※本記事は、わかもと製薬株式会社 の有価証券報告書(第130期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. わかもと製薬ってどんな会社?
胃腸薬「強力わかもと」で知られる老舗製薬メーカー。眼科領域の医療用医薬品にも強みを持ちます。
■(1) 会社概要
1929年に「わかもと」を発売し、1949年に東証へ上場しました。1962年には現在も主力製品である「強力わかもと」を発売し、ロングセラー商品として確立させています。2005年には薬用歯磨き「アバンビーズ」を発売し、オーラルケア分野にも進出しました。2022年の市場区分見直しに伴い、東証スタンダード市場へ移行しています。
同社(単体)の従業員数は286名です。筆頭株主は一般用医薬品大手のロート製薬で、第2位は医療用医薬品中堅のキッセイ薬品工業となっており、同業の事業会社が上位を占めています。第3位には英国の投資ファンドが名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| ロート製薬 | 11.44% |
| キッセイ薬品工業 | 10.88% |
| AVI JAPAN OPPORTUNITY TRUST PLC | 7.54% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長は五十嵐新氏が務めています。社外取締役比率は30.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 五十嵐 新 | 代表取締役社長 | みずほコーポレート銀行を経て2010年に同社入社。管理本部長、専務取締役などを歴任し、2022年4月より現職。 |
| 佐藤 公彦 | 常務取締役 | 1988年に同社入社。医薬事業部長、薬粧事業部長、人事部長、管理本部長などを歴任し、2024年6月より現職。 |
| 平井 友行 | 常務取締役 | 日本興業銀行、みずほ証券などを経て2023年に同社入社。経営企画室長、総務部長などを歴任し、2024年6月より現職。 |
| 谷垣 全彦 | 取締役 | 1983年に同社入社。特販事業部長、国際事業本部長、グローバル事業本部長などを歴任し、2025年4月より現職。 |
| 葛西 洋芳 | 取締役 | 1994年に同社入社。相模研究所副所長、医薬開発本部長などを経て、2025年4月より現職。 |
| 谷口 誠 | 取締役 | 1992年に同社入社。生産企画部長、相模大井工場長などを経て、2024年6月より現職。 |
| 平田 晴久 | 取締役(常勤監査等委員) | 1979年に同社入社。相模研究所長、薬事・信頼性保証部長などを経て、2017年6月より現職。 |
社外取締役は、惠島克芳(元みずほ証券副社長)、桑原育朗(桑原・池田法律事務所弁護士)、樋川加奈(樋川公認会計士事務所代表)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬事業」「ヘルスケア事業」「グローバル事業」および「不動産賃貸業」を展開しています。
■医薬事業
眼科領域を主軸としたスペシャリティファーマとして事業を展開しています。眼科医向けの先発医薬品やジェネリック医薬品に加え、眼内レンズなどの医療機器、および医療機関向けサプリメント等の製造販売を行っています。
収益は、医療機関や卸売業者等への製品販売による対価を得ています。運営は主にわかもと製薬が行っています。
■ヘルスケア事業
一般消費者向けのセルフメディケーション製品を提供しています。主力製品である胃腸薬「強力わかもと」に加え、薬用歯みがき「アバンビーズ」シリーズ、フェムケア商品「フェミフローラ」などの製造販売を行っています。
収益は、ドラッグストアや卸売業者、通販顧客からの製品販売による対価を得ています。運営は主にわかもと製薬が行っています。
■グローバル事業
海外市場における製品展開およびBtoBビジネスを行っています。アジア・欧州圏を中心とした「強力わかもと」等の輸出やライセンス活動を行うほか、国内においては受託製造や診断薬、原料の製造販売を手掛けています。
収益は、海外代理店への製品輸出、ライセンス収入、および受託製造や原料販売による対価を得ています。運営は主にわかもと製薬が行っています。
■不動産賃貸業
保有不動産の有効活用を行っています。具体的には、東京都中央区にある商業施設「コレド室町」関連の不動産賃貸事業が主たる内容です。
収益は、テナントからの賃貸料収入を得ています。運営は主にわかもと製薬が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は80億円前後で推移していますが、利益面では苦戦が続いています。経常損益は3期連続で赤字となっており、特に直近の2025年3月期は赤字幅が拡大しました。当期純利益については黒字を維持しているものの、低水準での推移となっています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 89億円 | 84億円 | 87億円 | 77億円 | 78億円 |
| 経常利益 | -6.0億円 | 0.7億円 | 2.4億円 | -1.6億円 | -4.1億円 |
| 利益率(%) | -6.8% | 0.9% | 2.8% | -2.1% | -5.3% |
| 当期純利益(親会社所有者帰属) | -6.0億円 | 2.4億円 | 1.4億円 | 1.1億円 | 0.6億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は微増しましたが、売上原価の増加等により利益率は低下傾向にあります。売上総利益率は46.5%と一定の水準を保っていますが、販売費及び一般管理費の負担が重く、営業損益は赤字が継続し、その幅も拡大しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 77億円 | 78億円 |
| 売上総利益 | 36億円 | 36億円 |
| 売上総利益率(%) | 46.5% | 46.5% |
| 営業利益 | -2.0億円 | -4.6億円 |
| 営業利益率(%) | -2.5% | -5.9% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当及び賞与が14億円(構成比35%)、研究開発費が4億円(同10%)を占めています。売上原価においては、原材料費が売上原価合計の59%を占める主要なコスト要因となっています。
■(3) セグメント収益
当期は医薬事業が新製品の発売等により増収となりましたが、利益面では大幅な赤字となっています。ヘルスケア事業はインバウンド需要の変化等により減収となりました。グローバル事業は海外販売が好調で増収となりました。不動産賃貸業は安定的な収益源となっています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 医薬事業 | 34億円 | 35億円 | -8億円 | -11億円 | -31.3% |
| ヘルスケア事業 | 25億円 | 23億円 | 4億円 | 3億円 | 14.1% |
| グローバル事業 | 17億円 | 18億円 | 1億円 | 2億円 | 13.3% |
| 不動産賃貸業 | 2億円 | 2億円 | 1億円 | 1億円 | 32.1% |
| 連結(合計) | 77億円 | 78億円 | -2億円 | -5億円 | -5.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFはマイナス、投資CFはマイナス、財務CFはマイナスで、これらを組み合わせたキャッシュ・フローのパターンは「末期型」に分類されます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -1.1億円 | -5.9億円 |
| 投資CF | -0.0億円 | -0.1億円 |
| 財務CF | -1.0億円 | -1.0億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は0.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は77.4%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「人々の健康で活き活きとした生活に貢献~QOL向上に寄与する幅広い健康関連製品の提供を通じて~」という経営理念を掲げています。創業以来の精神を受け継ぎながら、医薬品やヘルスケア製品を通じて社会に貢献し、企業価値の持続的な向上を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は「お客様第一主義を徹底し、追及し続ける」ことや、「高い倫理観と誠実な行動で社会から信頼される企業になる」ことを価値・行動基準としています。また、「挑戦し続ける企業風土を醸成する」ことを掲げ、ステークホルダーに貢献しながら新しい課題に積極的に取り組む姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は「2024-2028年度中期経営計画(Wakamoto 100―承継と挑戦―)」を策定し、最終年度である2028年度に向けて以下の数値目標を掲げています。
* ROE 8.0%以上
* 配当性向 50%以上
* 政策保有株式比率 10%以下
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は中期経営計画に基づき、各事業での成長戦略を推進しています。医薬事業では新規眼内レンズの導入や周術期薬剤の早期承認を目指し、ヘルスケア事業では「強力わかもと」の生産能力増強やフェムケア商品の開発を進めています。グローバル事業ではアジア圏での販売拡大や越境ECの強化に注力しています。
* 2028年度 ROE 8.0%以上
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、中期経営計画において「承継と挑戦」を掲げ、挑戦する人や変革を進める人が活躍する企業体の実現を目指しています。性別や年齢等にとらわれない多様な人材の活用と、能力を最大限発揮できる人事制度や教育研修体系の整備を通じ、次世代の人材育成と企業風土の醸成に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 44.1歳 | 17.6年 | 5,973,428円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 15.7% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 81.1% |
| 男女賃金差異(正規) | 84.2% |
| 男女賃金差異(非正規) | 59.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、採用に占める女性労働者の割合(33.3%)、主任・係長級の役職者に占める女性労働者の割合(34.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 薬価改定の影響
医療用医薬品事業において、国が定める公定価格である薬価は定期的に改定され、引き下げられる傾向にあります。毎年の薬価改定による販売価格の下落は、同社の医薬事業の収益性を圧迫し、財政状態および経営成績に影響を与える可能性があります。
■(2) 医薬品開発の不確実性
新薬や新製品の開発には多額の費用と長い期間を要します。しかし、開発が順調に進まなかったり、承認が得られなかったり、あるいは上市後に期待通りの販売実績を上げられない可能性があります。研究開発投資に見合う成果が得られない場合、業績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(3) 生産拠点の集中リスク
同社の生産拠点は神奈川県にある相模大井工場の1ヵ所に集中しています。この地域において大規模な地震や災害、事故等が発生し、工場の操業が中断する事態となった場合、製品の安定供給が困難になり、経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。



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