※本記事は、株式会社三菱ケミカルグループ の有価証券報告書(第20期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 三菱ケミカルグループってどんな会社?
三菱ケミカル、田辺三菱製薬、日本酸素ホールディングス等を傘下に持つ、国内最大級の総合化学メーカーです。
■(1) 会社概要
2005年に三菱化学と三菱ウェルファーマが共同持株会社を設立し発足しました。2014年に大陽日酸(現・日本酸素ホールディングス)を連結子会社化し、産業ガス事業を強化しました。2017年には傘下の化学系3社を統合して三菱ケミカルを発足させ、2020年には田辺三菱製薬を完全子会社化しました。2022年に現在の商号へ変更し、グループ一体運営を推進しています。
連結従業員数は約6.3万人、単体では414人です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位も同様に信託銀行です。第3位も信託銀行であり、機関投資家が高い比率で株式を保有しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行信託口 | 16.48% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001 | 7.29% |
| 日本カストディ銀行信託口 | 6.39% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性1名の計12名で構成され、女性役員比率は8.3%です。代表執行役執行役社長は筑本学氏です。社外取締役比率は58.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 福田 信夫 | 取締役会長 | 1981年三菱化成工業入社。三菱ケミカル代表取締役兼常務執行役員等を経て、2022年同社代表執行役エグゼクティブバイスプレジデント。2024年6月より現職。 |
| 筑本 学 | 取締役代表執行役執行役社長 | 1988年三菱化成工業入社。三菱ケミカル取締役等を経て、2023年同社執行役エグゼクティブバイスプレジデント。2024年6月より現職。 |
| 矢野 功 | 代表執行役チーフコンプライアンスオフィサー | 1989年三菱油化入社。同社執行役員、経営企画部等を経て、2024年執行役シニアバイスプレジデント。2025年4月より現職。 |
| 藤原 謙 | 取締役 | 1984年三菱化成工業入社。同社執行役常務、田辺三菱製薬取締役等を経て、2022年同社執行役エグゼクティブバイスプレジデント。2025年4月より現職。 |
| 飯田 仁 | 取締役 | 1985年三菱化成工業入社。三菱ケミカル常務執行役員、同社常勤監査役等を経て、2022年同社執行役シニアバイスプレジデント。2024年6月より現職。 |
社外取締役は、程近智(元アクセンチュア社長)、菊池きよみ(弁護士)、山田辰己(公認会計士)、江藤彰洋(元ブリヂストン代表執行役COO兼社長)、坂本修一(元旭化成取締役常務執行役員CFO)、ジェフリー・コーツ(コーネル大学教授)、倉石誠司(元本田技研工業取締役会長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「スペシャリティマテリアルズ」、「MMA&デリバティブズ」、「ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ」、「ファーマ」、「産業ガス」および「その他」事業を展開しています。
■(1) スペシャリティマテリアルズ
パフォーマンスポリマーズ、フィルム、半導体・電子材料、炭素繊維複合材料などを提供しています。自動車、エレクトロニクス、包装材など幅広い産業の顧客に対し、高機能な素材やソリューションを供給しています。
製品の販売等により収益を得ています。運営は主に三菱ケミカル、ジェイフィルム、三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ各社などが行っています。
■(2) MMA&デリバティブズ
MMA(メタクリル酸メチル)モノマーやアクリル樹脂(PMMA)、コーティング材などを提供しています。自動車、建築、塗料、接着剤などの用途に向けてグローバルに展開しています。
製品の販売により収益を得ています。運営は主に三菱ケミカル、三菱ケミカルメタクリレーツ社などが行っています。
■(3) ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ
石化基盤製品、ポリオレフィン、基礎化学品、炭素製品などを提供しています。幅広い産業の基礎素材として利用されています。
製品の販売により収益を得ています。運営は主に三菱ケミカル、日本ポリエチレン、日本ポリプロなどが行っています。
■(4) ファーマ
医療用医薬品の研究開発、製造、販売を行っています。中枢神経、免疫炎症などの領域を重点とし、グローバルに医薬品を提供しています。
医薬品の販売や、開発品の導出に伴うロイヤリティ収入等により収益を得ています。運営は主に田辺三菱製薬が行っています。
■(5) 産業ガス
酸素、窒素、アルゴンなどの産業ガスや、電子材料ガス、関連機器などを提供しています。鉄鋼、化学、エレクトロニクス、医療など多岐にわたる産業を支えています。
ガスの供給や機器の販売により収益を得ています。運営は主に日本酸素ホールディングス、大陽日酸、マチソン・トライガス社などが行っています。
■(6) その他
エンジニアリング、物流、倉庫業などを展開しています。
サービスの提供により収益を得ています。運営は主に三菱ケミカルエンジニアリング、三菱ケミカル物流などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上収益は3兆円台から4兆円台へ拡大傾向にあります。第17期以降は比較的高い水準で推移していますが、利益面では変動が見られます。当期は前期比で増収となりましたが、構造改革費用等の計上により税引前利益および当期利益は減少しました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 3兆2,575億円 | 3兆9,769億円 | 4兆6,345億円 | 4兆3,872億円 | 4兆4,074億円 |
| 税引前利益 | 329億円 | 2,904億円 | 1,680億円 | 2,405億円 | 1,507億円 |
| 利益率(%) | 1.0% | 7.3% | 3.6% | 5.5% | 3.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -76億円 | 1,772億円 | 965億円 | 1,196億円 | 450億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上収益は微増し、売上総利益率は改善しました。一方で、その他の営業費用の増加等により営業利益率は低下しています。売上原価率は低下傾向にあり、収益性の改善に向けた取り組みが見られます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 4兆3,872億円 | 4兆4,074億円 |
| 売上総利益 | 1兆1,468億円 | 1兆2,796億円 |
| 売上総利益率(%) | 26.1% | 29.0% |
| 営業利益 | 2,618億円 | 1,967億円 |
| 営業利益率(%) | 6.0% | 4.5% |
販売費及び一般管理費のうち、給与及び副費が64億円(構成比0.7%)、業務委託費が85億円(同0.9%)を占めています。
■(3) セグメント収益
各セグメントの売上を見ると、産業ガスとスペシャリティマテリアルズ、MMA&デリバティブズ、ファーマが増収となった一方、ベーシックマテリアルズ&ポリマーズは減収となりました。特にMMA&デリバティブズや産業ガスが売上増に寄与しています。
| 項目 | 売上(2024年3月期) | コア営業利益(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | コア営業利益(2025年3月期) | コア営業利益率(2025年3月期) |
|---|---|---|---|---|---|
| スペシャリティマテリアルズ | 1兆536億円 | 74億円 | 1兆916億円 | 251億円 | 2.3% |
| MMA&デリバティブズ | 3,618億円 | 55億円 | 4,164億円 | 353億円 | 8.5% |
| ベーシックマテリアルズ&ポリマーズ | 1兆1,456億円 | -254億円 | 1兆73億円 | -156億円 | -1.5% |
| ファーマ | 4,374億円 | 563億円 | 4,604億円 | 654億円 | 14.2% |
| 産業ガス | 1兆2,551億円 | 1,630億円 | 1兆3,080億円 | 1,861億円 | 14.2% |
| その他 | 3,544億円 | 136億円 | 3,355億円 | 134億円 | 4.0% |
| 調整額 | -2,207億円 | -123億円 | -2,118億円 | -113億円 | - |
| 連結(合計) | 4兆3,872億円 | 2,081億円 | 4兆4,074億円 | 2,984億円 | 6.8% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動によるキャッシュ・フローがプラス、投資活動と財務活動がマイナスであるため、本業で稼いだ資金で投資や借入返済を行っている健全型と言えます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 4,651億円 | 5,528億円 |
| 投資CF | -2,461億円 | -2,754億円 |
| 財務CF | -2,417億円 | -2,467億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.6%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は35.8%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードしていくこと」をPurposeとして掲げています。化学に立脚し、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに対応することで、持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、2035年を見据えた諸施策を進める上でのキーワードとして「つなぐ」を掲げています。組織や領域を超えて技術や知見を共有し、多様な視点を活かすことでイノベーションを加速させる方針です。また、社外パートナーとの戦略的連携も重視し、社会課題に最適なソリューションを提供することを目指しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は「KAITEKI Vision 35」と「新中期経営計画2029」を発表し、2035年のありたい姿として「グリーン・スペシャリティ企業」になることを掲げています。
* コア営業利益:2,650億円(2026年3月期予想)
* ROIC:7%(2029年度目標)
■(4) 成長戦略と重点施策
「グリーン・スペシャリティ企業」を目指し、5つの注力事業領域(グリーン・ケミカルの安定供給基盤、環境配慮型モビリティ、データ処理と通信の高度化、食の品質保持、新しい治療に求められる技術や機器)での成長を掲げています。低迷するケミカルズ事業の立て直しを喫緊の課題とし、事業選別と規律ある運営によりポートフォリオ変革と収益改善を推進します。
* 設備投資額:3,590億円(2026年3月期計画)
* 研究開発費:680億円(2026年3月期計画)
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「KAITEKI Vision 35」の実現に向け、経営戦略と人事戦略を同期させ、人的資本の価値最大化を目指しています。グローバルでの最適な人材配置・登用を進めるとともに、従業員がポテンシャルを最大限発揮できる環境を整備します。また、多様な人材が活躍できる組織づくりや、エンゲージメント向上に向けた施策を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 47.6歳 | 19.3年 | 10,598,955円 |
※平均年間給与は基準外賃金及び賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 男性育児休業取得率 | 82.2% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 30.9% |
※女性管理職比率については、同社は連結子会社等からの出向者で構成されており、自社籍の従業員を有していないため記載がありません。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員エンゲージメント(70ppt)、ウェルネス意識(78ppt)、意思決定層のダイバーシティ(29%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) サプライチェーン・地政学に関連するリスク
事業に関連する国・地域における大規模災害、パンデミック、地政学リスク、貿易摩擦等によりサプライチェーンが分断され、原材料の調達や製品の生産・供給に支障をきたす可能性があります。また、インフレによるコスト高騰や経済安全保障上の問題、カントリーリスクの顕在化などが、同社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 情報セキュリティに関連するリスク
サイバー攻撃によるシステム侵害や情報漏洩が発生した場合、生産・販売等の企業活動の停止、社会的信用の失墜、損害賠償請求等を招く可能性があります。また、技術情報や個人情報の流出は競争力の低下や法的制裁につながる恐れがあり、大規模システム障害による情報消失のリスクも存在します。これらは業績に重大な影響を与える可能性があります。
■(3) DX(デジタルトランスフォーメーション)に関連するリスク
レガシーシステムの老朽化やデジタル技術の活用遅れにより、競争力が低下し市場機会を失う可能性があります。また、デジタル人材の不足や不適切なDX投資は、改革の遅延や財務的な悪影響をもたらす恐れがあります。これらが進行した場合、将来の業績やビジネス機会に大きな影響を与える可能性があります。



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