※本記事は、東邦アセチレン株式会社の有価証券報告書(第92期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東邦アセチレンってどんな会社?
溶解アセチレンや水素などの産業ガスと、関連する器具器材を提供する高圧ガスメーカーです。
■(1) 会社概要
同社は1955年に溶解アセチレンの製造販売を目的に設立され、1961年に東京証券取引所に上場しました。1975年に水素の製造を開始し、2000年代以降は北日本アセチレンの設立や、食品添加物用亜酸化窒素の販売を開始するなど事業領域を拡大してきました。
現在の従業員数は連結で763名、単体で128名です。筆頭株主は事業会社の東ソーで、第2位も事業会社の日本酸素ホールディングスとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 東ソー | 24.59% |
| 日本酸素ホールディングス | 9.90% |
| UH Partners 2投資事業有限責任組合 | 7.50% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表取締役社長は堀内秀敏氏が務めています。取締役7名のうち4名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 堀内秀敏 | 代表取締役社長社長執行役員 | 元東ソー上席執行役員石油化学セクター長兼オレフィン事業部長。2024年より現職。 |
| 大上譲二 | 代表取締役常務執行役員営業本部長 | 同社入社後、東邦岩手出向代表取締役社長などを経て、2024年より現職。 |
| 佐古慶治 | 取締役常務執行役員管理本部長 | 元東ソー執行役員ポリマー事業部ポリエチレン部長。2024年より現職。 |
社外取締役は、山下豊(元太平洋セメント関西支店長)、正井健太郎(元日立製作所執行役常務)、堀谷宏志(東ソー取締役上席執行役員)、河野真理子(キャリアン代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「ガス関連事業」「エスプーマ関連事業」「器具器材関連事業」「自動車機器関連事業」「製氷機関連事業」および「その他」事業を展開しています。
■ガス関連事業
溶解アセチレン、酸素、窒素、アルゴン、水素、液化石油ガスなどの仕入販売および製造を行っています。主な顧客は、鉄鋼業や半導体製造業、化学メーカー、一般家庭などです。
収益源は、需要家への直接販売や販売店を通じたガス販売の代金です。同社のほか、東酸や荘内ガス、太平熔材、北日本アセチレン、東邦酒田水素などの子会社が製造・販売を運営しています。
■エスプーマ関連事業
液状の食材を泡状にする料理法「エスプーマ」に使用される食品添加物用亜酸化窒素や、関連する各種食材、器材を主に飲食店向けに提供しています。
収益源は、飲食店や販売店からのガスや食材、器材の購入代金です。同社が顧客へ直接販売するほか、東酸や荘内ガス、東邦新潟などの子会社を通じて販売を行っています。
■器具器材関連事業
建築鉄骨や造船などで使用される溶接材料、溶接切断器具のほか、液化石油ガス関連の生活関連周辺機器を仕入販売しています。
収益源は、需要家や販売店からの器具器材の購入代金です。同社が販売するほか、東酸、東ホー、太平熔材、東邦岩手などの子会社が各地の支店や営業所を通じて販売を行っています。
■自動車機器関連事業
自動車部品メーカーの生産ライン等で用いられる各種機器の仕入販売を行っています。
収益源は、自動車部品メーカーからの機器の購入代金です。当事業の運営は、主に子会社である東ホーが行っています。
■製氷機関連事業
漁協や食品メーカーなどに対して、製氷・冷凍機械等の設計・施工を行っています。
収益源は、顧客からの製氷・冷凍機械の設計および施工の請負代金です。当事業の運営は、子会社であるタガワが行っています。
■その他
建物等の建設工事の設計・施工を行っています。
収益源は、顧客からの建設工事の請負代金です。当事業は、その他の関係会社が運営を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は313億円から354億円の間で安定的に推移しています。経常利益も14億円から24億円と堅調に利益を創出しており、利益率も4%〜6%台を維持しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 313億円 | 341億円 | 354億円 | 348億円 | 346億円 |
| 経常利益 | 14億円 | 17億円 | 24億円 | 22億円 | 21億円 |
| 利益率(%) | 4.3% | 4.9% | 6.9% | 6.2% | 6.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 8億円 | 10億円 | 14億円 | 13億円 | 13億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前年からほぼ横ばいですが、売上総利益率は31.5%から32.5%へと改善しています。営業利益率も5.5%を維持しており、安定した収益構造がうかがえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 348億円 | 346億円 |
| 売上総利益 | 110億円 | 112億円 |
| 売上総利益率(%) | 31.5% | 32.5% |
| 営業利益 | 19億円 | 19億円 |
| 営業利益率(%) | 5.5% | 5.5% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び賞与が36億円(構成比38.9%)、運搬費が13億円(同14.1%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力のガス関連事業は、前年のスポット需要の反動等により売上高が減少しましたが、売上原価の減少により高い利益水準を維持しています。製氷機関連事業は大型物件の増加により大きく増収増益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| ガス関連事業 | 212億円 | 206億円 | 19億円 | 19億円 | 9.2% |
| エスプーマ関連事業 | 18億円 | 18億円 | 5億円 | 5億円 | 29.2% |
| 器具器材関連事業 | 95億円 | 92億円 | 3億円 | 3億円 | 2.8% |
| 自動車機器関連事業 | 10億円 | 10億円 | 0.2億円 | 0.1億円 | 1.4% |
| 製氷機関連事業 | 11億円 | 17億円 | 2億円 | 3億円 | 18.8% |
| その他 | 3億円 | 3億円 | 0.6億円 | 0.5億円 | 20.1% |
| 調整額 | - | - | -12億円 | -12億円 | - |
| 連結(合計) | 348億円 | 346億円 | 19億円 | 19億円 | 5.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う健全型の優良企業です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 22億円 | 24億円 |
| 投資CF | -10億円 | -17億円 |
| 財務CF | -7億円 | -7億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.9%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は56.4%であり、いずれも市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「産業ガス及び関連する技術・機器等を通じ、事業基盤の更なる強化と収益力の向上、工場の安全・安定的な操業の継続、健全な財務体質の維持を行い、ダイバーシティ経営の強化、SDGsへの貢献、広報・IR活動の強化を推進し経済的価値を創造するとともに、社会に貢献する」ことを基本方針に掲げています。
■(2) 企業文化
「企業倫理と遵法の精神に基づいた企業活動を行い、持続的な企業成長と企業価値の向上を実現し、取引先、株主、社員、地域社会をはじめ様々なステークホルダーの期待と信頼に応えてまいります」としています。グループの総合力を活かし、「東北発のきらりと光る企業」を目指す文化を持っています。
■(3) 経営計画・目標
2026年度を初年度とする3ヵ年の新中期経営計画を策定し、既存事業の強化および成長事業の拡大に向けた投資を進めています。
* 2028年度連結売上高 370億円
* 営業利益 24億円
* 中長期的ROE(自己資本当期純利益率) 8.0%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
ガス関連事業において水素ガスの展開加速や新用途開発を進め、エネルギー関連分野では環境配慮型商品の展開を図ります。また、エスプーマ関連事業における食品添加用ガスの生産能力増強や、器具器材関連事業での自動化・ロボット化ニーズへの対応、新規事業への参入など、成長領域の拡大に注力しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、人材を最も重要な経営資源と位置付け、持続的な企業価値の向上に向けて人的資本経営を推進しています。「働きやすさ」と「働きがい」を両立するため、残業時間削減や時差出勤、在宅勤務などの柔軟な働き方の実現に向けた環境整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.4歳 | 16.1年 | 6,195,000円 |
※平均年間給与は賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.0% |
| 男性育児休業取得率 | 33.3% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 60.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 63.4% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 12.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、全従業員に占める女性社員の割合(25.0%)、年次有給休暇取得率(58.9%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 産業ガス市場の需要動向
産業ガス市場は既に国内で寡占状態になりつつあり、東北・北海道地域などでの人口減少や公共事業の減少により、需要動向が販売量に大きく影響する可能性があります。地域密着型の営業活動による信頼関係の構築や、販売戦略の最適化で対応しています。
■(2) 販売価格への転嫁リスク
酸素や窒素などの製造に必要な電力コストが原油価格の高騰等で大幅に上昇した場合や、液化石油ガスの輸入価格が変動した場合に、これを販売価格に速やかに転嫁できないと、収益に影響を与える可能性があります。生産設備の自動化や省エネ化を進めています。
■(3) 競合会社との競争激化
国内に多様な競合会社が存在し、異業種からの新規参入などの潜在的な競合リスクがあります。競合他社との価格競争にさらされた場合、コストが増加し収益に影響を与える可能性があるため、高い技術サービスの提供等で競争基盤を維持しています。



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