※本記事は、日本曹達株式会社の有価証券報告書(第157期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本曹達ってどんな会社?
工業薬品や農薬などを扱うケミカルマテリアルとアグリビジネスを主力とする化学メーカーです。
■(1) 会社概要
1920年にカセイソーダ、晒粉製造を目的として設立され、二本木工場で操業を開始しました。1939年に日曹商事を設立し、1949年には東京証券取引所に上場しています。その後、国内外で関連会社を設立・買収しながら事業を拡大し、2004年には大日本インキ化学工業からアグリケミカル事業を譲り受けています。
従業員数は連結で2,407名、単体で1,316名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は同じく信託業務を行う日本カストディ銀行(信託口)、第3位は日本曹達取引先持株会となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 12.13% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.14% |
| 日本曹達取引先持株会 | 3.95% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性2名の計10名で構成され、女性役員比率は20.0%です。代表取締役社長は阿賀英司氏が務めています。社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 阿賀英司 | 代表取締役社長 | 1985年同社入社。化学品事業部長や営業統括などを経て、2021年4月より代表取締役社長。 |
| 笹部理 | 取締役専務執行役員 | 1986年同社入社。総合企画室長やDX推進グループリーダーなどを経て、2025年4月より現職。 |
| 清水修 | 取締役常務執行役員 | 1986年日本興業銀行入行。2015年同社入社。経理部長などを経て、2025年4月より現職。 |
| 瀬下敦寛 | 取締役上席執行役員 | 1989年同社入社。生産本部長や高岡工場長などを経て、2026年6月より現職。 |
| 堀信之 | 取締役監査等委員(常勤) | 1987年同社入社。化学品事業部金曹部長兼企画・管理室長などを経て、2022年6月より現職。 |
社外取締役は、渡瀬有子(元KPMG FASディレクター)、明賀孝仁(元合同製鐵社長)、坂井辰史(元みずほフィナンシャルグループ社長)、脇陽子(弁護士)、吉田波也人(公認会計士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ケミカルマテリアル」「アグリビジネス」「トレーディング&ロジスティクス」「エンジニアリング」「エコソリューション」の各セグメントで事業を展開しています。
■(1) ケミカルマテリアル
工業薬品、化成品、機能材料、エコケア製品、医薬品・工業用殺菌剤などの製品を製造・提供しており、国内外の幅広い顧客を対象としています。
収益は、これらの化学製品の販売代金から得ています。運営は同社が主体となり、海外向けの販売はNISSO AMERICA INC.やNISSO CHEMICAL EUROPE GmbHに委託しているほか、ニッソーファインに一部の製造を委託しています。
■(2) アグリビジネス
殺菌剤、殺虫剤・殺ダニ剤、除草剤などの農業用化学品を製造・提供しており、農業従事者や関連企業を顧客としています。
収益は、これらの農薬製品の販売代金から得ています。運営は同社が主体となり、新富士化成薬やニッソーファイン、日曹南海アグロに製造を委託しています。海外向け製品の販売はNISSO AMERICA INC.等が担っています。
■(3) トレーディング&ロジスティクス
化学品、機能製品、合成樹脂、産業機器などの国内販売や輸出入を行う商社事業と、運輸・倉庫業務などの物流事業を展開しています。
収益は、製品の販売代金や運輸・倉庫サービスの手数料から得ています。トレーディング事業の運営は日曹商事が行い、ロジスティクス事業の運営は三和倉庫が行っています。
■(4) エンジニアリング
プラント建設や土木工事関係のサービスを提供しており、同社やグループ会社、および外部企業を対象としています。
収益は、プラント建設や土木工事の請負代金から得ています。運営は主に日曹エンジニアリングと日曹建設が行っています。
■(5) エコソリューション
各種産業廃棄物の処理や資源リサイクルに関するサービスを提供しており、同社やグループ会社、および外部の事業者を顧客としています。
収益は、産業廃棄物処理の手数料から得ています。運営は日曹金属化学が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は1,500億円台から1,700億円台で推移し、直近2期間は連続して減少しています。一方、経常利益は一時的に減少したものの、直近では持分法による投資利益の増加等により増益に転じており、利益率も15%台と安定した高水準を維持しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,525億円 | 1,728億円 | 1,544億円 | 1,552億円 | 1,521億円 |
| 経常利益 | 165億円 | 265億円 | 233億円 | 195億円 | 230億円 |
| 利益率(%) | 10.8% | 15.3% | 15.1% | 12.6% | 15.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 79億円 | 99億円 | 83億円 | 102億円 | 127億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は減少したものの、売上原価の減少により売上総利益は微増となり、売上総利益率も上昇しています。一方、営業外収益の増加などにより、経常利益は大幅な増益となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,552億円 | 1,521億円 |
| 売上総利益 | 449億円 | 450億円 |
| 売上総利益率(%) | 29.0% | 29.6% |
| 営業利益 | 161億円 | 150億円 |
| 営業利益率(%) | 10.4% | 9.8% |
販売費及び一般管理費のうち、給与諸手当が78億円(構成比26%)、研究開発費が71億円(同24%)を占めています。
■(3) セグメント収益
ケミカルマテリアルとエコソリューションは増収となりましたが、アグリビジネスやエンジニアリングが減収となりました。利益面ではアグリビジネスとエコソリューションが増益となったものの、他のセグメントが減益となり、全体では営業減益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| ケミカルマテリアル | 364億円 | 374億円 |
| アグリビジネス | 536億円 | 525億円 |
| トレーディング&ロジスティクス | 428億円 | 438億円 |
| エンジニアリング | 131億円 | 85億円 |
| エコソリューション | 92億円 | 99億円 |
| 連結(合計) | 1,552億円 | 1,521億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはプラス、投資CFはマイナス、財務CFはマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型の優良企業です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 226億円 | 216億円 |
| 投資CF | -176億円 | -108億円 |
| 財務CF | -54億円 | -113億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.3%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は66.6%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
法律を遵守し健全で透明な企業経営を行うことを基本に、「化学」を通じ優れた製品を提供することにより社会の発展に貢献することが同社の経営理念です。お客様、株主・投資家、取引先、従業員および地域社会などのステークホルダーからの期待と信頼に応え、環境に配慮した事業活動を行うことを目指しています。
■(2) 企業文化
独自の特色ある技術の活用により高付加価値製品の開発を進め、グローバルな視野で化学を中心に事業を展開する技術指向型の企業グループとしての文化を持っています。また、化学領域を中心とした商社・物流・エンジニアリングなどの事業を展開し、グループとしての収益力向上を図る価値観を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画において、2030年3月期の数値目標を掲げています。資産効率性を重視した構造改革と成長投資により、企業価値の向上を図ります。
* 親会社株主に帰属する当期純利益:200億円以上
* ROS:10%以上
* ROA:7%以上
* ROE:10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「高効率な事業構造への変革」を基本戦略に掲げ、高付加価値事業の拡大と資産効率性を重視した構造改革を進めています。ケミカルマテリアルでは医薬品添加剤などの堅調な推移を見込み、アグリビジネスでは競争が激化する中で、成長製品である殺菌剤などの拡販と利益率の向上に取り組み、新規事業の創出も推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「社員もかがやく」という人的資本経営ビジョンを掲げ、社員それぞれが自律し、主体的に学び、考え、行動することを求めています。フリーアドレス化や在宅勤務、育児支援などの社内環境整備を進めるとともに、人事ポリシー「かがくで、『かがやく人』となる」を設定し、社員の能力発揮を評価・支援する制度を構築しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.6歳 | 20.2年 | 9,491,473円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.5% |
| 男性育児休業取得率 | 50.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 82.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 81.9% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 81.3% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 人材確保に関するリスク
生産年齢人口の減少によって労働力が確保できない場合は、事業活動の停滞などにより業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。対策として、デジタルトランスフォーメーション(DX)による業務効率化や、多様な価値観を持つ社員が最大限に力を発揮できる職場づくりに取り組んでいます。
■(2) 人権に関するリスク
事業活動またはサプライチェーン上において人権問題が発生した場合、ステークホルダーからの信頼喪失や社会的信用の低下を招き、企業価値に悪影響を及ぼす可能性があります。これに対し、「人権方針」を制定し、国際的な規範に基づきバリューチェーン全体の人々の安全・安心の確保に努めています。
■(3) 景気変動や市況の悪化
事業の中には景気変動の影響を受ける製品やサービスがあり、経済環境の変化により市況が大きく変動した場合、業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。天候に左右されやすいアグリビジネスや、海外事業における地政学的リスクにも対応するため、グローバルな情報収集と分析を行っています。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。