※本記事は、石原ケミカル株式会社の有価証券報告書(第88期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 石原ケミカルってどんな会社?
電子部品向けの金属表面処理剤や自動車用化学製品などを手掛け、独自の界面化学技術を強みとする企業です。
■(1) 会社概要
1900年に個人経営の石原永壽堂として創業し、1939年に現在の法人組織を設立しました。1946年に石原薬品へ商号を変更し、1991年に株式を上場しています。その後、2013年に現在の石原ケミカルに商号を変更しました。直近では2019年にキザイを完全子会社化し、2025年には中国に現地法人を設立しました。
現在の同社グループは、連結で292名、単体で243名の従業員を擁する体制で事業を展開しています。主要な株主構成を見ると、筆頭株主は取引先で構成される石原ケミカル取引先持株会となっており、第2位および第3位には資産管理業務などを行う信託銀行が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 石原ケミカル取引先持株会 | 8.64% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.83% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 5.79% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表取締役社長は藤本昭彦が務めています。社外取締役は4名です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 藤本昭彦 | 代表取締役社長 | 1985年同社入社。新規事業推進部長等を経て2024年に代表取締役社長就任。2025年より営業本部長も兼務し2026年より現職。 |
| 内田衛 | 常務取締役 | 1986年同社入社。開発本部長等を経て2019年に常務取締役に就任。2024年よりキザイ代表取締役社長を兼務し現職。 |
| 谷田豊 | 常務取締役生産本部長 | 1985年同社入社。滋賀工場長等を経て2017年に生産本部長就任。2025年に常務取締役となり上海の現地法人トップを兼務し現職。 |
| 伊内祥哉 | 常務取締役開発本部長 | 2002年同社入社。第二研究部長等を経て2024年に開発本部長就任。2026年に常務取締役となり海外関連会社の董事長等を兼務し現職。 |
| 住勝哉 | 取締役管理本部長経理部長IR室長 | 2000年同社入社。経理部長兼IR室長を経て2025年に取締役管理本部長に就任。海外関連会社の監事も兼務し現職。 |
| 伊藤善隆 | 取締役営業本部長第五営業部長 | 1997年同社入社。第五営業部長等を経て2026年に取締役営業本部長兼東京支店長に就任。キザイ取締役も兼務し現職。 |
| 山口恭正 | 取締役常勤監査等委員 | 1984年中埜酢店入社、1988年同社入社。総務部長や管理本部長等を経て2017年に取締役就任。2025年より常勤監査等委員として現職。 |
社外取締役は、有原邦夫(アリハラマネジメント代表取締役社長)、永野卓美(税理士法人はやぶさ会長社員税理士)、芝池勉(芝池公認会計士事務所開設)、大槻和子(今岡公認会計士・税理士事務所入所)です。
2. 事業内容
同社グループは、「金属表面処理剤及び機器等」「電子材料」「自動車用化学製品等」「工業薬品」事業を展開しています。
■金属表面処理剤及び機器等
パソコンや携帯電話などの電子機器に内蔵される半導体や電子部品向けの錫系・銅めっき液の開発、製造、販売、技術的支援を提供しています。また、プリント基板加工時の化成処理液を自動的に分析し、薬品を補給管理する化成処理装置の開発、製造、販売、アフターサービスも手掛けています。
収益源は、電子部品メーカーなどのユーザーに対するめっき液や化成処理液自動管理装置、試薬の販売代金です。事業の運営は主に同社のほか、子会社の石原化美(上海)商貿有限公司、石原化美(上海)科技有限公司、キザイがそれぞれ担っています。
■電子材料
半導体製造装置や検査装置の部品に使用される、耐熱性・電気絶縁性の高いマシナブルセラミックスおよびエンジニアリングプラスチックの加工・販売を行っています。また、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)をウェハーや液晶パネルの搬送装置部品として提供しています。
ユーザーの仕様に合わせた機械加工部品などの販売代金が主な収益源となっています。この事業の運営は主に同社が単独で担当しており、先端電子材料市場への展開に向けた製品開発と市場拡大が進められています。
■自動車用化学製品等
カーディーラーや自動車整備工場などで使用されるエアコン洗浄剤、ブレーキパーツクリーナー、塗装補修用コンパウンド、洗車機用洗車剤などの業務用ケミカル製品を提供しています。また、建設現場などで発生する溶接用スパッターの付着防止剤の開発・製造・販売も手掛けています。
収益は、自動車アフターマーケット向けの業務用ケミカル製品やスパッター付着防止剤の販売によって得ています。事業の運営は、同社および中国子会社の石原化美(上海)商貿有限公司が共同で担当しています。
■工業薬品
鉄鋼や化学関連の大手ユーザーが生産工程で使用する特殊性の高い商品や、官公庁向けの薬剤の仕入販売事業を展開しています。具体的には、自動車用鋼板などの表面処理剤、触媒、活性炭、水処理剤などを主に取り扱っています。
仕入先から直接販売先へ発送する取引形態を多く取り入れており、それら商品の仕入販売代金が収益源となります。この事業の運営は主に同社が担っており、大手ユーザーの生産ラインを支える安定的な製品供給を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績を見ると、売上高は190億円から順調に拡大を続け、一時期は236億円に達しましたが、直近では235億円とほぼ横ばいで推移しています。一方で経常利益は着実に成長しており、利益率も13.2%から17.0%へと大きく改善しました。高付加価値製品の市場投入が奏功し、収益性の向上が進んでいることが伺えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 190億円 | 203億円 | 207億円 | 236億円 | 235億円 |
| 経常利益 | 25億円 | 23億円 | 25億円 | 35億円 | 40億円 |
| 利益率(%) | 13.2% | 11.1% | 11.9% | 14.6% | 17.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 19億円 | 18億円 | 19億円 | 25億円 | 31億円 |
■(2) 損益計算書
収益構造を見ると、売上高が微減となった中でも売上総利益は増加しており、売上総利益率は33.9%から36.8%へと改善しています。これに伴い、営業利益も増加し、営業利益率も16.4%へと高まりました。付加価値の高い製品への注力が原価率の低減に繋がり、本業での稼ぐ力が一段と強化されています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 236億円 | 235億円 |
| 売上総利益 | 80億円 | 86億円 |
| 売上総利益率(%) | 33.9% | 36.8% |
| 営業利益 | 34億円 | 38億円 |
| 営業利益率(%) | 14.4% | 16.4% |
販売費及び一般管理費(約48億円)のうち、研究開発費が13億円(構成比26.6%)、報酬給与手当及び賞与が11億円(同23.1%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力事業である「金属表面処理剤及び機器等」は、半導体パッケージ向け需要が好調だった一方で汎用部品向けの回復が緩やかであり、売上高は横ばいとなりましたが、利益は二桁増益となりました。「電子材料」は半導体市況の伸長により大幅な増益を達成しました。一方、「工業薬品」は鋼材需要の低下等の影響を受けて減収減益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 金属表面処理剤及び機器等 | 131億円 | 130億円 | 26億円 | 30億円 | 23.0% |
| 電子材料 | 8億円 | 9億円 | 0.1億円 | 0.4億円 | 4.8% |
| 自動車用化学製品等 | 37億円 | 39億円 | 8億円 | 9億円 | 24.1% |
| 工業薬品 | 60億円 | 57億円 | 3億円 | 2億円 | 3.8% |
| 調整額 | - | - | -3億円 | -3億円 | - |
| 連結(合計) | 236億円 | 235億円 | 34億円 | 38億円 | 16.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、営業活動で得た資金内で投資と財務の支出を賄う「健全型」となっています。企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は12.7%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は82.4%であり、いずれも市場平均を上回っています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 36億円 | 33億円 |
| 投資CF | 2億円 | -1億円 |
| 財務CF | -37億円 | -6億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
自己開発、商品開発、市場開発の「三つの開発」を企業理念とし、ニッチ市場といわれる事業分野で高い市場占有率を維持し、基幹となる3つの分野で事業をバランスよく展開し、各々の収益力を高め、総体として会社の業績の伸長をはかることを基本方針としています。また、常に新しいニーズの創造・発掘に取り組み、社会に貢献していくことを目指しています。
■(2) 企業文化
主体性、多様性、人格、個性を尊重し、社員一人一人が「自己開発」に取り組み、「自ら考え、自ら行動する」企業風土の醸成を重視しています。また、公正かつ自由な競争の下、社会に有用な付加価値と雇用の創出を通じ、高い倫理観をもって社会的責任を果たすべく「行動憲章」を定めて実践しています。
■(3) 経営計画・目標
中長期的な経営基本戦略として、利益額の伸長を通じた企業価値向上を目指しています。具体的には、安定的な成長と高い収益性の確保に向けて、以下の客観的な経営指標(KPI)を掲げて事業を推進しています。
* 売上総利益率35%以上
* 経常利益率15%以上
* ROE(自己資本利益率)10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「成長路線の創造」を中長期経営方針に掲げ、世界に通用する製品・技術・サービスを創造し、グローバルに社会課題を解決することで更なる成長を図ります。隣接分野や新地域への参入で新たな売上を創造するほか、ハイエンド半導体用めっき液などの高付加価値製品の市場投入、先端電子材料市場への参入などに取り組みます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を最重要な経営資源と位置付け、国内外の事業・市場・機能の役割を明確にしたうえで、経営戦略と連動した人材戦略を推進しています。研究開発・技術人材の専門性の深化に加え、技術と営業に精通した人材を育成し市場開発力を強化しています。また、将来のグループ経営を担う中核人材や管理職人材を国内外で計画的に育成する方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 38.9歳 | 12.4年 | 6,522,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.1% |
| 男性育児休業取得率 | 82.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 72.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 76.3% |
| 男女賃金差異(パート・有期) | 53.8% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、管理職全体に占める女性・外国人・中途採用者の合計比率(53.0%)、2030年4月の女性管理職・専門職比率の目標(8.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 業界動向や競合の台頭による市場性低下
主力事業である金属表面処理剤および機器等、電子材料は電子関連分野に対応しており、新技術の開発や新製品の出現、需給サイクルの影響を受けます。競合他社の台頭や需要先の大幅な生産調整が起きた場合、取扱製品の急速な陳腐化や市場性低下が生じ、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 研究開発の成果と専門人材の確保
新製品や改良品を継続的に投入するため、毎期製品売上高の約10%を研究開発費として投入しています。しかし、研究開発の成果は不確実であり、成果に結びつかないリスクがあります。また、技術スキルの高い人材の確保・育成ができず、研究成果の適正な評価がなされない場合、企業成長に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 海外市場展開における規制や社会的混乱
中国や東南アジアを中心に海外市場の開拓を積極的に進めています。進出先において、予期しえない法律・規制や不利な租税制度の変更、未整備なインフラによる悪影響が生じるリスクがあります。さらに、政治的要因やテロ、暴動などの社会的混乱が発生した場合、同社グループの経営成績および財政状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 毒物及び劇物・環境問題に関する法的規制
「毒物及び劇物取締法」の対象となる薬品を製造・販売しているほか、製造過程で排出される排水が「水質汚濁防止法」などの環境規制を受けています。今後の法規制の大幅な改正や強化が行われた場合や、予期せぬ環境問題が発生した場合、同社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。



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