保土谷化学工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

保土谷化学工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

保土谷化学工業は、東京証券取引所プライム市場に上場し、有機工業薬品を中心とした機能性色素や機能性樹脂、基礎化学品などを製造・販売する化学メーカーです。直近の業績トレンドは、主力の機能性樹脂や基礎化学品などが影響し、前期比で減収減益となっていますが、新中期経営計画による成長戦略を推進しています。


※本記事は、保土谷化学工業株式会社の有価証券報告書(第168期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 保土谷化学工業ってどんな会社?


機能性色素や機能性樹脂などの有機工業薬品を製造・販売する、独自技術を持った老舗化学メーカーです。

(1) 会社概要


同社は1915年に設立され、1949年に上場しました。長年にわたり化学技術の革新を進め、2011年に韓国のSFCを子会社化して有機EL材料事業を強化しました。直近では2026年に欧州での拠点獲得や有機合成薬品工業との協働を開始するなど、グローバルな事業基盤の拡充を積極的に図っています。

現在の従業員数は連結で946名、単体で477名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は過去に共同出資で合弁会社を設立するなど関係性のある事業会社の東ソー、第3位は松井証券となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 9.71%
東ソー 8.60%
松井証券 5.50%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は松本祐人氏が務めています。社外取締役比率は42.9%です。

氏名 役職 主な経歴
松本 祐人 取締役社長代表取締役 1983年同社入社。米国子会社社長、各事業部長などを歴任し、2016年11月より現職。
横山 紀昌 取締役 1988年同社入社。韓国子会社研究所長、筑波研究所長、常務執行役員などを経て2025年6月より現職。
佐藤 伸一 取締役 1982年日本長期信用銀行入行。2014年同社入社。内部統制部長や法務部長などを経て2024年6月より現職。
松野 眞一 取締役(監査等委員) 1981年同社入社。購買部長、経営企画部長、郡山工場長などを歴任し、2024年6月より現職。


社外取締役は、坂井眞樹(元農林水産省大臣官房統計部長)、藤野しのぶ(キャリアカウンセラー)、松永明(元特許庁長官)です。

2. 事業内容


同社グループは、「機能性色素」「機能性樹脂」「基礎化学品」「アグロサイエンス」「物流関連」および「その他」の事業を展開しています。

機能性色素


スマートフォン向け有機EL材料や、プリンター向けイメージング材料、アルミ着色用や文具用などの色素材料を製造・販売しています。多様なニーズに対応する精密化学品も手掛けており、高品質な材料を世界の市場へ供給しています。

収益は、製品の販売対価として顧客から受け取る代金から成り立っています。運営は同社のほか、連結子会社である韓国のSFCなどが製造・販売を担っており、国内外の各種販売子会社を通じたグローバルな販売網を構築しています。

機能性樹脂


ウレタン原料となる特殊ポリオールや、建設・土木用のウレタン系防水材、アクリル系止水材、さらには医薬や電子材料向けの中間材料などを提供しています。幅広い産業分野の基盤となる樹脂材料や特殊化学品を製造しています。

主な収益源は、製品の販売代金および建築・土木工事の請負による工事収益です。同社が製造・販売を行うほか、連結子会社である保土谷建材が製造・販売および関連工事を担っており、国内外の各種子会社を通じても販売しています。

基礎化学品


過酸化水素やその誘導品、過炭酸ナトリウムなどの工業用基礎原料を製造・販売しています。紙パルプ向けや半導体向けに加え、動物薬用、医療器具消毒、食品添加物などの新規分野にも用途展開を図り、幅広い顧客に提供しています。

収益は、これら基礎化学品の販売対価として受け取る代金から得ています。運営は主に同社が行っており、製造された製品の一部は連結子会社である桂産業を通じて国内の各種取引先などへ販売・供給される体制となっています。

アグロサイエンス


農業や生活環境を支える除草剤、殺虫剤、酸素供給剤などの農薬や農業資材を製造・販売しています。家庭園芸用やゴルフ場向け、公共インフラ施設など多様な市場を開拓し、植物や環境に配慮した安全な製品を提供しています。

収益は、農薬製剤や農業資材の販売代金から成り立っています。運営は同社が製造・販売を行うほか、連結子会社である保土谷UPLや保土谷アグロテックなどが担っており、米国子会社を通じた海外での販売も展開しています。

物流関連


化学品等の輸送・保管に関わる物流サービスを提供しています。主に各取引先からの寄託物の取り扱いや、同社グループの製品、原料などの輸送・保管を行っており、ISOタンクコンテナを利用した保管事業などにも注力しています。

収益源は、顧客に提供する倉庫保管料や貨物運送に伴う物流サービスの手数料です。運営は連結子会社である保土谷ロジスティックスが担い、危険物や毒劇物に特化したノウハウを活用して、グループ内外の安定的な物流網を支えています。

その他


報告セグメントに含まれない事業として、化学品の分析や研究開発業務の受託サービスを展開しています。同社グループの高度な専門知識や設備を活用し、多様な研究ニーズに対応するサポートを提供しています。

収益源は、研究開発業務や分析業務の提供に対して顧客から受け取る受託手数料です。運営は連結子会社である保土谷コントラクトラボなどが担っており、外部からの委託案件やグループ内の研究支援業務を通じて収益を得ています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績推移を見ると、売上高は419億円から486億円まで順調に拡大していましたが、直近では480億円とやや減少しています。経常利益も原材料価格の変動などの影響を受け、直近は42億円の減益となりましたが、利益率は8.8%と一定の収益水準を維持しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 419億円 433億円 443億円 486億円 480億円
経常利益 69億円 42億円 47億円 48億円 42億円
利益率(%) 16.5% 9.7% 10.6% 9.8% 8.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 16億円 12億円 17億円 12億円 20億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で減少したものの、売上総利益率は約39%と安定して推移しています。一方で、研究開発費などの増加影響により販売費及び一般管理費が膨らみ、営業利益は前期の49億円から37億円へと減益になっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 486億円 480億円
売上総利益 192億円 188億円
売上総利益率(%) 39.5% 39.1%
営業利益 49億円 37億円
営業利益率(%) 10.0% 7.7%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が59億円(構成比39.4%)、人件費が27億円(同18.0%)を占めています。

(3) セグメント収益


セグメント別の業績を見ると、主力の機能性色素は増収となりましたが、有機EL材料に関する研究開発費等の増加により減益となりました。また、機能性樹脂や基礎化学品、アグロサイエンスなどの各セグメントも、在庫調整や需要減少などの影響により一様に減収減益となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
機能性色素 251億円 260億円 38億円 35億円 13.5%
機能性樹脂 85億円 77億円 -0.5億円 -6億円 -7.6%
基礎化学品 75億円 73億円 4億円 3億円 4.5%
アグロサイエンス 55億円 51億円 3億円 0.7億円 1.3%
物流関連 18億円 18億円 4億円 4億円 20.3%
連結(合計) 486億円 480億円 49億円 37億円 7.7%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


当期のキャッシュ・フローは、営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスとなっており、本業の利益で借入返済を行いながら、手元資金で投資も賄う「健全型」の状態です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 57億円 61億円
投資CF -65億円 -50億円
財務CF -19億円 -7億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は60.8%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「化学技術の絶えざる革新を通じ、お客様が期待し満足する高品質の製品・サービスを世界に提供し、環境調和型の生活文化の創造に貢献する」ことを経営理念として掲げています。経済利益の追求と社会課題の解決を両立させ、持続可能な地球や社会の実現を目指してすべてのステークホルダーに価値を提供することを目指しています。

(2) 企業文化


同社は、揺るぎない「経営理念」、自らの存在意義である「PURPOSE」、そして目指す企業像である「VISION」を日々の活動の原点とする文化を重視しています。独自技術やノウハウを活かし、研究開発・生産・販売部門が「三位一体」となって顧客ニーズに対応する組織力を強みとし、グループ一丸となって未来を創り上げる姿勢を大切にしています。

(3) 経営計画・目標


同社は、2026年度から2030年度までの5カ年を対象とした新中期経営計画「コード2030」を策定し、非連続な成長を含めた戦略を実行する目標を掲げています。

* 2031年3月期売上高:800億円
* 2031年3月期営業利益:100億円(営業利益率12.5%)
* 2031年3月期EBITDA:170億円
* 2031年3月期ROE:8.0%

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、次の5カ年を「変革の3年」と「収穫の2年」に分け、事業ポートフォリオの刷新を図ります。有機EL事業を中心に据えつつ、「第2・第3の柱」の確立に向けて新製品創出から利益貢献へのつながりを強化します。また、オープンイノベーションの積極的な推進による産官学との共同や、研究開発部門へのDX導入を通じて、次世代基盤技術の構築を加速させる方針です。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社グループは、人材を企業競争力の源泉であり持続的な成長の原動力と位置づけています。「役職員全員が働きがいを実感でき、組織能力が向上していること」を戦略目標とし、自ら学び考え行動できる人材の採用や、適所適材の配置、学習する組織風土の醸成に取り組んでいます。また、役割や専門性に応じた公正な評価と処遇を通じてエンゲージメントを高める方針です。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 41.5歳 16.8年 6,972,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 10.7%
男性育児休業取得率 91.7%
男女賃金差異(全労働者) 79.7%
男女賃金差異(正規労働者) 81.3%
男女賃金差異(非正規労働者) 60.4%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 為替レートや市場環境の変動


同社グループは欧米やアジアなどの海外市場に広く展開しており、海外売上高比率が高いため、為替レートの変動が業績に影響を及ぼす可能性があります。また、日本や海外の景気動向、中東情勢などの不透明感による実体経済の混乱が、機能性色素や樹脂などの主要製品の需要を左右するリスクがあります。

(2) 原材料の調達と価格競争


製品の製造に必要な原材料や燃料を国内外から調達しており、地政学的リスクや物流網の混乱によって調達コストの上昇や供給制限が発生するリスクがあります。また、市場や顧客ニーズの急速な変化に加え、競合他社や新規参入との熾烈な価格競争により、市場シェアの低下や利益の圧迫を招く可能性があります。

(3) 研究開発と知的財産権の動向


最先端の研究開発に積極的に取り組んでいますが、市場ニーズの急変により開発方針の予期せぬ変更を余儀なくされるリスクが存在します。加えて、同社の技術や製品が他社によって模倣される可能性や、意図せず他社の知的財産権に抵触したと訴えられる可能性があり、これらが事業に悪影響を及ぼすおそれがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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