三菱ケミカルグループ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

三菱ケミカルグループ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

三菱ケミカルグループは、東京証券取引所プライム市場に上場する化学メーカーです。スペシャリティマテリアルズ、MMA&デリバティブズ、ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ、産業ガスの4事業を展開しています。直近の業績は、売上収益が減収となり、税引前利益も大きく減少して減益のトレンドとなっています。


※本記事は、三菱ケミカルグループ株式会社の有価証券報告書(第21期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. 三菱ケミカルグループってどんな会社?


スペシャリティマテリアルズや産業ガスなど多岐にわたる化学・素材事業をグローバルに展開する企業です。

(1) 会社概要


同社は2005年に三菱化学と三菱ウェルファーマの株式移転により設立され、上場を果たしました。2014年には大陽日酸(現日本酸素ホールディングス)を連結子会社化しました。2017年に中核事業会社3社を統合して三菱ケミカルを発足させ、2022年に現在の三菱ケミカルグループへ商号変更しています。

現在の従業員数は連結で56,678名、単体で27名体制となっています。大株主の状況は、筆頭株主が資産管理業務を行う信託銀行であり、第2位および第3位の株主についても同様に信託銀行などの金融機関が上位を占める構成となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行信託口 15.61%
日本カストディ銀行信託口 5.59%
STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 (常任代理人)みずほ銀行決済営業部 5.03%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表執行役執行役社長は筑本学氏が務めています。取締役8名のうち6名が社外取締役であり、高い社外取締役比率を確保しています。

氏名 役職 主な経歴
筑本学 取締役兼執行役社長 1988年三菱化成工業入社。三菱ケミカル執行役員等を経て、2024年4月同社執行役社長。同年6月より現職。
福田信夫 取締役会長 1981年三菱化成工業入社。三菱ケミカル代表取締役等を経て、2022年4月同社代表執行役エグゼクティブバイスプレジデント。2024年6月より現職。
葛城俊哉 取締役 1987年三菱化成工業入社。三菱ケミカル執行役員等を経て、2024年4月同社執行役シニアバイスプレジデント。2026年6月より現職。


社外取締役は、菊池きよみ(TMI総合法律事務所弁護士)、山田辰己(元金融庁監査審査会委員)、江藤彰洋(元ブリヂストン代表執行役COO兼社長)、坂本修一(元旭化成取締役専務執行役員)、ジェフリー・コーツ(コーネル大学教授)、倉石誠司(元本田技研工業取締役会長)、大塚敏弘(元あずさ監査法人専務役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「スペシャリティマテリアルズ」「MMA&デリバティブズ」「ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ」「産業ガス」および「その他」の事業を展開しています。

スペシャリティマテリアルズ


パッケージングフィルム、半導体関連、電池材料、炭素繊維などを国内外の顧客に提供しています。産業用から医療用まで幅広い分野で利用される高機能素材を扱っています。

顧客への製品販売により収益を得ています。運営は主に三菱ケミカルやジェレスト社などの子会社が行っています。

MMA&デリバティブズ


MMA(メタクリル酸メチル)モノマーやPMMA、各種コーティング材、添加剤などを国内外の顧客向けに製造・販売しています。

顧客に対する製品の引渡しにより販売対価を受け取る収益モデルです。運営は主に三菱ケミカルやザ・サウジ・メタクリレーツ社等のグループ会社が行っています。

ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ


石化基盤、ポリオレフィン、基礎化学品、エンジニアリングプラスチック、コークスなどの炭素製品を国内外の顧客に提供しています。

製品の販売を通じて顧客から料金を受け取っています。運営は主に日本ポリプロや日本ポリエチレン、三菱ケミカルなどが担っています。

産業ガス


鉄鋼、化学、エレクトロニクス産業向けの各種産業ガスや、ステンレス魔法瓶などの家庭用品を国内外の顧客に提供しています。

顧客へのガス供給や製品販売により収益を獲得しています。運営は主に日本酸素ホールディングスおよびその傘下の子会社が行っています。

その他


報告セグメントに含まれないエンジニアリング事業や、運送・倉庫業などの物流サービスを提供しています。

グループ内外の顧客からの工事請負や物流業務の受託により収益を得ています。運営は三菱ケミカルエンジニアリングや三菱ケミカル物流などが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上収益は3兆円台後半から4兆円台で推移していますが、足元では減収傾向にあります。利益面においても、税引前利益および親会社の所有者に帰属する当期利益ともに変動が大きく、直近では大幅な減益となっています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 39769億円 46345億円 43872億円 39476億円 37040億円
税引前利益 2904億円 1680億円 2405億円 992億円 7億円
利益率(%) 7.3% 3.6% 5.5% 2.5% 0.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 1772億円 965億円 1196億円 450億円 118億円

(2) 損益計算書


売上収益が減少した一方で、売上総利益は増加しており、売上総利益率も改善しています。しかし、その他の営業費用の増加などにより、営業利益は大幅に減少し、営業利益率も低下する結果となりました。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 39476億円 37040億円
売上総利益 10393億円 10711億円
売上総利益率(%) 26.3% 28.9%
営業利益 1416億円 301億円
営業利益率(%) 3.6% 0.8%

(3) セグメント収益


事業ポートフォリオの見直しや市況変動の影響等により、スペシャリティマテリアルズ、MMA&デリバティブズ、ベーシックマテリアルズ&ポリマーズの各セグメントで減収となりました。一方で、産業ガスセグメントは価格マネジメント等の効果により増収を維持しています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
スペシャリティマテリアルズ 10912億円 10745億円
MMA&デリバティブズ 4457億円 3645億円
ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ 10609億円 8215億円
産業ガス 13080億円 13596億円
その他 3140億円 3120億円
調整額 -2722億円 -2281億円
連結(合計) 39476億円 37040億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業活動による資金流入と、事業譲渡等に伴う投資活動の資金流入をあわせて、借入金の返済や配当金の支払いなど財務活動による資金流出に充てる「改善型」のキャッシュ・フローとなっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 5528億円 4363億円
投資CF -2754億円 1245億円
財務CF -2467億円 -3752億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は0.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も44.6%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードしていくこと」をPurpose(存在意義)として掲げています。化学に立脚する企業として、持続可能な社会の実現に向けたソリューションを提供し続けることを使命としています。

(2) 企業文化


同社は、企業文化の変革において「求める人材」として、「自らの仕事に誇りと責任を持つオーナーシップ」「高い専門性を持つ尖った強み」「KAITEKI実現に付加価値をもたらす誠実な挑戦」「多様な連携をリードできる『つなぐ』人材」という4つの価値観を重視しています。一人ひとりの違いを尊重し、心理的安全性の高い職場環境づくりを推進しています。

(3) 経営計画・目標


同社は「中期経営計画2029」を策定し、収益力の強化と事業成長の実現による企業価値の向上を推進しています。投下資本の極小化や固定費の圧縮、マージン拡大を通じた全社的な資本効率の改善に取り組み、以下の数値目標を掲げています。

* ROIC(投下資本利益率):2029年度に7.0%

(4) 成長戦略と重点施策


同社は「事業選別の3つの基準」と「規律ある事業運営の3原則」に沿ったポートフォリオ変革と収益改善に取り組んでいます。スペシャリティマテリアルズの成長を加速させる一方、市況影響が大きい素材ビジネスの構造改革を着実に実行しています。「成長ドライバー」や「次世代」領域へ経営資源を重点的に配分し、社会課題を解決する「グリーン・スペシャリティ企業」を目指しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、経営戦略の実行に必要な人材像を起点とした採用・配置・育成・登用の強化を推進しています。「グローバルでの最適な人材配置・登用」を目指し、国や地域を越えた共通プラットフォームの構築を進めています。また、多様な人材が能力を最大限に発揮できるよう、年齢や勤続年数に基づく人事管理を廃止し、適所適材の人材登用を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 50.2歳 24.3年 1188.9万円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.1%
男性育児休業取得率 85.8%
男女賃金差異(全労働者) 78.2%
男女賃金差異(正規労働者) 79.1%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 49.8%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、意思決定層のダイバーシティ(30.0%)、従業員意識(エンゲージメント)(71.0%)、休業度数率(0.99)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 原燃料価格の変動と需給バランスの悪化

ベーシックマテリアルズ&ポリマーズや産業ガス等の事業では、ナフサ等の原料や電力等のユーティリティを大量に消費します。原油価格の急激な変動や需給バランスの崩れに対して、適切な製品価格の転嫁が遅れた場合、同社の業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) サプライチェーンおよび地政学リスク

事業を展開する国や地域において、大規模な自然災害やパンデミック、政治的・軍事的緊張の高まり、経済制裁等が発生した場合、サプライチェーンが分断されるおそれがあります。これにより原材料の調達や製品の安定供給に支障が生じ、同社の業績に影響を与える可能性があります。

(3) サイバー攻撃等の情報セキュリティリスク

システムの脆弱性やマルウェア等を要因とするサイバー攻撃を受けた場合、生産や出荷、決済などの企業活動が停止する可能性があります。また、重要な技術情報や個人情報の漏洩が発生した場合には、競争力の低下や損害賠償請求、社会的信用の失墜を招くおそれがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。