戸田工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

戸田工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

戸田工業は、東京証券取引所スタンダード市場に上場する化学素材メーカーです。酸化鉄などの微粒子合成技術を核に、機能性顔料や電子機器向けの電子素材を製造・販売しています。2024年3月期の連結業績は、需要低迷や減損損失の計上等により、売上高が前期比で減収、最終損益は赤字に転落する厳しい結果となりました。


※本記事は、戸田工業株式会社 の有価証券報告書(第91期、自 2023年4月1日 至 2024年3月31日、2024年6月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 戸田工業ってどんな会社?


酸化鉄合成技術を強みとし、プリンター用トナー材料などの機能性顔料や、スマートフォン・自動車向けの電子素材を提供する化学素材メーカーです。

(1) 会社概要


同社は1823年に岡山県で弁柄(赤色顔料)製造を開始して創業し、1933年に広島で戸田工業を設立しました。1983年に東京証券取引所市場第1部(現スタンダード市場)に上場しています。2015年にはドイツのBASF社との合弁会社を設立し、リチウムイオン電池材料事業を強化しました。2021年には子会社の戸田ピグメントを吸収合併するなど、事業再編を進めています。

現在の従業員数は連結1,112名、単体377名です。筆頭株主は電子部品大手のTDKで、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は主要取引銀行である広島銀行です。事業提携先であるTDKとは、製品の販売や開発において密接な関係を築いています。

氏名 持株比率
TDK 21.81%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 7.62%
広島銀行 3.76%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長執行役員は久保恒晃氏が務めています。取締役10名のうち5名が社外取締役であり、社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
久保 恒晃 代表取締役社長執行役員生産本部長兼 生産技術本部・基盤事業ユニット事業部長兼 調達物流部管掌 1988年同社入社。中国現地の総経理、生産本部長、専務執行役員などを経て2024年6月より現職。
寳來 茂 取締役会長執行役員 1984年同社入社。大竹事業所長、代表取締役社長などを経て2024年6月より現職。
松岡 大 取締役専務執行役員創造本部長 1991年TDK入社。同社執行役員を経て2023年同社入社。2024年6月より現職。
友川 淳 取締役常務執行役員経営企画室長兼 営業本部管掌 1995年同社入社。Global Fine Material事業本部長などを経て2024年6月より現職。
沖本 和美 取締役(常勤の監査等委員) 1983年広島銀行入行。同社出向を経て2015年入社。経営管理本部財務経理部長などを経て2024年6月より現職。


社外取締役は、橋山秀一(TDK戦略本部長)、袖野玲子(芝浦工業大学教授)、長谷川臣介(公認会計士)、金澤浩志(弁護士)、浦勇和也(マージナル代表社員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「機能性顔料」および「電子素材」の2つの報告セグメントを中心に事業を展開しています。

(1) 機能性顔料


複写機やプリンターのトナー用材料となる磁性粉末材料や、各種着色材料(顔料)、環境関連材料などの製造・販売を行っています。また、中国においては無機顔料の製造・販売も手掛けています。

収益は主に、国内外の顧客に対する製品販売代金から得ています。運営は主に同社が中心となって行っており、子会社の東京色材工業が有機顔料の製造・販売を、関連会社の浙江華源顔料股份有限公司(中国)などが無機顔料の製造・販売を担当しています。

(2) 電子素材


フェライト材料、希土類磁石材料、リチウムイオン電池用正極材料等の製造・販売を行っています。これらは電子機器や自動車などの部品として使用される重要な素材です。

収益は、電機メーカーや自動車部品メーカー等への製品販売から得ています。運営は同社のほか、戸田塑磁材料(浙江)有限公司、戸田イスCORPORATION、BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社などが各分野の製品製造・販売を担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


2020年3月期から2024年3月期までの業績推移です。売上高は300億円前後で推移していましたが、直近の2024年3月期は減収となりました。利益面では、2022年3月期に黒字転換を果たしましたが、2024年3月期には多額の減損損失等を計上し、再び赤字に転落しています。

項目 2020年3月期 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期
売上高 331億円 290億円 353億円 349億円 262億円
経常利益 -13億円 -6億円 42億円 33億円 12億円
利益率(%) -3.9% -2.1% 11.8% 9.6% 4.5%
当期利益(親会社所有者帰属) -53億円 -41億円 31億円 33億円 -36億円

(2) 損益計算書


直近2期間の損益実績です。2024年3月期は、需要低迷や連結子会社の譲渡影響等により、売上高が大幅に減少しました。売上総利益率も低下し、営業利益は前期比で大きく落ち込んでいます。

項目 2023年3月期 2024年3月期
売上高 349億円 262億円
売上総利益 75億円 59億円
売上総利益率(%) 21.3% 22.4%
営業利益 14億円 1億円
営業利益率(%) 3.9% 0.4%


販売費及び一般管理費のうち、その他経費が22億円(構成比38%)、研究開発費が15億円(同26%)、給与手当が13億円(同23%)を占めています。売上原価の詳細はcore_dataに記載がありません。

(3) セグメント収益


機能性顔料事業は、市場回復の遅れや子会社譲渡の影響で大幅な減収減益となりました。電子素材事業は、磁石材料等が回復傾向にあるものの、全体としては減収となりましたが、価格是正効果等により増益を確保しました。

区分 売上(2023年3月期) 売上(2024年3月期) 利益(2023年3月期) 利益(2024年3月期) 利益率
機能性顔料 147億円 81億円 20億円 8億円 10.3%
電子素材 202億円 181億円 24億円 26億円 14.1%
連結(合計) 349億円 262億円 14億円 1億円 0.4%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


2024年3月期のキャッシュ・フローは、本業の収益低下や仕入債務の減少等により営業CFがマイナスとなりました。投資CFはマイナス、財務CFは借入等によりプラスとなっており、本業の資金不足を財務活動で補填しつつ投資を行っている「勝負型」または「救済型」の状態と言えます。

項目 2023年3月期 2024年3月期
営業CF 8億円 -6億円
投資CF -4億円 -14億円
財務CF 2億円 12億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は、当期純損失のため算出できません(前期は23.1%)。財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は25.8%で、スタンダード市場の製造業平均(57.5%)を大きく下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「微粒子の可能性を、世界の可能性に変えていく。」というパーパスを掲げています。また、酸化鉄で培った微粒子合成技術を深化させながら、永遠に生々発展することを経営理念としています。誠実・信頼を基盤とし、創造力と製造力を結集させて、独創性に富んだ新素材及びソリューションを通じて広く社会に貢献することを目指しています。

(2) 企業文化


同社は「Toda Spirits」をものづくりの原点とし、継続的改善活動を展開して顧客の信頼と満足を得る品質を提供することを方針としています。また、技術立社の精神に基づき、未来を想像・創造すること、知的財産に基づく競争と協力を実践することを重視しています。トップ自らが率先垂範し、コンプライアンスを遵守する組織文化を築いています。

(3) 経営計画・目標


2025年3月期から2027年3月期までの3か年を実行期間とする中期経営計画「Vision2026」を策定しています。この計画では、企業価値向上のために事業ポートフォリオマネジメントの強化を推進し、第98期(2031年3月期)のありたい姿の達成を目指しています。財務戦略として、営業利益率、ROE、自己資本比率、運転資本回転期間を経営目標数値として定めています。

(4) 成長戦略と重点施策


「Vision2026」では、選択と集中を加速するための3つの戦略を掲げています。事業戦略として、「電子素材」では高い信頼性を有する素材の開発やM&Aによる事業拡大、「機能性顔料」では事業の合理化と産学官連携による次世代事業の早期化を図ります。また、財務基盤の安定と資本効率を意識した運営、技術立社を支える人材開発にも注力する方針です。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「Vision2026」の人財戦略において、技術立社を支える主要部門のサクセションプラン強化、女性およびマイノリティのキャリア開発、DX推進を加速する人材育成に取り組んでいます。多様性と独創性のある職場を実現し、人的資本の最大化を図ることを方針としています。また、社員の成長を通じて組織力を高め、社業を発展させることを人事ビジョンとしています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均598万円をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2024年3月期 47.1歳 19.9年 655万円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 1.9%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 69.8%
男女賃金差異(正規) 70.5%
男女賃金差異(非正規) 55.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性従業員比率(17.2%)、次世代幹部候補研修受講者数(6名)、一人当たりの教育費用(21,783円)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 予期し得ない事業環境急変


グローバルに事業展開しているため、国内外の政治・経済情勢の悪化、貿易摩擦、戦争等が収益に悪影響を及ぼす可能性があります。特に米中デカップリング等の予期せぬ環境変化があった場合、資金繰りや業績に重大な影響を与えるリスクがあります。

(2) 製品品質に関するリスク


車載用製品を中心に顧客の品質要求水準が高まる中、品質上の欠陥や事故が発生した場合、業績に重大な影響を与える可能性があります。「Toda Spirits」に基づく品質保証活動を推進していますが、リスクを完全に排除することは困難です。

(3) 原燃料の調達に関するリスク


原材料の一部を代替困難な供給者に依存しているため、供給中断や価格高騰のリスクがあります。また、エネルギー価格の高騰や物流問題によるコスト増を販売価格に転嫁できない場合、業績が悪化する可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。