大伸化学転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態
※本記事は、大伸化学株式会社の有価証券報告書(第74期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 大伸化学ってどんな会社?
大伸化学は、有機溶剤やシンナーの製造・販売に特化し、多品種少量生産で幅広い産業を支える専門メーカーです。
■(1) 会社概要
1952年、シンナーの製造販売を目的に設立されました。有機溶剤専業メーカーとして各種産業のニーズに応え、2004年にジャスダック市場へ上場しました。2022年には東京証券取引所の市場区分見直しによりスタンダード市場へ移行し、同年には山崎梱包運輸を完全子会社化して物流体制の強化を図っています。
現在の従業員数は連結で235名、単体で192名体制となっています。大株主の状況としては、筆頭株主が坪井典明氏で、第2位が有限会社坪井となっており、創業者一族やその関連会社とみられる株主が上位を占めています。第3位には投資事業組合を通じた光通信の関連企業が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 坪井 典明 | 13.21% |
| 有限会社坪井 | 12.16% |
| 光通信KK投資事業有限責任組合無限責任組合員光通信 | 6.50% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 堀越 進 | 代表取締役社長 | 1983年入社。営業部長や樹脂カット事業部長などを歴任し、2016年取締役就任。2019年より現職。 |
| 坪田 法幸 | 常務取締役営業本部長東日本統括 | 1985年入社。大阪支店長や営業本部副本部長兼東日本統括兼第一営業部長などを経て、2026年より現職。 |
| 澤井 光範 | 取締役製造本部長越谷工場長システムセンター長 | 1990年入社。越谷工場長や執行役員製造副本部長などを歴任し、2025年より現職。 |
| 山田 栄司 | 取締役資材部長 | 1990年入社。仙台営業所長や執行役員資材部長などを歴任し、2025年より現職。 |
社外取締役は、野﨑満(元有沢製作所)、福田純一郎(元綜研化学)です。
2. 事業内容
同社グループは、「化学品事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■化学品事業
有機溶剤のブレンド(シンナー)を専門としており、製品数は約3万2千種類に上ります。塗料業界、印刷業界、自動車業界、化学工業界、医薬品業界など幅広い産業に向けて、顧客の要望に応じたオーダーメイド製品を多品種少量生産で提供しています。石油缶1缶からの受注・即納体制を整え、OEM供給にも対応しています。
収益源は、全国約1,000社の販売代理店を通じた各種シンナーや単一溶剤などの販売代金です。単一溶剤類が受注額の約5割を占め、印刷用溶剤類や特殊シンナー類が続きます。事業運営は大伸化学が中心となって行い、東日本地域の製品配送業務は完全子会社の山崎梱包運輸が担うことで効率的な供給体制を構築しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近4期間の連結業績を見ると、売上高は320億円から340億円台で推移しています。経常利益は原油・ナフサ市況の変動等を受けて増減がありますが、当期は販売価格の機動的な是正や効率的な原材料購入の推進により、経常利益率は3.6%と改善傾向にあります。
| 項目 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 344億円 | 325億円 | 347億円 | 346億円 |
| 経常利益 | 13億円 | 9億円 | 9億円 | 12億円 |
| 利益率(%) | 3.8% | 2.9% | 2.5% | 3.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 10億円 | 6億円 | 5億円 | 9億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で横ばいでしたが、効率的な原材料購入の推進に加え、原材料価格が前期を下回ったことで売上総利益は増加しました。結果として営業利益も大幅な増益となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 347億円 | 346億円 |
| 売上総利益 | 43億円 | 48億円 |
| 売上総利益率(%) | 12.4% | 13.9% |
| 営業利益 | 8億円 | 12億円 |
| 営業利益率(%) | 2.3% | 3.4% |
販売費及び一般管理費のうち、運賃が16億円(構成比45%)、従業員給料及び手当が6億円(同17%)を占めています。
■(3) セグメント収益
同社は化学品事業の単一セグメントであるため、事業全体の売上高を示します。当期は出荷数量が増加したものの、販売単価が低下した影響によりわずかに減収となりました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 化学品事業 | 347億円 | 346億円 |
| 連結(合計) | 347億円 | 346億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 27億円 | 29億円 |
| 投資CF | -3億円 | -4億円 |
| 財務CF | -2億円 | -2億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.2%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は66.7%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、品質の向上に努め安定供給の責を果たし、顧客の満足が得られる品質の確保と納期を遵守して製品の品質向上を目指すことを基本方針として掲げています。有機溶剤の安定供給という社会的使命をいかなる状況下でも果たすべく、差別化できる新製品の開発や生産性の向上を図り、強固な経営基盤の確立を追求しています。
■(2) 企業文化
資源の有効活用や環境を重視した社会貢献への意識が根付いています。また、行動指針として「一人一人がまたはグループで、課題を謙虚に学び、考え、評価し、迅速に改善します」と掲げており、自律的に思考し行動できる人材の育成に注力しながら、多様な人材がモチベーション高く働ける健全な社内環境づくりを推進しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、収益力の向上と財務体質の強化を経営目標の中心に据えています。収益機会の増大とともに生産・物流面の合理化を徹底的に推し進めることで、以下の数値目標の達成を目指しています。
* 売上高経常利益率5.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
中長期的な成長に向けて、既存分野における新規需要先の開拓とあわせて、剥離剤や塩分低減剤、グリセリン関連製品といった高付加価値製品の市場投入に注力しています。また、地政学リスク等に起因する原料調達難に対しては、調達ルートの多角化や販売価格の機動的な改定を進めるとともに、最新のIT技術を活用した合理化を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
持続的な事業の成長を実現する原動力は「人材」であるとの認識の下、自ら考えて行動できる「自律型人材」の育成を人的資本戦略の柱としています。OJTと社外講師によるOff-JTを組み合わせて能力開発を支援するほか、安全で差別のない職場環境の確保に向けた体制整備にも力を入れています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.1歳 | 17.3年 | 7,155,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 19.7% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | 80.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 83.0% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 60.1% |
※男性育児休業取得率については公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 原材料市況の変動と調達難リスク
主原料が石油化学製品であるため、中東地域の紛争などの地政学リスクや為替の異常な変動により、原材料の調達そのものや調達価格に大きな影響を受ける可能性があります。同社は影響を緩和するため、複数先からの購入等による安定調達に努めています。
■(2) 法的規制変更への対応リスク
有機溶剤などの化学物質を取り扱うため、消防法や毒物及び劇物取締法などの環境関連法令の適用を受けています。また、運送業務における貨物自動車運送事業法などの規制強化が行われた場合、事業活動の制限や対応コストの増加が生じる可能性があります。
■(3) 保安事故や品質問題の発生リスク
火災や漏洩などの重大な労災・環境事故が発生した場合、あるいは製造物責任につながる重大な品質問題が生じた場合、社会的信用の失墜や損害賠償負担により業績に影響を及ぼす恐れがあります。これに対し、計画的な設備点検や防災訓練などでリスク低減を図っています。



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