戸田工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

戸田工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

戸田工業は東京証券取引所スタンダード市場に上場し、機能性顔料や電子素材の製造・販売を主力事業とする素材メーカーです。直近の業績は、自動車市場の不振や競争激化等の影響で減収となったものの、原価低減や価格是正などの合理化活動が奏功し、営業利益は黒字に転換、経常損失の赤字幅も縮小傾向にあります。


※本記事は、戸田工業株式会社の有価証券報告書(第93期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 戸田工業ってどんな会社?


独自の微粒子合成技術を活かし、機能性顔料や電子素材をグローバルに提供する素材メーカーです。

(1) 会社概要


同社は1823年に岡山県で弁柄製造を開始し、1933年に広島市で弁柄の製造販売を目的とする戸田工業として設立されました。1983年に東京証券取引所市場第一部に上場し、その後はフェライト材料やリチウムイオン電池用正極材料など、電子素材分野へも事業を拡大しています。2023年には東証スタンダード市場へ移行しました。

現在の従業員数は連結で1,037名、単体で357名です。筆頭株主は電子部品用途の材料企画・開発などで資本業務提携を結んでいるTDKで、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は個人の株主となっています。

氏名 持株比率
TDK 21.77%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 7.64%
堤 浩二 3.82%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表取締役社長執行役員は久保恒晃氏が務めています。社外取締役比率は54.5%(11名中6名)です。

氏名 役職 主な経歴
久保 恒晃 代表取締役社長執行役員 兼調達物流部 管掌 1988年同社入社。中国法人総経理等を歴任。2018年生産本部長等を経て、2021年取締役。2024年6月より現職。
寳來 茂 取締役会長執行役員 1984年同社入社。2007年大竹事業所長等を経て、2013年取締役副社長。2014年代表取締役社長に就任し、2024年6月より現職。
松岡 大 取締役専務執行役員創造本部長 兼事業統括室 副室長 兼知財特許グループ 管掌 1991年TDK入社。技術本部本部長等を経て2019年同社社外取締役。2023年同社入社。2024年6月より現職。
友川 淳 取締役常務執行役員経営企画室長 兼営業本部・事業統括室 管掌 1995年同社入社。事業本部長を経て2019年経営企画室長に就任。2022年常務執行役員などを歴任し、2024年6月より現職。
沖本 和美 取締役(常勤の監査等委員) 1983年広島銀行入行。2015年同社入社、財務経理部長。生産本部長やリスク管理責任者等を歴任し、2024年6月より現職。


社外取締役は、橋山秀一(TDK CTO 兼 技術・知財本部長)、袖野玲子(芝浦工業大学システム理工学部教授)、生嶋太郎(TDK 戦略本部長)、長谷川臣介(長谷川公認会計士・税理士事務所代表)、金澤浩志(弁護士法人中央総合法律事務所パートナー)、浦勇和也(マージナル代表社員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「機能性顔料」および「電子素材」事業を展開しています。

機能性顔料


デジタル複写機やレーザープリンターのトナー用磁性酸化鉄のほか、塗料・樹脂・ゴム着色用の酸化鉄赤顔料、環境関連材料(農業用保温材、CO2分離回収材料など)、ハイドロタルサイト等の製造・販売を行っています。長年培った微粒子合成技術を活かし、環境保全やクリーンエネルギー分野への展開も進めています。

収益源は、これら着色顔料やトナー用材料、触媒などの製品販売代金です。運営は主に同社が中心となって行っているほか、東京色材工業が有機顔料の製造・販売を、中国の浙江華源応用新材料股份有限公司が無機顔料等の製造・販売を担っています。

電子素材


自動車のモータやセンサに用いられる磁石材料(ボンド磁石など)、AIサーバー向けの積層セラミックコンデンサ用誘電体材料、電子機器のインダクタ用途向け軟磁性材料、リチウムイオン電池用材料などの製造・販売を行っています。軽量・小型化や高性能化といった成長市場のニーズに対応する高機能素材を提供しています。

収益源は、これら電子機器素材やコンパウンド製品の販売代金です。運営は同社が中心となり行っているほか、戸田塑磁材料(浙江)有限公司、戸田マテリアルズなど、多数の国内外子会社・関連会社を通じてグローバルな製造・販売体制を構築しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の売上高は300億円前後で推移していますが、市場環境の変化等により変動が見られます。経常利益は黒字を維持していましたが、直近2期間は赤字を計上しています。ただし、原価低減や価格是正等の取り組みにより、最新期では赤字幅の縮小が見られます。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 353億円 349億円 262億円 317億円 280億円
経常利益 42億円 33億円 12億円 -14億円 -0.8億円
利益率(%) 11.8% 9.6% 4.5% -4.5% -0.3%
当期利益(親会社所有者帰属) 16億円 13億円 -52億円 -30億円 -16億円

(2) 損益計算書


売上高は減少したものの、売上総利益は改善し、営業利益も黒字転換を果たしています。これは原価低減や諸経費削減に加え、製品の価格是正活動などが寄与したものと考えられます。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 317億円 280億円
売上総利益 56億円 67億円
売上総利益率(%) 17.8% 24.0%
営業利益 -6億円 9億円
営業利益率(%) -2.0% 3.1%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が11億円(構成比19%)、従業員給料手当が8.4億円(同14%)を占めています。

(3) セグメント収益


機能性顔料セグメントは、記録材の需要が好調だったものの、一部のトナー用材料の在庫調整の影響で微減収となりました。電子素材セグメントは、誘電体材料が好調に推移しましたが、自動車市場の不振や中国市場での競争激化の影響により減収となっています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
機能性顔料 81億円 78億円
電子素材 236億円 202億円
連結(合計) 317億円 280億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 38億円 33億円
投資CF -19億円 -10億円
財務CF -21億円 -32億円


企業の財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は18.9%で、市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「私たちグループは、酸化鉄で培った微粒子合成技術を深化させながら、永遠に生々発展します。誠実・信頼を基盤とし創造力と製造力を結集させ、魅力ある独創性に富んだ新素材及びソリューションを通じて、広く社会に貢献します」という経営理念を掲げています。また、「微粒子の可能性を、世界の可能性に変えていく。」をパーパスとし、事業を通じた社会課題の解決を使命としています。

(2) 企業文化


「技術立社」の精神を礎に、創造力と製造力を結集させる文化を重視しています。モノづくりの原点である「Toda Spirits」の下、継続的改善活動を展開し、顧客の信頼と満足を得る品質を提供する姿勢が根付いています。また、多様な人材が能力を発揮できる環境整備や自律的なキャリア形成を支援し、組織連携で業務にあたる文化を育んでいます。

(3) 経営計画・目標


2031年3月期のありたい姿の実現に向け、2025年3月期からの3カ年を対象とする中期経営計画「Vision2026」を推進しています。財務基盤の安定と資本効率の向上を目指し、営業利益率、ROE、自己資本比率、運転資本回転期間を主要KPIとして設定し管理しています。

* 売上高10億円(2031年3月期・環境分野目標)

(4) 成長戦略と重点施策


「事業ポートフォリオマネジメントの強化」を軸に、モビリティ、AI、環境といった成長分野への事業展開を加速しています。各材料・事業を「成長事業」「次世代事業」「収益基盤事業」「再生・転換事業」の4つに分類し、選択と集中を徹底しています。成長分野における独自の微粒子合成技術を活用し、持続的な企業価値の向上を図る方針です。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「事業ポートフォリオマネジメント」の実行力を高めるため、経営戦略と一体化した人財戦略を推進しています。「主要部門のサクセッションプラン強化」「女性およびマイノリティのキャリア開発」「DX推進を加速する人財育成」を重点施策とし、社員一人ひとりが自律的にキャリアを形成できる環境や、多様性を尊重する組織づくりに注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 46.6歳 18.4年 6,215,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 2.1%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 76.1%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 37.5%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 74.2%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性従業員比率(20.8%)、有給休暇の取得率(71.7%)、自己都合離職率(1.6%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 予期し得ない事業環境急変に関するリスク

政治・経済情勢の悪化、世界的な貿易摩擦の長期化やサプライチェーンの分断により、事業環境が急変するリスクがあります。特に中東情勢の緊迫化や中国の輸出規制など、予期せぬ環境変化が資金繰りや業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

(2) 製品品質に関するリスク

各国の規制変化や車載用製品等において、顧客の要求水準が高まっています。同社は品質マネジメントシステムの運用など品質保証活動を推進していますが、万一、品質上の欠陥や事故が発生した場合、業績等に重大な影響を及ぼす恐れがあります。

(3) 原燃料の調達に関するリスク

原材料の一部を特定の供給国や供給者に依存しており、輸出入規制や災害等で供給が中断するリスクがあります。また、市場の需給バランスの崩れによる原材料やエネルギー価格の高騰が、製造コストを増大させる可能性があります。

(4) 新製品の開発力・技術革新に関するリスク

市場環境の変化が激しく、製品ライフサイクルの短命化が進む中、新製品の開発が計画通りに進展しない場合や、競合による安価な代替製品が出現した場合、同社の競争力が低下し、財政状態および経営成績に重大な影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。