※本記事は、松本油脂製薬株式会社の有価証券報告書(第88期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 松本油脂製薬ってどんな会社?
界面活性剤の技術を中核とし、繊維をはじめとする各種産業向けに機能性化学品を製造・販売する研究開発型企業です。
■(1) 会社概要
1939年に松本商店を母体として設立されました。1969年に台湾、1992年にインドネシアに合弁会社を設立して海外展開を進めました。1979年には熱膨張性マイクロカプセルの製造販売を開始しています。2004年にジャスダックに上場し、2022年にスタンダード市場へ移行しました。
現在の従業員数は連結で399名、単体で330名です。筆頭株主は関係会社の松本興産で、第2位は信託業務等を行うTHE HONGKONG AND SHANGHAI BANKING CORPORATION LTD、第3位は資本提携先等の事業会社である三菱UFJ銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 松本興産 | 23.50% |
| THE HONGKONG AND SHANGHAI BANKING CORPORATION LTD - SINGAPORE BRANCH PRIVATE BANKING DIVISION CLIENT A/C 8221-623793(常任代理人 香港上海銀行東京支店) | 11.32% |
| 三菱UFJ銀行 | 4.67% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性0名の計10名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は木村直樹氏が務めています。社外取締役は2名(20.0%)選任されています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 木村直樹 | 代表取締役社長 | 朝日新聞社を経て、1978年同社入社。1986年取締役副社長を経て、1992年より現職。松本興産代表取締役社長を兼務。 |
| 藤井修治 | 代表取締役専務管理本部長 | 三井住友銀行、ダスキン取締役を経て、2021年同社入社。常務取締役管理本部副本部長等を経て、2024年より現職。 |
| 川原廣治 | 代表取締役専務営業本部長兼輸出部長 | 三菱東京UFJ銀行執行役員、NTN社外取締役等を経て、2023年同社社外監査役。常務・専務等を経て、2026年より現職。 |
| 橘興林 | 取締役営業本部副本部長 | 2011年同社輸出部副部長を経て、2018年より現職。 |
| 桂嘉宏 | 取締役 | 三井住友銀行ブロック部長等を経て、2019年松本興産常務取締役。2024年より現職。松本興産代表取締役専務を兼務。 |
社外取締役は、辻卓史氏(元鴻池運輸代表取締役社長)、谷所敬氏(元日立造船代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」および「アジア」事業を展開しています。
■(1) 日本
同社が界面活性剤、合成糊料、合成樹脂製マイクロスフェアーなどを製造・販売し、関連会社が鉄鋼金属や製缶工業用の界面活性剤の研究・販売を行っています。繊維産業を中心とした各種産業の顧客向けに品質向上や生産性向上に貢献する多様な製品を提供しています。
製品の販売による収益が主柱です。日本国内での製造・販売は主に松本油脂製薬が行っており、鉄鋼金属工業用などの一部製品の研究や販売は持分法適用関連会社の日本クエーカー・ケミカルが担当しています。
■(2) アジア
アジア地域において、繊維工業向けの界面活性剤や糊料などを製造し、主に各国内の顧客に向けて販売しています。顧客のニーズを的確に把握し、現地の繊維産業の発展を支える製品展開を行っています。
こちらも製品の販売が主な収益源です。運営はインドネシアのマツモトユシ・インドネシアと、台湾の立松化工股份有限公司が行っており、松本油脂製薬はこれら2社から製品を仕入れて他国へも販売を行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は400億円前後で安定して推移しており、経常利益も毎年100億円前後を高水準で計上しています。利益率は継続して20%以上の高い水準を維持しており、技術力を活かした強固な収益基盤と高い付加価値を持つ製品展開が伺えます。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 372億円 | 396億円 | 415億円 | 431億円 | 411億円 |
| 経常利益 | 77億円 | 95億円 | 107億円 | 97億円 | 108億円 |
| 利益率(%) | 20.8% | 23.9% | 25.8% | 22.4% | 26.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 54億円 | 67億円 | 73億円 | 67億円 | 79億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は減少したものの、売上総利益率は約30%を維持しています。営業利益率も約20%と高い水準を保っており、環境変化の中でも安定した利益創出力を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 431億円 | 411億円 |
| 売上総利益 | 137億円 | 124億円 |
| 売上総利益率(%) | 31.7% | 30.2% |
| 営業利益 | 93億円 | 82億円 |
| 営業利益率(%) | 21.5% | 19.9% |
販売費及び一般管理費のうち、荷造運搬費が9億円(構成比22%)、研究開発費が8億円(同18%)、給料及び賞与が7億円(同17%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力である日本セグメントが売上高の大半を占めており、全体の業績を牽引しています。アジアセグメントは減収減益となりましたが、日本セグメントにおいて利益率20%を超える高い収益性を維持しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 404億円 | 388億円 | 90億円 | 80億円 | 20.6% |
| アジア | 27億円 | 23億円 | 3億円 | 2億円 | 8.7% |
| 連結(合計) | 431億円 | 411億円 | 93億円 | 82億円 | 19.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」のキャッシュ・フロー・パターンとなっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 78億円 | 67億円 |
| 投資CF | -91億円 | -54億円 |
| 財務CF | -12億円 | -12億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.5%で市場平均を上回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も84.2%と市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
規模の拡大よりも、グローバル経済に対応できる「より強い」「より利益率の高い」企業になることを目指しています。「顧客には良品廉価で満足を」を社是とし、品質向上と生産性向上に欠かせない多様な機能性製品を供給し続けることを使命としています。
■(2) 企業文化
従業員のおよそ3割が研究開発関連業務に従事する「研究開発型企業」としての文化が根付いています。現状の延長線のみの研究活動に安住することなく、新しい分野での技術開発に挑戦し続ける姿勢を重視し、高い専門性を持つ人材が活躍しています。
■(3) 経営計画・目標
成長性と収益性の向上に努め、売上高および売上高営業利益率を継続して高めていくことを目標としています。また、株主利益の増大を図るために、1株当たり当期純利益も重要な経営指標として捉え、持続的な企業価値の向上を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
界面活性剤分野だけでなく高分子分野での独自技術開発を深め、新規顧客や新たな用途の開拓を推進します。原材料やエネルギーコストの高騰に対しては、競争力のある新製品の開発、販路の拡大、品質管理・安定供給体制の維持を進め、収益率の向上を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
持続的な成長のために、職場でのOJTを軸とした実務教育の徹底や階層別研修、資格取得支援を通じて、専門性の高い人材を育成しています。また、男性労働者の育児休業取得を推進するなど、多様な人材が能力を最大限に発揮できる柔軟で働きやすい職場環境の整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.4歳 | 15.5年 | 7,549,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.9% |
| 男性育休取得率 | 85.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 53.7% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 100.6% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 91.2% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 為替レートの変動
アジア地域を中心に世界各地で製品を販売しており、海外売上高比率が高く、その多くが米ドル建取引となっています。外貨建債権債務の両建てによりリスクの相殺などを行っていますが、為替相場の変動が業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 原材料価格の市場変動
同社グループが使用する原料の主要部分は原油に由来しています。そのため、中東地域の情勢、需給バランス、為替レートの変動などに伴う原油価格の高騰が原材料価格を押し上げ、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 保有有価証券の株価下落
投資有価証券として上場または非上場の株式を保有しています。金融市場の動向などにより当該株式の時価や実質価額が帳簿価額を著しく下回った場合、評価損の計上が必要となり、業績や財政状態に影響を与える可能性があります。



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