変革」に向け、高付加価値事業の拡大と、資産効率性を重視した構造改革、成長投資を推進しています。特に研究技術戦略により中核技術を確立・高度化し、アグリカルチャー、ヘルスケア、環境、ICTなどの重点分野で新規事業の創出を目指しています。ケミカルマテリアルでは医薬品添加剤や半導体材料等の高付加価値製品を拡販し、アグリビジネスでは自社開発農薬の展開を強化します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人的資本経営ビジョンとして「社員もかがやく」を掲げ、多様な価値観と強みを持つ社員一人ひとりが自律し、主体的に学び、考え、行動できる人材の育成を目指しています。キャリア開発支援制度や管理職への早期抜擢、製造現場の技術伝承のための研修センター設立などを実施しています。また、柔軟で効率的な働き方を推進するため、フリーアドレスや在宅勤務制度、ホームオフィス制度などの社内環境整備も進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 44.3歳 | 20.0年 | 9,056,630円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.4% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 77.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 76.2% |
| 男女賃金差異(非正規) | 86.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、健診要精密検査受診率(95.0%)、キャリア開発支援制度の上司面談実施率(100%)、人事面談実施率(100%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場に関するリスク
同社グループの製品には景気変動の影響を受けるものがあり、市況の変動が業績に影響を与える可能性があります。特にアグリビジネスは天候に左右されやすく、需要に季節性があります。また、海外売上比率が約53%と高く、各国の法規制変更や地政学的リスク、通商政策の変更などが業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 原材料調達に関するリスク
製品製造に必要な原材料が確保できない場合や、価格が急激に変動した場合、業績に影響が出る可能性があります。これに対し、調達先の分散化や原価低減、販売価格の改定などで対応を図っています。
■(3) 研究開発に関するリスク
新製品開発に多くの経営資源を投入していますが、特に農薬分野では開発期間が長く、多額の費用を要します。研究テーマが実用化に至らなかった場合、先行投資の回収ができず、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 人材確保に関するリスク
生産年齢人口の減少に伴い労働力が確保できない場合、事業活動が停滞し業績に影響が出る可能性があります。これに対し、DXの推進による効率化や、ダイバーシティ推進、人材育成、働きがいのある職場づくりなどに取り組んでいます。



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